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温泉旅行と里帰り
機織りしようぜ
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次の日は、機織り体験を申し込んであった。琉冬の特技を俺も体験したくてね。
するとなんの因果か、彼らも同じ体験教室に来ていた。
「ふっ、これも何かの縁。鶴の本分見せてやりましょう!」
つっても、体験なのでミニ織機だし、作るのコースターだけどな。
琉冬は鬼気迫る勢いでコースターを織った。あまりに手早くて、俺が説明を聞いてようやく縦糸を張り終えたときには、もう作り終えていた。
「ホント早いね!」
「あ、すみません。ついムキになりました」
申し訳なさそうに謝ったあと、琉冬はハッとあたりを見回した。
「あー、琉冬、あの人たちならもう帰ったよ」
「え!?」
「なんか、面倒くさそうとか言って」
「何しに来たんですか!?」
「それな」
琉冬がまた凹んでしまった。
「どうする琉冬、俺のができるまで、もう一個くらい作ってる?」
「いえ、桂聖が間違えないか見張ってます。ほら、さっそく一本飛ばしましたよ」
「え、マジ?」
琉冬は機織りに厳しかった。おかげで俺でもそこそこ見られるものができた。感慨深く眺めていると琉冬が言った。
「桂聖、作ったの交換しませんか? 大事に取っておきます」
「え? 使おうよ」
「桂聖、お茶こぼすでしょう?」
「こぼすけど!」
でもせっかくだから使いたい。
声に出したわけじゃないけれど、表情で察したらしい。
琉冬は「仕方ないですね」と笑った。言葉とは裏腹にすごく嬉しそうだ。
「だけど、帰るまで預かっておきます。桂聖なくしそうだから」
俺は黙って琉冬の手に出来上がったばかりのコースターを乗せた。
機織り体験の次は、湿原を見に行った。
感想は一言。
「寒いっ!」
まあ初冬だからね。草も枯れてるし、紅葉も済んでていかにも寒々しい。木道が整備されているけど、あまりの寒さに断念してしまう人もいるようだ。
「やめときましょうか」
琉冬のほうは平気そうだ。さすが鶴。
「いや、こんなこともあろうかと、俺はアレを持ってきてる!」
ここで効果音を鳴らしたいところだ。バッグの中から取り出したのは、琉冬が織ってくれたストールである。
ぐるぐる首元に巻くとあったかい。もはや愛用の品だ。
ふと見ると、琉冬が笑いを堪えている。
「桂聖、似合いませんね」
「いつ見ても言うね! いつになったら似合うんだよ」
「うーん? おじいちゃんになったら?」
「先は長いね。大事に使うよ」
「……はい」
笑いすぎだろ琉冬。口に出しかけた文句を俺は引っ込めた。琉冬がするっと俺の手を握ったからだ。なんだよ、照れ隠しか。
俺たちはしばし、静かに木道を歩いた。
広いけど、まあ、湿地だねって感じの風景も琉冬と歩けばなんだか楽しい。
そのとき、前方にはしゃいでいるカップルを発見した。元気だなと目を向けて、俺は思わず脳内で「げっ」とつぶやいた。脳内にとどめたの偉い。せっかく琉冬が元気になったっていうのに、またあのあやかしカップルだったのだ。
「あ、鶴だ!」
中学生くらいの男の子がこちらを指さす。
バレたかと思ったら、本当に鶴だ。俺たちの後方からバサバサ飛んで行った。
「……今のはカウントに」
「含まれませんね」
虚無って感じの顔で言われてしまった。
そして琉冬は、大きなため息をついた。
「もういいです、桂聖。里帰りはまた今度にします」
「え!? でも」
「いいんです。だって、せっかくの旅行ですよ。こんなことに気を取られていたらもったいないです。楽しみましょう」
琉冬はすっかり切り替えたみたいだった。
「と言ってもあとはもう、帰るだけだけどね」
