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16話 偶像

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 しばらくすると暗雲が立ち込め、

 辺りは一瞬にして暗くなる。

「あ、天気が悪くなってきたな」

 ヒロは空を見上げながら、

 天候を心配していた。

「おい、バカか? 暗雲と言ったらあの2人に決まってんだろ」

 ダンテの目は輝きに満ち溢れていた。

「でた、ったく男どもはあの2人の何がいいのかしら」

 ダンテの横でため息をつきながら、

 あきれ果てている。

 2人? 一体何のことだろうか?

 ヒロは疑問を抱えたまま、

 心配そうに空を見つめたり、

 周りをキョロキョロとしていると、

 演奏隊は急に演奏を中止して、

 先程までの優雅な演奏とは打って変わり、

 ゴリゴリのビートを奏で始めた。

 皆見つめる先にはステージが用意されていて、

 その上にゆっくりと2人のデーモンが両脇から登場した。

 その瞬間、

 闘技場は歓声で揺れる。

 それぞれが手にマイクのようなものを持っている。

 この時代にマイクがあるのかとヒロは疑問に思ったが、

 周りはそんなことを気にも留めていない。

 観客のボルテージはどんどんエスカレートしていく。

 1人のデーモンがマイクを口に近づけた。

「みんな~! 元気にしてた~!?」

「「うおぉぉぉぉ!!!!!」」

 黒髪ロングをゆるいウェーブでクルクルと巻き、

 黒のメイド衣装を身に着け、

 明るく振舞っている。

「みんな大好き、悪魔のアイドル! サキュバスのラブだよ! そして!」

 ラブは右手を広げながらもう一人の方に向けた。

 胸まである白い髪をサラサラとなびかせ、

 白のメイド姿は、

 悪魔というより天使に近い。

 白の堕天使という設定なのだろうか?

