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第15話「ロランの引っ越し」
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指南書を眺めている間に昼になり、ギルド1階で食事を待ちながら3人で相談する。ドク爺は仕事に戻った
「今すぐかあ~・・文字が全然わかんないし・」
姉ちゃんはテーブルに伏せて迷っている
「近代魔法と一緒に共用語も勉強できるよ。私はそうした」
(これだから天才は・・)
天才と呼ばれる人種は、自分が出来た事を他人も普通に出来ると思っている節がある
「ろらんはきょうよう語を教えられる?」
「言葉や文字は分かるけど、先生の様にはいかないね」
そりゃそうだろうな。他に得意な人はフェルヴさん?あの人は忙しそうだ。
ドク爺・・いやギルマスはダメだろう
姉と二人して迷っているとロランが買ってくれた食事が来たので3人で食べる。
「「おいしい」」
この世界の料理はほんとにおいしい。調味料が増える以前から食は発展していた様だ。
食事が終わり休憩してると、ギルドに人が大勢入って来る。パパが居るって事は領主様も?
フェルヴさんも居る。あ、スキンヘッドだ。あの大きな人は確かトッド?
10人ぐらい入って来た。パパとスキンヘッドが受付のティアさんと何か話している。
フェルヴさんがこちらに気づく
「ロラン?」
ロランは手を挙げるとフェルヴさんがこちらへ来た
「エルにエディも。どうしたんだ?」
フェルヴさんに事情を説明する。姉ちゃんが魔法を使いたいけど魔力が足りない。
近代魔法なら使えると言うのでロランに教えてもらう事に。
そして一緒に暮らす事になり、ギルドに報告した。
ついでに近代魔法の指南書を見せてもらったら文字が分からず、困っていると。
話し終えるとフェルヴさんの後ろに知らない人が3人居た。
「ほう、近代魔法とは大きく出たな」
黒髪イケメンなおっさんがニヤリとする。そして俺と姉ちゃんの間に椅子を置き、そこにドカッと座った
「俺も習ったが、近代魔法はぶっ飛んだ内容だぜ。まあ役に立つ知識が多いがな」
「おじさんはきんだいまほう使えるの?」
「商会の魔法使い並みにはな」
すごいな。他に使える人、初めて見たよ
「しかしロランが人に魔法を教えるとはな」
ロランは目線を反らす。姉ちゃんも話に入る
「勉強したいんだけど文字が読めないの」
「なるほど。まず文字をなんとかしたいと?」
「うん」
おっさんは顎に手を当てて考える
「現代魔法では駄目なのか?」
「魔力が足りないらしいの」
おっさんはロランを見る
「そうなのか?」
「エディットぐらいね」
そっぽを向きながら頷き返事する
「ロランが言うならそうなんだろうな」
そう言えば普通に信じていたが、おっさんもロランを信用しているみたいだ
ロランを見る
「どうして分かるの?」
「見ただけで魔力の強さが分かるよ。どうしてか分からないけど」
おっさんが答えを出す
「昔の魔法使いはそうやって弟子を見つけていたらしいな。ロランは間違いなくその末裔だろう」
(なるほど)
「文字か・・指南書は悪用されない為に全て共用語を使ってるしな」
「おじさんはきょうよう語分かるの?」
「当然だな」
何このおっさん?めちゃ頭良いのか?
「きょうよう語は、としょかんで勉強できる?」
「その為の図書館だ。俺も役に立つ本を選んでるつもりだ」
この人が選ぶのか
「だが文字だけでも数年はかかるだろうな」
姉ちゃんが肩を落とす。このおっさんにイラっときた
「やってみないとわかんないよ」
「しかしまだ7歳ぐらいだろ?俺の子らも苦労してるぜ」
「おじさんのこども?」
「ああ、今9歳と5歳だ」
意外と若いのか?ロランを見る
「なんとかなる?」
「エディの言うとおり、やってみるしか無いね。近代魔法に関してなら共用語も教えれると思うよ」
おっさんはロランを見る
「意外と子供の面倒見は良いんだな」
ロランは明後日の方向を見ていた。このおっさんが嫌いなのかな?