「帰り道だって楽しいです。桂聖が居眠り運転しないように見張ってます」
「ははっ。それは本当に頼むよ」
ところが、旅程がほぼほぼかぶってしまったらしい。帰りの高速道路のパーキングエリアでまで彼らを見かけたもんだから、さすがにあきれて俺たちは力なく笑い合った。
「こんなことある?」
「あの人たちも、福引当てたんですかね」
暖かいものを食べたかったがしかたない。隣接しているコンビニの弁当で済ませるかと踵を返しかけたところ、いつのまにかあやかしカップルのイケメンのほうが通路に立ちふさがっていた。
「昨日から、僕たちの周りをうろついていますよね。いったいなんのつもりですか!」
俺と琉冬は顔を見合わせ、俺のほうから説明した。
「いや、信じてもらえないかもしれないけど、偶然なんだって」
「あなた方が普通の人間なら、その言い分も信じられたんですけどね」
イケメン君は、まっすぐ琉冬を睨んだ。
俺も琉冬を見た。
「……え? てことはこっちがあやかしなの? 向こうの中学生じゃなくて」
「それ、ハニーに言わないでくださいね。気にしてるんで。あれで僕より年上です。……戸籍の上では」
「戸籍? え、あやかしって戸籍取れるの?」
気になるワードが出てきたけど、そこで、中学生……ではないらしいのでとりあえずハニー君とでも呼んでおこう。ハニー君がやってきた。
「おーいなにやってんだよ」
「あ、ハニー。席を取っててくださいって言ったでしょう」
「取っとくほどの混雑じゃないって。あれ? もしかして同じホテルに泊まってた人? よく会うなあ。こんにちは」
人懐こい笑顔で俺たちに挨拶をくれたあと、イケメン君をちょっと睨む。
「なんか迷惑かけてたわけじゃないだろうな!」
力関係がわかっちゃうね。
「あー、違う違う。これも縁だ。説明するから一緒にご飯食べない?」
サービスエリアのレストランを指さすと、あやかし君と琉冬は渋々頷いた。
ハニー君だけがきょとんとして、一拍遅れて「あ、はい」と頷いた。
するとなんの因果か、彼らも同じ体験教室に来ていた。
「ふっ、これも何かの縁。鶴の本分見せてやりましょう!」
つっても、体験なのでミニ織機だし、作るのコースターだけどな。
琉冬は鬼気迫る勢いでコースターを織った。あまりに手早くて、俺が説明を聞いてようやく縦糸を張り終えたときには、もう作り終えていた。
「ホント早いね!」
「あ、すみません。ついムキになりました」
申し訳なさそうに謝ったあと、琉冬はハッとあたりを見回した。
「あー、琉冬、あの人たちならもう帰ったよ」
「え!?」
「なんか、面倒くさそうとか言って」
「何しに来たんですか!?」
「それな」
琉冬がまた凹んでしまった。
「どうする琉冬、俺のができるまで、もう一個くらい作ってる?」
「いえ、桂聖が間違えないか見張ってます。ほら、さっそく一本飛ばしましたよ」
「え、マジ?」
琉冬は機織りに厳しかった。おかげで俺でもそこそこ見られるものができた。感慨深く眺めていると琉冬が言った。
「桂聖、作ったの交換しませんか? 大事に取っておきます」
「え? 使おうよ」
「桂聖、お茶こぼすでしょう?」
「こぼすけど!」
でもせっかくだから使いたい。
声に出したわけじゃないけれど、表情で察したらしい。
琉冬は「仕方ないですね」と笑った。言葉とは裏腹にすごく嬉しそうだ。
「だけど、帰るまで預かっておきます。桂聖なくしそうだから」
俺は黙って琉冬の手に出来上がったばかりのコースターを乗せた。
機織り体験の次は、湿原を見に行った。
感想は一言。
「寒いっ!」
まあ初冬だからね。草も枯れてるし、紅葉も済んでていかにも寒々しい。木道が整備されているけど、あまりの寒さに断念してしまう人もいるようだ。
「やめときましょうか」
