異世界転生(仮タイトル)

きこり

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第31話「模擬戦代表」

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ジェフリーside

深夜、ジェフリー医師はピトフのカルテを作り終えた。
接合手術は一刻を争うため、後回しになったのだ。

「それにしても、エディは不思議な人物だなあ・・・あれは優しいだけでは無い。完璧な平和主義者だ」

(そんな物は実現できないが彼なら・・)

魔族も平和主義者と言える。だが彼らは争いを避けたいがために他種族とあまり関わる事が無い。

(エディは種族を問わず他人と関りを持つ。それが大人であっても一歩も引かない)

「・・どうすればあんな風に育つのだ?」

辛い過去の記憶を持つ転生者。それを理解できない限り答えは出ない

(・・答えは出ないか)

「まあ良い、計画の方を早めよう」

治療院の新部署の書類を出す。支援部署。魔法による治療支援。
ピトフの治療でロランの協力を得て、医療技術と癒しの魔法の組み合わせが有効だと確信する。

ジェフリー医師はロランの悪い噂を聞いていて様子見していたが、ロランの能力を高く評価した。

(あれはエディの影響だろうな。絶対欲しい人材だ。そしてエルも・・)


ジェフリー医師は領主宛に報告書を纏めだす。


ーーーーー


ピトフの治療を終え皆で外食した後、夜遅くにエディ達は帰宅する。
明日から3日間、領主の配慮で仕事が休みになった。エルの勉強も休みになる。

真っ暗になったので、今は領主が馬車で送っていた。魔導ランプがあるので、ロランが乗るポルとリックもついて来る。

「エディ、もうすぐ着くぞ」

領主に呼ばれ目を覚ます

「・・ん」

横を見ると姉ちゃんも寝ていた。家の方を見る

「馬車がいっぱい・・」

「ああ、ブラン達だな。ロレインもまだ居る様だ」

(ロレインも来てるのか・・じゃあセレスも?)

家に着くとパパとママが飛び出して来た

「エディ!エル!」

「大丈夫なの?痛い所ある?」

「なんともないよ?あとねえちゃん寝てるから・」

パパが姉ちゃんを抱き上げる

「リックは私が世話しておくわ。エルをベッドに」

「ああ」

今度はロレインとセレスが出て来た

「お姉ちゃん・・」

「大丈夫。眠ってるだけだよ」

そう言ってパパは入って行き、セレスもついていく

「大変だったね、エディ」

「うん。でもねえちゃんが守ってくれた」

「すごいな、エルは」

ロレインは姉ちゃんが入って行った玄関を見つめている。
そして俺の後ろに領主が立つ。

「その事で話がある。とりあえず入らせてもらうよ」

(その事?)

家に入るとじいちゃんが居た

「じいちゃん?」

「おお、エディ。大変だったな」

「うん・・・ひゅーいっとに行ったのじゃないの?」

「儂もエディットと一緒に報告を受けてな。戻って来たんだ」

「うん」

「無事でよかったよ」

「うん」

ーーーーー

落ち着いた所でロレイン兄妹は帰宅し、衛兵が送って行った。
領主、ロバートさん、ブランさん、そして家族がリビングに集まる

「申し訳なかった」

領主がパパとママに頭を下げていた

「いや、ジャンの責任じゃ無いだろう?」

「昨日の時点で確保しておくべきだった。いや、ここに来た時から監視を付けるべきか・・」

「今言っても仕方ないさ。それにこの地で監視を付けるのはよほどの相手ぐらいだろ?」

「そうね。それにエルにも冒険者の覚悟があるって知れたのは、私には嬉しい事だわ」

「本当に申し訳ない」

「ああ、もう頭を上げてくれ」

「すまない・・」

「どうしたんだ?ジャン?」

「・・・」

間を置いてジャンは頭を上げる

「謝罪だけでなく、こちらの希望もあってな・・」

(グリモアとの会話もそんなだったな)

「希望?」

「エルを育てさせて欲しい」

「「はい?」」

「育てると言ってもあれだ、親代わりとかではなく、実戦向けの訓練をさせたい」

「実戦?」

「秋にある王都の模擬戦で、エルを魔法使いの代表にしたい」

「「は?」」

(え?何考えてんの領主様?)


