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番外編

リップクリーム

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 乾燥する季節がやって来た。
「やべえ、くちびるカサカサだ」
 つぶやくとどっからともなくルラがやってきて、ニコニコしながら俺にリップを塗った。
「おい、ここ大学だぞ。イチャイチャすんな」

 友人から睨まれてしまったけれど仕方ない。
「ルラがリップを渡してくれないんだよ」
「自分用の買えよ」
「買ったよ。三本くらい。なんなら間違えて一本色付きのまで買ったよ。だけどいつのまにかあいつが全部持ってちゃうんだよ」
 で、ひょいひょい塗りに来る。

「色付きリップなんて、人前で塗っちゃだめですよ」
 家に帰るとさっそくルラが物申してきた。
「ハニーはそれでなくても可愛すぎるんだから」
「こんなん男が塗ったって気色悪いだけじゃねえ?」
「そんなことありません。ほら可愛い」

 仕上がりを見て口を尖らせるから、本当かなと思って鏡を覗き込んだものの、オレンジがかったくちびるには違和感しかなかった。
 速攻指で拭い落そうとしたら、パシッと腕を掴まれ止められる。

「待って。落としてしまうならキスがしたいです」
 そう言って、なぜかルラも色付きのリップを塗った。
 こういう時、イケメンはずるいよな。なんとなくサマになる。
 画面の中の俳優さんとかモデルさんたちがメイクしていても当たり前って思えるように、ルラも色付きリップを使いこなしている。

 ルラはずるいなと思って、俺のほうからキスしてやった。
「わあ!」
 ルラははしゃいだ声を出して、勢いづいた。
 最初は柔らかくついばむようなキスを。次第に大胆になって角度を変えて何度も俺を求めてくる。
 舌が絡まって、頭がふわふわになって、だけど突然俺はふっと冷静になった。

「あれ? くちびるが荒れる原因これじゃねえ?」
「まさかまさか。あ、塗りなおしておきましょうね」
 ルラはいそいそ俺にリップを塗って、最後の仕上げとばかりに柔らかくキスをした。



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