ダンシング・オメガバース

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文筆業とか言ってみたり

6 いったいなんで

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 道を行く子供たちが『鳩ぽっぽ』を口ずさんでいるような……。
 気のせいかな、たぶん、気のせいだろう。

 学校帰りらしい子供たちの足取りは軽い。弾けるような笑い声が遠くまで良く響く。
 平和そのものの光景だけど、なにか僕の耳に妙なものが飛び込んでくるのだ。
 よく似た、違う歌かな?
 トゥルトートゥみたいに聞こえるし。

 気にしていないつもりだったけど、僕は知らず足早になっていた。向かう先はジェラート屋だ。赤と白のサンシェードが目に入ってホッした。
 そして、ドアをくぐった瞬間崩れ落ちそうになった。

 例のメロディーを、オーナーがご機嫌に口ずさんでいたのだ。
 なんで、いったいなんで!?
 叫んだつもりで声になっていなかった。
 人を指さしちゃいけないんだけど、ほかにどうしようもなかった。

「ああ、ルノン君、いらっしゃい」
 オーナーは僕の気も知らず、いつものように気さくな笑顔を浮かべた。僕の方はもう、白目をむきそうだ。

「……どうしたの?」
「い、いまの、今のなんですか!?」
「いまの?」
 ええい、どうにも話が進まない。
 いま歌っていたでしょうと、さわりの部分を歌ってみせると、彼はキラキラと目を輝かせた。

「本物だぁ! この歌、なんか耳に残るよね。うちの子の通ってる学校でも大人気みたいで」
「学校!?」
 詳しく聞きたかったのだが、お客さんが入って来た。
 あまり迷惑をかけて出禁にでもなったら困る。諦めてプラムのジェラートを注文して店を出た。
 ジェラートは甘酸っぱくておいしい、おいしいけど、いつものように楽しめない。

 僕は家に帰るとすぐ母校に問い合わせてみた。すると、謎はあっさり解明された。
 ラジオがダメと言われた研究者は、僕の歌に対訳を付けてこの街の各学校に送ったらしい。
 で、子供たちは馴染みのない日本語より、こちらの言葉で覚えたようだ。

「はあ、異世界の歌を、教材として……」
 つまり、街中の子供たちがあの歌を聞いちゃったってことか。そりゃ、童謡なんだから、用途としてはあってる。
 いや、あってるかな!?
 この世界の子供たちは、たぶん、生まれつきリズム感が抜群だ。そんな彼らに聞かせられる歌じゃ、ないんじゃないかな。

「ルノン君? 大丈夫?」
 電話口で黙り込んでしまったことに気付いて、僕はお礼を言って電話を切った。
 ここで教師を責めてもしかたない。
 学術研究か。そっか~……。
 いや、だけど、だから! 僕にちゃんと了解を取ってってことなんだけど!?

 内心の悲鳴とは裏腹に『鳩ぽっぽ』は子供たちの間で空前の大ブームとなってしまったのだった。
 しかもそれで終わりじゃなかった。事態はもっとおかしな方向へ進んでいった。
 ある日、珍しく担当さんから電話がかかって来た。

「フォノムラ先生に、紹介したい人がいるんですわ」
「嫌ですけど?」
「いやいやそう言わず、まずは話を聞いてくださいよ」
「僕、前回紹介された人に、散々な目に合わされたんですよ!」

 何言ってんだ、このおっさん。脳内で担当さんを罵った。
「今回は違いますって。ちゃんとした方々ですから」
「方々?」

 あ、しまった。詳細を聞くんじゃなかった。断るとこだったんだ。
 でも向こうは、得たりとばかりにしゃべり始めた。
「それが驚き、ダンス大会の実行委員会の方々なんですわ。ダンス大会がこの街の人間にとってどれだけ大事かフォノムラ先生もご存じでしょう? ひとまず話を聞くだけでも」
「嫌ですけど!?」

 学校の友人に誘われ行ったダンス大会で、無理やり優勝商品にされたり、みんなの前で踊らされたりしたことを僕は忘れてない。忘れられるもんか。

「いやいや、会っておいた方がいいと思うんですわ。あとからまた、勝手に使われたとか文句を言うよりは」
 勝手に使われたという言葉に、僕は危険を感じた。

「それ、まさか、『鳩ぽっぽ』のことじゃないですよね」
 おそるおそる尋ねた僕に対し、向こうはあくまで軽い調子で答えた。
「そうですそうです。そんな感じのことを言ってましたわ」

 アレをダンス大会で使われる?
 冗談じゃないぞ!
「会います。だけど、つがいと一緒でもいいですか」
「それはもちろん」

 ダンス大会の実行委員会。きっと、恐ろしくアクティブな人に違いない。そんで結構強引な男性とみた。
 そんな人のところへ一人で行くほど、僕はもううかつではないのだ。
 ミラロゥも一緒に行くと言ってくれた。
 そして三日後、住まいから離れたところにあるカフェで、彼らと待ち合わせることになった。
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