ーーーーー


「はっはっはっ、良いじゃねーかエディット?」

「親父?」

「でもお義父さん、エルはまだ7歳で・・」

「だからだろう?ジャン?」

領主は頷く

「今時、近代魔法を習う奴なんて一握りだ。いや、エル達だけかも知れんなあ」

「そうだ。このまま近代魔法の担い手が居なくなると、困った事になりかねん」

「困った事?」

「マジックバッグの存続に関わる。癒しの魔法の使い手を増やす為にも近代魔法が必要だ」

「商会の魔法士が居なくなる?」

「そうだ。そして魔力が少なくても実用できるとエルが証明した」

「・・・」

「もし、エルが近代魔法を駆使して1勝でも出来ればどうなると思う?」

「・・・」

パパ達は答えられない。何でだろうな?
俺は手を挙げる

「エディなら分かるか」

「うん。まりょくが少ない人もまほうつかいになれる」

パパとママがはっとする

「そうだ。エルその物なんだ」

「・・・」

「これまでは魔力の量ばかり注目されたが、マジックバッグが作れるぐらいあれば良い。
そして、魔力が少ない者でも強くなれるとエルの手で証明して欲しい」

パパは思案する・・

「いいわ。エディット、受けましょう」

「エルザ?」

「色々考えてるんでしょ?話してくれる?」

「エルザ、模擬戦は甘くないぞ?」

「知ってるわ」

「専用のローブを使ってどれだけダメージを与えられるかを競うんだ。魔力が多いほど有利な競技だぞ?」

「ええ」

「それじゃあ・・」

エルザが人差し指でエディットの口を止める

「魔法戦はね、どうやって相手の心を折るかなのよ」

ママが邪悪な笑みを見せた・・怖い

「ジャン、その訓練に私も参加して良いかしら?」

「エルザなら何も文句はない」

領主様も邪悪な顔になったよ

(・・まあ確かに、あのフレアの時もそうだった)

魔法の威力は圧倒的にフレアが上。だが姉ちゃんは白い魔法陣と弱い電気でフレアをビビらせた

(いけるかも?)


皆が盛り上がる中、ロランは何かを言いたそうにしていたが結局口を挟まなかった。

ーーーーー

領主達は帰宅した。姉ちゃんは寝てるのでロランとお風呂に入った。
ロランが俺を抱き寄せて(抱っこして)キスをしてくる。

久しぶりだなあと思いながらロランに任せた。
ロランが満足したっぽい所で質問してみる。

「ロラン」

「うん?」

「さっき何か言いたそうだったけど?」

「さっき?」

「もぎ戦のわだいの時」

「あー、うん」

「なに?」

「エルは1勝も出来ないか、全部勝つかどっちかになると思うけど・・良いのかなって」

(はい?)

「どういうこと?」

「模擬戦は、最初に魔術師団が相手して総当たりになるの」

「そう当たり?」

「怪我をして棄権する人もいるけど、一応参加者全員が相手なの」

「うん」

「だから魔術師団は短期決戦で来るわ。並みの冒険者なら1分も耐えられない」

(やばそうだな)

「いくら訓練してもエルに対応できるか問題ね」

(それは領主様も知っているはずだ・・もしかして姉ちゃんに才能があると?)