そしておっさんがある提案をした
「そうだな・・・ロラン。俺の子らにも近代魔法を教えるなら、共用語の教師を付けるぜ」
姉ちゃんが立ち上がった。何か言いたそうにロランを見る
ロランは迷っている様だ
「きょうし?がくじゅくのせんせい?」
「いや、うちの使用人だ」
「おじさんお金持ちなの?」
何時の間にか来ていたパパが答える
「ジャン・シルヴェストセイジ・ロバルデューだよ。この地の領主だ」
「「え?」」
姉ちゃんと二人して驚く。どう見てもタチの悪い冒険者にしか見えない
「ぼうけんしゃじゃないの?」
「これでも銀板の冒険者だぜ」
トッドが口を挟む
「領主が銀板なんて、世界で探してもロバルデュー領ぐらいだ」
「家督を継いでから、冒険者らしい事は出来なくなったけどな」
残念そうにするおっさん
「まえのりょうしゅの人は?」
死んだのかと思い、眉を下げて聞いてみる
「魔王国に行ってから6年は帰ってないな」
(どこ行ってんだよ)
「なにしてるの?」
「その頃から魔王国でボードゲームが流行り出してな。毎日の様に大会が行われている。
親父が得意なもんで、母親も連れて殴りこみに行ったきりだよ」
(親父はともかく、魔王に働かせて何やってんだよ魔族・・)
「まあ時々手紙は来るからな。土地も気に行ったみたいで、あと10年は帰らんかも知れん」
親父と言い銀板の息子と言い、ロバルデュー家は自由奔放な様だ
※ボードゲーム。アオキが持ち込んだ物もあるが、それを参考にさまざまなゲームが作られて来た。
今はこの世界の人々にあった新しいゲームの方が人気が高い。
ーーーーー
姉ちゃんはロランに何か言いたそうにしている。ロランは諦めた
「はぁ~・・いいよ。共用語をエルに教えてもらえる?」
「お!ありがてえ。俺以外だと魔法士を金で雇うしかないからな!」
近代魔法の勉強に、領主の子供2人が入る事になった。
「おじさんのこどもはがくじゅくなの?」
「学塾は顔見せに行くぐらいで、うちでも教えてる。貴族向けの学塾はこの地に無いからな」
(なるほど。ん?9歳って事は・・)
「もしかしてレミとおなじ歳?」
「おお、ブランの娘か。確か同じ3学生だったな」
ブランさんは衛兵をしている赤毛の犬獣人だ。パパに聞いたがとても強いらしい。
「エディット!お前の息子はなかなか頭が良さそうじゃないか?」
「家でもよく質問攻めにされるよ」
パパは苦笑いしながら答える。質問攻めにしていた自覚は無いのだが・・
そうしてるとギルドの職員が書類の束を持って来た。目がキツそうな女性だ。
三角メガネを付けたら女教師とか、教育ママになりそうな感じである。
「男爵、報告書が纏まりました」
「サブマス、すまねえな」
この人がサブマスターなのか。そう言えば領主は男爵だったな
「まじゅうの?」
「そうだ、人為的に連れて来られたみたいでな。まったく面倒な事しやがる」
(人為的?この地が狙われたって事?)
