異世界転生(仮タイトル)

きこり

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第47話「模擬戦 後編」

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模擬戦格闘の部の控室。代表のティンカーベスはセレスを前に土下座していた。

「3連敗、すんません!」

「王都の衛兵は強いから・・」

セレスは焦りながら、立つように促す

実際王都には、ならず者や酔っ払いが多く、問題をよく起こす。
それに対応するのが衛兵達。腕っぷしは相当な物である。

「それに衛兵相手に1勝でも出来たらすごいのが格闘の部だから・・」

「必ず1勝して見せますっ!」

「それよりも・・」

セレスは近付き、ベスに癒しの魔法を発動する

「え?あれ?」

顔の腫れが引いた

「本当はダメだと思うけど・・さすがにね」

格闘の部はヘッドギアとグローブを付けた格闘技だが、3連戦の後はただでは済まない。
棄権する者も増える頃だ。

「女神や・・」

「早く食事して次に備えてね」

食事と言ってもパンとスープのみ。食べ過ぎるとすぐ嘔吐するからである。

そんな中、悠々と食事をする者がいる。
剣士の部の代表、フロストだ。

「今回も敵無しですな」

とロバート

「注意するのは銀板のロティスぐらいかな?」

とロレイン

「ニュートの代わりに出てきたノルディ市の冒険者ですな」

「彼女ならいい勝負になったでしょうね」


ーーーーー
ニュート。王都の一都市であるノルディ市の冒険者。
才能豊かで鉄板の頃から期待されていた。

市内(領内)の護衛依頼に冒険者カードの種類は関係無いので、早くから国外に出ている。
銅板になったニュートは、ロバルデュー領の仕事を受けた時に衝撃を受ける。

人族を超える力を持つ者が多く住んでいるロバルデュー。
そして人族の冒険者も、それに劣らない実力を持っていた。

ロバルデュー家の護衛依頼を受けた時、最強の冒険者達とチームを組む。
ジャンが領主になった後で、交流のある国の行事によく出向いていた。

上には上がいる事を知ったニュートは、ロバルデュー領の仕事をよく受ける事になる。
今回の模擬戦も、フロスト対策に指名されたが、ロバルデューの仕事を優先した。
ーーーーー

そして試合は続く
格闘の部の観客は、ほとんどが庶民でありベスも大喝采を浴びる。
剣士の部は騎士団が出場してるだけに女性が多い。フロストは毎回ブーイングだ。

ちなみに魔法の部は貴族や他国の賓客が観戦している。
この世界は、魔法の強さ=国の強さと言えるぐらいである。


ーーーーー


「エルと対戦する相手が気の毒じゃな」

と魔法の部を観戦するラフィット

「魔術師団も混乱するでしょうね」

と笑みを見せるエルザ

「セラとトルクはそろそろ苦しいだろうな」

と分析するのはエディット

魔術師団には横のつながりがある。対戦相手を分析し、どうすれば勝てるのかを見つけるのが得意なのだ。
軍人の強みである。

「近代魔法ってやべーな」と軍人A

「だいたい商会の連中が確保するからな。戦闘するとこなんて初めて見るし」と軍人B

「あれで魔力が最低レベルだろ?うちでも採用すべきじゃね?」

「教えられる奴が居ない。商会の連中に頭を下げるか?」

「いくら持っていかれるか分らんな・・」

3戦とも違う戦い方を見せたエルに、魔術師団もお手上げであった


そしてエルの4回戦。対戦相手は盾を持ち、腰鎧を付けていた。ローブを着て開始線に移動する。

「ああ・・あれはもうダメだな」

とエディット

「捨て駒でしょ」

とエルザ

「はじめ!」

エルはダッシュし距離を詰める。目で『みえる』様にだ。
魔法を打ち消しながら近づく。対戦相手は盾を構えた。

バチッ!

