ダンシング・オメガバース

のは

文字の大きさ
上 下
38 / 42
文筆業とか言ってみたり

12 情報求む!

しおりを挟む

✽+†+✽――✽+†+✽――✽+†+✽――

 前回、僕は異世界の発酵食品について書いた。
 その後、ヤマトリーノという国に似たような食品あるらしいと耳にして、さっそく『味噌』を注文してみることにした。
 はたしてヤマトリーノの『味噌』は、僕の知っている『味噌』なのか。
 待ちに待った荷物が届いて、ワクワクしながら箱を開けたものの、なにやら様子が変だ。藁にくるまれている。どう見ても『納豆』だったのだ!
 大豆を使った発酵食品というところまではあってるんだけど、ちょっと惜しい。とはいえ『納豆』だって、僕の故郷の食べ物だ。懐かしみながら美味しくいただいた。
 だが、つがいにとっては未知との遭遇だった。
 『納豆』は粘り気がある食品で、匂いも独特だ。実のところ元居た世界でも、苦手とする人が結構いた。
 つがいにも、本当に食べ物なのか? 腐っているんじゃないかって、ずいぶん聞かれた。
 友人にもお裾分けしたのだが、彼は結構気に入ったようでぺろりと平らげたから、この国で全く受け入れられないということでもなさそうだ。勇気のある人は試してみるといいかもしれない。
 ところで、『味噌』はまた買い直せばいいと気軽に考えていたのだが、なんと『納豆』を買った店が閉店してしまったらしい。
 なるほど、閉店前でバタバタしていたから、『味噌』と『納豆』を間違えたのかな。
 それにしても、じゃあいったい、どこで『味噌』を買えばいいのか。
 
 ご存じの方いませんか?
 情報求む!

✽+†+✽――✽+†+✽――✽+†+✽――


 エッセイが載ったのが、十月のこと。
 あのときのミラロゥの動揺っぷりはちょっと見物だったけど、それは僕の心の中だけに秘めとくとして。
 問題は、納豆を食べたあと三日くらいキスを拒まれるってことなんだ。納豆は水溶性なんだけど、きっとそういうことじゃないんだろうな。
 そんなわけで我が家では封印となった納豆だけど、残りはチェルト君が引き取ってくれた。
 向こうの家では結構気に入ったようで何よりだ。

 んで、味噌のことだ。
 エッセイにも書いたように、探そうにもどうにも手詰まりだった。
 といっても、実のところ僕はあまり気にしていない。
 本気で探して欲しいというよりは、数行稼ぐためのネタができたって気分だった。ま、縁があればそのうち食べられるだろうって。
 むしろチェルト君の方が、味噌への興味をますます高めたみたいだった。好奇心がものすごく強いよね。

 ある、カラッと晴れた秋の日のことだ。
 周りの人々が厚着になっていくのをしり目に、僕はTシャツにパーカーを羽織っただけの格好で道を歩いていた。
 目指すはお気に入りのジェラート屋だ。
 寂しい限りなのだが、今日で夏季営業を終え、冬季休業に入ってしまうのだ。

「ああ、ルノン君、また来たんだね」
 オーナーは驚いた様子だった。というのも僕はついこのあいだ、ここのジェラートを大量購入したばかりだったのだ。
「このあいだのはストック用です。今日は普通に食べに来ました!」
「ははっ、気に入ってもらえて嬉しいよ」
 オーナーは明るい笑い声を立てたあと、「そういえば」と面白がるような顔つきになった。
「ルノン君、なんか変わった発酵食品探してるんだって?」
「……んえ? ああ、はい」

 どれを食べようか、真剣に悩んでいたところだったので気の抜けた返事になってしまった。
 「ルノン君の探し物と同じものかどうかはわからないけど、ちょっと聞いたことがあるんだよね」
 そ、それは!

