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オートモード
13 未来の話
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ミラロゥはまっすぐ車を家に向かわせ、僕を再び寝室に押し込んだ。
そしてやけに真剣なまなざしで、ベッドの中の僕を覗き込む。
「ルノン、君が人を惹きつけてやまない性質だということは、よく理解している。知ったうえで私は君をつがいに望んだんだ」
「先生?」
「うるさいことを言うべきではないと、自分でもわかっている。それでも、私が面白く思っていないことを知っておいてほしいんだ」
「知ってるよ。先生、顔に出てる」
笑いながらも、もしかしたらわざと出しているのかもしれないなと考えた。深く考え込むまえに、ミラロゥの手が僕の頬に触れる。
「では、次に私がどうしたいのかも、わかるね?」
ミラロゥが僕の瞳を覗き込む。口角がわずかに上がっている。それでいてまなざしは熱を帯びていた。言われていたことの意味を考えて、期待に顔が熱くなった。
「匂いをつけたい?」
「正解。体調が戻ったら覚悟しておくんだな」
「僕は今からでも」
ミラロゥは眉をちょっとあげて、僕の額を軽く小突いた。
これはつまり、ダメってこと。残念だ。
ミラロゥはそのまま部屋を出て行ってしまったので、僕は諦めてスマホを取り出した。
気のせいだろうか、スマホもいつもよりも熱を持ってる気がする。
ふと思い立って、僕はアプリフォルダを開いた。ほとんど使わないアプリをまとめて突っ込んである。二度ほど目を走らせて、見覚えのないアイコンがあることに気がついた。アプリ名はAUTOとなっている。
「うわあ、なんかある」
自動舞踏制御とは、僕が勝手につけた名前だが、どうやら騒ぎの源泉を発見しちゃったみたいだ。
アイコンの上にそろりと指を伸ばす。
もったいないかな。チラリと邪心がよぎる。もしも、うまく制御できるなら……。
けど、アイコンがとっても不穏なんだよね。赤い、ハイヒール。
僕は信心深くもないし、足を切ってくれる木こりの知り合いもいない。となれば死ぬまで踊り続けるしかない。
僕はそっとアイコンに指を押し付け操作した。
アンインストール!
『先生! 僕、やってやったよ!』
夕食の準備をしていたミラロゥが、不思議そうに僕を見つめた。
僕はスマホに入っていたメロディを適当に流し、念じてみる。さらに声にも出してみる。
『自動舞踏制御オン!』
どうやら、踊り出さない!
『ほらね?』
「ルノン、なんて?」
『だからね、諸悪の根源が見つかったんだ。それで、僕……』
はしゃいでまくしたてようとしたが、どうにもミラロゥの様子が変だ。
「ルノン、それは……。ニホンゴか?」
『え?』
日本語かと言われれば日本語だ。今まで普通に話していて、普通に通じていた。
『え!? まさか!』
スマホを取り出して、もう一度アプリを確認する。
自動翻訳アプリらしきものは見当たらない。まさか、ダンスと翻訳、一緒のアプリだった? んな乱暴な……。
「ルノン、落ち着いて。いちどこちらの言葉で話してくれないか」
ミラロゥにそう言われ我に返る。
「そうだ。僕、話せるんだ」
ぜんぜん困らないとわかったら、なんだかおかしくなって僕は声を立てて笑った。
「先生、終わったんだ。もう僕の体が、乗っ取られることはない!」
「確かなのか?」
「たぶん!」
「たぶん……」
ミラロゥは、かなりとまどっているようだ。そりゃそうか。
「それから、翻訳もしてくれなくなったみたい。だから、日本語でしゃべると先生に通じないんだ」
「それは」
「うん。みらろと、練習しておいてよかったよね! もっと勉強して、もっとうまくしゃべれるようになるよ」
ミラロゥはちょっと苦笑したみたいだった。
「君はかなりうまくなったよ。私の名前以外はね」
「みらろ」
「ミラロゥ」
やっぱ言えてないみたい。だとしたら細かい発音とかまだ下手なんだろう。
「みらろぅ?」
「うん?」
「これからも、教えてね」
「もちろん」
答えるミラロゥはものすごく嬉しそうだった。僕もますます浮かれてしまう。
「どうせならダンスも習おうかな。人前で踊るのだけは、もう勘弁って感じだけど」
「そうだな。あんな可愛らしいダンスを人には見せたくない」
だからそれ、先生だけだよ。
だけど、ミラロゥがキスをくれたから、言い返すのは止めておこう。
◇
僕はそれから二年間学校に通い、ようやく高校卒業的な資格をゲットした。
どこからかそれを知ったビィくんが、久しぶりに会おうと電話をくれた。
待ち合わせはやっぱり学校の前だった。
「ルノン!」
ゆったりとした歩調で近づいてくるビィくんを見て、僕はかなり驚いた。
「うわあ、ビィくん? 見違えたねえ」
頭一つ分大きくなってるし、肩幅も広くなった。いま十四歳だと思ったけど、ずいぶん大人っぽく見える。というか、美少年に育ったな!