エルの右手の魔法陣から盾に向かって、小さな稲妻が見える
対戦相手は大きく仰け反った

近距離からのファイアーボール。胴体に直撃し倒れる。魔法剣を出してさらに近づく。
喉を突くように停止。

「まいった」

勝負はあっさりとついた

(4回戦は試合を捨ててくるってママの言った通りだった)


「「「「おおおお~~」」」」

今度は歓声が上がる

「予定通りね」

とエルザ
完全に魔術師団の思考を読み、エルに戦い方を教えていた

「エルに得意な戦い方をさせたのか」

とエディット

「ええ。彼らは今の試合で予定を組むでしょうね」

組まざるを得ないと言うのが本当である

「なるほど。エルの得意な『間』を避けても3回戦までの状態を生かせる訳か」

とラフィット

「そこを攻略出来ないと、魔術師団に勝ち目は無いわ。試合形式だからこその弱点ね」

「なるほど。そうなると一番可哀想なのは冒険者か?」

「ええ。エルを相手に戦意を保てるのは、二人ぐらいね」


そしてセラの4回戦。対戦相手はワグフライ

セラはダッシュする。だが、同時にワグフライも動いた

「!?」

驚くセラは思わず風魔法を使う
ワグフライはファイアーボールで相殺。火と風がぶつかり、爆発した様な状態になる。

「うわっ!」

火の中からワグフライが飛び出してくる
セラは一歩下がると背中に魔法陣を感じた。

風魔法を食らって弾ける様にワグフライに向かって吹き飛ぶ

(もういっちょ)

向かってくるセラにもう一度風の刃をぶつける

「きゃあああ!」

セラは吹き飛び、地面に横たわる。気絶したのだ

「それまで!」

セラは担架で運ばれていった


ーーーーー


「もうつうようしないのかな?」

とエディ

「完全に攻略されてるわね」

とイサベル様

「だいじょうぶかな?ちょっと見てくる」

対魔法ローブで斬られる事は無いが、衝撃は伝わり吹き飛んだ時に何度も転がっていた
職員にセラの控室を聞いてエディは向かった。

ドアをノックして開ける

「しつれいします」

セラは簡易ベッドで横になっている。他には誰も居なかった

「だいじょうぶ?」

「ぅう・まだ痛い・・って君は今朝の?」

「うん。えっと治療しとくね」

エディは癒しの魔法を使う

「痛みが引いた・・・」

セラは自分の体をあちこち触る

「ないしょだよ」

「う、うん」

エディはセラの横に座り、周りを見渡す

「おねえさん一人なの?」

「ええ。家族には内緒にしてるから」

(そう言えば貴族様だったな)

「でもりょうしゅ様のおうちだよね?」

「!?知ってたの?」

「いさべる様にきいた」

「ロバルデュー家の関係者なのね。それでここに来れたんだ」

「うん。バレなかったの?」

「私が勝手にエントリーしたから・」

「ほかに出る人いなかったの?」

セラは首を振り項垂れる

「パウリ領に強い冒険者は居ないから・・」

「へー。この国のぼうけんしゃってみんな強いとおもってた」

「ロバルデューに住んでたらそう思うよね」

「知ってるの?」

「ええ、強い冒険者の事はだいたい知っているわ。会った事は無いけど・・」

「そうなんだ」

「・・・」

(・・・)

「ぱうり領にきてほしいの?」

セラは頷く

「でもおねえさん強いからいいんじゃない?」

セラは首を振る

「この後は勝てそうに無いわね。それに私が強くても意味無いから・・」

(攻略されてるってイサベル様が言ってたな)

「それで恋人ぼしゅーちゅーなんだ?」

セラは頷く

「外観や性格はどうでも良いの。冒険者のレベルを上げたいのよ」

「なんで?」

「・・・」

エディは返答を待つ

「パウリ領って知ってる?」

エディは首を振る

「学園で・・」

「うん」

「・・もう爵位を返上して土地を王都に返したらってよく言われたわ」

「なんで?」

「パウリ領の人口の半分が、他の地で引退した人達。安全な土地で土いじりがしたい人が多いの」

「うん」

「冒険者の仕事は、そんな人の手伝いや木の実集め。たまに野生の豚(猪)や鹿を狩る程度」

「うん」

「悪い人が出た時は、王都から巡回してくれる騎兵や王都の冒険者に討伐を依頼してるの」

「うん」

「税収も少ないのに、過去に王都建設に貢献しからって多くの控除をもらってる」

「うん」

「領地である必要無いでしょ?」

セラの目が赤くなっていた。学園ではもっと酷い事を言われたのだろうと想像がつく

(恵まれてたんだなあ・・)