琉冬のほうは平気そうだ。さすが鶴。
「いや、こんなこともあろうかと、俺はアレを持ってきてる!」
ここで効果音を鳴らしたいところだ。バッグの中から取り出したのは、琉冬が織ってくれたストールである。
ぐるぐる首元に巻くとあったかい。もはや愛用の品だ。
ふと見ると、琉冬が笑いを堪えている。
「桂聖、似合いませんね」
「いつ見ても言うね! いつになったら似合うんだよ」
「うーん? おじいちゃんになったら?」
「先は長いね。大事に使うよ」
「……はい」
笑いすぎだろ琉冬。口に出しかけた文句を俺は引っ込めた。琉冬がするっと俺の手を握ったからだ。なんだよ、照れ隠しか。
俺たちはしばし、静かに木道を歩いた。
広いけど、まあ、湿地だねって感じの風景も琉冬と歩けばなんだか楽しい。
そのとき、前方にはしゃいでいるカップルを発見した。元気だなと目を向けて、俺は思わず脳内で「げっ」とつぶやいた。脳内にとどめたの偉い。せっかく琉冬が元気になったっていうのに、またあのあやかしカップルだったのだ。
「あ、鶴だ!」
中学生くらいの男の子がこちらを指さす。
バレたかと思ったら、本当に鶴だ。俺たちの後方からバサバサ飛んで行った。
「……今のはカウントに」
「含まれませんね」
虚無って感じの顔で言われてしまった。
そして琉冬は、大きなため息をついた。
「もういいです、桂聖。里帰りはまた今度にします」
「え!? でも」
「いいんです。だって、せっかくの旅行ですよ。こんなことに気を取られていたらもったいないです。楽しみましょう」
琉冬はすっかり切り替えたみたいだった。
「と言ってもあとはもう、帰るだけだけどね」
「帰り道だって楽しいです。桂聖が居眠り運転しないように見張ってます」
「ははっ。それは本当に頼むよ」
ところが、旅程がほぼほぼかぶってしまったらしい。帰りの高速道路のパーキングエリアでまで彼らを見かけたもんだから、さすがにあきれて俺たちは力なく笑い合った。
「こんなことある?」
「あの人たちも、福引当てたんですかね」
暖かいものを食べたかったがしかたない。隣接しているコンビニの弁当で済ませるかと踵を返しかけたところ、いつのまにかあやかしカップルのイケメンのほうが通路に立ちふさがっていた。
「昨日から、僕たちの周りをうろついていますよね。いったいなんのつもりですか!」
俺と琉冬は顔を見合わせ、俺のほうから説明した。
「いや、信じてもらえないかもしれないけど、偶然なんだって」
「あなた方が普通の人間なら、その言い分も信じられたんですけどね」
イケメン君は、まっすぐ琉冬を睨んだ。
俺も琉冬を見た。
「……え? てことはこっちがあやかしなの? 向こうの中学生じゃなくて」
「それ、ハニーに言わないでくださいね。気にしてるんで。あれで僕より年上です。……戸籍の上では」
「戸籍? え、あやかしって戸籍取れるの?」
気になるワードが出てきたけど、そこで、中学生……ではないらしいのでとりあえずハニー君とでも呼んでおこう。ハニー君がやってきた。
「おーいなにやってんだよ」
「あ、ハニー。席を取っててくださいって言ったでしょう」
「取っとくほどの混雑じゃないって。あれ? もしかして同じホテルに泊まってた人? よく会うなあ。こんにちは」
人懐こい笑顔で俺たちに挨拶をくれたあと、イケメン君をちょっと睨む。
「なんか迷惑かけてたわけじゃないだろうな!」
力関係がわかっちゃうね。
「あー、違う違う。これも縁だ。説明するから一緒にご飯食べない?」
サービスエリアのレストランを指さすと、あやかし君と琉冬は渋々頷いた。
ハニー君だけがきょとんとして、一拍遅れて「あ、はい」と頷いた。
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