「ははっ。ルノンは相変わらずだな」
ん? どういう意味かな。
「そんで、相変わらず大人げないな、あの人は」
「ん?」
内心で、ではなく実際に首を傾げることになった。
確かに、ビィくんと会ってくると言ったら、ミラロゥにフェロモンをたっぷりまぶされた。だけど、ビィくんにそれが感じ取れるわけがないし。
「ほんと、こんなんでよくほかのアルファに会わせる気になるよなあ。ルノンのつがいは寛大だよ」
「ほかのアルファって?」
「鈍いな、ルノン。だから俺、転校したんだろ?」
転校の理由は、そう言えば聞いていなかった。そうだこの学校、オメガとベータしか通えないって最初に説明されたっけ。
「え? ええ!? じゃあビィくんアルファなの!?」
「ああ、っておい、嗅ぐなよ!」
「……ダメだ。先生の匂いしかしない」
「そりゃそうだろ」
僕の頭を押し戻すようにして距離を取り、ビィくんは呆れた顔をした。
「気をつけろよ、ルノン。俺はアルファなんだぞ。自分がオメガだって忘れている? 俺がその気になればルノンなんて、どうとでもできちゃうんだからな」
「……え? それは、僕が犯罪者になっちゃうヤツ……」
「うん。だからまだダメ」
「まだって?」
ビィくんは答えず微笑んで、代わりに、海を見に行こうと僕を誘った。
海へ向かう道すがら、僕らはのんびりと積もる話をした。
ビィくんは例のガラが悪そうで気の良いにーちゃんたちと、まだ連絡を取り合っていて、たまに一緒に踊ったりもするらしい。
学校生活もそこそこ楽しんでいるそうだ。
アルファの学校だから、僕らの学んだことよりもはるかに難しいハズだ。相変わらず彼はがんばっているようだった。
堤防までやってきた。
天気のいい日で、海面がキラキラと輝いていて、ちょっと目に痛いくらいだった。
「俺さ、十八になったらダンスバトルに出るよ。そんで決勝戦の招待券をルノンにプレゼントする! そしたらルノン、来てくれる?」
「すごいね。楽しみにしとく」
「じゃあ、勝負はそのときに改めてって、ミラロゥさんに伝えてよ」
「ミラロゥはダンスバトルには出ないと思うけど?」
ビィくんは海に向かって馬鹿笑いをして「ホント鈍い」とつぶやいた。
なんだかよくわからないけど、相変わらず生意気だってことはわかった。
ビィくんと別れて家に帰ると、ミラロゥは二階のベランダにいた。珍しく昼間から一人でワインを開けている。
「案外早かったな」
「そう? ビィくん未成年だしね。連れ回すわけにはいかないよ。――それ、僕も飲もうかな」
「グラスを持っておいで」
「ううん。それでいい」
ミラロゥのグラスから一口もらい、テーブルにもどすと、すぐミラロゥに抱き上げられた。体をねじると、彼の顔がすぐ近くにある。
キスがワインの味だ。
味わっていたら、急にミラロゥが冷めた声を出した。
「それで、ルノン。浮気ごっこは楽しめたか?」
「浮気って。友達と出かけただけ! っていうか先生、ビィくんがアルファだって知ってた!?」
「もちろん、気づいていた」
「教えてよ! 先生の匂いつけ、バレバレだったよ」
文句をつけているのに、先生は勝ち誇ったように口の端をあげた。
「先生!」
ムッとしたので、膝の上から降りようと思ったのだけど、抱え直されてしまった。
「それで、ビィ少年の反応はどうだった」
「うーん。先生のこと寛大だって言ってたよ。それから、十八歳になったらダンスバトルに挑戦するらしい。決勝戦まで進んで、僕に招待券をプレゼントしてくれるってさ」
