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第三章
二人を捜す
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「なあ、あいつら可愛くね?」
「それな」
俺と神崎がゆったりと流水プールに流されているなか、楓と須藤はどんどん先へ行ってしまった。彼女たちが流れていく姿に注目している人が多かった。頭の動き方でどこを見ているか、大体わかる。
主観を介さないなんて無理だけど、きっと楓たちの容姿は世間的に見ても、かなり良い方なのだろう。自分の彼女が良いように見られるのは嬉しいことだけど、やはり俺以外の男共に楓の水着姿を見られるのは、形容しがたい気分になった。
「屋内だとあんまり暑くないし、いいな」
「確かに。日光が直接当たることはないからね」
今回俺たちが来たプールは、屋内にある。夏休み初日ということもあり、プール内にも当然かなりの人がいた。流水プールなのに水に流されているというより、人に流されているような感じだ。
時々身体が見知らぬ人に触れてしまうことがあるけれど、その度に痴漢と間違われないか、ヒヤヒヤしている。正直、窮屈だ。
「あいつらどこ行ったんだ?」
「さあ」
すでに楓たちの姿は俺と神崎の視界から外れており、完全に見失っていた。プール内ではスマホを使えないし、見つけるのが結構大変そうだ。
「とりあえず、捜すか」
「そうだね」
潜っている可能性もあるので、たまに顔をつけて、楓たちを捜す。少し流されるスピードを上げたけれど、なかなか見つからない。最悪の場合、迷子センターのような場所に行って、放送してもらうしかないか。『南楓様~、お連れ様がお待ちです』みたいな感じで。これは、本当に最悪の場合だけど。
「こっから出ちまったのかな」
「それなら一言欲しいところだけど、可能性はあるよね」
俺たちは歩くスピードを遅め、話しながら移動していた。
「あー、マジでどこいぃっ」
いきなり神崎が背中から倒れた。何があったんだ。
「はははっ。翔太さいっこー」
須藤の笑い声が響いた。どうやら背後から神崎は狙われたようだ。
「何すんだよ!」
「綺麗に膝カックンが決まったね!」
「決まったね! じゃねぇ!」
須藤がすごい勢いで泳いでいった。他の人の邪魔にならないように、綺麗に避けて。運動があまり得意でないはずなのに、なぜそんなことができるんだ。神崎は体格が大きいこともあり、人混みをかき分けながら須藤を追いかけて行った。
「行ってしまいましたなぁ」
「うわっ。いたのか」
俺の後ろに立つ楓に気づかなかった。須藤がいるということは、当然楓もいるはずなのに。
「ちょっ、酷くない!?」
「悪い。神崎たちを見てたら、つい......」
「私もやった方が良かったかな? 膝カックン」
「いや、遠慮しとく.....」
先ほどまで楓たちを捜していたはずなのに、次は神崎と須藤を捜すことに。俺たちは四人で一緒に行動することができないのか?
時刻を確認すると、十一時半だった。小腹がすいてきた。施設内には一応数店舗あるので、わざわざ外へ出る必要はなさそうだ。
お昼を食べるとしても、神崎たちと合流してからの方が良いだろう。
「神崎たち捜すか?」
楓は頭を横に振った。捜す以外の選択肢はないと思っていたので、意外な反応だった。
「なんで?」
言うと、楓は俺の左腕を掴んだ。白くて綺麗な手が触れており、ドキッとしてしまう。
「悟は二人きりって嫌......かな?」
変なものでも食べたのか? 俺の知っている楓じゃない。甘える目をして、楓は話しかけたりしない。どちらかと言えば、極上の笑顔で、ウキウキしながら話しかけてくるイメージだ。
新しい楓の一面を見た気がする。プールに入る前の出来事があったから、こうなってしまったのだろうか。
ああ、いつもの楓も良いけど、普段とのギャップにこれまたドキドキしてしまう。
「い、嫌じゃないよ。当然」
少し声が上ずってしまった。動揺したくないのに、抑えようとしても無駄だった。
楓は少し俯いた。そして、口角が上がったように見えた。次に顔を上げた時、いつもと変わらぬ笑顔になっていた。
「ふふっ。ねえねえ、ドキッとした?」
どうして忘れていたんだろう。楓の性質は何も変わっていない。もう少し冷静に分析できていれば、からかっていたことくらい気づけたはずだ。まあ、あの状況で冷静になれ、というのが無理な要求だけど。
怒りよりも、羞恥が勝って、楓の顔が見れなかった。潜ろう。
「えっ、何してんの!?」
なんか楓の声が聞こえるなぁ。水中だから、聞き取りづらいけど、一応何と言ったかは聞き取れた。
これ以上は息が持たないので、顔を出そう。
「ど、どうしたの、急に......」
「潜りたい気分だっただけだから、気にしないでくれ。よし、神崎たちを捜そう」
流水プールに入ったままだと、見つけにくいので、一旦プールから出ることにした。
プールから出て、少し歩き始めると、楓がツンツンと俺の腕を突いた。何事か、と思い、左隣を歩く楓の方を振り向く。
「二人きりになりたいって言ったのは、冗談じゃないからねっ」