「……食べてからでいいですか?」


  ◇

 週末、僕はミラロゥとともにフェリーの甲板から、島を眺めていた。
「見えてきた!」
 僕は興奮して叫んだ。
「……そうだな」

 応えるミラロゥのテンションの低さがヤバい。
 ほんと、寒さに弱いんだな。でもミラロゥだけじゃない。他の乗客も景色を楽しむ余裕がないらしく、甲板に出ても秒で戻ってしまうのだ。

 僕は笑いをかみ殺し、自分の首からマフラーを外して素早くミラロゥの首に巻き付けた。
「これじゃ君が寒いだろう」
「僕は平気、暑いくらい」
 本当なんだけど、心配そうな顔をされると弱い。
 船室に移動して地図を広げることにした。

「このあとは車で移動だな」

 船から降りて車に乗り換えると、ミラロゥは元気を取り戻した。
 彼は知らない道を走るのが好きなのだ。
 
 港町を通り抜け、山道を進むと田んぼが見えてきた。
 すでに収穫は終わっているらしく、田には水が張られている。日本の田舎にも通じる光景に僕の頬も緩んだ。

「この辺りだと思うんだが」
 ミラロゥが車の速度を緩めた。
 しかし、辺りをキョロキョロ見回してもぽつぽつと民家があるばかりで、店らしき建物が見当たらない。
「あ、前方に村人発見! ミラロゥ、あの家の前で止めて!」
 停車と同時に、僕はドアを開け飛び出した。家の外で作業をしていたおじいさんを捕まえて、大豆原料の発酵食品のことを尋ねる。

「突然すみません」
 あとから降りてきたミラロゥが、僕のフォローに回る。
「彼は異世界からやって来たんです。故郷の味を恋しがっていまして」
 ミラロゥの説明に、僕も頷いておく。
 正確には、僕よりチェルト君の好奇心が爆発してるんだけど。

 おじいさんが、おばあさんを呼び、おばあさんがホーローの容器に詰められた味噌を見せてくれた。
 そう、まさしく味噌だった。香りを嗅いだら一気になつかしさがこみ上げて、それまで余裕だったのが嘘みたいに、味噌汁が食べたくなった。

「これ、どこで買えますか!」
 勢い込んで聞いてみると、おじいさんたちはお互い顔を見合わせた。
 どうやら、自分たちで食べる分だけ作っているそうなのだ。
 じゃあ、食べられないのかな。僕は肩を落とした。

「ここじゃなくて、港に店があっただろう?」
 あ、とまどってる理由、そっちか。
 希望が見えて来たぞ!







しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

【完結】トルーマン男爵家の四兄弟

谷絵 ちぐり
BL
コラソン王国屈指の貧乏男爵家四兄弟のお話。 全四話+後日談 登場人物全てハッピーエンド保証。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

婚約者に会いに行ったらば

龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。 そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。 ショックでその場を逃げ出したミシェルは―― 何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。 そこには何やら事件も絡んできて? 傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。

わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない

鈴宮(すずみや)
恋愛
 孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。  しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。  その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?

ふしだらオメガ王子の嫁入り

金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか? お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。

学園の俺様と、辺境地の僕

そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ? 【全12話になります。よろしくお願いします。】

今夜のご飯も一緒に食べよう~ある日突然やってきたヒゲの熊男はまさかのスパダリでした~

松本尚生
BL
瞬は失恋して職と住み処を失い、小さなワンルームから弁当屋のバイトに通っている。 ある日瞬が帰ると、「誠~~~!」と背後からヒゲの熊男が襲いかかる。「誠って誰!?」上がりこんだ熊は大量の食材を持っていた。瞬は困り果てながら調理する。瞬が「『誠さん』って恋人?」と尋ねると、彼はふふっと笑って瞬を抱きしめ――。 恋なんてコリゴリの瞬と、正体不明のスパダリ熊男=伸幸のお部屋グルメの顛末。 伸幸の持ちこむ謎の食材と、それらをテキパキとさばいていく瞬のかけ合いもお楽しみください。

処理中です...