「……行くのか」
「そりゃあね。その夢を叶えたらすごいことだよね」
「まあな」
「そして先生は、ビィくんになにやら勝負を挑まれるらしい」
ミラロゥはすっと目を細めた。冷気が漂う細め方だ。
「嬉しいのか、ルノン」
「なにが?」
「君を奪いに来る男が」
ミラロゥがなにに怒っているのかようやく思い至って、僕はやっぱり笑ってしまう。
「子供相手になに言ってるんだよ!」
「自覚があるから十八歳になってからと言ってるんだろ」
まさか、と思う。
でも、思い当たる節がないわけじゃない。何度もニブイって言われたし。
「……十八歳はまだ子供みたいなもんだよ」
なんだか、言い訳みたいになってしまった。
「じゃあ、十年後なら?」
「十代からの十年は長いよ。ほかの恋をするんじゃない?」
「どうかな。アルファはしつこい男が多いからな」
ミラロゥが実にイヤそうな顔をするので、笑いのツボにハマってしまった。
笑いすぎて出てきた涙をぬぐって、そっと先生の頬にキスをする。
「十年後。先生がまだ僕に嫉妬してくれるなら、それってすっごく幸せだね」
額にもキス。微笑んでさらに反対側の頬にもと思ったら、その前にミラロゥに捕まってしまった。
長い長いキスのあと、ミラロゥは言う。
「踊ろうか」
「飲んじゃったのに?」
「このくらい、飲んだうちには入らない。だが、その前にシャワーを浴びようか。浮気の臭いを消してもらわないと」
ミラロゥはやっぱりちょっと根に持っていたので、僕はおとなしくついて行った。
今日もまた、長い夜になりそうだ。
終
そしてやけに真剣なまなざしで、ベッドの中の僕を覗き込む。
「ルノン、君が人を惹きつけてやまない性質だということは、よく理解している。知ったうえで私は君をつがいに望んだんだ」
「先生?」
「うるさいことを言うべきではないと、自分でもわかっている。それでも、私が面白く思っていないことを知っておいてほしいんだ」
「知ってるよ。先生、顔に出てる」
笑いながらも、もしかしたらわざと出しているのかもしれないなと考えた。深く考え込むまえに、ミラロゥの手が僕の頬に触れる。
「では、次に私がどうしたいのかも、わかるね?」
ミラロゥが僕の瞳を覗き込む。口角がわずかに上がっている。それでいてまなざしは熱を帯びていた。言われていたことの意味を考えて、期待に顔が熱くなった。
「匂いをつけたい?」
「正解。体調が戻ったら覚悟しておくんだな」
「僕は今からでも」
ミラロゥは眉をちょっとあげて、僕の額を軽く小突いた。
これはつまり、ダメってこと。残念だ。
ミラロゥはそのまま部屋を出て行ってしまったので、僕は諦めてスマホを取り出した。
気のせいだろうか、スマホもいつもよりも熱を持ってる気がする。
ふと思い立って、僕はアプリフォルダを開いた。ほとんど使わないアプリをまとめて突っ込んである。二度ほど目を走らせて、見覚えのないアイコンがあることに気がついた。アプリ名はAUTOとなっている。
「うわあ、なんかある」
自動舞踏制御とは、僕が勝手につけた名前だが、どうやら騒ぎの源泉を発見しちゃったみたいだ。
アイコンの上にそろりと指を伸ばす。
もったいないかな。チラリと邪心がよぎる。もしも、うまく制御できるなら……。
けど、アイコンがとっても不穏なんだよね。赤い、ハイヒール。
僕は信心深くもないし、足を切ってくれる木こりの知り合いもいない。となれば死ぬまで踊り続けるしかない。
僕はそっとアイコンに指を押し付け操作した。
アンインストール!
