あやかしの押しかけ婿と暮らしています！

番外編

できちゃった

　スマホのアラームを止めたとき、日付も一緒に見えた。
　ちょっとした思い付きに、口元が思わず緩んだ。
　俺は、隣で眠るルラを揺り起して真剣な声を作った。
「ルラ、俺、子供ができたみたいなんだ」

　むにゃっと眉を寄せたルラが、次の瞬間慌てた様子で身を起こした。そして俺の顔と腹のあたりを見比べて大きく目を見開く。

「え、は、ハニー……？」
　寝起きで頭が働いてないみたいだな。そのときのルラはちょっと見ものだった。
　困ればいいのか喜べばいいのか自分でもわからないのか、おたおたしている。イケメンが台無しになってるぞ。
「嘘だって」
　俺は声を立てて笑い、今日はエイプリルフールだよとネタバラシした。すると彼は長いため息をついた。

「なんだ。仕込んでいたものがようやく実を結んだのかと……」
「――は？」
　今度は俺がギョッとする番だった。思わず自分の腹を押さえ、透視できるわけもないのに凝視してしまう。
　なに、何を仕込んだって？

「冗談です」
「はあっ！？」
　非難を込めて叫んだら、ルラはするりとベッドから降りてこちらに背を向け大きく伸びをした。かと思うと、その姿勢のままクルッと振り返る。
　イタズラ成功とばかりに口の端が上がっていた。

「今日はそういう日なんでしょう？」
「おまっ、おまえな！　ちょっと本気にしちゃっただろうが！」
　なんせこいつは、人間の常識では測れないところがあるからさ。一瞬すんごい不安になった。
　あやかしの子供って何食うの？

　ああ、もう。まだ心臓がバクバクいってるじゃねえか。
　こっそり息を整えているうちに、ふと別のことが気になった。

「ルラ、おまえ、子供欲しいの……？」
「いいえ？　そんなの、ハニーの愛情が分散しちゃうじゃないですか。僕には耐えられませんね！」
　ルラはすがすがしいほどキッパリと言い切った。
　そうだ、こいつはこういう奴だった。苦笑がもれる。

「ま、俺もお前ひとりで充分かな」
　するとルラの顔が、目に見えてぱあっと輝いた。
　おっと、俺もこいつを不安にさせちゃったのかな。俺もまだまだだな。
　来年はもっと笑える嘘をつかないと、そう考えかけて打ち消した。
　俺たちには必要ないか。嘘よりも本当のことで喜ばせたいなって思うから。