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第43話「王都へ」
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8月下旬。エルが模擬戦と同じ実戦を行う。エディ達も見学に来ていた。
本番で使える補助具は一つ。ミアは杖でなく、小型の盾を持つ。
近代魔法対策だ。
エルは杖を使わない。ロレインに貰った指輪一つである。
「はじめ!」
同時にミアがエルの周囲に風魔法の魔方陣を連続で作り、後方に追いやって距離をとる。
エルが正面に出来た魔方陣に、指向性の魔法を重ねた。
ミアが魔方陣を消して右手の前に魔方陣を作った時、エルの魔方陣が発動したまま変化した。
「え?」
近代魔法のファイアーボールが向かってくる
「は、はやっ・」
ギイン!
盾で弾いたが、ミアはよろけた。エルの足元に魔方陣を作り、追撃を阻もうとする。
エルは魔方陣を見る事無く、勘で魔方陣から足をずらしていく。
「!?」
再びファイアーボールが向かってくる。盾で弾いて弾道をずらす
「何?」
立続けに近代魔法の風魔法が向かって来た
パアンッ!
「きゃっ」
盾で防ぐが圧縮空気が破裂し、ミアは後ろに転ぶ
(や、やば・)
近代魔法は対魔法ローブで防げない。ミアは焦る
転んだまま魔方陣を作り、ファイアーボールを放つ
エルは指向性の魔法で打ち消しながら、距離を縮めようとする
ミアが水魔法を応用して、霧化させる。エルの足が止まった
ミアがエルの頭上から風魔法を放つ。お互い位置が分かりづらいので出鱈目に攻撃する。
「う、うわっ」
正確に自分を狙う魔方陣は防げるが、出鱈目になるとエルも混乱した
風魔法を避けるエルの影に、ミアは右手で狙いをつける
ファイアーボールが霧を裂いてエルに向かう
「きゃっ!」
エルは直撃を食らった。ミアは畳みかけるように攻撃を続ける
エルの頭上から風魔法で牽制し、狙いをつける右手の先にエルの影が重なるとファイアーボールを放つ。
「っ!」
エルは完全に転んだ。頭上からの風魔法を浴び続ける
指向性の魔法で一部を打ち消すが、ミアから直接攻撃される魔法には対応出来なかった。
「きゃあっ!」
「それまで!」
エルが着る対魔法ローブの魔石の効果が切れてしまった
「つ・・疲れた・」
ミアも魔力を消耗していた
ーーーーー
(なんか姉ちゃん強くなってね?)
フレア達と戦った時と比べると見違えていた。
ミアが霧を使わなかったら、圧勝していた可能性もある。
エルはエルザとラフィットから指導を受ける。
普段から戦闘に関してレクチャーを受けてるので、改善点を指示される。
エディは休憩しているミアの所に行った。
「みあさん、ねえちゃんどお?」
「エルがすごいのか近代魔法がすごいのか、わかんないね」
「そうなの?」
「まともに戦うのはヤバいね」
(あれでも威力を落としてるんだけど・・・ロランの本気ってどうなんだろう?)
「ねえちゃんもぎ戦にでたらどうかな?」
「うーん、近代魔法を知らない相手なら一撃かもね」
(ロランが全勝する様な事言ってたのはマジなのか)
「あのファイアーボールの速さにはビックリね」
「ふつう速くないの?」
「魔力量次第だけど、魔法師団より速いと思うよ」
「へー」
(速度も落としてるんだけど・・)
休憩している間に、レリーナとロレインの模擬戦が始まった
ーーーーー
「・・・・・」
レリーナの使う魔法の威力がすごい。
ロレインに近接の魔方陣は無意味なので、レリーナは遠距離で最大魔法を使う。
それでもロレインには当たらない。速度を上げるため、レリーナはさらに魔力を込める。
(ミアさんとは桁違いの威力だな)
ロレインは涼しい顔をして魔法を避ける
そして右手に魔方陣を作った
「!?」
レリーナはビビって盾を構える。レリーナは領主の戦闘を見た事がある。
ロレインの口角が上がる。まさしくニヤリとなった
「きゃあ!!」
魔方陣が足元に移り、落とし穴になってすっぽりと嵌った
ロレインは穴から這い出ようとするレリーナの頭上に、魔法剣を突き付ける。
「まいりました・・」
ロレインの圧勝だった
ーーーーー
「えーと、みあさん、ロレインやばくね?」
「まあ・・領主様の息子だし?」
(領主様と言うより、アオキさんの血統がすごいのかな?)
