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第二章

本当の気持ち

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 わらび餅やぜんざい、それにさつまあげなんかも食べた。どれも美味しかった。
 ある程度お腹を満たしたところで、龍安寺の石庭を見に行ったり、渡月橋を渡ったりもした。一日ではどうも足りない。明日は大阪方面へ繰り出すらしいので、京都に滞在するのは今日が初日であり、最終日でもある。

 もっと良い回り方があったのかもしれないけれど、地元民ではないため、最適解がわからなかった。どのスポットへ行っても、うちの高校の制服を着た学生がいたので、みんな考えることはほぼ同じなんだな、と思った。

 日も暮れかかってきた。
 今は最初に解散した京都駅に向かうバスの中だ。一旦集合し、ホテルに向かうことになる。

「......素敵」

 隣に座る楓がボソッと言った。神崎たちは俺たちの前の席だ。

「綺麗だよね」
「普段は夕日見ても、何にも感じないのになぁ」

 こんな最高の雰囲気に包まれてると、誤って告白しちゃう奴とかいそうだ。
 
「ねえ、今、何考えてると思う?」
「いきなりクイズかよ」
「今までで一番難しいクイズかもね」

 彼女が考えてる内容まで正確に読むのは不可能に近い。解答にできる限り近づけるように考えよう。

 窓の外を見る彼女は、一体何を考えているんだろう。全くわからない。けれど、わからないという回答を望んでいるはずがない。何なんだ......。

 全く思いつかないまま、数分が経過した。もう少しで京都駅に着きそうだ。ああ、そんなに深く考える必要はないか。いつもみたいに軽く答えれば良いんだ。

「最高だー、とか」
「何分も考えて、出した答えがそれ?」

 笑われてしまった。思いつかなかったのだから、仕方ないじゃん。

「で、正解は?」
「まあ、半分くらいは正解かも」

 おお、言ってみるもんだな。わからない、と答えていれば、ゼロ点だった。

 彼女は、窓から目を外し、こちらを向いた。いつもとは少し違う優しい笑顔。
 
「好きな人とこうして同じ景色を見れるって最高だと思わない?」

 タイミングを計ったかのように、バスが到着した。通路側に座っていた俺は、何も言えないまま、すぐに立って、運賃を支払って降りた。

 すでに同じ制服を着た人たちが集合場所で待っていた。先生も何人かいる。
 俺は楓の発言を頭の中で反芻し、忘れないように努めた。そんな努力をせずとも、忘れられるわけないけれど、一言たりとも忘れたくなかった。

 みんなが集まってワイワイ騒いでいる中で、一人浮いている自覚はあった。集合時間になるまで、神崎が何度か声をかけてくれたが、上の空だった。時間になり、大型バスに乗り込み、事前に決まっていた席に座る。隣は神崎だ。
 バスが出発しても、俺は戸惑ったままだった。困惑していた。

「なあ、お前どうしたんだよ。急に」
「いや......なんでも......」

 こいつに相談できれば、どれだけ楽だったか。俺たちは付き合っていることになっているし、本当のことは言えない。

「なんでもって様子じゃねえぞ。南となんかあったのか?」
「なんでもないって」

 しつこい神崎に少し語気を強めてしまった。こいつなりに心配してくれているのだとわかっているのに。

 いきなり俺は両肩を持たれた。何をされるのかと思い、ビビっていると、頭突きを食らわされた。

「痛いんだけど」
「俺もいてえよ」
「じゃあ、そんなことしないで欲しいんだけど」
「こうしないと、ちゃんと話してくれなかったろ」

 笑ってしまう。どうして頭突きをすれば、まともに話ができると思ったんだ? そういう考えに至った思考回路が全く理解できない。
 でも、神崎らしい、と思える行動で、俺のことを考えてくれたことはわかる。

