異世界転生(仮タイトル)

きこり

文字の大きさ
上 下
40 / 48

第40話「秋」

しおりを挟む
模擬戦に向けて初訓練をした日の夜。エルはベッドの中で、声を殺して泣いていた。
エルは悔しかった。自分が情けなさすぎて涙が止まらない。


コールと一緒に夕食を食べ、いろんな話をした。そしてコールの事もよく分かった。

自分は恵まれている。優秀な先生。優秀な仲間。エルの為に動いてくれる大人達。
そして、自分を信じて守ってほしいと言った弟。

しかし訓練では魔法を2つ受けて怖くなってしまった。対してコールは?

バクストン領から単身でやって来たコール。学塾を卒業して、憧れていた魔法使いとして冒険者になった。
この地に来たのは弟や妹が多いので、家族に負担をかけない為だ。

魔法が弱く、仕事が少ないコール。薬草採集とたまに小動物を狩って、生計を立てていた。
獣の討伐も護衛の仕事も彼女は出来なかった。

そんなコールにエルザから声がかかる。
対人で、本気で戦える最初で最後の機会かも知れない。そう思いすぐに提案を受けた。

7歳のエルから見てもコールは弱い。だがレリーナの猛攻に最後まで立ち向かおうとした。

心の強さは、雲泥の差があった。

ーーーーー

リビングのソファーで、ロランは眠る『シロ』を撫でていた。エルザは編み物をしている。
エディットはソファーに座り目を瞑ったまま。祖父と祖母は治療院に短期入所中だ。

この世界はテレビや車が無いので、夜は静かだ。そして冒険者としても優秀な3人。
確認するまでも無く、エルの事は3人共分かっていた。

「寝ちゃったね」

とロラン

「コールには悪い事したけど、エルの刺激になった様ね」

とエルザ

「でもコールもいい経験になったと思うよ?」

「そうだと良いけど」

天然の魔石を使って模擬戦をするには、個人では負担が大きすぎる。
だからこそコールは飛びついた。

「コールも近代魔法の勉強が出来たらいいのに・・」

「今からエル達と一緒にするのは難しいよ?」

「そうよねえ・」

エディットが目を開け、体を起こす

「魔装具では無理なのか?」

「コールでは買えないと思うよ?」
 
「そうか・・」

「それに魔装具は特性を変えるだけだから」

「魔力は変わらないのか?」

「強くするのは魔石だけだね」

「商会の魔法士は使ってるだろ?」

「連続して魔力を放出してるだけで、強くはなってないよ?」

「そうなのか」

エルザは編み物を途中で終わらせ籠に入れる

「エルはどうするのかしら?」

「朝にならないと分からないね」

「そうね」

「それじゃ、先に風呂へ行かせてもらうよ」

「ええ」「うん」

普段はエディットが一番早く寝るので、風呂も一番風呂である。
ロランは『シロ』をエルの横に寝かせて、自分の部屋に入った。

(エディだったらどうするのかな?)

ロランは何となく、エディならコールに助言出来そうな気がしていた。


ーーーーー


翌日、エディは翻訳作業をしながら、姉を心配している。
ロレイン達に訓練の様子を聞いて知っていた。

(姉ちゃん大丈夫かな?こればっかりは本人次第だしなあ・・)

模擬戦の訓練は2日開けてする事で決まっている。
エルザもレリーナも働いており、ミアは訓練の日だけ来るように契約されている。

魔族のリルリレシリューは暇を持て余しているが、エルが大怪我をしそうな場合に止める役目だけを受けている。


一日の仕事が終わり、エディはセレスと風呂に入っていた。

「ねえちゃんどうだった?」

「いつもと一緒だったと思うけど?」

(ふむ)

「次のくんれんだいじょうぶかな?」

「あんなに怖いと思わなかったから・・」

(本番はもっとすごいんだろうな)

セレスはビビって訓練を受けなかった

「セレスねえちゃんはくんれんしないの?」

「う、うん・・そのうち・」

(様子見かな?)

風呂を上がり、食事を済ませる。セレスが部屋に戻る前にキスしてくる。
一度ハードルを越えると、次からは行動しやすい。セレスのキスも日課になってきた。

(今は子供だからいいけど・・どうなのかな?)