それだけ言った楓は、鼻歌を歌い出した。俺は今すぐ水面に顔をつけたい衝動に駆られた。それは、ずるい。
「それな」
俺と神崎がゆったりと流水プールに流されているなか、楓と須藤はどんどん先へ行ってしまった。彼女たちが流れていく姿に注目している人が多かった。頭の動き方でどこを見ているか、大体わかる。
主観を介さないなんて無理だけど、きっと楓たちの容姿は世間的に見ても、かなり良い方なのだろう。自分の彼女が良いように見られるのは嬉しいことだけど、やはり俺以外の男共に楓の水着姿を見られるのは、形容しがたい気分になった。
「屋内だとあんまり暑くないし、いいな」
「確かに。日光が直接当たることはないからね」
今回俺たちが来たプールは、屋内にある。夏休み初日ということもあり、プール内にも当然かなりの人がいた。流水プールなのに水に流されているというより、人に流されているような感じだ。
時々身体が見知らぬ人に触れてしまうことがあるけれど、その度に痴漢と間違われないか、ヒヤヒヤしている。正直、窮屈だ。
「あいつらどこ行ったんだ?」
「さあ」
すでに楓たちの姿は俺と神崎の視界から外れており、完全に見失っていた。プール内ではスマホを使えないし、見つけるのが結構大変そうだ。
「とりあえず、捜すか」
「そうだね」
潜っている可能性もあるので、たまに顔をつけて、楓たちを捜す。少し流されるスピードを上げたけれど、なかなか見つからない。最悪の場合、迷子センターのような場所に行って、放送してもらうしかないか。『南楓様~、お連れ様がお待ちです』みたいな感じで。これは、本当に最悪の場合だけど。
「こっから出ちまったのかな」
「それなら一言欲しいところだけど、可能性はあるよね」
俺たちは歩くスピードを遅め、話しながら移動していた。
「あー、マジでどこいぃっ」
いきなり神崎が背中から倒れた。何があったんだ。
「はははっ。翔太さいっこー」
須藤の笑い声が響いた。どうやら背後から神崎は狙われたようだ。
「何すんだよ!」
「綺麗に膝カックンが決まったね!」
「決まったね! じゃねぇ!」
須藤がすごい勢いで泳いでいった。他の人の邪魔にならないように、綺麗に避けて。運動があまり得意でないはずなのに、なぜそんなことができるんだ。神崎は体格が大きいこともあり、人混みをかき分けながら須藤を追いかけて行った。
「行ってしまいましたなぁ」
「うわっ。いたのか」
俺の後ろに立つ楓に気づかなかった。須藤がいるということは、当然楓もいるはずなのに。
「ちょっ、酷くない!?」
「悪い。神崎たちを見てたら、つい......」
「私もやった方が良かったかな? 膝カックン」
「いや、遠慮しとく.....」
先ほどまで楓たちを捜していたはずなのに、次は神崎と須藤を捜すことに。俺たちは四人で一緒に行動することができないのか?
時刻を確認すると、十一時半だった。小腹がすいてきた。施設内には一応数店舗あるので、わざわざ外へ出る必要はなさそうだ。
お昼を食べるとしても、神崎たちと合流してからの方が良いだろう。
「神崎たち捜すか?」
楓は頭を横に振った。捜す以外の選択肢はないと思っていたので、意外な反応だった。
「なんで?」
言うと、楓は俺の左腕を掴んだ。白くて綺麗な手が触れており、ドキッとしてしまう。
「悟は二人きりって嫌......かな?」
変なものでも食べたのか? 俺の知っている楓じゃない。甘える目をして、楓は話しかけたりしない。どちらかと言えば、極上の笑顔で、ウキウキしながら話しかけてくるイメージだ。
新しい楓の一面を見た気がする。プールに入る前の出来事があったから、こうなってしまったのだろうか。
ああ、いつもの楓も良いけど、普段とのギャップにこれまたドキドキしてしまう。
「い、嫌じゃないよ。当然」
少し声が上ずってしまった。動揺したくないのに、抑えようとしても無駄だった。
楓は少し俯いた。そして、口角が上がったように見えた。次に顔を上げた時、いつもと変わらぬ笑顔になっていた。
「ふふっ。ねえねえ、ドキッとした?」
どうして忘れていたんだろう。楓の性質は何も変わっていない。もう少し冷静に分析できていれば、からかっていたことくらい気づけたはずだ。まあ、あの状況で冷静になれ、というのが無理な要求だけど。
怒りよりも、羞恥が勝って、楓の顔が見れなかった。潜ろう。
「えっ、何してんの!?」
なんか楓の声が聞こえるなぁ。水中だから、聞き取りづらいけど、一応何と言ったかは聞き取れた。
これ以上は息が持たないので、顔を出そう。
「ど、どうしたの、急に......」
「潜りたい気分だっただけだから、気にしないでくれ。よし、神崎たちを捜そう」
流水プールに入ったままだと、見つけにくいので、一旦プールから出ることにした。
プールから出て、少し歩き始めると、楓がツンツンと俺の腕を突いた。何事か、と思い、左隣を歩く楓の方を振り向く。
「二人きりになりたいって言ったのは、冗談じゃないからねっ」
それだけ言った楓は、鼻歌を歌い出した。俺は今すぐ水面に顔をつけたい衝動に駆られた。それは、ずるい。
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