上 下
75 / 101
リシャーダの海賊編

第74話 シーナの付与魔法

しおりを挟む
「大丈夫かな、ソウタ……」

 シーナは船の上からソウタの身を案じる。海賊船から突然巨大な光を放ったかと思えば、鳴り響くほどの轟音と共に煙が立ち込める。船の縁を握るシーナの力が強くなる。

「まずいな、このままだとこっちまで波で沈没するぞ! おい、お前ら、波を避けるぞ!」

 ブルトンの掛け声とともに、船員は機敏よく動き、荒波を回避する。だが、何度も襲ってくる想定以上の波の高さで船は飲み込まれそうになる。

「ダメだ! 波に飲まれちまう!」

「大丈夫? ブルトンさん!」

 シーナはこのままだと船が転覆しかねない状態を何とかするべく、無謀な賭けに出る。それは、船に浮遊魔法を付与することだった。しかし、それは一度もしたことがない、それどころか、過去に浮遊魔法を人でないもの、船という巨大な質量を誇るものに使った者はいない。まさに一世一代の大博打だ。だがこうでもしないとこの船は沈んでしまう。シーナは覚悟を決めた。

「いっけぇぇぇ!」

 甲板の上に巨大な魔法陣が浮かび上がり、船は浮遊魔法の光に包まれた。しかし、やはりそう簡単には動かない。荒波にもまれ、自由も聞かなくなっている船を浮かせるのは膨大な魔力を必要としていた。

「くそぉぉ……!」

「大丈夫か!? シーナちゃん! おい、船室にある魔法の小瓶をありったけシーナちゃんに与えるんだ!」

 ブルトンの指示の下、船員は船室に保管されている魔法の小瓶を大量に持ち出した。魔法の小瓶は魔力を少量ながら回復させるアイテムだ。といっても、回復量はわずか。通常の冒険者であれば、それだけでは足らないほどの回復量だ。シーナにとってはそれでも非常に助かった。目の前に置かれた魔法の小瓶を次々と開けると、一気に飲み干していく。

「ぷはぁ! よし、まだまだぁ!」

 魔力を回復させながら、船に魔力を送り込んでいく。次第に船は浮かび上がり、波の高さをついに超えた。

「やったー!」

「助かったぞ!」

 船員は口々に喜びを分かち合い、シーナに感謝する。それでも浮遊する時間はわずか数秒、船を浮かせるだけの魔力を維持するにはとてもシーナにはできず、しばらくしてすぐに船は海面に叩きつけられた。しかし、荒波を超えることができ、船は波に飲み込まれずに済んだ。

「はぁ、やった……よかったぁ」

 シーナは魔力を使い果たしたのか、その場にヘナヘナと座り込む。

「よくやったな、シーナちゃん、おかげで命拾いしたよ」

「はは……なんとかね」

 シーナが海賊船に目を向けると、驚くべき光景が目に映りこんだ。海賊船はボロボロに朽ち果て、音を立てて沈み始めていたのだ。海賊船にはまだソウタとハウルがいる、このままでは2人が海に飲み込まれる。シーナはいてもたってもいられなくなった。疲れた体をたたき起こし、海賊船の様子を伺った。

「そんな、ソウタ! ハウル!」

「ダメだシーナちゃん、それ以上近づくとシーナちゃんまで飲み込まれるぞ!」

「でも、このままじゃソウタとハウルが!」

 シーナの頭に最悪なシナリオが描かれる。あの2人の獣人にやられ、ソウタとハウルは戻ってこないというシナリオだ。思わず涙を浮かべ、シーナは天に届く程大きな声を張り上げた。

「ソウターー!!!!!」

「呼んだ~!?」

 スタッと船の甲板に降りてきたのはソウタと見慣れない獣人。

「……? えっ?」

「ん? 今呼んだでしょ、俺の名前?」

「いや、呼んだけど……もしかしてあの2人を倒したの?」

 シーナの目は点になっていた。

「あぁ、何とかね、さすがに強かったけど」

「……その横の男の子は?」

 シーナは何とか触れないでおこうと思っていたが我慢ができず、ソウタに尋ねた。

「ハウルだよ?」

「どうも、シーナさんハウルです」

「えぇ! だってハウルってワーウルフだったんじゃ?」

「あぁ、そのあたりは話すと長いから、で、船は順調に進んでる?」

 ソウタはブルトンに尋ねると、自慢げに答える。

「ったく、どんな帰り方だよ。ほら目の前に見えるだろう! あれがシャイルー島だ!」

 ソウタ達の目の前に映るのは、暗雲によって雷雨が降り注ぐ不気味な島シャイルー島の全貌だった。波は荒く、船で近づくにはとても容易ではない。目に映る広大な森と高くそびえる山がソウタ達の上陸を歓迎していないように不吉な音を運び込んでいる。

