異世界転生(仮タイトル)

きこり

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第19話「フロストとスキナー」

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4月に入り共用語と近代魔法の勉強が終わった後、ロバートさん達と今後の予定の話をしていく


「エディ坊ちゃんは誕生日の日、どうなさいますか?」

姉ちゃんを見る

「エディが決めていいよ」

「う~ん・・べんきょうする」

「分かりました。では今月も予定通りと言う事でよろしいかな?」

ロバートさんが皆に聞く。セレス以外は頷いた

(何か気に入らないのかな?)

セレスを見ると、睨み返してくる

(何でそんなに俺が嫌いなの?)

ロレインは苦笑いしていた。何か理由を知っていそうだ。

図書館を出て俺達はギルドに向かう。
いつもはポルを受け取って帰宅するのだが、今日はロランがギルドからなかなか出て来ない。

姉と一緒にポルの所でロランを待つ

「ろらんおそいね」

「もしかしてお仕事とか?」

まだお金に余裕があると言ってはいたが、何時まで持つのか俺には分からない

「お金にこまってるのかな?」

「わたしのせい?」

「ねえちゃんかんけいないと思うよ」

「でもずっと教えて貰ってるし・・」

(うーむ。ロランは少なくとも1か月は働いていない)

2人して心配になってくる。思い切ってギルドに突入した。

「エディ、どうしたの?」

ロランとティアさんがカウンター越しにやり取りをしていた

「ろらん、おかねが大変だったらおしごとして良いよ」

「何でそうなるの?」

「え?」

ティアさんがクスクス笑う

「何はなしてたの?」

「えーと」

ロランは少し赤くなりながら明後日の方向を向く。ティアさんは余計な事を言う

「息子に彼女が出来ると複雑な気分ね」

(彼女じゃないです。と言うか、いつまでその設定引っ張るの?)

「ティア、参考になったわ。それじゃポルを受け取るね」

ロランは書類を渡して冒険者ギルドを出る

「何かしてたの?」

「う~ん。ちょっと相談」

(ふむ)

ロランを見る。これ以上は話しそうに無いな


ーーーーー


ロレインSide

今日も授業が終わり屋敷に向かう。このひと月はとても充実していた。
特にもうすぐ7歳になるエルには刺激を受けてばかりだ。

エルは特別優秀な人材では無い。だが誰よりも努力しようとしている。
学塾でも、わずかひと月でエルは評判になるぐらいだった。

それに以前から共用語は習ってきたけど、エル達と教わる方が効率が良い。
そう、エディの存在も大きいんだ。授業で迷った時も、エディの一言から解決に繋がる。

僕の中では、困った時のエディだった。

だが問題がある

「・・・グスッ・」

隣を歩くセレスが今にも泣き出しそうになっている。セレスは予想外な事ばかりが続いて困惑してるんだ。

(一度エディに話しておくべきだろうな)

セレスの頭を撫でながら、授業が始まる前の事を思い出す。

ーーーーー

「お兄ちゃん近代魔法の勉強をするの?」

「そうだよ。ロランが教えてくれるんだ」

「あのロランが?」

「うん。でもエディットさんの子供達に共用語を教える事が条件になってるんだよ」

「それでロバートが一緒に行くんだ」

「うん」

「エディットさんの子供って?」

「一人は3月から学塾に入るエルって女の子。もう一人はもうすぐ3歳になるエディって男の子だよ」

「3歳なのに勉強するの?」

「そうだよ」

セレスはしばらく考える

「私も行って良い?」

「お父さんはそのつもりらしいよ?やっぱり近代魔法を覚えたいの?」

「それもだけど、男の子に勉強を教えてあげたいの」

「セレスは弟が欲しいってよく言うしな」

「共用語だったら少しは分かるし、私がお姉ちゃんになってあげるの」

「それじゃあ、お父さんにも言っておこうか?」

「うん」

ーーーーー

幼くても女の子はマセている。セレスはお姉さんになりたかった。年下の男の子のお世話をしたかったのだ

だが実際は違った。3歳弱ながら落ち付きのあるエディ。周りをよく観察し、知恵も良く回る。
セレスには想像もできないような質問もする。

セレスは明らかに負けていると感じた

そして今日だ。誕生日が近いのに全く浮かれていない。それ所かエディは勉強を選ぶ。
セレスは誕生日は祝ってあげようと思っていたのに、エディには必要無い物に思えた。

(エディの前に、ロランかエルに相談した方が良いかな)