ロレインとレリーナが戻ってくる
「ロレインつよすぎじゃない?」
「レリーナさんには扱かれてきたからね。戦い方を知ってるのもあるよ」
とロレイン
「近代魔法と戦う事なんて無かったから、思う様にはいかないわね」
とレリーナ
「ロレインっていま、どれぐらいつよいの?」
聞いてみた
「魔法師団なら即採用ね。現代魔法も使えるし」
ロレインは学塾で現代魔法も習っている
「ロレインは魔獣もたおせる?」
オーサーが9歳の時に倒してるので聞いてみた
「倒せるかも知れないけど、実戦はまだ無いからどうかしら?」
(ふむ)
姉ちゃんの訓練は続く。
模擬戦本番までは他の勉強を休んで、実戦形式の訓練ばかりになる。
ミアとレリーナはエルの訓練を、ロレインはセレスを鍛えていた。
エディが一人で眺めていると、後ろからロランがいきなり抱きつく
「ただいま」
「ロラン・・転移してきたの?」
「うん」
「りょうしゅ様が普段はダメって」
「場所は選んでるから大丈夫」
(その場所に俺のベッドも入ってるのだが・・)
エディは、転移魔法ほど夜這いに向いている魔法は存在しないと理解した。
天才の中の天才でもあるロランとジェフリーさんは、すでに転移魔法が使える。
一度発動に成功すると、緯度経度は自由に選べる事も分かった。
ーーーーー
日々が過ぎ、9月5日の朝。姉ちゃんが王都に向けて出発する。
領主の家紋が入った馬車が3台とリック。
乗車するのはロバートさん、使用人二人、ロレイン、セレス、たまに姉ちゃんなのだが・・
「ろーれんす様、なんで居るの?」
「うん?僕も一緒に行くんだよ?」
「ていうか、どこにいたの?」
「マークスリだよ。フイルムの開発に混ぜてもらったんだ」
王家はそれなりの教育を受けるだけに、ローレンスも頭は良い
(それで3台用意したのか)
「りょうしゅ様はいかないの?」
「俺は居残りだ。バスデンがいつ戻るか分からんからな」
(あー、フレアの件ね)
「エディは一緒じゃなくて良いのか?」
「うん、ロランといく」(転移で)
馬車の旅も楽しみだが、帰りだけにする。姉ちゃんの応援に『シロ』を連れていきたいのだ。
なので模擬戦の日に往復しないといけない。
姉ちゃんとリック、セレスがやってくる
「じゃあエディ、王都でね」
「うん」
「ママには伝えてるから、いつでも来てね」
「うん」
王都では領主の別宅で世話になる事になっている。
そして馬車は出発した。護衛にはブランさん含む私兵が8人居るから心配ない。
馬車を見送ってると、他の馬車も目に入る
「ばしゃ多いね」
「この時期は護衛不足だからな。なるべく集団で移動するんだ」
前世のテレビで見た、砂漠を移動する商隊を思い出す
(キャラバンみたいなものか)
昔より道は良いとはいえ、片道3日。天候次第では伸びる可能性も。
建設中の国策道路が望まれるのも、2日未満に短縮出来るからである。
仕事が休みなので、ロランの居る治療院に向かった
一人で家に帰宅するのは禁止されてるのだ。
「おや?エディじゃないか」
ジェフリーさんが紅茶を飲んでいた
「やすみだからあそびにきた」
「そうか。ちょうど良い、ちょっと詠唱を見て行ってくれるか?」
遊びに来たのに仕事になった
研究室には何かの模様のスケッチと、詠唱を書いた物が沢山ある。
「この絵は?」
「薬草の細胞よ」
ロランが教えてくれる
「成分の働きから予想した詠唱を作ってるの」
(この詠唱は病気を治す癒しの魔法か・・)
「成功したの?」
「まだ未完成よ?」
(ふむ)
一通り詠唱に目を通してると、コールがやって来た
「お待たせしました~」
「コールおはよう」
「おはようエディ君」
「さすがに早いわね」
ロランは魔法バッグから薬草を取り出す
「すくなくない?」
「研究で使ってるから沢山消費できないの」
まあ、この国の薬を支えてるのが第三森林だと聞いている
「でも、これだけでも集めようと思ったら半日はかかるよ?」
「へえー」
魔力が少ない魔法使いのコールは、薬草集めで生計を立てられる程だ
「エディ君はお休み?」
「うん。ねえちゃん達が帰るまで」
「王都の収穫祭には行かないの?」
「いくよ?」
「じゃあ明日出発?」
「パパとママはね」
「・・・」
パパとママは、じいちゃんとばあちゃんを連れて出発する
「えっと・・もしかして?」
俺とロラン、ジェフリーさんはニヤリとする
「い、いいのかな?」
「コールもいく?」
「そ、そんな旅費は・・」
