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オートモード
4 マンガで得た知見
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助手席の窓から、暗い海を眺めた。
本当のところ、マンガを読むまでもなく、僕がするべきことは分かっている。
不和を招くのは『嘘』と『隠し事』と相場が決まってるんだから。
雲間から月が出て、ほんのりと水面を照らした。
それに勇気をもらって、僕はごくんと唾をのむ。
「学校でね、ダンス大会に出ないかって誘われたんだ」
ミラロゥの返事は、拍子抜けするほどあっさりしている。
「出たいのか?」
「出たくはないよ。でも断りそこねた。仕方ないから、下手くそなダンスを披露してくるよ。アレを見たら、諦めるだろう」
「どうかな。君のダンスは、確かに下手だが……。そのぶんとても愛嬌がある。不思議な魅力で、見るものを引き付けるんだ」
ミラロゥが真顔で妙なことを言うから、僕は思い切り笑ってしまった。
「それって、先生が僕のこと好きだからだろ」
「それだけじゃないんだ。真剣に受け止めなさい」
「ええ?」
先生には悪いが、まったく信じられない。
ただ……。魅力があるかは知らないけど、先生以外に見せる気のなかったダンスを他人に披露する羽目になるのは我ながら残念だなって思う。
先生だけが知ってればいいなんて思うのは、ちょっとロマンチックが過ぎるだろうか。
目的地の近くに駐車場はないから、ミラロゥと夜の散歩を楽しんだ。もはやちょっとしたデート気分だ。
窓からこぼれる温かな灯りや団らんの声を聞き、すごく穏やかな気持ちになった。繋いだ手からミラロゥが、安心をくれるからそう思える。
一人で来たのなら、もっと不安でいっぱいだっただろう。
こういう経験のひとつひとつが蓄積して、ますます彼のことを好きになってしまうのだ。
胸のあたりが、すごくくすぐったかった。
「みらろ、いっしょ、きてくれた。ありがとう」
こちらの言葉でささやいて。最後に、「だいすき」と聞こえるか聞こえないかくらいの声でつぶやいた。
先生はしっかり聞いていたらしく、人通りがないのをいいことに、素早く僕にキスをした。
だから、なんだってそんなにカッコいいんだ。
心臓のドキドキが、なかなか収まらなくて困るよ。
目的地までやってくると、僕はスマホを開いた。
先生は、手を伸ばせば届くくらいの位置に立って、僕の様子を眺めている。
最初は一緒に画面を眺めていたのだが、「そんな小さい画面でよく見えるな」などとつぶやいて、目頭を押さえると、画面ではなく僕を観察することに決めたらしい。
「目が、悪くなりそうだな」
「うん。なるよ」
「なら、手短に」
「なるべく」
なんとなくヒソヒソと話しながら、僕は、せっせとマンガを買い込んだ。先生を待たせているから、手早く済ませなくてはと思うのだが、誘惑も多い。
これも出てたか。あ、こっちも面白そう。などとついつい夢中になってしまう。
ダウンロードの合間にミラロゥの様子を盗み見ると必ず目が合う。
「先生、まばたきしてる?」
「ああ」
「僕、どこにも行かないよ?」
それに対して、ミラロゥはほのかに笑うだけ。目を離したら僕が消えちゃうんじゃないかって恐れているように見えた。
すこしばかり心苦しいのだけど、僕はそれが嬉しかったりする。
誰かに必要とされることは、甘い甘い毒のようだ。きっと僕ももう、ミラロゥのいない人生を選べない。
とはいえ、マンガを捨てるもできないんだよな。
他人と上手くやるには、ときに譲らないことも必要だ。これもまた、BLや少女マンガで得た知見だからね。
言い訳じみたことを考えながら、僕は満足いくまでマンガを買い込んだ。
そんなんだから家につくころには午前一時を回っていた。