「あれが、シャイルー島……」

 ソウタ達は海賊たちの住処シャイルー島についに到着したのだ。

 Mr.Sixの独り言
 ここまで読んでくれてありがとうございます。
 よく考えたらさ、海賊倒したらシャイルー島に行く必要なくね?って思ったのは俺だけではないはず。
 てか、海賊が魔王軍って設定メチャクチャすぎんか?
 一応補足だけど、シャイルー島には海賊たちが船から奪った金品やら食料などがあるからそれらを奪い返しに行ってます。
 そして、海賊は……海賊っす! そう思ってください!
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

前世の記憶で異世界を発展させます!~のんびり開発で世界最強~

櫻木零
ファンタジー
20XX年。特にこれといった長所もない主人公『朝比奈陽翔』は二人の幼なじみと充実した毎日をおくっていた。しかしある日、朝起きてみるとそこは異世界だった!?異世界アリストタパスでは陽翔はグランと名付けられ、生活をおくっていた。陽翔として住んでいた日本より生活水準が低く、人々は充実した生活をおくっていたが元の日本の暮らしを知っている陽翔は耐えられなかった。「生活水準が低いなら前世の知識で発展させよう!」グランは異世界にはなかったものをチートともいえる能力をつかい世に送り出していく。そんなこの物語はまあまあ地頭のいい少年グランの異世界建国?冒険譚である。小説家になろう様、カクヨム様、ノベマ様、ツギクル様でも掲載させていただいております。そちらもよろしくお願いします。

スキル【アイテムコピー】を駆使して金貨のお風呂に入りたい

兎屋亀吉
ファンタジー
異世界転生にあたって、神様から提示されたスキルは4つ。1.【剣術】2.【火魔法】3.【アイテムボックス】4.【アイテムコピー】。これらのスキルの中から、選ぶことのできるスキルは一つだけ。さて、僕は何を選ぶべきか。タイトルで答え出てた。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

破滅する悪役五人兄弟の末っ子に転生した俺、無能と見下されるがゲームの知識で最強となり、悪役一家と幸せエンディングを目指します。

大田明
ファンタジー
『サークラルファンタズム』というゲームの、ダンカン・エルグレイヴというキャラクターに転生した主人公。 ダンカンは悪役で性格が悪く、さらに無能という人気が無いキャラクター。 主人公はそんなダンカンに転生するも、家族愛に溢れる兄弟たちのことが大好きであった。 マグヌス、アングス、ニール、イナ。破滅する運命にある兄弟たち。 しかし主人公はゲームの知識があるため、そんな彼らを救うことができると確信していた。 主人公は兄弟たちにゲーム中に辿り着けなかった最高の幸せを与えるため、奮闘することを決意する。 これは無能と呼ばれた悪役が最強となり、兄弟を幸せに導く物語だ。

せっかく異世界に転生できたんだから、急いで生きる必要なんてないよね?ー明日も俺はスローなライフを謳歌したいー

ジミー凌我
ファンタジー
 日夜仕事に追われ続ける日常を毎日毎日繰り返していた。  仕事仕事の毎日、明日も明後日も仕事を積みたくないと生き急いでいた。  そんな俺はいつしか過労で倒れてしまった。  そのまま死んだ俺は、異世界に転生していた。  忙しすぎてうわさでしか聞いたことがないが、これが異世界転生というものなのだろう。  生き急いで死んでしまったんだ。俺はこの世界ではゆっくりと生きていきたいと思った。  ただ、この世界にはモンスターも魔王もいるみたい。 この世界で最初に出会ったクレハという女の子は、細かいことは気にしない自由奔放な可愛らしい子で、俺を助けてくれた。 冒険者としてゆったり生計を立てていこうと思ったら、以外と儲かる仕事だったからこれは楽な人生が始まると思った矢先。 なぜか2日目にして魔王軍の侵略に遭遇し…。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。

ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった 16歳の少年【カン】 しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ これで魔導まで極めているのだが 王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ 渋々それに付き合っていた… だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである ※タイトルは思い付かなかったので適当です ※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました 以降はあとがきに変更になります ※現在執筆に集中させて頂くべく 必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします ※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください

世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜

ワキヤク
ファンタジー
 その日、春埼暁人は死んだ。トラックに轢かれかけた子供を庇ったのが原因だった。  そんな彼の自己犠牲精神は世界を創造し、見守る『創造神』の心を動かす。  創造神の力で剣と魔法の世界へと転生を果たした暁人。本人の『願い』と創造神の『粋な計らい』の影響で凄まじい力を手にしたが、彼の力は世界を救うどころか世界を滅ぼしかねないものだった。  普通に歩いても地割れが起き、彼が戦おうものなら瞬く間にその場所は更地と化す。  魔法もスキルも無効化吸収し、自分のものにもできる。  まさしく『最強』としての力を得た暁人だが、等の本人からすれば手に余る力だった。  制御の難しいその力のせいで、文字通り『歩く災害』となった暁人。彼は平穏な異世界生活を送ることができるのか……。  これは、やがてその世界で最強の英雄と呼ばれる男の物語。

処理中です...