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4 俺、詰んでる!

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 校舎のまえでトマソンを発見し、俺は大きく手を振った。

「おーい、トマソン。なんで昨日帰っちゃったんだよ! 夕飯くらい食ってけば良かったのに」
「焦げた煮物は嫌いでね」
「ならしかたない」
「それより、今日も一緒なんだ」
「え?」

 トマソンの指先を追うと、当たりまえの顔でルラが立っていた。

「え、なに。ついてきちゃったの、ルラ。玄関で行ってらっしゃいって手を振ってくれたのに」
「やっぱ一緒に住んでる?」
「いや? 帰ったはずだけど朝もいただけで、断じて住んでない」
「見送ったあとヌルっとぬけだして、つけてきただけです。お気になさらず」
 さわやかになにを言ってんだ。このオープンストーカーめ。

「それに、僕も授業がありますし」
「ここの学生だったの!?」
「そのほうが、多角的にハニーの情報集められるでしょう?」
 これは深く聞いちゃいけないヤツだな。怖いから。よし、話をそらそう。

「にしてもルラ、メガネだね。外出するときだけメガネなの? おしゃれ?」
「ああ、これですか? なんか、とると目立っちゃうので」
 ルラがメガネをジャケットの胸ポケットにしまった途端、パンに群がる公園の鳩みたいに、周りに女の子が集ってきた。トマソンがはじき飛ばされたよ。そんでルラはきゃーきゃー言われてる。

「異次元の光景じゃん」
「と、いうわけなんです」
「いや、おさまってないよ? メガネかけても大騒ぎだよ?」

 ルラは二秒ほど考えて、俺の頭を抱きかかえ、頬骨のあたりにキスをした。
「こういうことなんで、ごめんね?」
 軽薄そのものって感じで、女の子たちに説明している。

「な、な、な! おまえ、あんがい手が早いな?」
「ほっぺにチューで? ピュアすぎません? 幼稚園あたりですませる段階じゃないですか」
「おませさん!」

「まあ、ハニーは見た目が中学生なんで、若干の背徳感はありますね」
「俺のほうが年上だよ!? いや、違うのか、積年のうらみには勝てないのか。前世のトウガラシ成分を加えてもかっ!」
「まだその設定生きてたんですね。かわいいなあ。あ、反対側ももらっていいですか?」

 するっと頬を撫でるので、俺はズザッと飛びのいた。
「良くねえよ! いや、落ちつけ。落ち着こう。まずは授業だ。ルラてめえ、あとで話があるからな」
 俺は校舎の時計をちらりと確認して、あわてて駆け出した。トマソンめ、しれっと先に行きやがったな。こういう時は薄情なんだよな。

「あ、じゃあ昼休みに。僕、お弁当作ってきたんで。ちゃんと玉子焼き焦げてますよ!」
「そこは誇るところじゃねえ! 今度焼きかた教えてやるからな。フライパンはしっかりあっためろ!!」
 ついうっかり、変な約束をしてしまった。

 ルラの弁当はツッコミどころがあった。でもツッコんだら負けな気がする。
「ぜんぶ焦げてるね」
 となりでトマソンがあっさり指摘した。
「米までおこげってのが徹底してるね。メイラード反応!」
 丸メガネを光らせるな。ちょっと面白いじゃねえか。

「ハニー。なんでこの人までいるんですか。僕とデートだって言ったのに」
「いや、言ってない。え、言ってないよね?」
「そこは自信をもちましょうよ」
 だよな。あやうく謀られるところだった。俺は咳払いで仕切り直した。

「ルラ、話があるんだ」
「ならこの人、邪魔じゃありません?」
「こいつは事情を知ってるから」
 指さして気がついた。トマソンがラーメンを半分ほど食べすすめてしまっている。このままではおごった意味がなくなっちゃう。

「あのな、ルラ。実は知っておいてほしいことがあるんだよ。騙すみたいでイヤだから、おまえには言っとく」
 ルラは俺の本気に気づいたらしく、居住まいをただした。

「俺の先祖、あやかし全員におんなじ言い訳したらしくて、ルラで十人目なんだよ。俺の婿に志願してくるの」
「知ってますよ。何年ストーカーしてると思ってるんですか。あと、正確には僕で十四人目です。昨日のヤツを入れれば十五人。いや、匹? とにかく、つぶし合いをしたのもいるので実際にはもうちょっといます」
「なるほど?」

「彼らの失敗をふまえて、僕がどれだけの準備を重ねたか、わかります?」
「わかんねえよ。いや待てよ? 多少はわかるか。人型じゃないとダメだと最初の数人は断ったし。期限まえに来たからルール違反だとか、戸籍がないやつはダメだとも言った。ガキもダメって言ったし……」

 そうだ。初対面のくせに名前で呼ぶやつはダメだって難癖つけたこともあったっけ。メチャメチャ怖かったから、記憶の底に封印してたわ。コイツ、そんなことまで覚えてたのか。それに、来るなら手土産くらい持ってこいとか言ったこともあった。

「あれー? これって」
 ルラはなにも言わず、ただニッコリと笑った。
「ヤバい! 俺、詰んでる!? トマソン助けて!」
「ポマードポマードポマード!」
 トマソンはルラを指さし叫んだ。なにやらノリノリだ。

「なにそれ」
「口裂け女の撃退方法。効かないみたいだけど」
「そりゃそうでしょう」
 ルラはのんびりお茶をすすってる。

「まあね、ユッキーが本気で逃げたいって言うんなら、俺はいつだって一緒に逃げるけど」
「たあ君……」
「たあ君!?」

 あ、ヤベ。幼稚園の時のあだ名で呼んじゃった。この呼び方すると、周りにすげえ誤解をあたえて、トマソンに多大な迷惑をかけるんだよな。ルラもなんか、ぷるぷるしてるし。
「いや、違うんだって」

 トマソンは、ふっと笑って席を立った。

「その様子じゃね。馬に蹴られたくはない。それにすごく面白そう。幸せになれよ!」
「ちょっ、面白そうで俺の将来を決めるなよ。親指を立てるな! トマソン!?」
 俺の抗議を笑って流して、トマソンは行ってしまった。
「えええ、おごり損だね」

「……ハニー、本当に、あの人とはなんでもないんですよね?」
「なんでもないってことはないよ。大切な友人だよ」
 俺はルラと顔を見合わせ、お互いに首を傾げた。かみ合ってない気がすんね。

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