セレスはロバルデューの領主の娘。基本的に貴族に嫁ぐ身だ

(まあいいか。学塾か学園に行く頃には変わってるだろう)

セレスは黒髪黒目の美少女(美幼女?)だ。成長すると綺麗になるのはもう分かっていた。
エディも無意識に前世の姉を重ねている。「セレスねえちゃん」と呼ぶのもその為だ。

それに気づくのはセレスがもう少し成長してからの話。
エディはセレスへの交際や求婚の申し込みは多いだろうと予想していた。


エディはジャンの部屋に向かった。ドアをノックする

「入れ」

エディは部屋に入る

「エルの事か?」

「うん」

ロレインから話を聞いてるが、大人の目線も聞きたい。
領主なら報告を受けてるはずだと思ってここに来た

「エルが思ってたのと違って困惑したんだろう」

「だいじょうぶかな?」

「誰でも壁にぶち当たる。エルはまだ7歳だ。今回は当然の結果だな」

「ふれあに勝てても、だめなんだね」

「魔法使いはフレアとしか戦ってないのも大きいかもな」

(フレアの氷の槍、すごかったけど)

「フレアよわいの?」

「この地ならな」

(話に聞いたコールって人とどうなのかな?)

「コールって人とは?」

「コールの魔法では通用しないな」

(コールって人、そんなに魔力が無いのか・・)

「まりょくって増えないの?」

「生まれ持った物だ。増える事は無い」

(増やせたら姉ちゃんをどうにかしてるか・・)

「きんだい魔法しかない?」

「そうだな。だが勉強の方を遅らせるのは困る。ロレインは卒業したら王都の学園に入れるからな」

(まあ、そうだ。ロランでも10年近く勉強したんだ)

ーーーーー

エディは考える。ロレインの都合さえどうにかできれば、コールも一緒に勉強出来るのでは無いか?
姉と仲良くなった様だし

(あっ)

「えーと」

「何だ?」

「アオキ・セイジは地図をつくってない?」

「地図?ある事はあるが?」

「アオキの?」

「そうだ」

「みれない?」

「・・・」

ジャンは少し考える

「用途を聞いていいか?」

(そう来ますよね)

「えっと・・てんい魔法」

ジャンはため息をついた

「エディも気づいたか。まあ初代の知識の事も知ってるしな」

(うん?)

「てんい魔法しってるの?」

「いや。だがあの地図が転移魔法につながると祖父の時から予想されてる」

(やはり緯度経度が載ってるな・・それも細かく)

「てんい魔法けんきゅうしなかったの?」

「あれは知らない方が良い魔法だ。アオキだから許されたとも言える」

「なんで?」

「転移魔法を使える者が、この地に居ると知られたらどうなると思う?」

「・・・」

「消し去るか取り込む。この2択になるだろうな」

「そうなの?」

「転移魔法を使えば、子供でも暗殺者になれる」

(あ!)

「寝ている所に転移して、ナイフで刺せば終わりだ」

(・・・)

「他の国だけじゃない。この国の権力者も怯えて暮らす事になるだろう」

「・・たいこうできないの?」

「暗殺する奴が、声をかけてくれると思うか?」

(それもそうか。アンガスも暗殺されたんだし)

「ロレインが転移魔法を使えれば、コールに最初から教えれると思ったのだろうが・・無理だな」

(それはついでなだけで・)

「えーと、ほんとは別のことに使いたかったけど」

「何だ?」

「ロランにおしえて『ポチ』とたたかってもらう」

「・・・」

(・・・)

「『ポチ』とは何だ?」

(そうだった)

「えっと・・北のだいしんりんのドラゴン」

「は?」

「しりあいになった」

「ドレイクから報告は受けてるが・・知り合い?」

「うん。むかしアオキとあそんでたみたい」

「それがどうして戦うんだ?」

「アオキと戦ってあそんでたみたい」

「・・・」

ジャンはこめかみを抑えて悩む

「初代はそんな事をしてたのか・・」

「うん。きおくをもらって、てんい魔法のまほう陣をみた」

「そんな事が出来るのか?」

「うん」

「転移魔法を見たのか?」

「うん。あれが無いとロランでもたたかえないよ」

「ロランより強いと?」

「そうじゃなくて・・殺さないようにたたかう?」

「ああ、そう言う事か。あの巨体を躱す為に必要だと?」

「うん」

「それは断れないのか?」

「やくそくした」

「破るとどうなる?」

「・・・あばれる・・かも?」

「嘘くさいな」

(バレたか)