「インキュバスのイヴだよ! 2人合わせて!」

 2人は手を取り合い、

 顔を近づけた。

「「LOVE IVEで~す!」」

 2人の自己紹介が終わると、

 観客はさらに盛り上がる。

「なんか、凄い人気……なぁ、ダン……」

 ヒロが話しかけようと、

 ダンテの方に振り向こうとすると、

 ヒロの肩に身を乗り出すようにして、

 ダンテは大声を張り上げた。

「ラブちゃ~ん! こっち向いて~!」

 ダンテは両手を一心不乱に左右に振った。

「おい、お前もファンなのかよ……」

「当たり前だろうが! 魔族のアイドルであり皆の妹的存在だ!」

 ダンテの目が怖い……

 というか、魔族に妹とかいるんだ……

 ヒロはどの世界にも癒しや娯楽があるんだなと実感した。

「おぉ~、ラブちゃんは今日もピチピチでええのぉ」

 グルーディアはラブのグッズのようなものを手に取り、

 顔を赤く染めながら、

 前のめりにステージを見ていた。

「まったくグルーディア殿は節操がない。少しは落ち着いたらどうですかな?」

 ゼゼルは飄々とした態度で、

 グルーディアを注意した。

「何を言うか、そういうお前さんも、キーホルダーだのワッペンなど身に着けておるではないか。イヴちゃん推しとはまだまだ小童じゃのう」

 ゼゼルは赤のペンキでも塗ったのかと言わんばかりに顔を染め上げ、

 グルーディアの言葉に反論した。

「なっ! イヴをバカにするのか!? いくら総政局長といえど聞き捨てなりませんぞ!」

 2人の喧嘩に仲裁に入るのはもちろんロゼだった。

「うるさい!! 私の前でゴチャゴチャと下らんことを言うな!」

「しかし、イヴをバカにしてきたのですぞ?」

「ラブちゃんの良さに気づかぬお前さんが悪いわい」

「お前たち馬鹿か? 私たちは黙って……」

 羽織っているマントの後ろに両手を入れて何やらゴソゴソとして何かを取り出した。

「箱推しだろう?」

 ロゼの両手からはラブとイヴのグッズが零れ落ちるている。

 ロゼのあまりの本気っぷりに2人は額に1粒の汗がキラリと流れた。

「ロ、ロゼ様、それは?」

「ロゼ様がそこまで夢中になっているは思いませんでしたぞ」

「何をいうか。私は可愛い物好きなんだ。おい、ライブが始まるぞ! お前たちペンライトは持ったか? うちわが無いなら私のを貸してやろうか?」

 ロゼは誰よりもオタクだったのだ。

 ステージでは2人のトークで盛り上がっていた。

「よし、それじゃそろそろ私たちの曲を披露しちゃうよ!? みんな準備はできてる?」

 ラブがマイクを観客に向ける。

「「おぉぉぉぉ!!!!!」」

「今日もみんなの魔力を~~~……」

「「をぉぉぉx!?」」

 イヴの掛け声に、

 観客も一体となっていた。

「ったく、何やってんだよみんな」

 ヒロは誰にも聞こえないぐらいの声で一人呟いた。

「「吸い取っちゃうぞ♪」」

「うおぉぉぉぉ!!!!!」

 観客の声で闘技場が爆発するのではないかと思うぐらいに、

 身体にビリビリと振動が伝わる。

「吸い取ったらとんでもないことになるだろうがよ!」

 ヒロのツッコミは観客の声で象が蟻をつぶすかのように簡単に消え去っていく。

 ステージは30分以上続き、

 ダンテは声を出し過ぎて、

 喉を枯らしながら腕を上げて応援していた。

「ぜぇ、ぜぇ、ラブ……ちゃん。おぉ」

「もう声出てねぇよダンテ」

 ヒロは倒れそうになるダンテの腕を掴み、

 肩を貸してあげた。

「さて、これで僕たちのステージは終わったよ! 次は今回の大本命! 魔族武闘会の始まりだよ!」

 イヴは手を振りながら笑顔を振りまいた。

 無邪気に微笑むイヴは観客の心を一瞬にして掴む。

「でもね、今回の審判と解説なんだけど~。僕達がすることになったんだよ!」

「「うおぉ! まじかぁ」」

 観客はどよめきとも歓声ともとれるような声で、

 ざわめき始めた。

「みんな落ち着いてね。魔族武闘会のルールを説明していくからね」

 ラブの声で周りは静かになり、

 軽く咳ばらいをしてから、

 ラブは魔族武闘会のルールを説明し始めた。

 形式は3対3の団体戦。

 武器、魔法、スキルなど、

 何を使用しても違反は無く、

 時間制限もない。

 勝敗は至ってシンプル、

『相手を倒すこと』である。

 64組のエントリーの中から勝ち上がっていくトーナメント方式で、

 ヒロの相手はあらかじめクジを引いて決められていた。

 まさかの1回戦……

「ったく、まさかの1回戦とはな」

 ダンテは両手を頭の後ろで組みながら、

 ヒロとベネッタと雑談をしていた。

「まぁ、いいじゃないどうせ試合には出るんだし」

「ベルゼルと当たるには決勝か……」

 ヒロは配られた試合の日程表を見ていた。

 ベルゼルは正反対に位置しており、

 対決するには決勝に行く必要がある。

「もう決勝で戦えると思ってるのか? 気の早い奴だな」

 ヒロが日程表を見ていると、

 ミニデーモンが話しかけてきた。

 振り向くと、

 3人のミニデーモンがニヤニヤしながら立っていた。

「ん? 君たちは確か……」

「1回戦でお前たちと戦うアブロンだ、残念だな俺たちと戦うことになって」

「ふん、お前たちなんか相手にしてねぇよ」

 ダンテは鼻で笑い、

 相手にしなかった。

 地獄の3ヵ月を過ごしたからなのか、

 煽り耐性がついたようだ。

「まぁ、試合になればわかるさ」

 アブロンは後ろを振り返って、

 控室に戻っていった。

「なんだ、ベルゼルの他にも嫌みったらしい奴がいたんだな」

 ヒロはポカンとした顔をして、

 去っていくアブロンの後姿を見ていた。

「どうってことないわ、私たちの相手はベルゼルだけなんだから!」

 ベネッタは全く気にも留めず、

 ヒロの肩を軽く叩いた。

 ベネッタの言葉に安心したヒロは、

 無言で静かにうなずいた。

 すると、

 スタッフらしきデーモンから声がかかる。

「それでは1回戦に出場の方は控室にお願いします!」

 3人はいよいよ始まる1回戦に向けて、

 目を合わせて、

 力強く首を縦に振って、

 控室に向かった。
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