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2 お土産、食べちゃったけど

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「いや、仮にだよ? 先祖がおまえと約束したとして、おまえ生まれ変わってんだろ、無効だ無効!」
 俺が指を突き付けると、ルラは「いえいえ」なんて軽く手を振った。

「戸籍の取得のため幼子のフリをしたんです。誰かの胎から生まれなおしたのとは違います。僕はあやかしなんですから」
「嘘だろ!? 人に化けるのうますぎだろ」
「ふふん。そうでしょう」
「そ、それに、なんかさっき温かかった!」
「そりゃそうですよ。あやかしだって生き物ですよ?」

 え、そうかな。三秒ほど首を傾げあって、俺はハッと姿勢を正した。こんなんじゃ誤魔化されんぞ。

「あやかしに戸籍なんていらねえだろ。社会保障なんていらねえだろ」
「ヤダな、いりますよ。バラマキ受け取れないじゃないですか。この十数年で何度ありました?」

 あったね、いっぱいあった! なんてちゃっかりしたヤツなんだ。いや、感心している場合じゃない。

「そもそも! 条件がきびしすぎるんだよ。十八歳って、今の時代にそぐわねえ。このご時世なら三十歳まで、だろ」
「で、あなたが三十歳になったら時代は四十歳までだと逃げるつもりですか。ちなみにその逃げ方でいいんですか?」
「なんで俺の未来をつぶすの!? それにこのきびしい条件に当てはまるやつなら、ほかにもいたはずだろ!? 俺の代までもつはずがない」

 こっちは必死だっていうのに、ルラは「さあ」とあっさり首を傾げた。
「いたかもしれませんが、知りません。興味もありません」
「はあ!?」

「僕は彼女が死んだとき、彼女の墓に侵入して眠りについたんです。でもほら、あなたのご両親アレをやっちゃったでしょう?」
 彼は不意に声をひそめた。口の横に手を当てる内緒話のポーズつきだ。
「あ、アレ……?」
 つられて俺も小声になった。そんな呪われそうなこと、両親がやったっていうのか。

「なんだ塚でも壊したか?」
「墓じまいです」
「ある意味壊してる……?」
 俺は唾をのんだ。コソコソとルラは続ける。
「僕はそれで目覚めちゃったんです。あなたもその場にいましたよね」

 いたかと言われれば、いた。あれはたしか、俺が小学生のときだ。墓が遠すぎるから、管理が行き届かなくなる前にと両親は決断したのだ。墓掃除なんて面倒だし、正直たすかった。なんて思ってたんだけど。

「そのとき僕は、あなたにひとめぼれしたわけです」
「すんなよ! 純情つらぬけよっ!!」
「すぐ叫ぶところもかわいいです。好きです、ハニー。座って? 遠慮なんてしちゃ嫌ですよ?」
「俺んちだよ」

 ダメだ、すっかり翻弄されてる。ちょっと前まで高校生だったヤツに。とりあえずプリン食べよ。せっかくだし。
 よし、甘いもののおかげで頭が冴えた感じがする。

「見ての通り、俺にはヒモを養う余裕がない」
「ああ、その辺ならご心配なく。高一のとき起業したんです。アプリで少々稼いでいますから」
「今どきだねえ」
 待って。あとどうやって断ればいい? 女の子にも押しかけられたことないのに。

「あ、そうだ。俺身ぎれいでもないわ。二十歳の記念に誘われて、そういう店に行ったもんね」
「ああ、ノーカンですね」
 勝利の余韻もなく、あっさり却下された。んなまさか。

「あの店、本番なしだったじゃないですか。しかもハニー、年齢を疑われて追い返されてましたよね。周りには追い返されたこと内緒にして、夜中ひそかに泣いてたじゃないですか」
「うーわーっ! ヤメロ! 掘り起こすなっ! い、いつからストーカーしてんだよ」
「ええ、ですから。目覚めたその日から」

 人の心の傷をえぐっておきながら、ルラはしれっとした顔で紅茶を飲んでいる。
 思い出したら泣きそうなんだけど。お土産なんて食べてないで、さっさと追い出しておけばよかった!

「よおくわかったよ! だけどな、婿はどう考えてもいらないんだ。だから、それ食ったら帰ってくれ」
「え? でもプリンだけじゃお腹すきませんか。夕ごはん作りますよ」
「男の一人暮らしなめんな。冷蔵庫はカラだ――。な! 買った覚えのないモノがなんかいっぱい入ってるだと」
 冷蔵庫の中で食材が輝いて見えた。プリンのおかわりまである。

「ああ、今夜すき焼きにしようと思って。ちょっといい肉買っときましたよ。いま作り方調べますね」
「いや、材料あるなら俺がやる。すき焼きにはこだわりがあるんだ」
「ええ、もちろん知ってます」
 ルラはニッコリした。しまったこれ、食べてく流れだな。

「き、今日だけだからな」
「チョロすぎです。ほんとに大丈夫かな、この人」
「いや、そこで真顔になるなよ。俺まで心配になってくる」

 とは言ったものの、食欲には勝てなかった。ちょっといい肉とは言ってたが、まさか竹皮で包まれているとは。
 パックじゃない! うわあ、パックじゃない!!

「いいか、これまでのことはゆるしてやるが、婿になるのは認めないからな!」
「ゆるしちゃうんですか!? どうしよう、清らかすぎて僕のほうが浄化されそうなんですけど」
 食欲に負けてんのに、清らかかな。
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