ロレインはセレスを慰めながら帰宅する


ーーーーー


そして4月10日を迎えた。エディにはいつも通りだが、周りがそわそわしてる感じだ。

「「「それじゃあ行ってくるね」」」

「うん」

「エディ、いつもの時間にね」

「わかってるよ」

今日はママと姉ちゃん、そしてロランが朝から出かけた。ロランは何をしに行くのだろう?
俺一人なので今日は掃除しなくて良いって言われてる。

なので風呂場を見に行く。風呂場は完成してるのだが、まだ水が届かない。
裏庭に行くと、小太りの冒険者でもある水道屋さんが、魔道具の湯沸かし器を付けていた。

「これでお湯わかすの?」

「ああ。今は在庫不足らしくてね、納品が遅れたんだよ」

「へー」

そうして設置が終わるまで作業を眺めた

「これでおわり?」

「あとは水が来るのを待つだけだよ」

「すぐ来るの?」

「ドレイクが本管と接続しているはずだから・・明日の朝には送るよ」

「じゃあ明日からお風呂に入れるね?」

「そうだな」

そして水道屋さんは工事漏れが無いか風呂場を確認する。
俺は台所の蛇口を見に行く。水とお湯の蛇口がある

今までは井戸水だったので桶に溜めていた。トイレも水を汲む必要が無くなる。
前世の様な生活に近づくのでとても楽しみである。

そしてポルを見に行く。姉ちゃんが来ると喜ぶが、俺には無関心だ。まあ世話してないしな


久しぶりに家の中を探検してる間に出発の時間になった。

「おにいさん、図書館にいきまーす」

「ああ、俺も戻るとこだ」

「いつもはやく終わるね?」

「他の仕事が溜まっててね、てんてこ舞いだよ」

「いそがしいんだね」

「まあ仕事があるのはありがたい事だ」

(確かに)

そしてポルを連れて出発した。自分では乗れないので手綱を持って歩く。
ポルも速度を合わせてくれた

「歩いていくのかい?」

「あるけるよ?」

「大したもんだな。俺なんか街に入ったら汗だくだ」

(痩せればいいのに)

そう思いながらも、小太りの冒険者の運動神経がハンパない事も知っている。
二人で適当に会話しながら、中間地点ぐらいに来た

ーーーーー

ポルと水道屋さんの足が止まる。ん?と思って前を見る
1,2,3・・7人のローブを被った不審者が居た

「ヤー、たしかエディだハ。一緒にイクウ」

片言で話しかけてきた。この国の人じゃない?
水道屋さんが対応する

「何か用かい?」

「デーブ用なイ。エディ、ロランとスル」

(何を?)

「嬢チャンも一緒にイクウ」

(嬢ちゃん?)

「エディ、冒険者ギルドには行けるな?」

水道屋さんが聞いてくる

「いけるよ」

すると片手で俺をポルに乗せ、ポルのお尻を平手で叩く

「止まるんじゃねえぞ!」

ポルが走る
不審者は道を塞ごうとしたが、予想外な事に困惑する。俺も困惑するレベルだ

小太りの冒険者はポルと同じ速度で走った。そしてラリアットって2人の不審者を次々気絶させる

不審者を越え、道を阻む小太りの冒険者フロスト

「テメエ」

3人の不審者は剣を抜く。2人は杖を持った。

だがフロストは平然としたままウエストバッグに手を入れる。
そして出てきたある物に不審者達は焦りを見せた

『パイプレンチ(パイレン)』しかも本管に使う大型の物で、長さ1.3m。
大きく開けられた顎には凶悪な歯がある。そしてそのパイレンは鉄の塊である。

軽々と振り回すフロスト

「当たらなければどうと言う事は無い」

一人が剣で襲いかかる。軍隊で鍛えられた腕前だ。
だがフロストはパイレンの顎で受け止め捻り回し、剣を簡単に折る

唖然とした不審者をパイレンで殴る。一応手加減はしているが凶悪な形と重さだ。

そして次の敵に踏み込む。フロストのあまりの速さに不審者は驚き、出鱈目に剣を振った。
フロストは軽々かわし、パイレンの顎に剣を引っかけ跳ね上げる。剣は20mほど飛んだ

パイレンにしか目が行っていない不審者に蹴りを食らわす。不意を突かれて悶絶する。
2人の魔法使いが杖を構える。同時にフロストはバッグからチューブ状の物を出した。

思いっきり握って中身をぶっかける

「ぐわっ、くせええ」

「構うな」

「「御身の魔力を火種と用い・・」」

(復元魔法とはね・・しかも選択を間違えたな)

ファイアーボールを出した瞬間、ぶっかけられた部分に火がつく

「「ひえええええ」」

(よく確認しやがれ。そいつはネジ切り油だ)

