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【1章】晶乃と彩智
23.いつも一緒ってわけじゃない
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金曜の昼休み――。
時間の経つのが早く感じるのは毎日が充実しているからだろうか。お弁当箱を取り出しながら晶乃は思う。日曜日に写真を撮りに行ったのにもう週末――いや、この前入学式だったのに、気が付くと4月の終わりといった感じだ。
午前中の授業もあっという間に終わり、いつの間にかお昼ご飯という気がしていた。もっとも、単に午前中の授業が頭の中に入らなかっただけ、という説もある。
いつもは彩智と一緒に食べる昼食だが、今日は彩智の姿はない。別に休んでいるわけではない。昼の鐘が鳴ると、鞄を掴んで教室を飛び出して、姿を消していた。
なので今日は1人での昼食だ。
晶乃は2段重ねのピンク色の弁当箱の蓋を開けて、「いただきます」と両手を合わせたところで、
「水谷さんは今日は1人?」
と声をかけられた。
晶乃は顔を上げる。
目の前には、見覚えのある女生徒の姿があった。クラスメイトなのだから見覚えがあって当然だが、にぎやかで目立つ子なので印象が強い、佐藤有宇だった。小柄な体格で、もしかすると彩智よりも身長が低いかもしれない。一応この学校は進学校なので、髪形などの校則には厳しいが、その範囲ギリギリで茶色に染められた長い髪に緩やかなウェーブをかけている。
「うん」
「じゃ、一緒に食べようよ。水谷さん、格好いいから話してみたかったのに、いつも桑島さんと一緒だったでしょ」
一方的に言うと、晶乃の机の上に小さなお弁当箱を置いて、晶乃の前の席の椅子を引っ張った。
しかし、すぐには座らずに、
「あ。高岡さんも独り? じゃ、一緒に食べようよ」
と近くの席で今まさにコンビニから買ってきたのであろうサンドイッチをパクつこうとしていた、ちょっと色黒の髪をボブショートに整えた小柄な女の子に声をかける。手足がやたらと細いが見た目はスポーツ少女といった印象の女の子だ。
高岡――と彼女が呼んだ生徒のことは晶乃はよく知らなかった。そう言えば、まだ一度も話していない。自己紹介の時に高岡夏海と名乗ったので名前だけは憶えていたが、その時くらいしか声も聴いていないような気がする。誰かとつるんでいるところも見たことがない。
明らかに不快そうな表情を見せた夏海だったが、有宇はお構いなしに彼女を引っ張ってきて、3人で晶乃の机を囲むことになった。
「……今日は、いつも一緒にいるあの子は?」
仕方なくといった感じで晶乃の横に椅子を持ってきた夏海が、尋ねてくる。もっとも、興味があるというよりも、社交辞令的に話しかけたといった感じの、興味のなさそうな口ぶりだった。
「屋上に逃げたよ」
晶乃は人差し指を立てて答える。
「えー。何で?」
有宇が素っ頓狂な声を上げる。
「あれから逃げるため」
上に上げていた人差し指を、教室の入り口の方に向ける。指の先には、2年生と3年生の4人の女生徒が中を伺っていた。
「駅伝部の先輩なんだって。彩智をスカウトに来ているんだよ」
「スカウトって、何で?」
「なんでも、今の生徒会長が、部活動の統廃合を推し進めていて、4人しかいない駅伝部は、このままだと陸上部に編入されちゃうんだって」
「別に、陸上部で駅伝をすればいいような……」
「きっと、他人から見たら同じように見えることでも、本人たちからすれば、凄く違うことなんじゃないかな」
晶乃は小さく肩をすくめる。
その時、外から中を覗いていた駅伝部の女生徒の一人が近づいてきた。
「ねぇ。桑島さんはどこに行ったのかしら」
「彩智なら、購買に行きましたよ」