「旅費の心配はいらないよ」
とニコニコ顔のジェフリーさん
「は・・はあ・・」
転移魔法を覚えたロランとジェフリーさんは、魔法を覚えたての子供の様だった
ーーーーー
6日朝、パパ達の出発を見送った。パパとママは、馬車の一団の護衛も務める。
俺は模擬戦には遅れる可能性もあるとごまかしている。
(今日からロランと二人っきりか・・)
まあ、今更である
ロランと『シロ』の世話をする。もう肉を食べるが、ミルクも飲みたがる甘えん坊だ。
子虎とは言え、3歳の肉体で相手にできないので眺めているとルッツェルさんが来た。
「るってるさん、はやいね」
「ああ、獲物も狩りに行きたいからね」
『シロ』の餌の小動物だ。狩りの訓練にもなる
『シロ』はルッツェルさんに飛びついてじゃれる。さすが獣人、獣の扱いは慣れたものである。
「模擬戦の日はいいんだな?」
「うん。つれていくから」
「分かった」
ルッツェルさんを説得する為に、転移魔法の事を話した。言うまでもなく内緒にしてもらった。
そしてロランと一緒に治療院に向かう
エルが学塾に行く日は歩きだが、休みや不在の時はポルで通っている。
「ポル、ひさしぶり」
「ブルル」
「じゃあいってくるね」
「おう、『シロ』は任せとけ」
久しぶりにロランとポルに乗って駆けだした
ーーーーー
エルSide
6日早朝にリックを走らせたエルはキャンプに戻る
バクストン領にある停車場で、一夜を明かした。
本来なら用意されてる屋敷を利用するが、冒険者であるエルの為に訓練としてテントを張った。
とは言え、大通りの停車場なので、トイレ・シャワー・炊事場が完備されていた。
キャンプ初心者にはいい場所である
「朝食出来ていますよ」
リックの餌と水を用意していると使用人のセズに呼ばれ、朝食に行く
「ありがとう」
「屋敷に居るような食事は出せませんが・・」
人数が居るのでパンとシチューである
「「「いただきます」」」
見張り2人を残して食事をする
「おいしい!」
「ありがとうございます」
「え、ええっと、私がお礼を言いたいぐらいで・・」
「遠慮はいりません。もしかしたら未来の若おぐっ」
そこでもう一人の使用人ルビナから肘で突かれる
「こほん。申し訳ありません」
「?」
休憩の度に、初めて見る景色に大はしゃぎのエル。
そんなエルに寄り添って、ロレインは土地の説明をしていた。
そんな二人を微笑ましく見ていた使用人は、勤勉なエルに期待している。
貴族であるロレインの年齢は、婚約者がいても不思議では無い。
身分は二の次で、領地の為に働くロバルデュー家の使用人らしさが出ていた。
「見張り、交代します」
食事を済ませたエルは、見張りの任務に就く。これも冒険者には必要な仕事だ。
およそ半刻(約1時間)程で、馬車の一団がやってくる。
シルヴェールを一緒に出発した一団は、手前の街の宿屋に宿泊していた。
「みんな来たよー」
出発の時間だ。だがその前に、ロバートがエルとロレインを呼ぶ。
「二人とも、この指輪をはめてください」
「指輪?」
エルは手に取って見つめる
「きれい」
左手には魔装具があるので、右手の人差し指にはめようとする
「エル嬢、婚約指輪ですよ。左手の薬指に・・」
「ふぇ」
指輪を持ったまま口をパクパクさせるエル。言葉が出てこない
「この先は他の地や他国の貴族に会いますからね。護身の為です」
「は、はははい」
そして指輪をはめた
「「イエーーーイ!」」
そう言ってハイタッチする使用人の二人
「お前たち、どうした?」
呆れるロバート
「「こほん。申し訳ありません」」
子供の場合、実際に婚約したとしても将来結婚するとは限らない。
そのまま結婚しても良し、他に良い相手が出来れば破棄しても良い。
貴族達にすれば、やっかいな虫が付かないように早めに婚約させておく事が多い。
よく理解している使用人二人は、エルの様子に手ごたえを感じていた
本番で使える補助具は一つ。ミアは杖でなく、小型の盾を持つ。
近代魔法対策だ。
エルは杖を使わない。ロレインに貰った指輪一つである。
「はじめ!」
同時にミアがエルの周囲に風魔法の魔方陣を連続で作り、後方に追いやって距離をとる。
エルが正面に出来た魔方陣に、指向性の魔法を重ねた。
ミアが魔方陣を消して右手の前に魔方陣を作った時、エルの魔方陣が発動したまま変化した。
「え?」
近代魔法のファイアーボールが向かってくる
「は、はやっ・」
ギイン!
