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死とは
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心臓がバクバクする、覚悟はできているのにどこか淡い希望を抱くのは人間の性だ。
「余命は1ヵ月です……」
医者からそう告げられた。
あぁ、やっぱりそうか。
そうだよな――
――俺の淡い希望はあっけなく散っていった。
俺は病院を出て、太陽が沈むぐらい重い足取りで自宅に戻った。
相変わらず汚い部屋だな……生活感しか漂わない台所、机の上には食べ終えたカップラーメンとボタンが潰れたテレビのリモコンが置いてある。
布団も敷きっぱなしで枕元には壊れかけの目覚まし時計、テレビも最近は見てなかったから埃をかぶってるし。
「はぁ」
俺は電気を付けず、服を脱がずに布団に座り込んで、何時間座ってたか思い出せないぐらい、窓から入り込む月の光を見続けた。
テレビのリモコンに手を伸ばして、潰れた電源ボタンを力を込めて押す。
力が入らないからテレビがつくことはなく、俺はただ必死に押し続けた。
気づいたら俺はテレビのリモコンが見えなくなっていた。
「ぐっ、うぅ……」
いつから、俺は力が入らない? いつからだ?
答えがわからず、独り暗闇で息をし続けた――
――俺の病名は末期の【腎臓がん】で多臓器にも転移が見られ、治療の方法もない。
最初に違和感を感じたのは腹部にできた小さなしこりだった。
普段通りに風呂に入っていると突然できていたのだ。
そして、腰に痛みが出始め、食欲不振になってるのに、便秘になって、血痰が出た時にはもうすでに手遅れ。
肺と脳への転移に加えて、片足の麻痺まで出始める始末。
緊急入院して、「多分癌で残り少ないんだろうな」っていうのは俺でもわかった。
それでも、どこかでは違うって、思いたかった。
誰だってそう思うだろう? それが人間なんだよ。
目の前の医者は物凄く真剣な顔で俺に説明をしてくれているのだが、全然話が入ってこない。
そりゃだって、あと残り”1ヵ月”の人生、目の前の医者の話なんか聞いても意味ないじゃん。
「先生、もういいですよ。どうせ延命してもしんどい毎日が待ってるだけだし、お金も1ヵ月ぐらいなら十分遊べるだけの貯金はあるんで」
俺は半分投げやりになりながら、医者の説明を遮った。
これ以上聞いても無駄だろうって思ってしまった。
多分、今鏡で見たら俺の顔は生気がなく映ってるんだろう、ふっ、俺の人生って思えば大したことなかったな。
勉強もそこそこできたし、運動だってできないわけじゃない。
恋愛も人並みにしてきたし、仕事も別に不満もない。
でも……でも……満足をしたこともなかった。
勉強だって優秀とは言えなかったし、運動も特別できるってわけでもない、恋愛だって今までも1人しか彼女はできたことない。
仕事も何かを任されたり責任のある仕事をしたことなんて一度もない。
まぁ、簡単に言えば、”どこにでもいる普通の男”だ。
もう、残りの人生はお金を使い切ってパッと死のうかな……――
――「〇〇さん、【選択死】ってご存じですか?」
適当に受け答えする俺を見て、医者がかけている眼鏡を指で押さえながら話し始めた。
俺は、一瞬何のことかわからなかった。
「選択死? 何ですかそれ」
俺は医者から、選択死について説明を聞いた。
どうやら、最近お金を支払えば自分の死を選べるらしい。まだ世界的には認められていないが、富裕層では結構流行っているんだとか……
死を選ぶってなんだよ、【安楽死】だけじゃないってことか? 聞けば聞くほど、死に方が豊富なことに気づく。
まず、一番安いのは【絞殺死】、高い所にロープが吊るされており、そこに首を掛けて、足元の板を外す。ロープは勝手に首を締め上げ、次第に意識を失いながら絶命する。
まぁ、もし選ぶとしてもこれは嫌かな? もがき苦しみながら死ぬのは、末期がんで死ぬより怖い……
次に安いのは【刺殺死】、無数の棘が地面から伸びていて、そこに飛び降りて串刺しをされる……いや、こっちの方が嫌だわ。
選択死って苦痛を与える死に方しかないな。
他には、溺死や銃殺、殴打や放火などどれも苦痛を伴うものばかり、しかもどれも50万以上もする。
ちなみに安楽死は150万もする。
とうとう人間は”死”すらもビジネスに変えてきたか。
人間って愚かな生き物になったな、本当に……
だがそれ以上に死を選択できることに興味がわいてきた。
「先生、ちょっと考えてもいいですか?」
「えぇ、ゆっくり考えてください、人生をいつ終わらせるか、死を選ぶのは貴方にしかできないのですから」
そういって、医者は目の前に広げた俺の資料を整えてファイルにしまった。
(【選択死】ってご存知ですか?)
