積極的にバラすタイプの鶴

のは

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温泉旅行と里帰り

まさかの苦戦

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 のれんをくぐると、脱衣場はしんとしていた。先に向かった二人連れはもう浴室に行ったらしい。
 俺と琉冬は服を脱ぎながら、堂々と悪だくみをした。

「実は最近、姉夫婦が子を産んだそうなんです」
「うわ、甥っ子? 姪っ子? そりゃ顔見たいよな」
「俺は、むしろ桂聖を自慢したい」

 髪をほどいて、タオル一枚手にしただけの素っ裸の琉冬が真顔で言うので、俺は思わず聞き返した。

「なんか自慢するとこあるかな?」
「俺にとっては」
「そ、そっか」
 てか、タイミング!
 ぱんつを下ろしかけのまぬけな格好のときにそういうこと言わないで欲しい。そして琉冬は脱ぐの早いよな。

「えーと、じゃあ鶴になってみせるの?」
 慌てたせいで、足を抜くとき少々よろめいた。もちろん琉冬がすかさず手を貸してくれたけど。

「直接見せるのはあからさまするので」
「俺には見せたよね」
「証拠を見せろと言われたので明かしたまでです。今回はそういうわけにはいかないので、とりあえず鶴の甲斐甲斐しさを見せつけてやりましょう」

 琉冬はそう言って自信ありげに口角をあげた。
「桂聖、髪を洗ってあげますよ」
 すでに見せつけられてるよ、俺が。

 ところがガラガラと浴室の扉を開けると、俺たちの計画がすでにとん挫していることに気が付く。

「大変だ、琉冬。先を越されてる」
 さっきの中学生くらいの子が連れ合いに髪を洗ってもらってる。洗ってるほうはものすごく楽しそうだ。

「……まあ、鶴じゃなくても世話好きなヤツはいるよな。どうする? なんなら俺が琉冬の髪を洗う?」
「桂聖の洗い方は雑だから嫌です」
「辛辣ぅ! でも嫌いじゃない」
 琉冬は「はっ」と声を立てて笑い、そうしてしまったことを恥じるように自らの口をふさいだ。

 結局髪は普通に洗うことにした。なんかこう、待ってるあいだ手持ちぶさただもんな。
 内風呂で軽く温まってから露天風呂に向かう。
 露天は岩風呂になっていて、奥のほうは狭いけれど庭がある。
 琉冬はあたりを見回し、なにやら決意した。

「ここはシルエットを見せつけましょう。桂聖は先に浸かっていて」
 言われるままに湯船に入ると、琉冬は岩に乗った。次の瞬間、琉冬は見事な鶴に変身していた。
 そうしてバサッと翼を広げた。
「でかっ! やっぱ改めてみるとでかっ!」

 鶴に変身した琉冬が広げた翼はたぶん、三メートルまではないけど、二メートル以上ある。

 バサッと琉冬がはばたくと、けっこうな風圧がくる。
「うぶぶっ!」
 変な声出た!
 もう一度来るかと身構えていると、その前にガラガラと浴室の扉が開いて中学生くらいの男の子が顔を出した。
 ドキッとしたが、琉冬はしれっと人型に戻って俺のとなりで温泉に浸かっていた。早業だ。

「いま、ハクチョウいなかった!?」
「え!?」

 俺はバッと琉冬を振り返る。
「……は、ハク……?」
 酸欠みたいにつぶやいて、今にも白目をむきそうだ。
 ヤバい、こんな琉冬見たことない。

「琉冬、しっかりしろ! 気を確かに」
「大丈夫、このくらいどうってこと、――うぐぅ!」
「琉冬―っ!」

「あの、大丈夫ですか? 人を呼びますか」
「ダメですよ、ハニー。邪魔しちゃ悪いです」
 なんて言いながらむこうは引っ込んでいった。
 見ちゃいけません、みたいに言うなよ。

「琉冬、大丈夫だよ。俺はすぐ鶴だってわかったよ。きっと、シルエットだからだよ! それかほら、あの子はきっと鳥の名前に詳しくないんだよ!」
 部屋に戻って、俺は必死に琉冬を慰めた。
「ありがとう、桂聖。俺は大丈夫です。カモの仲間と間違えられるなんて屈辱ですけど」
 いや根に持ってる!
「コウノトリやサギと間違えられるんならともかく!」
 すごく根に持ってる!
 ごめんな、琉冬。俺もシルエットだけだと自信ないよ。ハクチョウがカモの仲間だってことも知らんかったよ。

「と、とにかく、今日はもう寝よう? な?」

 琉冬をベッドに追い立てて、自分も一緒に潜り込む。ホテルのシングルベッドじゃすげえ狭いけど、抱きしめているうちに琉冬もすこし落ち着いてきたようだ。

 いや、まだかな。変に力を入れているせいで口元がひん曲がっている。俺はそこを指でつついてキスをする。彼が根負けして笑みをこぼすまで続けてやった。
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