しれっとした顔で晶乃は嘘をつく。駅伝部の女の子は、疑わしそうな眼で晶乃を見て10秒ほど何かを言いたそうにしていたが、あきらめたのか、教室を出ていった。
「あの先輩たちには申し訳ないけれど、彩智は駅伝部に入るつもりはないらしいから、早く諦めて、別の人を探してくれればいいんだけれど」
「大変だよね。ところで、その玉子焼き貰っていい? 私のチーズ竹輪あげるから」
晶乃が返事するよりも早く、晶乃の弁当箱の卵焼きが一切れ消えて、小さな竹輪が一つ増えていた。少し派手さを感じる外見からくるイメージと違って、箸の持ち方がしっかりしている。手癖は悪いが。
「渋いものが入っているね」
晶乃は苦笑いして、チーズ竹輪を口に入れる。
「私はチーズも竹輪も苦手なんだけれど、ママが無理やり入れてくるんだ」
不満そうな有宇に、もぐもぐごくんと飲み込んだ晶乃は「おいしいのに」と笑う。
そんなやり取りを、じっと黙って見ていた夏海が口を開いた。
「無くなるって言えば、写真研究部も、廃部になるらしいね」
「え……」
晶乃は一瞬言葉を失う。先日、2,3年生で6人いると部長の真紀が言っていたから、部の構成要件は満たしているはずだ。原因として思いついたのは、先日の彩智と岩井充希との件である。いくら軽傷だったとはいえ、部活動中に先輩が後輩に対して故意に暴力をふるって怪我をさせたとなれば、廃部だってやむを得ないのかもしれない。
「やっぱり、この間、桑島さんが怪我をしたのが原因なのかなぁ」
有宇がそんなことを言い出したので、晶乃はびっくりした。少なくとも、彩智の怪我の原因を晶乃は誰にも言ってはいない。あの事件の翌日に大きなガーゼを貼ってきた彩智には興味本位で何かあったのか問われることもあったようだが、本人は「家で柱にぶつかった」と答えていたはずだった。
学校も、そう大事にする気はないらしく、事件そのものは教師の口からは伏せられているはずだった。
「写真研究部って手芸部と同じ部屋を使っているじゃない。手芸部のお喋りな子が言い触らしているみたいだよ」
あっけらかんと有宇が言ったので、晶乃は額を押さえた。
時間の経つのが早く感じるのは毎日が充実しているからだろうか。お弁当箱を取り出しながら晶乃は思う。日曜日に写真を撮りに行ったのにもう週末――いや、この前入学式だったのに、気が付くと4月の終わりといった感じだ。
午前中の授業もあっという間に終わり、いつの間にかお昼ご飯という気がしていた。もっとも、単に午前中の授業が頭の中に入らなかっただけ、という説もある。
いつもは彩智と一緒に食べる昼食だが、今日は彩智の姿はない。別に休んでいるわけではない。昼の鐘が鳴ると、鞄を掴んで教室を飛び出して、姿を消していた。
なので今日は1人での昼食だ。
晶乃は2段重ねのピンク色の弁当箱の蓋を開けて、「いただきます」と両手を合わせたところで、
「水谷さんは今日は1人?」
と声をかけられた。
晶乃は顔を上げる。
目の前には、見覚えのある女生徒の姿があった。クラスメイトなのだから見覚えがあって当然だが、にぎやかで目立つ子なので印象が強い、佐藤有宇だった。小柄な体格で、もしかすると彩智よりも身長が低いかもしれない。一応この学校は進学校なので、髪形などの校則には厳しいが、その範囲ギリギリで茶色に染められた長い髪に緩やかなウェーブをかけている。
「うん」
「じゃ、一緒に食べようよ。水谷さん、格好いいから話してみたかったのに、いつも桑島さんと一緒だったでしょ」
一方的に言うと、晶乃の机の上に小さなお弁当箱を置いて、晶乃の前の席の椅子を引っ張った。
しかし、すぐには座らずに、
「あ。高岡さんも独り? じゃ、一緒に食べようよ」
と近くの席で今まさにコンビニから買ってきたのであろうサンドイッチをパクつこうとしていた、ちょっと色黒の髪をボブショートに整えた小柄な女の子に声をかける。手足がやたらと細いが見た目はスポーツ少女といった印象の女の子だ。
