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第三章

南楓と通話

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『もしもし~』
「どうも」
『相変わらず、淡白だねぇ。もっとテンション上げてくれてもいいんだよ?』
「うぇーい」
『はいはい。棒読みなのもいつも通りだねー』
「それで本日はどういったご用件で?」
『用件がないと電話かけちゃダメなの?』
「ううん」

 あと数分で二十二時になるところだった。

 夏休み中は楓と中々会えないこともあり、最近はこうして夜に通話することが多かった。基本的に宿題なんかをしながら、だらだら話すことがほとんどだ。内容はないに等しい。今日の夜ごはんはとんかつだったとか、友達と買い物に行ったとか、そんな話。いつ切るかも特に決めず、眠くなったら終わることにしている。

『へへっ。でも、今日は珍しく用件があるんですよねぇ』
「へー」
『もっと関心持って欲しいんだけど』
「へ~!」
『棒読み感は拭えてないけど、まあ、いいや。えっとね、八月十七日って空いてる?』
「ちょっと待って。何も入ってないはずだけど、一応予定を確認してみる」
『了解!』

 カレンダーを見ても、何も予定は入っていなかった。今年も夏休み中に遊ぶのは神崎くらいだ。神崎と遊ぶ時、前もって予定を決めていることは稀だ。前日か当日に、『ラーメンでも食いに行かね?』みたいなメッセージが飛んでくる。空いていることが多いので、いつも『OK』と返す。

「何もなかったよ」
『よしっ。悟は十七日って言われて、ピンと来ないの?』
「何かあったっけ?」

 記憶を辿っても思い当たる節はなかった。誰かの誕生日? 俺の知り合いの中に八月十七日が誕生日の人はいなかったと思うけど......。何だろう。

『あるよー。クイズです。八月十七日には何があるでしょう』

 多分、俺が答えるまで楓は答えを言ってくれないだろう。クイズというのなら、ちゃんと考えて正解したいな。

 誕生日ではないだろう。では、他にイベント事って何かあるかな? 楓と二人でした約束ではなさそうだ。それなら、俺が忘れるはずない。夏らしいイベント......。

「祭り」
『正解!』

 地元のお祭りが毎年八月のどこかで開催されているのは知っていた。今年は十七日なのか。

「徐々に正答率が上がってきた気がする」
『この調子で楓さんのことをマスターしてください!』
「頑張るよ」
『ふふっ』

 八月十七日にお祭りに行くことが決定した。一週間後か。楓は浴衣を着てくるのかな? きっとよく似合うんだろうな。

 用件を聞き終えた後はいつも通り近況報告をした。一昨日も話したばかりなので、昨日と今日のことだ。十一時過ぎには通話を終え、寝る準備をする。

 楓にはあまり伝わっていないのかもしれないけれど、最近の幸福度はかなり高い。こうしてただ話すだけでも、幸せだなぁ、と感じる。それを表現するのが下手くそなのはわかってる。誤解だけはさせたくないな、と思いながら目を閉じた。
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