「全勝は?」

「対応しちゃったらエルの敵は居ないわ」

「え?ねえちゃん無敵?」

「模擬戦に限ってね。対魔法ローブは近代魔法の前ではただの布だよ」

「どういう事?」

「現代魔法も古代魔法も魔力を変換してるけど、近代魔法は『再現』してるから」

(・・・そうか)

ゼフィラムの軍人も、デリスの冒険者も、普通に考えれば魔法に対抗する手段があったはず。
でも姉ちゃんの電磁石の魔法の前では無力だった。

「ねえちゃんが使った電気ってじゅんすいな電気?」

「そう。ローブなんかで防げないわ」


7歳のエルが下手に全勝してしまったら八百長を疑われないか?ロランはそこを心配していた。

明日、パパに相談する事にして風呂を上がる。
ロランに抱っこされたままロランの部屋に連れていかれ、抱き枕になった。

(3歳の肉体なのが残念・・いや、違う!3歳の肉体でよかった)

10代でパパになるんだろうなあと思いながら眠りについた


ーーーーー


翌朝。姉ちゃんとロランがポル達の世話をしてる間にパパとママに話した。
領主が夕方に来るらしいので、その時に話し合う事になる。

久しぶりに家でのんびりとする。本当に久しぶりだ。近代魔法の勉強が始まってから初めてかも知れない。

「ねえロラン」

「何?」

「白いまほうじん教えて」

「指向性の魔法ね」

(指向性?電波か?)

「エル、出してみて」

「うん」

姉ちゃんが俺の前に白い魔法陣を出す。詠唱を見る

「減衰?」

そしてロランが違う白い魔法陣を出す

(放物面反射?あれか?)

パラボラアンテナを思い出す

「もしかしてこれだけで勝てちゃう?」

「模擬戦ならそうね。エルには教えてないけど」

「どうして?」

「これに頼っちゃうと他がダメになるかも知れないから」

(なるほど、わからん)

「でもロランが言った事、なんでりょうしゅ様は気づかなかったの?」

領主も近代魔法を使える

「近代魔法を使える人も魔力の恩恵だと思ってるから」

「そうなの?」

そう言えば、ロランが姉ちゃんでも近代魔法なら使えると言ったのが切っ掛けで勉強を始めたんだった。

昨夜の話を思い出す

(領主様も魔力量が重要だと思っていた訳か)

姉ちゃんとロランに色んな魔法陣を見せてもらいながら一日を過ごした

ーーーーー

夜。領主にロランが話をしたら唖然としていた

「俺が冒険者時代にぶっ飛ばしてきたのは、魔力量のおかげでは無いのか?」

「そうだよ」

ロランがあっさり肯定した

「・・・」

皆が沈黙する中、じいちゃんがロランに質問する

「なあロラン」

「なに?」

「エルはどこまで強くなれる?」

「どこまでって?」

「お前さんより強くなれるか?」

「戦い方が私より上手だったらなれるよ」

「近代魔法において魔力の差は?」

「再現の規模。それだけ」

「強さでは無いのか?」

「違うよ」

「ふむ・・」

「私もエルの電気の魔法を浴びたら動けないよ」

「なるほど、近代魔法の序列は剣士に近いな」

「・・そうかも?」

「ジャン、エルを模擬戦に出せ」

「しかし、全勝してしまうと八百長を疑われかねん」

「儂もしばらくはここにいる。エルを鍛えるぞ」

「何を・・」

「圧倒的な力の差を見せてやれば良い。オーサーの時の様にな」

話を聞くとオーサーは、10歳の時に模擬戦で無双したそうだ

ーーーーー

翌朝。珍しく姉ちゃんが寝坊した。ロランに叩き起こされリックの世話に行く。

「・・模擬戦の事、考えてたんだろうな」

(じいちゃんは圧倒的な差を見せると言ってたけど、姉ちゃんに出来るだろうか?)

しばらく考える。

(でも見方次第でデリスの冒険者の時も、圧倒した様に見えるかも知れない)

事実、フレアにはそう見えていた


今日は午後からレミの家に行く。誕生日プレゼントをまだ渡していないのだ。
帰りにピトフさんのお見舞いにも行こうと思っている。

馬の世話が終わり朝食。姉ちゃんの口数が少ない。ママが励ますように話しかける

「エル、今から悩んでたら体がもたないわよ?」

「うん」

「訓練に打込んでから悩むと良いわ。無理そうだったら辞退したらいいし」

「うん」

共用語と近代魔法の勉強に余裕が出てきたので時間を少し減らし、素振りをしていた時間に本格的な魔法訓練をする事になっている。

(素振りと言えば・・)

