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王都

13 最初にすること

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「他にご質問等はございませんか?」
「う~~ん、あ、ちなみに露店の場所っていつぐらいに借りれますか?」
「事前予約が必要になりますが三日ほど前にご連絡いただければ大抵の場合はお貸出しできますね」
「大抵の場合は」
「大抵の場合は」
 つまり不測の事態や別の商人がねじ込んできたりして貸せない時もあると。
「じゃあ一月後にここで」
 机の上に置いてある大広場の見取り図で大道芸のコーナーからは遠く、声が通りやすそうで、かつ先ほどまで見回していた様子では旅の人間が多そうなコーナーを指さす。
「一月後でよろしいんですか?」
「今のところ、とりあえず拠点変更に来ただけなので、特にこれといって商材を持ってきていないんです」
 場所だけとってもそこが空きスペースと思われて人が来なくなるよりは前日までだれかが使っててくれた方が後釜に誰が入ったのか気になってもらえるかなという下心もある。
 お姉さんには、商人なんだからいつでも商材持ってないと商機を逃しますよ? とクスっと笑ってたしなめられた。
「ん~、せっかく種になれたので降格しないよう頑張ります」
「そこはお客様なら“ケーキ級になりたい”って言った方が微笑ましくて受けがよいと思います」
 ケーキじゃなくてクルアの花の種でも送りましょうか? と、とんでもねー求人倍率を抜けてきたのだろう麗しの猛者といった容貌をニマニマ崩しているおねえさんがとても可愛い。
「でも王都の道を途切れさせるような大金なんて稼げると思えないし、そらあの本棚の維持費用を常時捻出できるギルドなら出来るんでしょうけど」
 ははは、言外に上は目指しませんとせんげんしてと笑って顔を上げると、さっきまで愛らしかったお姉さんがヌテラァと粘っこい効果音が付きそうな笑顔でにっこりこちらを観察していた。怖い。
「―――……わたくし、商業ギルド受付課総括・クロエと申します。次回からご用向きの際は是非わたくしをご指名くださいませ」
 いったいなんの琴線に触れたの!? めっちゃこわい、蛇に巻き憑かれてる幻想が頭にこびりついて離れない。撤退! 撤退ぃぃい!!
「そ、それじゃあ俺いろいろ見てみたいんで失礼します!」
「ふふふ、またのお越しをお待ちしております」