盾で弾いたが、ミアはよろけた。エルの足元に魔方陣を作り、追撃を阻もうとする。
エルは魔方陣を見る事無く、勘で魔方陣から足をずらしていく。
「!?」
再びファイアーボールが向かってくる。盾で弾いて弾道をずらす
「何?」
立続けに近代魔法の風魔法が向かって来た
パアンッ!
「きゃっ」
盾で防ぐが圧縮空気が破裂し、ミアは後ろに転ぶ
(や、やば・)
近代魔法は対魔法ローブで防げない。ミアは焦る
転んだまま魔方陣を作り、ファイアーボールを放つ
エルは指向性の魔法で打ち消しながら、距離を縮めようとする
ミアが水魔法を応用して、霧化させる。エルの足が止まった
ミアがエルの頭上から風魔法を放つ。お互い位置が分かりづらいので出鱈目に攻撃する。
「う、うわっ」
正確に自分を狙う魔方陣は防げるが、出鱈目になるとエルも混乱した
風魔法を避けるエルの影に、ミアは右手で狙いをつける
ファイアーボールが霧を裂いてエルに向かう
「きゃっ!」
エルは直撃を食らった。ミアは畳みかけるように攻撃を続ける
エルの頭上から風魔法で牽制し、狙いをつける右手の先にエルの影が重なるとファイアーボールを放つ。
「っ!」
エルは完全に転んだ。頭上からの風魔法を浴び続ける
指向性の魔法で一部を打ち消すが、ミアから直接攻撃される魔法には対応出来なかった。
「きゃあっ!」
「それまで!」
エルが着る対魔法ローブの魔石の効果が切れてしまった
「つ・・疲れた・」
ミアも魔力を消耗していた
ーーーーー
(なんか姉ちゃん強くなってね?)
フレア達と戦った時と比べると見違えていた。
ミアが霧を使わなかったら、圧勝していた可能性もある。
エルはエルザとラフィットから指導を受ける。
普段から戦闘に関してレクチャーを受けてるので、改善点を指示される。
エディは休憩しているミアの所に行った。
「みあさん、ねえちゃんどお?」
「エルがすごいのか近代魔法がすごいのか、わかんないね」
「そうなの?」
「まともに戦うのはヤバいね」
(あれでも威力を落としてるんだけど・・・ロランの本気ってどうなんだろう?)
「ねえちゃんもぎ戦にでたらどうかな?」
「うーん、近代魔法を知らない相手なら一撃かもね」
(ロランが全勝する様な事言ってたのはマジなのか)
「あのファイアーボールの速さにはビックリね」
「ふつう速くないの?」
「魔力量次第だけど、魔法師団より速いと思うよ」
「へー」
(速度も落としてるんだけど・・)
休憩している間に、レリーナとロレインの模擬戦が始まった
ーーーーー
「・・・・・」
レリーナの使う魔法の威力がすごい。
ロレインに近接の魔方陣は無意味なので、レリーナは遠距離で最大魔法を使う。
それでもロレインには当たらない。速度を上げるため、レリーナはさらに魔力を込める。
(ミアさんとは桁違いの威力だな)
ロレインは涼しい顔をして魔法を避ける
そして右手に魔方陣を作った
「!?」
レリーナはビビって盾を構える。レリーナは領主の戦闘を見た事がある。
ロレインの口角が上がる。まさしくニヤリとなった
「きゃあ!!」
魔方陣が足元に移り、落とし穴になってすっぽりと嵌った
ロレインは穴から這い出ようとするレリーナの頭上に、魔法剣を突き付ける。
「まいりました・・」
ロレインの圧勝だった
ーーーーー
「えーと、みあさん、ロレインやばくね?」
「まあ・・領主様の息子だし?」
(領主様と言うより、アオキさんの血統がすごいのかな?)