『先生! 僕、やってやったよ!』
夕食の準備をしていたミラロゥが、不思議そうに僕を見つめた。
僕はスマホに入っていたメロディを適当に流し、念じてみる。さらに声にも出してみる。
『自動舞踏制御オン!』
どうやら、踊り出さない!
『ほらね?』
「ルノン、なんて?」
『だからね、諸悪の根源が見つかったんだ。それで、僕……』
はしゃいでまくしたてようとしたが、どうにもミラロゥの様子が変だ。
「ルノン、それは……。ニホンゴか?」
『え?』
日本語かと言われれば日本語だ。今まで普通に話していて、普通に通じていた。
『え!? まさか!』
スマホを取り出して、もう一度アプリを確認する。
自動翻訳アプリらしきものは見当たらない。まさか、ダンスと翻訳、一緒のアプリだった? んな乱暴な……。
「ルノン、落ち着いて。いちどこちらの言葉で話してくれないか」
ミラロゥにそう言われ我に返る。
「そうだ。僕、話せるんだ」
ぜんぜん困らないとわかったら、なんだかおかしくなって僕は声を立てて笑った。
「先生、終わったんだ。もう僕の体が、乗っ取られることはない!」
「確かなのか?」
「たぶん!」
「たぶん……」
ミラロゥは、かなりとまどっているようだ。そりゃそうか。
「それから、翻訳もしてくれなくなったみたい。だから、日本語でしゃべると先生に通じないんだ」
「それは」
「うん。みらろと、練習しておいてよかったよね! もっと勉強して、もっとうまくしゃべれるようになるよ」
ミラロゥはちょっと苦笑したみたいだった。
「君はかなりうまくなったよ。私の名前以外はね」
「みらろ」
「ミラロゥ」
やっぱ言えてないみたい。だとしたら細かい発音とかまだ下手なんだろう。
「みらろぅ?」
「うん?」
「これからも、教えてね」
「もちろん」
答えるミラロゥはものすごく嬉しそうだった。僕もますます浮かれてしまう。
「どうせならダンスも習おうかな。人前で踊るのだけは、もう勘弁って感じだけど」
「そうだな。あんな可愛らしいダンスを人には見せたくない」
だからそれ、先生だけだよ。
だけど、ミラロゥがキスをくれたから、言い返すのは止めておこう。
◇
僕はそれから二年間学校に通い、ようやく高校卒業的な資格をゲットした。
どこからかそれを知ったビィくんが、久しぶりに会おうと電話をくれた。
待ち合わせはやっぱり学校の前だった。
「ルノン!」
ゆったりとした歩調で近づいてくるビィくんを見て、僕はかなり驚いた。
「うわあ、ビィくん? 見違えたねえ」
頭一つ分大きくなってるし、肩幅も広くなった。いま十四歳だと思ったけど、ずいぶん大人っぽく見える。というか、美少年に育ったな!
「ははっ。ルノンは相変わらずだな」
ん? どういう意味かな。
「そんで、相変わらず大人げないな、あの人は」
「ん?」
内心で、ではなく実際に首を傾げることになった。
確かに、ビィくんと会ってくると言ったら、ミラロゥにフェロモンをたっぷりまぶされた。だけど、ビィくんにそれが感じ取れるわけがないし。
「ほんと、こんなんでよくほかのアルファに会わせる気になるよなあ。ルノンのつがいは寛大だよ」
「ほかのアルファって?」
「鈍いな、ルノン。だから俺、転校したんだろ?」
転校の理由は、そう言えば聞いていなかった。そうだこの学校、オメガとベータしか通えないって最初に説明されたっけ。
「え? ええ!? じゃあビィくんアルファなの!?」
「ああ、っておい、嗅ぐなよ!」
「……ダメだ。先生の匂いしかしない」
「そりゃそうだろ」
僕の頭を押し戻すようにして距離を取り、ビィくんは呆れた顔をした。
「気をつけろよ、ルノン。俺はアルファなんだぞ。自分がオメガだって忘れている? 俺がその気になればルノンなんて、どうとでもできちゃうんだからな」
「……え? それは、僕が犯罪者になっちゃうヤツ……」
「うん。だからまだダメ」
「まだって?」