エディは自分の環境の事を考えてると、ある事を思いつく

「それなら・・」

「え?」

「あとで話すけど・・じりつしたいんだよね?」

「ええ、そうよ。」

「だいじょうぶだよ」

「ふふ・・子供に慰められるなんてね。ううん、話すのもどうかしてたわね」

「つぎのしあいも頑張ってね」

「そうね。まだ終わってないのよね・・」

セラは試合の事を思い出し手が震えだす

「あはは、何だろうな~」

ごまかしながら震える手を抑える

「こわいの?」

(あんな攻撃されたら性別とか関係無いよな・)

セラは素直に頷く

「ねえちゃんもこわい思いして頑張ったからだいじょうぶ」

「お姉さん?」

「ろばるでー代表」

「7歳の・・」

「うん」

「すごいよね。無敗でしょ?」

「うん。でも頑張ってくんれんしたんだよ」

「そう・・普通に天才だと思ってたわ」

「まりょくが足りないからいっぱいべんきょうしてる」

「足りない?」

「げんだいまほうが使えない」

セラは驚く。魔力が少ない人は魔法を諦めるのが普通である

「・・・そう、そんな子でも戦えるんだ」

「うん。あといろいろ考えてる」

「考える?」

「うん。ママにおしえてもらって、あいてを見て変えてる」

「お母さんって?」

「えるざって言うの」

「あの要注意人物?」

「へ?」

セラは首を振る

「何でもないわ。つまり先生が凄腕なのね」

「みたい」

「私にもそんな人がいたら・・」

「ひつよう無いんじゃない?きぞくだし」

「パウリ家から妻を取る貴族なんて居ないわ。平民の家に嫁ぐ事になるでしょうね」

「れりーなさんは普通にしあわせみたいだよ?」

「レリーナ様は冒険者としても優秀でしょ?」

「ぎんばんだね」

「私もそんな風になりたいな・・」

「なれるとおもうよ?」

「そう。ありがとう」

ドアがノックされ、職員が入ってくる

「そろそろ準備をお願いします」

「はい」

「もう一周になるんだ」

「2人ぐらい棄権してるからね」

「へー・・・おねえさん?」

「なに?」

「こうりゃくされたから距離をとってね」

セラは目を見開いた後、笑みを見せる

「君の名前は?」

「えでぃ」

「エディ君、ありがとう」

そう言ってエディの頬にキスをした


ーーーーー


エディは貴賓室に戻る

「遅かったね」

とロラン

「うん。つきそいの人いなかったから」

「一人で来てたの?」

「うん。ねえちゃんは?」

「5回戦も勝ったよ。全勝はエルだけ」

「トルクって人まけたんだ?」

「良いとこまで行ったんだけどねえ・・」

とイサベル様

そしてセラの5回戦。苦戦しながらも距離を稼ぎ、かろうじて勝利する。

「エディ君、何かアドバイスした?」

イサベル様がジト目で見てくる

「こうりゃくされたって言っただけ」

「そう。自分なりに考えたのね」


試合は進んで、エルは魔術師団相手に全勝。そのエルの対戦相手は魔術師団に6勝のセラだ

ーーーーー

観客席は大いに盛り上がった。7歳と16歳女子の対戦だ。

二人はローブを着る

「エディ君のお姉さん。手加減はしないわよ?」

「エディを知ってるの?」

「エディ君のおかげで棄権しないでここまで来れたわ」

「へえー」

「エディ君には悪いけど、勝たせてもらうわ」

と笑みを見せるセラ。エルも笑みで返す

「エディの為に強くならないといけないから・・負けません」

「へ?」

そして開始線に移動した

「はじめ!」

セラは風魔法を打ち続けるが、指向性の魔法で打ち消される

(何あれ?反則物ね)

魔術師団の魔法を凌いできたエルは、当たり前の様に打ち消していく

(遠距離は無理か・・)

セラはダッシュする。エルは攻撃せずに待っている

(余裕って事?)

右手に魔法陣を出し、殴る様にファイアーボールを打つ

(はあ?)

魔法剣にファイアーボールは斬られた。
セラはエルの足元に魔法陣を出す

だが、魔法剣で詠唱を斬られた

(不発?)

エルもダッシュする。殴り合いも出来る程の超接近戦に、セラはビビる

(こんなの魔法使いじゃないっ!)