高岡――と彼女が呼んだ生徒のことは晶乃はよく知らなかった。そう言えば、まだ一度も話していない。自己紹介の時に高岡夏海と名乗ったので名前だけは憶えていたが、その時くらいしか声も聴いていないような気がする。誰かとつるんでいるところも見たことがない。
明らかに不快そうな表情を見せた夏海だったが、有宇はお構いなしに彼女を引っ張ってきて、3人で晶乃の机を囲むことになった。
「……今日は、いつも一緒にいるあの子は?」
仕方なくといった感じで晶乃の横に椅子を持ってきた夏海が、尋ねてくる。もっとも、興味があるというよりも、社交辞令的に話しかけたといった感じの、興味のなさそうな口ぶりだった。
「屋上に逃げたよ」
晶乃は人差し指を立てて答える。
「えー。何で?」
有宇が素っ頓狂な声を上げる。
「あれから逃げるため」
上に上げていた人差し指を、教室の入り口の方に向ける。指の先には、2年生と3年生の4人の女生徒が中を伺っていた。
「駅伝部の先輩なんだって。彩智をスカウトに来ているんだよ」
「スカウトって、何で?」
「なんでも、今の生徒会長が、部活動の統廃合を推し進めていて、4人しかいない駅伝部は、このままだと陸上部に編入されちゃうんだって」
「別に、陸上部で駅伝をすればいいような……」
「きっと、他人から見たら同じように見えることでも、本人たちからすれば、凄く違うことなんじゃないかな」
晶乃は小さく肩をすくめる。
その時、外から中を覗いていた駅伝部の女生徒の一人が近づいてきた。
「ねぇ。桑島さんはどこに行ったのかしら」
「彩智なら、購買に行きましたよ」
しれっとした顔で晶乃は嘘をつく。駅伝部の女の子は、疑わしそうな眼で晶乃を見て10秒ほど何かを言いたそうにしていたが、あきらめたのか、教室を出ていった。
「あの先輩たちには申し訳ないけれど、彩智は駅伝部に入るつもりはないらしいから、早く諦めて、別の人を探してくれればいいんだけれど」
「大変だよね。ところで、その玉子焼き貰っていい? 私のチーズ竹輪あげるから」
晶乃が返事するよりも早く、晶乃の弁当箱の卵焼きが一切れ消えて、小さな竹輪が一つ増えていた。少し派手さを感じる外見からくるイメージと違って、箸の持ち方がしっかりしている。手癖は悪いが。
「渋いものが入っているね」
晶乃は苦笑いして、チーズ竹輪を口に入れる。
「私はチーズも竹輪も苦手なんだけれど、ママが無理やり入れてくるんだ」
不満そうな有宇に、もぐもぐごくんと飲み込んだ晶乃は「おいしいのに」と笑う。
そんなやり取りを、じっと黙って見ていた夏海が口を開いた。
「無くなるって言えば、写真研究部も、廃部になるらしいね」
「え……」
晶乃は一瞬言葉を失う。先日、2,3年生で6人いると部長の真紀が言っていたから、部の構成要件は満たしているはずだ。原因として思いついたのは、先日の彩智と岩井充希との件である。いくら軽傷だったとはいえ、部活動中に先輩が後輩に対して故意に暴力をふるって怪我をさせたとなれば、廃部だってやむを得ないのかもしれない。
「やっぱり、この間、桑島さんが怪我をしたのが原因なのかなぁ」
有宇がそんなことを言い出したので、晶乃はびっくりした。少なくとも、彩智の怪我の原因を晶乃は誰にも言ってはいない。あの事件の翌日に大きなガーゼを貼ってきた彩智には興味本位で何かあったのか問われることもあったようだが、本人は「家で柱にぶつかった」と答えていたはずだった。
学校も、そう大事にする気はないらしく、事件そのものは教師の口からは伏せられているはずだった。
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