さすがに今から踊ろうという話にもならなかったけれど、まぶたの奥がチカチカと光って、なかなか寝付けない僕に、ミラロゥは優しいキスをたくさんしてくれた。
本当のところ、マンガを読むまでもなく、僕がするべきことは分かっている。
不和を招くのは『嘘』と『隠し事』と相場が決まってるんだから。
雲間から月が出て、ほんのりと水面を照らした。
それに勇気をもらって、僕はごくんと唾をのむ。
「学校でね、ダンス大会に出ないかって誘われたんだ」
ミラロゥの返事は、拍子抜けするほどあっさりしている。
「出たいのか?」
「出たくはないよ。でも断りそこねた。仕方ないから、下手くそなダンスを披露してくるよ。アレを見たら、諦めるだろう」
「どうかな。君のダンスは、確かに下手だが……。そのぶんとても愛嬌がある。不思議な魅力で、見るものを引き付けるんだ」
ミラロゥが真顔で妙なことを言うから、僕は思い切り笑ってしまった。
「それって、先生が僕のこと好きだからだろ」
「それだけじゃないんだ。真剣に受け止めなさい」
「ええ?」
先生には悪いが、まったく信じられない。
ただ……。魅力があるかは知らないけど、先生以外に見せる気のなかったダンスを他人に披露する羽目になるのは我ながら残念だなって思う。
先生だけが知ってればいいなんて思うのは、ちょっとロマンチックが過ぎるだろうか。
目的地の近くに駐車場はないから、ミラロゥと夜の散歩を楽しんだ。もはやちょっとしたデート気分だ。
窓からこぼれる温かな灯りや団らんの声を聞き、すごく穏やかな気持ちになった。繋いだ手からミラロゥが、安心をくれるからそう思える。
一人で来たのなら、もっと不安でいっぱいだっただろう。
こういう経験のひとつひとつが蓄積して、ますます彼のことを好きになってしまうのだ。
胸のあたりが、すごくくすぐったかった。
「みらろ、いっしょ、きてくれた。ありがとう」
こちらの言葉でささやいて。最後に、「だいすき」と聞こえるか聞こえないかくらいの声でつぶやいた。
先生はしっかり聞いていたらしく、人通りがないのをいいことに、素早く僕にキスをした。
だから、なんだってそんなにカッコいいんだ。
心臓のドキドキが、なかなか収まらなくて困るよ。
目的地までやってくると、僕はスマホを開いた。
先生は、手を伸ばせば届くくらいの位置に立って、僕の様子を眺めている。
最初は一緒に画面を眺めていたのだが、「そんな小さい画面でよく見えるな」などとつぶやいて、目頭を押さえると、画面ではなく僕を観察することに決めたらしい。
「目が、悪くなりそうだな」
「うん。なるよ」
「なら、手短に」
「なるべく」
なんとなくヒソヒソと話しながら、僕は、せっせとマンガを買い込んだ。先生を待たせているから、手早く済ませなくてはと思うのだが、誘惑も多い。
これも出てたか。あ、こっちも面白そう。などとついつい夢中になってしまう。
ダウンロードの合間にミラロゥの様子を盗み見ると必ず目が合う。
「先生、まばたきしてる?」
「ああ」
「僕、どこにも行かないよ?」
それに対して、ミラロゥはほのかに笑うだけ。目を離したら僕が消えちゃうんじゃないかって恐れているように見えた。
すこしばかり心苦しいのだけど、僕はそれが嬉しかったりする。
誰かに必要とされることは、甘い甘い毒のようだ。きっと僕ももう、ミラロゥのいない人生を選べない。
とはいえ、マンガを捨てるもできないんだよな。
他人と上手くやるには、ときに譲らないことも必要だ。これもまた、BLや少女マンガで得た知見だからね。
言い訳じみたことを考えながら、僕は満足いくまでマンガを買い込んだ。
そんなんだから家につくころには午前一時を回っていた。
さすがに今から踊ろうという話にもならなかったけれど、まぶたの奥がチカチカと光って、なかなか寝付けない僕に、ミラロゥは優しいキスをたくさんしてくれた。
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