ロレインとレリーナが戻ってくる
「ロレインつよすぎじゃない?」
「レリーナさんには扱かれてきたからね。戦い方を知ってるのもあるよ」
とロレイン
「近代魔法と戦う事なんて無かったから、思う様にはいかないわね」
とレリーナ
「ロレインっていま、どれぐらいつよいの?」
聞いてみた
「魔法師団なら即採用ね。現代魔法も使えるし」
ロレインは学塾で現代魔法も習っている
「ロレインは魔獣もたおせる?」
オーサーが9歳の時に倒してるので聞いてみた
「倒せるかも知れないけど、実戦はまだ無いからどうかしら?」
(ふむ)
姉ちゃんの訓練は続く。
模擬戦本番までは他の勉強を休んで、実戦形式の訓練ばかりになる。
ミアとレリーナはエルの訓練を、ロレインはセレスを鍛えていた。
エディが一人で眺めていると、後ろからロランがいきなり抱きつく
「ただいま」
「ロラン・・転移してきたの?」
「うん」
「りょうしゅ様が普段はダメって」
「場所は選んでるから大丈夫」
(その場所に俺のベッドも入ってるのだが・・)
エディは、転移魔法ほど夜這いに向いている魔法は存在しないと理解した。
天才の中の天才でもあるロランとジェフリーさんは、すでに転移魔法が使える。
一度発動に成功すると、緯度経度は自由に選べる事も分かった。
ーーーーー
日々が過ぎ、9月5日の朝。姉ちゃんが王都に向けて出発する。
領主の家紋が入った馬車が3台とリック。
乗車するのはロバートさん、使用人二人、ロレイン、セレス、たまに姉ちゃんなのだが・・
「ろーれんす様、なんで居るの?」
「うん?僕も一緒に行くんだよ?」
「ていうか、どこにいたの?」
「マークスリだよ。フイルムの開発に混ぜてもらったんだ」
王家はそれなりの教育を受けるだけに、ローレンスも頭は良い
(それで3台用意したのか)
「りょうしゅ様はいかないの?」
「俺は居残りだ。バスデンがいつ戻るか分からんからな」
(あー、フレアの件ね)
「エディは一緒じゃなくて良いのか?」
「うん、ロランといく」(転移で)
馬車の旅も楽しみだが、帰りだけにする。姉ちゃんの応援に『シロ』を連れていきたいのだ。
なので模擬戦の日に往復しないといけない。
姉ちゃんとリック、セレスがやってくる
「じゃあエディ、王都でね」
「うん」
「ママには伝えてるから、いつでも来てね」
「うん」
王都では領主の別宅で世話になる事になっている。
そして馬車は出発した。護衛にはブランさん含む私兵が8人居るから心配ない。
馬車を見送ってると、他の馬車も目に入る
「ばしゃ多いね」
「この時期は護衛不足だからな。なるべく集団で移動するんだ」
前世のテレビで見た、砂漠を移動する商隊を思い出す
(キャラバンみたいなものか)
昔より道は良いとはいえ、片道3日。天候次第では伸びる可能性も。
建設中の国策道路が望まれるのも、2日未満に短縮出来るからである。
仕事が休みなので、ロランの居る治療院に向かった
一人で家に帰宅するのは禁止されてるのだ。
「おや?エディじゃないか」
ジェフリーさんが紅茶を飲んでいた
「やすみだからあそびにきた」
「そうか。ちょうど良い、ちょっと詠唱を見て行ってくれるか?」
遊びに来たのに仕事になった
研究室には何かの模様のスケッチと、詠唱を書いた物が沢山ある。
「この絵は?」
「薬草の細胞よ」
ロランが教えてくれる
「成分の働きから予想した詠唱を作ってるの」
(この詠唱は病気を治す癒しの魔法か・・)
「成功したの?」
「まだ未完成よ?」
(ふむ)
一通り詠唱に目を通してると、コールがやって来た
「お待たせしました~」
「コールおはよう」
「おはようエディ君」
「さすがに早いわね」
ロランは魔法バッグから薬草を取り出す
「すくなくない?」
「研究で使ってるから沢山消費できないの」
まあ、この国の薬を支えてるのが第三森林だと聞いている
「でも、これだけでも集めようと思ったら半日はかかるよ?」
「へえー」
魔力が少ない魔法使いのコールは、薬草集めで生計を立てられる程だ
「エディ君はお休み?」
「うん。ねえちゃん達が帰るまで」
「王都の収穫祭には行かないの?」
「いくよ?」
「じゃあ明日出発?」
「パパとママはね」
「・・・」
パパとママは、じいちゃんとばあちゃんを連れて出発する
「えっと・・もしかして?」
俺とロラン、ジェフリーさんはニヤリとする
「い、いいのかな?」
「コールもいく?」
「そ、そんな旅費は・・」
「旅費の心配はいらないよ」
とニコニコ顔のジェフリーさん
「は・・はあ・・」
転移魔法を覚えたロランとジェフリーさんは、魔法を覚えたての子供の様だった
ーーーーー
6日朝、パパ達の出発を見送った。パパとママは、馬車の一団の護衛も務める。
俺は模擬戦には遅れる可能性もあるとごまかしている。
(今日からロランと二人っきりか・・)
まあ、今更である
ロランと『シロ』の世話をする。もう肉を食べるが、ミルクも飲みたがる甘えん坊だ。
子虎とは言え、3歳の肉体で相手にできないので眺めているとルッツェルさんが来た。