 相談することにしよう。

「なあ、俺の親戚の息子さんの恋愛について、アドバイスもらえるか?」
「ああ」


 パッと終わるような話ではないので、ホテルに到着した後、二人で話していた。
 男子と女子で泊まっている階が違うので、楓たちに出会うことは今日はなさそうだ。

 俺は、フロントのソファで缶コーヒーを片手に、相談に乗ってもらっていた。俺と楓の名は出さず、あくまで知り合いの話ということにして。

「なるほどな。複雑な恋してんな」

 全くだ。いつから意識し始めたのかもわからない。今日のバスの中だったかもしれないし、二人でボウリングに行った時かもしれないし、クリスマスだったかもしれない。それはわからないけれど、今彼女をただの幼馴染で友達だとは思えなかった。
 
 楓がバスの中で言った、『好きな人』っていうのは友達として、という意味ではないことは俺にもわかっていた。俺は完全に言うタイミングを失い、何も言えなかった。訊くまでもない真意を訊ねることもできなかった。
 
 修学旅行中のどこかで、俺から言おうと思っていた。楓がまだ今の距離感でいたいかもしれない。そんなことを考えたりもしたけれど、自分の気持ちに気づいたからには、言っておくべきだと思っていた。

「ああ!」
「......!? いきなり大声出すなよ。怖いな」
「タイミングが悪い! 俺から言おうと思ってたのにさ......」
「タイミングっていうか、お前の行動が全て遅すぎるんじゃね」
「ぐっ」

 おっしゃる通り。修学旅行に限らず、機会はいつでもあった。もっと早くに自分の気持ちと向き合うべきだった。俺は自分から機会を手放していたんだ。俺なんかが、っていう気持ちがいつもつきまとっていたから。それを言い訳に、逃げていたんだ。
 
「あ、俺の話じゃなくて、親戚の息子さん......の話だから!」
「はいはい。で、南のそれは告白も同然だよな。お前は答える義務があるだろ」

 俺と楓の話ということで、進められる。

「それはわかってるよ。でも、あんな別れ方したら、接し方もわかんないし、なんて言えばいいのかなって......それにあれは冗談だったりしないかな?」
「あの状況でそんな冗談言わないだろ。それに、南が軽くそんなこと言う人間じゃないのは、お前もよく知ってるだろ」

 確かに楓はよく冗談を言うけれど、大抵の場合は数分以内に冗談であることを告げる。それが嘘とならないうちに、言うのだ。
 やっぱり、そうだよな......。

「俺はちゃんと答えるべきだよね。うやむやにせずに」
「当たり前だろ。修学旅行を何の収穫もなく帰りやがったら、今度は数倍の威力の頭突きを食らわしてやる。千草と一緒にな」
「ありがとう。絶対に食らいたくないから、頑張るよ」
「おう」

 俺たちは立ち上がって、飲み終えた缶コーヒーを自販機横のゴミ箱に捨てに行った。
 時計を見ると、もう少しで夕食の時間だった。食べ歩きのせいもあって、あんまりお腹空いてないな。

 エレベーターが来るのを待っている時に、気になってたことを訊いてみた。

「あんまり驚かなかったよね。俺と楓の関係について」

 まあ、隠しても無駄だよな。俺が色々喋っちゃったんだから。楓に何言われるかわからないな。

「ん? まあ、何となくそんな感じはしてたからな」
「そんな感じ?」
「ああ。去年とか変な距離感だったしな。特にお前が」

 また、俺か。身近な人にはバレてるもんなんだな。それを今まで何も言わず付き合ってくれてたと思うと、涙が出そうだ。絶対、出さないけど。
 この様子だと、須藤にも勘付かれてそうだな。

「そっか」
「ん」

 俺たちの部屋がある階に降り、綺麗な廊下を歩いて行く。
 部屋の前まで来たところで、「お前、南のこと好きなのか?」と神崎が最終確認のように訊いてきた。

「好きだよ。楓のこと」

 神崎は俺の答えにニコッと笑って、部屋に入っていった。部屋には他のクラスメイトたちもいるので、騒がしい。
 俺も神崎に続き、入った。
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