魔法使い二人をパイレンで殴る

※ネジ切り油。パイプにネジ切りをする時、刃が焼きつかないようにする油。
この世界の製造技術ではまだ引火しやすく、業者以外は入手出来ない。

そして残ったのは一人

「貴様、冒険者なのか?」

もちろん言葉は通じない。不審者はもう一本剣を出し、二刀流になる。
ならばとフロストもバッグからある物を出す。不審者はもう言葉も出無い。

金テコのバールである。長さ1.6m。先は鋭利に尖っており、逆側は刃物の様になっている。

左手で軽々振り回すフロストを見た不審者は諦め、剣を落とす。
フロストは不審者をパイレンで殴り気絶させた


ーーーーー


逃げるエディSide

(何だあいつら?俺を狙ってる?いやロランか?)

ポルは走る。冒険者ギルドは毎日通ってるのでポルに任す

(フロストさん大丈夫かな?)

心配になるが戻れない。エディが戻った所で人質になるのがオチである。
そして作業中のドレイクが見えた。ドレイクもポルに気付く

「エディ?どうした!?」

「ふろすとさんがおそわれてるー」

ポルは止まらず駆け抜けた。ドレイクさんも冒険者だ。すぐに来た道を走って行った

(たぶんフロストさんは大丈夫。時間だからロランはギルドに居るはず)

そこで思い出す。

(そう言えばロラン以外にも嬢ちゃんって言ってたな・・まさか?)

「ポル、ねえちゃんがあぶないかも知れない。がくじゅくって知ってる?」

「ヒヒィイン!」

(もし姉ちゃんがギルドに向かっていたらヤバい。レミ達も一緒のはずだ)

ポルはスピードを上げた。通じた様だ。賢すぎるだろうポル

ーーーーー

ポルは学塾に近づいていた。エディには場所が分からない。だが・・

(え!?火事?まさか学塾?)

エディは焦った。その為、判断ミスをしてしまう事になる。


ポルは煙が出ている建物に向かう。校庭に子供達が沢山出ているのが見えた。

「ポル、ねえちゃんわかる?」

ポルはそのまま校庭に入り、エルの前まで行き止まった

「ポル?エディも、どうしたの?」

「ねえちゃん、あぶないからギルドにきて!」

「今消してるよ?」

首を振る

「おそわれたんだよ。たぶんここも」

「え?」

教師がやってくる

「どうしたんだ?馬で飛び込んできて?」

(ここに居たら子供や先生が人質になるかも知れない)

「ねえちゃん、はやくギルドへ!」

「わ、わかったわ」

エルも飛び乗りポルを走らせる

「おい、待て!行ってはいかん!」

構わず走らせる。道は分からないのでポル任せだ

ーーーーー

エルが通学に使う道。少し疎らになり建物の裏路地に当る付近に差し掛かる

「襲われたって何があったの?」

「すいどう屋さんがたすけてくれたの」

(ギルドまで行ければ安心だ)

ほっとした瞬間、視界が地面だけになる

(え?)

そして二人は落馬した

「いたっ!」「きゃあああ!」

姉ちゃんを見る。大丈夫そうだ。ポルは?
右前脚の腿の部分に、弓矢が刺さっていた

「ポル!」

姉ちゃんが暴れるポルに飛びつく。俺は矢が放たれたであろう方向を見る

(1.2.3・・また7人かよ)

ガタイの良い一人がこっちに来る

(くそっ)

姉ちゃんとポルを庇う。なんとしてでも抵抗してやる!そう思った時

「おらっ」

スキンヘッドが飛び出し、顎に蹴りを食らわせ気絶させた

「あ・」

「バカ野郎、学塾には俺らが控えてるんだ。引っ掻き回すんじゃねえよ!」

(もしかして最初から守られていた?じゃあフロストさんも?)

「でもかじが・・」

「あれはバカをやった生徒が居ただけだ」

「・・・あいつらは?」

「ロランを欲しがってる国の軍隊だ」


スキンヘッドの冒険者スキナーは、敵の方を向いたまま一枚の布をバッグから出し姉ちゃんに渡す

「これを嗅がしておけ」

「これは?」

「麻酔と思えばいい」

姉ちゃんは暴れるポルの鼻に布を当てる

「矢は抜くなよ。血が吹き出るぞ」

「うん」

ーーーーー

スキナーは魔剣を出して歩み寄る。魔剣と言っても魔獣を解体する為のナイフだ。
敵は槍が一人、剣が三人、杖と弓が一人ずつ

槍と弓持ちが構える。弓矢と同時に槍持ちが突っ込んでくる。
スキナーは左手で矢を掴み取った

槍の突きを魔剣の背で流す様にしてかわす。そして槍持ちを無視して剣士に向かう。
エディかエルを捕まえようと向かっていた剣士に魔剣を振るう。

届かないがナイフとは言え、魔剣には風の刃があるのだ。敵の利き腕に当り一旦引いた。
魔法使いが魔法陣を完成させファイアーボールを撃ってくる

(現代魔法?)