「それって言っていいの?」
「問題は無い。ここを何処だと思ってる?」
そう言ってニヤリとする
そう。この街は冒険者の街。有事になればほぼ全員が兵士の役割も果たす。数だけで言えば、世界最大かも知れない。
と言うか、聞きたい事はそうじゃない
「かくさなくていいの?」
「この手の案件は隠した方が後手に回るからな。今日中には触れに出す事になる」
(なるほど。けど心配だな)
パパを見る
「大丈夫だ。不審な奴には冒険者も対応する事になるからね」
そう言って頭を撫でてくれる。姉ちゃんも心配する
「図書館まで大丈夫かな?」
「心配ないよ。エディもエルも私が守るから」
とロラン。まあロランなら軍隊も瞬殺だ
そうして話を詰める。始めるのは3月1日から。時間は午後に共用語と近代魔法だが、学塾の教科の時間をどうするか相談する。
そしておっさんが要らん事を言った。
「それならエルも学塾に通えばどうだ?エディにはロランが居るから心配要らんだろ?」
気づいていたけど黙ってたのに・・
「ろらんおしごとは?」
「今はお金の心配が無いから一緒に居られるよ」
(・・・)
パパが姉に訊ねる
「エル、どうする?友達も通ってるみたいだし」
「・・・うん、行こうかな」
「まだ新学期は始まったばかりだ。問題は無かろう」
おっさんが締めくくった
姉ちゃんは3月から学塾に通う事になり、午後は図書館で共用語の勉強だ。
そして近代魔法は基礎から学ぶ。基礎の部分はロランなら指南書無しで出来るらしい。
ーーーーー
ギルドの宿舎でロランの引越しの荷物を纏める。荷物は着替えが少しと古い馬車だけだった。
パパは学塾の手続きに。おっさんは他の冒険者達と何処かへ行った。
学塾は複数あるとの事で、レミ達が通ってる所にしてもらった。
そうそう。フェルヴさんだが、家に来る予定が伸びるらしい。
魔獣の襲来が人為的だと分かったのは精霊に聞いたからみたいだ。
当分の間はフェルヴさんが必要なので来れなくなってしまい、姉は残念そうだった。
「退去手続き終わったよ」
ロランは書類を持って出て来た。これを馬屋に持ってくらしい
「まや?」
「ポルを預けてたとこよ。引越しの証明とお礼をね」
(なるほど)
馬を飼う人は馬の所在地の届け出が必須である。犬と違い国の許可は要らない。
そして馬屋に向かう。住宅地からは離れた場所で、商業区域と呼ばれる所らしい。
「すごい」
姉ちゃんが感動している。うん、前世で見た町工場みたいなのが沢山建っている。
そしてすごく長い作りの建物に着いた。そこにロランが入っていく
建物自体は広くは無いが、入ったらすぐに運動場みたいなとこが見えた。
「「ひろーい」」
姉ちゃんと二人で大はしゃぎだ。前世でもこんな広い運動場は見た事が無い。
建物はL字型になっており、奥に向かってずっと繋がっている。
奥の方では馬達が自由にしていた
「見て行く?」
ロランが姉に向かって聞く
「うん」
即答だった
退去の手続きと届け出をした後、馬を見に行く。色んな色や体格の馬が居ておもしろい。
人懐っこい馬はやってきて、撫でろと頭を下げてくる。
姉ちゃんはかろうじて首に届くが、俺は無理だった
「やっぱりお馬欲しいな」
「パパにたのんでみる?」
「うーん。でもお世話を覚えてからにする」
うん。姉ちゃんは衝動買いをしないタイプの様だな
ロランはポルが使っていた寝床の藁を紐で束ねて持って来た。
姉ちゃんも束を一つ持って馬屋を出る。馬車は座席が2つで後ろに荷物が置ける。車みたいだ
そして途中で買い物をしながら帰る。パイプ?何に使うんだろう?