ビィくんは答えず微笑んで、代わりに、海を見に行こうと僕を誘った。
海へ向かう道すがら、僕らはのんびりと積もる話をした。
ビィくんは例のガラが悪そうで気の良いにーちゃんたちと、まだ連絡を取り合っていて、たまに一緒に踊ったりもするらしい。
学校生活もそこそこ楽しんでいるそうだ。
アルファの学校だから、僕らの学んだことよりもはるかに難しいハズだ。相変わらず彼はがんばっているようだった。
堤防までやってきた。
天気のいい日で、海面がキラキラと輝いていて、ちょっと目に痛いくらいだった。
「俺さ、十八になったらダンスバトルに出るよ。そんで決勝戦の招待券をルノンにプレゼントする! そしたらルノン、来てくれる?」
「すごいね。楽しみにしとく」
「じゃあ、勝負はそのときに改めてって、ミラロゥさんに伝えてよ」
「ミラロゥはダンスバトルには出ないと思うけど?」
ビィくんは海に向かって馬鹿笑いをして「ホント鈍い」とつぶやいた。
なんだかよくわからないけど、相変わらず生意気だってことはわかった。
ビィくんと別れて家に帰ると、ミラロゥは二階のベランダにいた。珍しく昼間から一人でワインを開けている。
「案外早かったな」
「そう? ビィくん未成年だしね。連れ回すわけにはいかないよ。――それ、僕も飲もうかな」
「グラスを持っておいで」
「ううん。それでいい」
ミラロゥのグラスから一口もらい、テーブルにもどすと、すぐミラロゥに抱き上げられた。体をねじると、彼の顔がすぐ近くにある。
キスがワインの味だ。
味わっていたら、急にミラロゥが冷めた声を出した。
「それで、ルノン。浮気ごっこは楽しめたか?」
「浮気って。友達と出かけただけ! っていうか先生、ビィくんがアルファだって知ってた!?」
「もちろん、気づいていた」
「教えてよ! 先生の匂いつけ、バレバレだったよ」
文句をつけているのに、先生は勝ち誇ったように口の端をあげた。
「先生!」
ムッとしたので、膝の上から降りようと思ったのだけど、抱え直されてしまった。
「それで、ビィ少年の反応はどうだった」
「うーん。先生のこと寛大だって言ってたよ。それから、十八歳になったらダンスバトルに挑戦するらしい。決勝戦まで進んで、僕に招待券をプレゼントしてくれるってさ」
「……行くのか」
「そりゃあね。その夢を叶えたらすごいことだよね」
「まあな」
「そして先生は、ビィくんになにやら勝負を挑まれるらしい」
ミラロゥはすっと目を細めた。冷気が漂う細め方だ。
「嬉しいのか、ルノン」
「なにが?」
「君を奪いに来る男が」
ミラロゥがなにに怒っているのかようやく思い至って、僕はやっぱり笑ってしまう。
「子供相手になに言ってるんだよ!」
「自覚があるから十八歳になってからと言ってるんだろ」
まさか、と思う。
でも、思い当たる節がないわけじゃない。何度もニブイって言われたし。
「……十八歳はまだ子供みたいなもんだよ」
なんだか、言い訳みたいになってしまった。
「じゃあ、十年後なら?」
「十代からの十年は長いよ。ほかの恋をするんじゃない?」
「どうかな。アルファはしつこい男が多いからな」
ミラロゥが実にイヤそうな顔をするので、笑いのツボにハマってしまった。
笑いすぎて出てきた涙をぬぐって、そっと先生の頬にキスをする。
「十年後。先生がまだ僕に嫉妬してくれるなら、それってすっごく幸せだね」
額にもキス。微笑んでさらに反対側の頬にもと思ったら、その前にミラロゥに捕まってしまった。
長い長いキスのあと、ミラロゥは言う。
「踊ろうか」
「飲んじゃったのに?」
「このくらい、飲んだうちには入らない。だが、その前にシャワーを浴びようか。浮気の臭いを消してもらわないと」
ミラロゥはやっぱりちょっと根に持っていたので、僕はおとなしくついて行った。
今日もまた、長い夜になりそうだ。
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