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垂れ流しと村の朝

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 朝日が村の小さな家々を照らし始めた頃、俺は目を覚ました。村の一角にある空き家を提供されたが、正直ボロボロで快適とは言えない。けれど、追放された俺には十分すぎる場所だ。

 「さぁて、今日もやるか……」
 村の再建を手伝うことができるかもしれないと分かった昨日から、俺の胸には小さな希望が芽生えていた。役立つかどうかは分からないが、とりあえずできることをやるしかない。

 畑に出ると、すでに村の人々が作業を始めていた。老若男女、わずか十数人しかいない村だが、皆それぞれの役割を果たしている。

 「おはようございます!」
 俺が声をかけると、村長のルードさんが手を振った。
 「リクト、早いな。昨日の垂れ流しスキル、今日は何が出るか試してみてくれ」

 俺は畑の端に立ち、深呼吸をしてスキルを発動する。垂れ流しスキルは、相変わらず俺の意志とは関係なく勝手に何かを流し出す。

 最初に現れたのは、小さな種の詰まった袋だった。村人たちが袋を覗き込むと、驚いた顔をして言う。
 「これは珍しい種だな……見たことがない形だが、何か実がなるのか?」
 「植えてみるしかないですね」

 次に流れ出てきたのは、透明な液体が入ったガラス瓶だった。村人たちが瓶を手に取り、慎重に中身を嗅いだり、少しだけ触ってみたりする。
 「……薬草の匂いがするぞ。もしかしたら体にいい液体かもしれない」

 さらに続けて出てきたのは、大きな鉄の板のようなもの。これはさすがに用途が分からず、村人たちも首をかしげていたが、鍛冶屋のカイラさんが嬉しそうに言った。
 「これは加工して農具に使えるかもしれない。試してみよう!」

 午前中の作業が終わる頃には、村人たちの顔は少しだけ明るくなっていた。垂れ流しスキルで生まれた肥料や水が畑の作物に役立ち、土の色も少し良くなったように見える。

 「リクト、いい働きだな」
 そう言って肩を叩いてくるのは、村の青年グレンだ。村では数少ない同年代で、昨日の作業の後すぐに打ち解けた。
 「いや、俺はスキルが勝手にやってるだけだから……」
 「それでも村の役に立ってるんだ。俺たちも頑張らないとな」

 グレンの言葉に励まされ、少しだけ自分に自信が持てた気がした。

 昼食は村の共同広場でとることになった。みんなで持ち寄った食材を使った簡単な料理だが、不思議と温かい雰囲気があった。
 「これ、リクトのスキルで出た作物を煮込んでみたんだが……食べてみるか?」
 村の女性の一人、マイラさんが鍋を差し出してくれる。中には俺のスキルで生まれたジャガイモのような作物が煮込まれていた。

 一口食べると、口の中に優しい甘みが広がる。
 「美味しい……!」
 「だろう? リクト、これからも頼むぞ!」
 村人たちの笑顔に囲まれ、俺の胸は温かさで満たされた。こんな風に誰かの役に立つ感覚は、王都では一度も味わえなかったものだ。

 午後は村の設備修繕の手伝いをすることになった。昨日垂れ流しで出た資材が、早速修理に使えると分かり、村人たちは意気込んでいた。

 「リクト、ちょっとこっちを手伝ってくれ」
 グレンに呼ばれ、壊れかけの水車小屋へ向かう。どうやら水車の羽根が古くなりすぎて機能していないらしい。
 「垂れ流しスキルで新しい羽根とか出せないかな?」
 「そんな狙って出せるものじゃないんだよ……まぁ、試してみるけど」

 スキルを発動してみると、予想外のものが出てきた。それは……一本の丸太だった。村人たちは一瞬戸惑ったが、カイラさんが嬉しそうに言った。
 「この木材を加工すれば使えるぞ!」

 こうしてスキルで生まれた木材を使って、俺たちは水車の羽根を新調することにした。慣れない作業だったが、グレンやカイラさんの指導のもと、どうにか形になった。夕方には水車が再び回り始め、その音が村全体に響き渡る。

 「すごいじゃないか! これで川の水を引ける!」
 村人たちが喜び、俺もほっと胸を撫で下ろした。

 その日の夜、空を見上げながら俺は思った。追放された時は、この先どうなるか分からず不安だった。でも、ここでは俺のスキルが確かに誰かの役に立っている。それだけで、生きる意味が見つかった気がする。

 「ここでなら、きっと俺もやっていける」

 そう呟きながら、俺は小さな家に戻り、次の日のために目を閉じた。
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