 商業ギルドこわひ。もう王都の大人が総じて怖いレベル。
 なんなの? ドノバンさんといいクロエさんといい、王都のギルドには必ず笑顔で怖いことをいう人を就任させなくちゃならない決まりでもあるの?
 しくしく泣きマネしながら病院の待合室みたいに長椅子が並べてあるスペースで腰掛ける。そうしてぼーっと順番待ちをしているふりをしながら、俺が相談スペースにいる間にすっかり増えた人たちの声に聞き耳を立てた。
「そういえばガロンのどこ経営厳しいんだって? やっぱあんな坊主拾わなきゃよかったのに」
「東の鉱山では宝石の産出量が少なくって来てるそうだ。俺の知り合いも撤退するってぼやいてたよ」
「行商やってると荷物が多くてかなわねぇ。荷馬車で行けるところはいいんだが、山奥の村に顔つなぎで行くともうテントや飯盒が邪魔で邪魔で」
「パティスリーカルロの新作が凄いってみんな騒いでるが、アレは流行りなだけで、いうほどうまくねぇよ。個人商店とはいえやっぱりパティスリーならエドメだろ」
「ハインリヒは今出張中だったか? あいつのところは代表者のくせにあいつがいなくとも問題なく回るから何時いないのかさっぱりわからん」
 洪水のように押し寄せる情報の中から必要なものだけを頭の中で選別していく。ここは王都の商いの中心地、商業ギルド。人々の生活にかかわる全て商人が様々なジャンルの情報をここへ持ち帰ってくるのだ。
 風が吹けば桶屋が儲かるじゃないけど、どこでどんな情報が商売につながるかわからない。聞いておいて損はない。少なくとも二月で50万は稼がないと仕事の幅がせばまるんだからどんな情報だって今は聞きたい。
 それから様々なことを話している商人たちの話をそっと流し聞いていると、すっと隣に誰かが座った。
 ちらっとそっちに目をやると色素薄げで、なんだか眠そうな目でいまいち何考えてるのかわからない無表情な男と目が合った。
「こんにちは」
「……こんにちは」
 目をそらさずにじっと見つめられても困るのだけど……
 あいさつされたので一応返したけど何がしたいのか、いまいちよくわからない。男は自分の袖口を引っ張って遊んでいる。
「……何か面白い話は聞けた?」
「えっ」
「ボーっとしてるふりしてる割には肩に力が入ってるから」
「えーっと……」
 マジで? と一瞬焦ったけど、いやギルドそこまでのんべんだらりんとはしなくない? しないよね? このぐらいがベストだよね?
「……君面白いね」
「えっはぁ」
 えっまだ二、三言しか喋ってないのに彼に一体何を見極められたというの? こんなにおかしなことを平然と言い放っているのにお兄さんはいまだに自分のすそをいじっているし。
「……なにか聞きたいことある?」
「えっ」
 何この人、ホントに意味わかんない。こちらがはてなマークを大量生産している間もおにーさんは自分の袖をまくったりして遊んでるし、この人にすこぶる興味がないんだけど、何か質問しなくちゃダメ? おれもう、えっしか言ってないよ。
「あっ、じゃあ王都ってかまど掃除ってどうなってるのか教えてもらっても?」
「……掃除人さん?」
 小首をかしげて不思議そうに俺を指をさすお兄さん。人を指さすんじゃありません。ホントにこの人、成人してるよな? 背丈だけで言えばそう見えるけど本当は違うのか?
「いえ、俺じゃなくて掃除人さんに用があるですけど……」
 植物紙で本を作ってみたいからすすと草木灰が欲しい。かまどに代わる魔道具とかあって王都だと使ってないとかそういうことがあったら困るから聞きたかっただけなんだけど。
「それならハンネスとエルナがいいよ。あの二人ならいつもピカピカ」
「ハンネスとエレナ?」
「南の橋のあたりにいる可愛い子たち」
「いや、それで個人特定は難しいです」
「……モルガンはそれでわかってくれるのに少年は厳しい」
 成人男性がむうとか言っても可愛くないです。モルガン誰ですか。
「丸くて可愛いのがエレナでツンツンして可愛いのがハンネス」
「区別はつきます判別は難しいです」
「濃い金色で可愛いのがエレナで薄い金色で可愛いのがハンネス」
「もう一声」
「ペリドットみたいに可愛いのがエレナでアメジストみたいに可愛いのがハンネス」
「もうちょっと」
「二人とも僕の腰より小さくてかわいいよ」
  か わ い い し か い っ て な い 。
「薄い色の金髪で目が紫のツンツンした男の子と、濃い色の金髪で目が緑の可愛い女の子のセットを探せばいんですね」
「おお~、それそれ」
 そこ、ぱちぱち手をならさない。それより簡潔な説明を心掛けるように。
「ちなみに南の橋は交通ギルドの脇に掛かってる橋であってます?」
「せ~かぁ~い」
 ぽへっとしてる成人男性(仮)になんとか正しい情報を聞き出せたところでホッとしていると、周りざわめいているのに気が付いた。
「おい、あれサブギルマスじゃないか?」
「あの目を付けたものがすべて売れると噂の……?」
「あの意思疎通が難しすぎてギルマスに就任できなかったと言われいる」
「いつもは日向で昼寝しているらしいがなんで起きてるんだ?」
「あの一緒にいるの見たことあるやつか?」
 おっ、とぉ・・・?? これはよろしくない、よろしくないぞ。俺は妖精さんの国()を立ち上げるんだぞ。こんなところで目立っている場合じゃないぞ
「じゃあおにいさん! ありがとうございました!」
 精一杯子供っぽい声を出してパタパタと逃げるように駆け出した。
「なんだ、子供と遊んでただけか」
 セーフ! セーフ!

「行っちゃった」
「サブマスター、こんなところで何してるんです?」
「クロちゃんがお名前教えてたから見に来た」
「ああ、ユーラス様ですか。彼可愛いですわね。ちょっと経歴に気になるところがございますが、あの頭の回転なら騙されているのではなく本人の意向でしょうから、何をしてくれるのか楽しみにしてるんですの」
「……泳がせて丸呑み?」
「あら? わたくしだって金の卵を産む鶏が生まれるかもしれない卵は丸呑みいたしませんわよ」
「クロちゃんならお腹で飼えそうだね」
「ふふふ、それも一興かもしれませんわね」
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