けだま

文字の大きさ
上 下
2 / 3

1話

しおりを挟む
 普通の家庭に生まれ、普通に育てられた。ただ、自分が思っていること、経験したことではないことを話す子供だった。思えば幼稚園の頃からそうだったのかもしれない。よく親に友達とこんなことをして遊んだとか学校でこんなことをしたとか、してもいないことを平気で。もちろんいじめられているとか、友人が一人もいないとかそのような境遇ではない。実際に友達とも遊んでいただろうし、学校でも何かしらの活動はしていた。ただ、本当のことを言わなかっただけだ。例えば、友達とレゴで遊んだことを鬼ごっこをした、学校で文字の練習をした時は歌の練習をした、とか。別につかなくてもいい、ついたところで何にもならない嘘をこの頃からつくようになったんだろうか。
 すぐバレる嘘やバレない嘘ではなく、嘘だと分からない嘘。要は嘘を嘘だと疑われないような嘘をつき続けていた。けれど、全てが嘘で塗り固められた頃には、周りから人は遠ざかっていた。嘘をつくことは悪いこと、という認識をしたことがなかった。むしろ、みんな本当のことを言っている訳がない、とまで思っていた。高校に入学してからは、変わろうと努力した。無理だった。そもそも、高校なんてものはある程度中学のコミュニティを持ち上げてくるもので、その中で完全に孤立していた人間に近寄ってくる物好きなど存在しなかった。
 僕は必要事項以外を口にしないことにした。自分から行動せずなるべく人と関わらないことにした。黙ることが最善策であり、最も効果のある方法だった。吐いてしまった。人にはさまざまな欲求があるが僕のそれは完全に欲求と化していた。僕にとって人と話さず嘘をつかないということは、断食をしているに等しかった。どうにも我慢ができなくなると、人と話す代わりにもう一人の自分に話しかけ、嘘をつき続け、欲求を抑えていた。
 高校では友達はできなかったが、いじめられるでもなくごく平凡な冴えない地味な同級生Aとして卒業した。もちろん卒業式の日はクラスで遊びに行ったし、クラスのマドンナに告白された。僕の中では。
しおりを挟む

処理中です...