医者の言葉が頭をよぎる。
残りの人生は1ヵ月、この残された時間の中で俺は一体何ができて、何をしたいのか。
そう考えていると、また医者の言葉を思い出した。
(人生をいつ終わらせるか、死を選ぶのは貴方にしかできないのですから)
そうだ、俺の人生はいつ終わらせるのも、どう死ぬのも自由なんだ。
残された時間と資金を使って、俺は――
――俺は、まだ死んでやらん……
「余命は1ヵ月です……」
医者からそう告げられた。
あぁ、やっぱりそうか。
そうだよな――
――俺の淡い希望はあっけなく散っていった。
俺は病院を出て、太陽が沈むぐらい重い足取りで自宅に戻った。
相変わらず汚い部屋だな……生活感しか漂わない台所、机の上には食べ終えたカップラーメンとボタンが潰れたテレビのリモコンが置いてある。
布団も敷きっぱなしで枕元には壊れかけの目覚まし時計、テレビも最近は見てなかったから埃をかぶってるし。
「はぁ」
俺は電気を付けず、服を脱がずに布団に座り込んで、何時間座ってたか思い出せないぐらい、窓から入り込む月の光を見続けた。
テレビのリモコンに手を伸ばして、潰れた電源ボタンを力を込めて押す。
力が入らないからテレビがつくことはなく、俺はただ必死に押し続けた。
気づいたら俺はテレビのリモコンが見えなくなっていた。
「ぐっ、うぅ……」
いつから、俺は力が入らない? いつからだ?
答えがわからず、独り暗闇で息をし続けた――
――俺の病名は末期の【腎臓がん】で多臓器にも転移が見られ、治療の方法もない。
最初に違和感を感じたのは腹部にできた小さなしこりだった。
普段通りに風呂に入っていると突然できていたのだ。
そして、腰に痛みが出始め、食欲不振になってるのに、便秘になって、血痰が出た時にはもうすでに手遅れ。
肺と脳への転移に加えて、片足の麻痺まで出始める始末。
緊急入院して、「多分癌で残り少ないんだろうな」っていうのは俺でもわかった。
それでも、どこかでは違うって、思いたかった。
誰だってそう思うだろう? それが人間なんだよ。
目の前の医者は物凄く真剣な顔で俺に説明をしてくれているのだが、全然話が入ってこない。
そりゃだって、あと残り”1ヵ月”の人生、目の前の医者の話なんか聞いても意味ないじゃん。
「先生、もういいですよ。どうせ延命してもしんどい毎日が待ってるだけだし、お金も1ヵ月ぐらいなら十分遊べるだけの貯金はあるんで」
俺は半分投げやりになりながら、医者の説明を遮った。
これ以上聞いても無駄だろうって思ってしまった。
多分、今鏡で見たら俺の顔は生気がなく映ってるんだろう、ふっ、俺の人生って思えば大したことなかったな。
勉強もそこそこできたし、運動だってできないわけじゃない。
恋愛も人並みにしてきたし、仕事も別に不満もない。
でも……でも……満足をしたこともなかった。
勉強だって優秀とは言えなかったし、運動も特別できるってわけでもない、恋愛だって今までも1人しか彼女はできたことない。
仕事も何かを任されたり責任のある仕事をしたことなんて一度もない。
まぁ、簡単に言えば、”どこにでもいる普通の男”だ。
もう、残りの人生はお金を使い切ってパッと死のうかな……――
――「〇〇さん、【選択死】ってご存じですか?」
適当に受け答えする俺を見て、医者がかけている眼鏡を指で押さえながら話し始めた。
俺は、一瞬何のことかわからなかった。
「選択死? 何ですかそれ」
俺は医者から、選択死について説明を聞いた。
どうやら、最近お金を支払えば自分の死を選べるらしい。まだ世界的には認められていないが、富裕層では結構流行っているんだとか……
死を選ぶってなんだよ、【安楽死】だけじゃないってことか? 聞けば聞くほど、死に方が豊富なことに気づく。
まず、一番安いのは【絞殺死】、高い所にロープが吊るされており、そこに首を掛けて、足元の板を外す。ロープは勝手に首を締め上げ、次第に意識を失いながら絶命する。
まぁ、もし選ぶとしてもこれは嫌かな? もがき苦しみながら死ぬのは、末期がんで死ぬより怖い……
次に安いのは【刺殺死】、無数の棘が地面から伸びていて、そこに飛び降りて串刺しをされる……いや、こっちの方が嫌だわ。
選択死って苦痛を与える死に方しかないな。
他には、溺死や銃殺、殴打や放火などどれも苦痛を伴うものばかり、しかもどれも50万以上もする。
ちなみに安楽死は150万もする。
とうとう人間は”死”すらもビジネスに変えてきたか。
人間って愚かな生き物になったな、本当に……
だがそれ以上に死を選択できることに興味がわいてきた。
「先生、ちょっと考えてもいいですか?」
「えぇ、ゆっくり考えてください、人生をいつ終わらせるか、死を選ぶのは貴方にしかできないのですから」
そういって、医者は目の前に広げた俺の資料を整えてファイルにしまった。
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残りの人生は1ヵ月、この残された時間の中で俺は一体何ができて、何をしたいのか。
そう考えていると、また医者の言葉を思い出した。
(人生をいつ終わらせるか、死を選ぶのは貴方にしかできないのですから)
そうだ、俺の人生はいつ終わらせるのも、どう死ぬのも自由なんだ。
残された時間と資金を使って、俺は――
――俺は、まだ死んでやらん……
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