転生したら、ステータスの上限がなくなったので脳筋プレイしてみた

Mr.Six

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転生編

第1話 何も与えられなかった男

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 遠く、長い時間を彷徨っている感覚だった。

 大学生の浅野壮太は目を覚ますと、立ったままなことに気が付く。

「ここは……?」

 周りを見渡すと、目の前に広がるのはただ何もない真っ白な空間が延々と続くだけ。

 音もせず、遠くの方で何かが見えるわけでもない。

 ただ同じ空間に男がいるのだけは理解できた。

 髪は金髪で、横を刈り上げている短髪。

 右の耳たぶにリングのピアスをしており、

 面長だが、綺麗な顔立ちをしている。

 細身で背が高く、上半身は裸。

 首には白い布を垂れ下げており、

 緑のダボダボの長ズボンを履いている。

 しかも裸足……。

 どこかのコスプレ会場かと一瞬間違えるほどだ。

「あぁ~、やっと気づいたねぇ。もう長いよ~目覚めるまでが~」

 男は急に喋りだした。

 壮太を相当待っていたのか、深いため息も交じっている。

 しかし、壮太は状況を理解できずにいた。

「えぇっと、ここはどこであなたは誰ですか?」

 壮太の返答に、男は自分の胸に手を当てながら自慢げに答える。

「私? 神さまだけど」

 神さま? どういうことだ?

 壮太はキャラになりきってるのかと思ってしまう。

「今さらっとおかしなこと言いました?」

「言ってないよ本当だって、見てこれ、神さまがよくしてるこの布。神っぽいでしょ? そして、ここは【転生の間】といって、あなたは私が転生させました」

 神さまは布を触ったり、仕草を見せながら流暢に話す。

「えっ、転生?」

 壮太は突然の宣告に理解が追いつかないでいた。

「あなたは死んだので私が転生さ・せ・て、これから別の世界に飛ばします」

 はぁ? 俺が死んだ? いつ? 記憶がないぞ。

 必死に頭の中で記憶を読み返すが壮太は身に覚えがなかった。

 あるのは、それよりもっと過去の記憶のみ。

「いや、急に転生とか、別の世界に飛ばしますとか言われても何が何だが…」

「何回も聞かなくていいって、もう、理解してよ~転生するんだってば」

 神さまは体をクネクネと動かし呆れながら話す。

 思わず、神さまの言葉にイラっとしてしまった壮太は、強い口調で話す。

「理解しろって無理あるだろ! なんだよ神さまって、てか、なんで俺なんだよ!」

 神さまは少しため息をつき、壮太の体を指さす。

「だって、君冴えないだろう? 自分の格好を見てごらんよ~」

「はぁ!? 何がだよ!」

「髪の毛はぼさぼさで」

「うっ」

「ニキビはたくさんあって顔のケアしてない」

「んっ」

「来ている服はダルッダル」

「ぐっ」

「靴は何年履いてるかわからないボロ靴」

「うぐっ」

「そんなモテない、冴えない、ぱっとしない君を転生させて次は英雄にしてあげようとしてるってわけ。おわかり?」

 神さまの顔はニヤニヤしながら明らかにこちらを挑発している。

「おぉい、そこまで言わなくてもいいだろ! ……いや、張り合っても無駄だこんな奴に…。で、俺は転生して何すんだよ!」

 壮太は腕を組みながら転生させた意図を神さまに聞いた。

「おっ、転生は理解したね~、はい、あなたは次の世界で魔王をぶったおしてもらいます」

「はっ!? ま、魔王!?」

 突如として放たれたパワーワードの魔王という言葉に壮太は驚きを隠せなかった。

「そっ、まぁすごく強いんだけど、ちゃんと強いスキルと魔法あげますから、それで魔王ぶったおしちゃってください!」

 神さまは両手でガッツポーズをした。

 壮太は神さまの適当な態度が目につき、余計イライラしてくる。

 意味わかんね! なんなんだこの神さま! 