「るってるさん、はやいね」
「ああ、獲物も狩りに行きたいからね」
『シロ』の餌の小動物だ。狩りの訓練にもなる
『シロ』はルッツェルさんに飛びついてじゃれる。さすが獣人、獣の扱いは慣れたものである。
「模擬戦の日はいいんだな?」
「うん。つれていくから」
「分かった」
ルッツェルさんを説得する為に、転移魔法の事を話した。言うまでもなく内緒にしてもらった。
そしてロランと一緒に治療院に向かう
エルが学塾に行く日は歩きだが、休みや不在の時はポルで通っている。
「ポル、ひさしぶり」
「ブルル」
「じゃあいってくるね」
「おう、『シロ』は任せとけ」
久しぶりにロランとポルに乗って駆けだした
ーーーーー
エルSide
6日早朝にリックを走らせたエルはキャンプに戻る
バクストン領にある停車場で、一夜を明かした。
本来なら用意されてる屋敷を利用するが、冒険者であるエルの為に訓練としてテントを張った。
とは言え、大通りの停車場なので、トイレ・シャワー・炊事場が完備されていた。
キャンプ初心者にはいい場所である
「朝食出来ていますよ」
リックの餌と水を用意していると使用人のセズに呼ばれ、朝食に行く
「ありがとう」
「屋敷に居るような食事は出せませんが・・」
人数が居るのでパンとシチューである
「「「いただきます」」」
見張り2人を残して食事をする
「おいしい!」
「ありがとうございます」
「え、ええっと、私がお礼を言いたいぐらいで・・」
「遠慮はいりません。もしかしたら未来の若おぐっ」
そこでもう一人の使用人ルビナから肘で突かれる
「こほん。申し訳ありません」
「?」
休憩の度に、初めて見る景色に大はしゃぎのエル。
そんなエルに寄り添って、ロレインは土地の説明をしていた。
そんな二人を微笑ましく見ていた使用人は、勤勉なエルに期待している。
貴族であるロレインの年齢は、婚約者がいても不思議では無い。
身分は二の次で、領地の為に働くロバルデュー家の使用人らしさが出ていた。
「見張り、交代します」
食事を済ませたエルは、見張りの任務に就く。これも冒険者には必要な仕事だ。
およそ半刻(約1時間)程で、馬車の一団がやってくる。
シルヴェールを一緒に出発した一団は、手前の街の宿屋に宿泊していた。
「みんな来たよー」
出発の時間だ。だがその前に、ロバートがエルとロレインを呼ぶ。
「二人とも、この指輪をはめてください」
「指輪?」
エルは手に取って見つめる
「きれい」
左手には魔装具があるので、右手の人差し指にはめようとする
「エル嬢、婚約指輪ですよ。左手の薬指に・・」
「ふぇ」
指輪を持ったまま口をパクパクさせるエル。言葉が出てこない
「この先は他の地や他国の貴族に会いますからね。護身の為です」
「は、はははい」
そして指輪をはめた
「「イエーーーイ!」」
そう言ってハイタッチする使用人の二人
「お前たち、どうした?」
呆れるロバート
「「こほん。申し訳ありません」」
子供の場合、実際に婚約したとしても将来結婚するとは限らない。
そのまま結婚しても良し、他に良い相手が出来れば破棄しても良い。
貴族達にすれば、やっかいな虫が付かないように早めに婚約させておく事が多い。
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元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。
そして更に二年、とうとうその日が来た……
冷宮の人形姫
りーさん
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冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
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12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます
ツバキ
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貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう
どんどん更新していきます。
ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。
乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う
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ここは乙女ゲームの世界
悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…
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