「ねえママ」

「なあに?」

「ねえちゃんのまほう剣ってもぎ戦にはどうなの?」

「元が魔法陣だから使って良いわよ?」

(ふむ)

「でも役に立たないと思うわね」

「そうなの?」

「大人との対格差を考えたら、剣では追いつけないわね」

(あー・・ピトフさんの時も、トドメだったもんな)

「ねえちゃん強くなれる?」

「見込みはあるわね。そうじゃないとデリスの冒険者に殺されてるわ」

(それもそうか)

子供を殺したく無さそうだったが、命令には逆らおうとしなかったな。

「ま、私もしっかり教えるから、訓練はやってみなさい」

「うん」

「ロランもきょうりょくするの?」

「そうね。模擬戦に向いた魔法でも考えるわ」

「今までのはダメなの?」

「エルの電気の魔法なんて誰にも見えないから、わかりやすい魔法にしないとね」

(確かにロランの雷っぽい電気にはならないな。八百長を疑われても困るし)


午前はのんびり過ごし、昼食後に出発した。
もう狙われる事は無いだろうけど、ロランもついてくる。

レミの家も共働きなので、レミが留守番していた。
誕生日プレゼントは獣人専用の石鹸とブラシ。イメージとしてはシャンプーみたいになる感じだ。

姉ちゃんは翻訳のお駄賃を貰ってるので、良いのを買っていた。
冒険者になったため、次から報酬も出る事になる。

獣人は換毛するらしく、季節の変わり目は毎朝大変らしい。
時期によってはブラシ1個では間に合わないので、喜んでくれた。


ーーーーー


領主side

ジャン・シルヴェストセイジはロバートに渡された報告書を見て悩んでいた。
ジェフリー医師が新部署の設立とロランの雇用を希望し、エルを研究生として迎えたいと書かれていた。

「色々重なりますな。ジェフリー医師の人を見る目はさすがです」

「ああ。俺が抑えてるつもりなのだが・・」

「エルを模擬戦に出すと、オーサーの時の様に欲しがる者が出てくるかも知れません」

「奴はあの性格だから皆諦めたが、エルは根が真面目だしな」

「子息との婚約を申し出る貴族も居るかもしれませんな。なにせ英雄の孫ですし」

「そこはラフィットに前へ出て貰えば良いだろう。問題は・・」

「王宮や来賓ですな」

「模擬戦まではまだ時間がある。先手は打っておくさ」

「ジェフリー医師の方はいかがします?ロランなら医師も勤まりそうですが?」

「エディが学園に行くぐらいの歳には、俺がロランを雇いたいのだがなあ・・」

「何か考えが?」

「単純にロランを抑えておけば、エディもエルもこの地に縛れると言うだけの事だ」

「3人は離れないと?」

「エディが伴侶を選ぶとすればロランか姉だ。この2択ならロランだろう」

「ふむ」

「エル本人は気づいてるか知らんが、ロランが近くに居ないと独り立ち出来ないタイプだな」

「オーサーみたいなものですか?」

「性格は真逆だが、そこは同じだ。安心できる環境があってこそ活躍出来る」

「なるほど。ジェフリー医師の方は断りますか?」

「いいや。ロランには協力してもらうが、雇用とは違う形態を考える。エルは正式にロランの弟子として登録し直す」

「はっはっ、まるで魔法国家の魔法使いですな」

「そうだな。エル程才能が無くても、近代魔法を学ぶ者が増えれば商会も安定し、癒しの魔法も発展するだろう」

ーーーーー


ちなみにこの世界に地球の様な結婚制度は無い。単純に納税出来るのなら婚姻届けは受理される。
14~15歳ぐらいの夫婦も居れば、歳の差婚も当たり前。外国には姉弟婚もある。
その為エディットとエルザは、ロランがその気でエディが拒否しないならと全く気にしていないのだ。
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