無詠唱が可能なファイアーボール。現代魔法だ

スキナーはファイアーボールを魔剣で切る。しかしその後ろから矢が迫っていた。
切った勢いが付いたまま、回し蹴りで矢を蹴り折る

再びエディかエルを捕まえようとした剣士の足の甲に投げナイフが刺さった。
スキナーの左手に小型のナイフが握られる

「一度見せちまったらもう通用しねえよなあ?」

不審者達は方針を変えた。全員がスキナーに狙いを付ける

今度は剣士を中心に、槍を混ぜてくる。そして魔法と弓の時間差攻撃。
スキナーは右手の魔剣と左手の投げナイフで捌いて行く

そして一人の剣士がエディかエルを狙おうとした

「ちっ」

スキナーは投げナイフを使う。剣士はかわした。だが目の前にスキンヘッドが迫っていた

「!?」

殺す気で魔剣を振るう。手加減する余裕は無い。敵に背を向けているのだ。
剣士は事切れたが、その隙にスキナーもわき腹に槍を、左腕に剣を、左肩に矢を食らう

(地龍の皮で助かったぜ)

とは言えダメージは大きい。左手でナイフを投げれそうに無い

ーーーーー

エディは激しく後悔していた

(俺のせいだ。なぜもっとこの街の人達を信用しなかった?)

この街は冒険者の街。それは教師も例外ではない。スキナーがそうである様に。
そしてスキナー1人であれば、軍人の彼らでも敵にならないだろう。

だがエディとエルを人質に取らせまいと、後ろを気にしなければならない

(俺と姉ちゃんが逃げれば・・)

大通りまで突っ切れないか考える

(いや、ダメだ。敵も追って来る。そうなると大変なのはスキナーだ)

何もできない。3歳の肉体を恨みたくなる


そんな時、視界に姉ちゃんの左手が入り魔法陣が出来る。震える指で詠唱を書きだす。
覚えた元素からAl(アルミ)、Ni(ニッケル)、Co(コバルト)、そしてCu(銅)を選択した。

(電磁石!)

詠唱をアルニコ磁石、盤上を銅コイルとして魔法陣の魔力で再現し、磁力で電気を発生させる方法を選ぶ。

姉ちゃんは足も指も唇も震えている。目の前で殺し合いが行われているのだ。
俺は一歩前に出て姉ちゃんと目を合わす。俺は姉ちゃんの盾になる

再び魔法陣にゆっくりと詠唱を書きだした

(それでいい、慌てる必要は無い)


スキンヘッドは強い


俺と姉ちゃんを守りながら、ナイフで軍人6人相手に戦える。既に一人は殺した
魔法陣を見る。電磁石は完成している

近代魔法だからこそ出来る『条件』を姉ちゃんは書きこむ。前方の5人を『接地』とする。
発動した時点で逃がれる事は不可能だ

そして完成した

「すきなー!よけてー!」

スキナーは思いっきり横っ跳びをする。素早い魔獣にも飛びかかる跳躍力を持つ。
敵はスキナーの行動に戸惑った。敵の魔法使いは姉ちゃんの魔法陣が何なのか判断できない。

内側の円の詠唱部分が激しく回転していた

「「「「「バチィ」」」」」

4人は硬直した。1人は動けたが酷い倦怠感で項垂れる

姉ちゃんの魔法陣の魔力ではせいぜい400ボルト。しかも一瞬だ。
だが、スキナーにはそれで十分だった

次々敵を切り伏せる。目にも止まらぬ速さとはこの事だと理解する。
最後に魔法使いの襟首を掴み、一本背負いの様に地面に叩きつけた


戦いは終わった

「で、できた・」

姉ちゃんは腰が抜けた様にその場にへたり込む

「ねえちゃん」

二人で抱き合う

スキナーは獲物に使うロープで生き残った者を縛り上げ、エディに近づく。

(!)

エディは怒られるのを覚悟するが、スキナーはエディの頭に手を置いた

「エディ、よく姉ちゃんを守ったな」

「っ!」

そう言ってやさしく撫でてくれる。全ての緊張が解けた

「・っ・・っ」

理性で分かっていても3歳の体を止められない。涙があふれ出る

「わああああああああん!ごめんなさああああああい!」

俺は大泣きしながらスキナーに抱きつく

「ロランはドク爺に任せよう」


俺はスキナーを見上げ、素直に頷いた
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