 軽いにもほどがあるだろ、そんな簡単に魔王倒せって言われても…

「はい、それじゃあ、そろそろ転生…」

 神さまのことばを遮るように壮太が話に入った

「ちょっと待って、いきなりすぎて心の準備が…」

「だってそろそろこの転生の間も閉じちゃうしさ~早くしないとここから出れなくなっちゃう…ん?」

 神さまの右側にはいつの間にか同じような格好をした人が1人立っていた。

「その人は…誰?」

「あぁ、この人? 私の側近よ、どうしたの血相変えて」

 側近は神さまに耳打ちで事の事態を話した。

「えっ、ちょ、それ本当? え、だってもうここにいるし…」

 神さまの様子が明らかにおかしい

「いや、それ困るよ~、どうすんのよこの子~」

 この子? 俺のことか? 俺のことで何かあったな

 壮太はすぐに自分のことだと気づいた。

「あの~、何かあったんですか?」

「いや、君には関係ないよ。大丈夫大丈夫!」

 余計に怪しいと思った壮太はさらに深く追求する。

「絶対、大丈夫じゃないですよね? さっき、『困るよ、どうすんのよ』っていってたし…」

「あぁ、聞こえてたのね~」

「まぁ、この距離で聞こえなかったらやばいでしょ」

「えっと、落ち着いて聞いてね、あのぉ、君の前に転生した人がいてね」

 神さまは頬を指でポリポリしながら話す。

「え? 俺の他にも転生した人いるの?」

「いるよ、そりゃ、何人転生させてると思ってんの!?」

 神さまは必死に動揺を隠す。

「いや、知らないけど…」

「いいんだそんなことは…とにかく、君の前の転生した人にね、間違って、間違ってだよ? ほんとに手違いなんだけど、スキルと魔法をね、その人に全部渡したみたいで…」

「はぁ?」

「ん?」

「えっ?」

「はい?」

「えっ、えっ?」

「いや、だから、間違ってね、間違ってだよ? 君に渡すはずだったスキルと魔法を別の人に渡しちゃったのよ」

「…だから?」

「君のスキルと魔法はありません…」

「…」

 しばらく壮太と神さまの沈黙が続く。

 いつの間にかこの場にいた側近が姿を消していた。

 そして壮太が口を開く。

「いや、ふざけんなよ! スキルも魔法もない!? そんな状態でどうやって魔王を倒しに行けばいいんだよ、神さまだろ!? 何とかしろよ」

「だって、しょうがないじゃん! 無いもんは無いんだもんよ!」

 神さまは開き直り、悪びれるそぶりすらない。

「あぁ、もうわかったよ、じゃあこうしよう、時間もないから、特別だぞ? 1個だけスキル作ったげるよ」

 神さまは壮太に提案を持ちかける。

「えっ、そんなことできんの!?」

「できるよ~、私を誰だと思ってんのかな?」

「こんなことになった張本人だよ!」

「とりあえずいってみな、何がいい?」

「えっ、じゃあ、【触れた相手が死ぬ】とか?」

「あぁ、それは無理だね、そんな強力なスキル作ったら私が死んじゃうから」

 神さまは両手でバツのポーズをして壮太の提案を断る。

「今、なんでも作ってくれるって言ったじゃん。嘘かよ!」

「だって、スキル作るの大変なんだよ? 私の命削ってんだから」

「スキルって神さまの命でできてんの!?」

「そうだよ、知らなかったの?」

「知るわけなくね!? ……てか、さっきからあの奥で光ってるやつ何?」

 壮太と神さまが話しているうちに、徐々に近づく光を神さまに伝えた。

 光はあたりを包むように少しずつ大きくなって壮太に近づく。

「あ、やばい、そろそろあの光に進まないと転生できなくなる!」

「嘘だろ!? ほんとに何もスキルも魔法も持たずに転生しちゃうじゃん、神さま何とかしてよ!」

「おぉ、これぞまさに神頼みってやつだね、よし、ちょっと時間無いからサクッとね」

 そういうと神さまの体が突然光だし、光ったかと思えばすぐに光は消えた。

「はい、とりあえず、【ステータスの上限】を無くしました」

「え、今の光はそういうやつ!? そんな簡単にできんだ!」

