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追放された先にあったもの

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 俺の名前はリクト。異世界の片隅にある王都で、静かに暮らしていた青年だ。いや、「静かに暮らしていた」と言えば聞こえはいいが、実際には肩身が狭い日々だった。
 原因は一つ。俺の持つスキル、「垂れ流し」。

 このスキルは、15歳の成人式で神殿から与えられたものだ。王国では誰もがこの儀式で「適性」を見極められ、職業や役割が決まる。剣士、魔術師、大工、薬草師……役立つスキルを持つ者は皆、尊敬され、成功する未来が約束される。しかし、俺のスキルは――正直、意味不明だった。

 儀式の日、俺の頭上に「垂れ流し」という文字が浮かんだ瞬間、神官たちは一斉に目を伏せた。そして、父や母は困惑し、他の村人たちは失笑を隠そうともしなかった。
 「なんだ、そのスキルは?」
 「使えそうにもないな……」
 彼らの言葉はそのまま俺の運命を決めた。

 実際に試してみたスキルの内容は想像以上に奇妙だった。スキルを発動すると、俺の体から何かがポロポロと現れる。果物や野菜のような作物、鉄の塊、謎の液体……。止めることも、選ぶこともできない。ただ、勝手に流れ出てくるだけ。

 「これ、どこで役に立つんだ?」
 自分でも困惑し、試行錯誤を繰り返したが、うまく活用する方法は見つからなかった。それどころか、垂れ流しで生まれた鉄片を踏んで怪我をしたり、床が汚れると怒られたりする始末だ。

 そして一年後、父からこう告げられた。
 「リクト、お前はこの家を出ていけ」
 その言葉に驚きもしたが、心のどこかで覚悟していた。自分はこの村で必要とされていない、と。

 追放され、行き場を失った俺は、王都を離れ、ひたすら歩き続けた。どこへ行けばいいのかも分からない。ただ、疲れ果てるまで歩いた先で、一つの村に辿り着いた。

 村は静かだった。いや、静かすぎた。畑は荒れ、家々は古び、村全体が疲弊しているように見えた。住んでいる人も少ないらしく、すれ違う気配もほとんどない。
 「こんな場所で生きていけるのか……?」
 不安を抱えながら村の中央に向かうと、一軒だけ立派な建物があった。恐る恐る中に入ると、白髪の老人が椅子に座っていた。

 「おや、旅人かね?」
 彼は驚くこともなく、穏やかな声で俺に話しかけてきた。この村の長老だという。俺が自分の事情を話すと、彼は静かに頷き、こう言った。
 「ここで暮らしたいなら歓迎するぞ。だが、村のためにできることを見せてほしい」

 翌朝、俺は村の荒れ果てた畑に立っていた。長老の言葉を真に受けたわけじゃないが、ここで暮らすなら何かしら役に立たなければならないのは分かっている。
 「……試してみるか」
 覚悟を決めて、俺はスキルを発動する。

 最初に流れ出てきたのは、謎の袋だった。開けてみると、中にはサラサラとした白い粉――いや、これは肥料だ! 続いて、コロコロしたジャガイモのような作物。そして、透明な液体が流れ出てきた。指先で触れてみると冷たく、匂いを嗅ぐとどうやら水のようだ。

 長老が驚いた顔で近づいてきた。
 「お前のスキルでこれが出たのか?」
 「あ、はい……でも、ただ流れ出るだけで、自分で制御できるわけじゃ……」
 「いや、これはすごい! 村の畑を復活させるのに役立つかもしれん!」

 長老の声に村人たちが集まってきた。俺のスキルから生まれた肥料や水、作物に目を輝かせる人々。これが希望だと言わんばかりの表情だった。

 その日、村人総出で畑の土を耕し、肥料を撒き、作物を植える作業が始まった。俺も慣れない手つきで鍬を握り、汗を流した。終わるころには夕陽が地平線に沈み、村全体がオレンジ色に染まっていた。

 作業を終えた村人たちが笑顔で語り合っているのを見て、俺は心の中で初めて安堵した。
 「ここなら、やっていけるかもしれない」
 追放され、無価値と思われたスキルが、ここでは役に立つ。少なくとも、今日この瞬間はそう感じられた。

 こうして、俺の新しい生活が始まった。垂れ流しスキルが村をどう変えるのか、そして俺自身がどう変わるのか。その答えは、これからの時間が教えてくれるのだろう。
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