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リシャーダの海賊編

第63話 凄腕の航海士

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 ソウタの新たな問題、それは海流が読めないという事だった。シャイルー島に行くには入り乱れた海流を切り抜ける必要があり、海流に耐えるだけの強度を誇る船と航海術を持つ航海士が必要だったのだ。

「あぁ~、そっかなるほどな、確かに地面と違って海は海面が揺れ動くもんな……」

「船は俺たちの船を使えばいい、あの海流を超えるには十分な強度はあるだろう、だが問題は航海士だ……」

「あの人に頼むしかないんじゃねぇかな?」

「あぁ、だがあの爺さんが動いてくれるかどうか……」

 男たちは口々にある男の話を持ち出した。どうやらこの辺りの海域の知識を全て頭に叩き込む凄腕の航海士らしい、ソウタはどのような人物なのか気になり男たちに尋ねた。

「爺さん? そんな人がいるのか?」

「なんだ? 港に行ったときに合わなかったのか?」

「えぇ? いたっけそんな凄そうな人、シーナは見かけた?」

「ううん、あ、でも待って。もしかしてその人って……」

 シーナには思い当たる人物がいた。そして男たちはある男を口にする。

「港の管理人ルブトンさんだ、昔はこの港街で1番の航海士であり漁師だったんだぞ」

 凄腕の航海士は、ソウタが港に行った際に進水の許可を出さなかったあの男だったのだ。ソウタは驚き椅子が吹き飛ぶかと思う程勢いよく立ち上がった。

「嘘ぉ! あの人が!?」

「やっぱり……でもあの人、船を出すのも許さなそうだな~」

 シーナは不安に感じていた。すでに港に船を出すことを許可してくれなかったことで頑固という印象が強く、もしかしたら海賊討伐すらも許可をしてもらえないかもしれないそう思ったのだ。しかし、ソウタはまるで子供が公園でボール遊びをするように屈託のない笑顔を浮かべていた。

「まぁ、とにかくもう一度行くしかないな! 行くぞハウル!」

「ワン!」

「はぁ、だと思ったよ……」

 ソウタ達は酒場を出て、ルブトンのいる港に再度向かった。

「ルブトンさん! ちょっと聞いてほしいことがあるんだ!」

「ん? お前さんたちはさっきの……まだ何か用か?」

 ソウタ達はルブトンに事情を説明し、船でシャイルー島に行くのを手伝ってほしいと伝えた。

「なるほど、お前さんたちが海賊を……だがダメだな」

「なんでだよ! 海賊は俺たちで倒して見せるから!」

「船ってのは1人で動かすもんじゃない、舵をとる人間、帆を張る者、いろんな人間が関わって初めて船は動かせるんだ。船をなめるんじゃねぇ!」

「だったら、俺たちが手伝うよ!」

「バカ野郎! ずぶの素人がどうやって船を動かすってんだ!」

 ルブトンはどんどん不機嫌になっていく、このままでは船を出すことができない、ソウタ達が悩んでいると、ゾロゾロと大勢の足音が聞こえてきた。酒場にいた男たちがルブトンを説得しに来てくれたのだ。

「ルブトンさん! 俺たちからもお願いしますよ!」

「この子たちは、絶対海賊を倒してくれますって!」

「ダメだって言ってんのがわかんねぇのか!」

 ルブトンは大声を張り上げ、空気が一瞬でぴりついた。

「いいか、船は俺たちの家族と一緒だ、その船を危険に晒すことはできねぇ! 仮に俺が一緒に航海に出てもシャイルー島につく前に海流に飲み込まれて終わりよぉ、そんな大博打に出るほど俺はバカじゃねぇ」

 ルブトンはそう言って、後ろを振り返り仕事に戻ろうとすると、男たちが次々に声を上げていく。

「なら、俺たちも船に乗れば文句はねぇだろ!?」

「なんだと?」

「ルブトンさんの指示のもと、俺たちは手足となって船を動かす。この子たちには海賊の討伐に集中してもらう、これならどうよ!」

「そ、そうだ! 俺たちも船に乗ればいいんだ!」

「頼むよルブトンさん! 俺たちはまた漁に出たいんだよ!」

 男たちの必死の懇願に、歯ぎしりをし、頭をクシャクシャと掻きむしりながらルブトンは悩んだ。

「お前たちが、この子たちに命を預ける意味は何だ? 船に乗るってことは全員の命を預かるってことだ、海に出れば、船が唯一の命綱、船が家であり道標だぞ?」

「だが、このままじゃ俺たちは漁も出れねぇし、待ってても海賊がいなくなるわけではねぇだろ? だったら……」

「だから!」

 ルブトンは大きな声を出して言葉を遮った。その後、振り返るとソウタ達に向かってニヤリと笑った。

「俺たちでこの子たちの道標になるしかねぇ……だろ?」

「……ってことは!?」

「ここまでこいつらに言われたら行くしかねぇだろ、それに久しぶりに腕が鳴ると思ったら体がうずいて仕方ねぇ、いいか? 船の上は危険だらけだからな! 戦力にならんとおもったらすぐに引き返す! これが条件だ」

 ルブトンの言葉にその場にいた男たちは歓喜した。

「やったー! ありがとうルブトンさん!」

 こうしてソウタはリシャーダ港からシャイルー島に向かうための船と航海士を手に入れた、多くの船員と共に。
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