エルの振る魔法剣が1.5m程の棍棒に変わり、セラの脇腹を捉える

「いった・」

セラは距離を取ろうとする。だが・

「きゃっ」

小さな落とし穴に嵌り、後ろに転んだ

(え?魔法?)

再びエルが向かってくる。セラは転んだまま氷の槍を出す
エルの右手の先に出した魔法陣に、氷の槍は消されていく

(これが近代魔法・・)

エルの魔法陣が棍棒に変化し、立ち上がろうとするセラの足を払う。
そして転んだセラの眼前で棍棒を止める

「まいりました」

もはや模擬戦において、エルの敵は存在しなかった


ーーーーー


(ロランの言った通りになったな・・)

「ねえちゃん強い」

「試合の度に動きが良くなるね」

とロラン

「魔法が使えるエディットって感じね」

とイサベル様

「やっぱり剣のうでいいの?」

(ジェフリーさんが言ってたな)

「そうね。今は無理だけど、将来剣士の部でも優勝できるかもね」

「へえー」

すでに優勝が決まっているエル。最後の対戦相手は魔術師団に4勝、セラに勝ったトルク
トルクは壁際まで近づき、遠距離攻撃を続ける

(魔力が少ないならもっと距離を取れれば勝てるが・・)

試合会場ならエルの魔力でもカバーできる。攻撃を打ち消し、トルクの近くに魔法陣を作って風魔法(圧縮空気)を撃つ。
直後にトルクの魔法を打ち消す。その繰り返しで、徐々にダメージを受けるトルク。

(くそっ。魔力の少なさも武器なのか・)

通常は魔法陣を察知する事から覚えるのだが、魔力の少ない魔法陣に気づいた時は、もう遅かった。
余裕が無くなり、エルの魔法陣をダイブする様に避ける

(やべっ)

エルからファイアーボールが来る。右に飛んで避けるが、ファイアーボールが追ってきた

「はあ?」

腕をクロスしてスライダーを受ける

「痛てええ」

エルを見ると走って向かって来ていた
エルの足元に魔法陣を出すが、指向性の魔法を重ねそのまま走ってくる

(俺も近代魔法の勉強をしよう)

無防備にエルの電気の魔法を食らい、風魔法で壁まで飛ばされる

「まいった」

エルの全勝が決まった

ーーーーー

表彰式。1位から5位まで受けられる

1位、20勝エル(全勝)
2位、19勝ワグフライ
3位、14勝セラ
4位、13勝デビッド
5位、13勝トルク(トルクはデビッドに負けている)
(不戦勝込)

「今回は冒険者が頑張ったわね」

とイサベル様

「そうなの?」

「普通、表彰は受けれないわよ?」

(そう言えばミアさん8位だっけ)

「今夜のパーティーは無駄にならないわね」

「パーティーするの?」

「ええ。フロストは間違い無く勝つから」

(ですよねー)

「ええっと・・」

「何?」

「セラさんよんでもいい?」

「いいわよ。パーティーに招待した事もあるし」

「じゃあいってくる」

エディはセラの控室に向かって行く

「ずいぶん仲良くなったのね」

「・・・」

ロランは憮然とした顔をする

「ふふ、心配は要らないわ。エディ君はああ言う子よ」

「知ってるの?」

「手紙で読んだ程度だけど・・自分を殺そうとした相手も心配しちゃう子でしょ?」

「そうね・・でも・」

イサベルはロランをからかう様に続ける

「ふふ、女の子なのが気に入らない?」

「・・・気に入らない」

「エディ君モテそうだしねえ・」

「ぐぬぬ」

「大丈夫よ。たぶんエルさんと仲良くなって欲しいんだと思うから」

「エルと?」

「ええ。コールを指名したのも同じ」

「あー。なんとなく分かる・・かも?」

「そろそろエルさんを迎えに行きましょ」

「そうね」


試合が終わり、観客は街に繰り出していく。模擬戦の後は前夜祭の様な雰囲気になる。
収穫祭初日。模擬戦を話題に、夜遅くまで街中が盛り上がった

ーーーーー

フロストは5年連続全勝優勝

ベスは衛兵相手に3勝(2勝は不戦勝)を挙げ、11勝で5位入賞。衛兵同士で潰しあったのが功を奏した。
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