実際は分からないが、アオキが寿命を迎えたのも知らずに待てるぐらいだし

「ドラゴンか・・ん?」

「ん?」

「エディはドラゴンと会話が出来るのか?」

「どらごんにする気があったらできるよ」

『タマ』や『ポチ』から繋いでもらわないと、会話は出来ない。『タマ』は繋ぎっぱなしだけど

「なるほど」

「どうかな?」

「すぐに返事は出来んな。少し考えさせてくれ」

「うん」


ーーーーー


いつもの様に日々を過ごしていく。姉ちゃんも諦めずに訓練を続けていた。
まだまだ苦労しているが、ロレインが急成長しているみたいだ。

セレスが言うには普通の魔法攻撃なら、もうロレインには当たらない。
と言っても今の訓練は初歩の初歩。戦える魔法使いなら誰でも出来るレベルである。

※ロレインは魔力が多い方であり、魔法陣を察知する事が出来る。
エルには同じ事が出来ない。エルザも分かっていて、鍛えるのは反射神経だ。
エディットは本能であるかの様に魔法陣を壊す。エルにも出来るかも知れない。エルザはそう思っていた。


そして7月に入った。秋だ。姉ちゃんの学塾も2学期に入った。
この世界は1学期と2学期のみ。日本なら、冬休みと春休みが繋がっている感じだ。

「秋と言ってもあついね」

「つい先日まで夏だったしね」

俺はカーラと図書館で会話している

「もぎ戦っていつだっけ」

「9月10日よ」

「2か月しかないね」

「訓練は結構スパルタらしいよ。間に合わせるんじゃないかな?」

「カーラはもぎ戦みたことある?」

「無いよ。領館に引きこもってたし」

翻訳者のカーラは外国との手紙のやり取りや、外国から仕入れた本の翻訳をするのが本来の仕事だ。

「おうとの学園にいったんじゃないの?」

「本ばかり読んでたし、戦いには興味無かったからね」

(そう言う物か)

「でも収穫祭には行ってたよ」

「しゅうかく祭もあるの?」

「収穫祭は9月10日から15日。初日が模擬戦なの」

「5日もするんだね」

「国内外から色んな人が来るし、誰もが模擬戦に興味持ってる訳じゃ無いからね」

(それもそうか)

「ここもしゅうかく祭あるの?」

「ロバルデューは遅いわね。10月20日」

「へえ」

(秋の祭りだけど、冬に入ってるな)

レヴィネールの食糧庫と呼ばれるロバルデュー。収穫は冬(10月末)までかかる。

「今年の目玉は癒しの魔法になるかも知れないわね」

「え?公開するの?」

「領内では結構知られてるよ。ロランちゃんに治してもらった人が広めちゃってるし」

(まあそうなるよな・・)

「遊園地の職員も、ジェフリーさんを崇めてるわね。火傷が綺麗に無くなったって」

酷い火傷は生涯付き合う事になる。この世界の人も知っている。
ジェフリーがした事は、人々には神の技としか思えないのだ。

(隠せなくなってるし、仕方ないか・・そうだ!)

「ねえカーラ?」

「何?」

「けんび鏡ってあるの?」

「治療院にあるよ?」

(あるんかい)

「でも見たことないよ?」

「血液検査ぐらいしか使い道無いし、作ってるのは王都だし」

(ふむ。ウイルスは知られてるか・・でも病気はまだ魔法で治せない・)

「びょうきはどうやって治すの?」

「薬草で殆ど治せるよ?」

「薬草ってそんなすごいの?」

「でも薬草の事を知らない国も多いでしょうね」

(?)

「どうして?」

「薬草の知識は、元々魔族の物よ。それに魔獣も薬草を求めるから、採集出来ない国もあるの」

(魔族や魔獣の知識?て事はグリモアが持って来た物じゃない?)


エディは考える

(・・この世界の病気には、地球の知識は通用しない?)

アオキは医療の専門では無く、薬草で治るならと検討もしていない

「エディ?どうしたの?」

カーラの声にも気づかない程、考え込んでいた

ーーーーー

(調べるのは病気の方ではなく、薬草?)

顕微鏡の性能が分からない。場合によっては改良も必要だ。
そして治療院にはジェフリー医師とロランが居る。

(土台は整っている・・あとは・・)


協力者が必要だ。薬草の知識を持つ魔族と、薬草の収集が得意な冒険者の・
しおりを挟む

処理中です...