「まぁ、ステータスの上限なんてすぐになくせるから、チェックボックスのチェックを外す感覚? っていうのかな」

 神さまは指でチェックボックスを外すしぐさをした。

「いや、ちょっとわかんないけどさ…もう目の前まで光が来てるよ?」

「え? 嘘? ちょ、ちょっと待って、俺はそっちにはいかないよ!?」

 既に時は遅かった、2人の体はまばゆい光に包み込まれ意識が遠のいていく。

「うわぁぁーーーー!!!!」

「やばっ、遅かった…こうなったら」

 神さまは光に包まれる中、最後の悪あがきを見せた―――

 ―――「……ん、えっとここは」

 目に飛び込んだのは果てしなく広がる草原だった。

 空は雲が一切なく、太陽は地平線の先から昇ってきている。

 周りを見渡すと、ポツポツと木がところどころに生えており、

 心地よい風が通り過ぎる時には、草の匂いを微かに感じ、

 子供の頃を思い出させてくれる感覚になる。

「これが異世界か、凄い……ほんとに来ちゃったよ」

 壮太は景色に感動すると共に、異世界に転生したことを改めて感じ取った。

 すると、脳内に聞き覚えのある声が流れる。

「この世界は【オブリニア】だよ」

 突然の声に、壮太は思わず驚く。

「えっ、なんか声が聞こえる。なんで?」

 壮太は周りを見渡すが誰もいない。

「周りを探してもだめだよ、君の中からこうやって話しかけてるからさ」

 やはり聞き覚えのある声がする。

 壮太は嫌な予感がした。

「もしかして、この声はまさか…」

「そっ、神さまでぇ~す」

 脳内に響く声の正体は神さまだった。

「えっ、なんで神さまが!? 勝手に脳内に話かけてくんなよ怖いだろ!」

 壮太はまさか自分の脳内で神さまの声がすると思ってもいなかった。

「いやぁ、あの瞬間さ、光に包まれてなかったら俺あそこに閉じ込められちゃうからさ、君の体に憑依させてもらったってわけで…」

「させてもらったじゃないだろうが! どうすんだよ!」

「まぁまぁ、出ていきたいのは山々なんだけど、こうなった以上出る方法は一つしかなくて~」

「何? 協力してやるから言えよ!」

「魔王を倒すことかな」

「やっぱりか……」

 壮太はその場にへたり込むように座り込んだ。

「はは、ごめんね~、まぁ、この世界のことわかんないと思うから、補助が付いたと思って喜んでよ、あんまりないよ? 神さまがサポートにつくことなんて」

「ちょっとは、あんのかよ…。で、俺はこれから先どうすればいいんだよ」

「もちろん、魔王を倒すための準備なんだけど、その前に君の視界の右上にさ何かあるの気づかない?」

 壮太は神さまに言われた通り、視界の右上を気にしてみた。

「ん~と、蚊かな? 最近飛蚊症になってきたから気にもしなかった」

「いや、蚊じゃねぇよ! おい~急にトリッキーなこと言うなよ~。【アイコン】だよ!」

「何? アイコンって」

「君の【ステータス】を管理してんの! そこにちょっと意識向けてごらん?」

 壮太は言われるがままに意識を右上に向ける。

 すると視界の中に文字と数値が現れた。

 ソウタ
 Lv.01
【体力】16
【魔力】0
【腕力】8
【知力】3
【機動力】7
【精神力】4

 現在の壮太のステータスが表示され、

 壮太は死んだ魚の目をして、遠くを見つめながら神さまに話しかけた。

「神さまちょっと聞いていい?」

「何?どうしたの?」

「うん、あのさ…能力低すぎない?」

「魔法もスキルもないからね、最初はそんなもんでしょ」

「…」

「…」

 お互いしばらく沈黙が続いた。

「勝てるか! こんな低スペックで! スライムが複数来ただけでお陀仏だろ!」

「そんなこと言っても仕方ないじゃない、これから一緒に魔王を倒しに行くんだからさ。仲良くやっていこうよ! ねぇ、ソウタ!」

 神さまの陽気な返答にソウタは呆れた。

「はぁ、先が思いやられるわ」

 ソウタは、転生したことを少し後悔した。
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