長いパイプを10本ほど馬車の屋根に積み、端をロープで縛る。
「おもくないの?」
「これは繊維で編み込んだパイプだから柔らかくて軽いのよ」
「なにに使うの?」
「馬舎の排水用よ。エディットが溜め池に繋げば良いって」
我が家には上下水道が無い。なので生活排水を浄化する為の溜め池がある。
街から向かって我が家の手前低い位置に作られていた。
水草が覆い茂っていて水面が少ししか見えない程。
その少し上の段に、薪や炭の置き場がある。小さな家一軒の大きさで30軒程、道側の一つを馬舎に使う。
床が石畳みなので水やおしっこが溜まりやすいのだ。
「いちりん車は?」
「堆肥用よ。ポルのうんちを堆肥にする場所へ運ぶの。エルザが利用するって」
(ママの家庭菜園か)
知らない間にパパとママも話を詰めていた様だ
※人が使うトイレの場合は、汲み取りに来る業者がいる。それを一か所に集めて処理している。
一部は土壌改善の素材。昔は魔獣対策に毒が頻繁に使われていた。今回の魔獣も毒霧が原因。
一部は道路の材料。残りは焼却処分して埋め立てに使っていた。
必要な物を買い込み、馬車に乗って帰宅する。
姉ちゃんは馬車を曳くポルと御者台のロランを見ていた。
ポルの為に馬車に軽量化の魔法陣をさらっと付与したロランが格好良いのだ。
俺は馬車の中を見る。古くて小さいが割と乗り心地が良い。
座席は2つしか無いが、背もたれを後ろに倒すと荷物置き場と面一になりそう。
(これなら二人ぐらいは寝れるか。荷物があると一人だな)
まるでデート用の馬車だなと思いながら瞼が重くなってくる。
眠くなったのだ。当然この年齢では抗えず、姉にもたれ掛って眠った。
ーーーーー
目が覚めた。誰も居ない
外に出てみると姉とロランがポルの世話をしていた。体を洗った様で艶々している。
ロランはブラッシングを。姉ちゃんは蹄の土を取っていた。
蹄の土ってすぐに溜まるよね?
「土とらないとダメなの?」
「古い土が残ってると病気になるの」
(取らないと駄目だな)
そしてポルを眺める。優しそうな目だ。体も馬屋で見た馬より一回り小さい。
「ぽにーみたい」
「エディはポニーも知ってるの?」
この世界でも居た様だ。もし神様が作った世界なら、前世の世界を参考にしたんだろうな
「ずかんで見たよ」
嘘だが図鑑の責任にしておいた
「ポニーって?」
姉が聞く
「小型の馬よ。特徴は長い耳ね。それに皆優しい目をしてるわ」
「へえ~、ポニー良いかも?」
「ポニーは安いよ。どちらかと言えば馬の入門用だね」
「そうなんだ?」
「馬ほどの仕事量は無理だからね。お世話も馬と同じだからあまり人気が無いの」
子供の頃に乗った事を思い出す
(ポニー結構良いけどなあ。ペットみたいで・・)
「私でも買える?」
「冒険者の仕事をしたらすぐに買えるよ?」
姉ちゃんは嬉しそうにしている。姉ちゃんは目標が沢山出来てイキイキしていた。
そりゃそうだ。冒険者登録に近代魔法の勉強。そして学塾と大忙しである。
さて、俺はどうしよう。午前はロランと二人っきりになりそうなのだが・・・
「今すぐかあ~・・文字が全然わかんないし・」
姉ちゃんはテーブルに伏せて迷っている
「近代魔法と一緒に共用語も勉強できるよ。私はそうした」
(これだから天才は・・)
天才と呼ばれる人種は、自分が出来た事を他人も普通に出来ると思っている節がある
「ろらんはきょうよう語を教えられる?」
「言葉や文字は分かるけど、先生の様にはいかないね」
そりゃそうだろうな。他に得意な人はフェルヴさん?あの人は忙しそうだ。
ドク爺・・いやギルマスはダメだろう
姉と二人して迷っているとロランが買ってくれた食事が来たので3人で食べる。
「「おいしい」」
この世界の料理はほんとにおいしい。調味料が増える以前から食は発展していた様だ。
食事が終わり休憩してると、ギルドに人が大勢入って来る。パパが居るって事は領主様も?
フェルヴさんも居る。あ、スキンヘッドだ。あの大きな人は確かトッド?
10人ぐらい入って来た。パパとスキンヘッドが受付のティアさんと何か話している。
フェルヴさんがこちらに気づく
「ロラン?」
ロランは手を挙げるとフェルヴさんがこちらへ来た
「エルにエディも。どうしたんだ?」
フェルヴさんに事情を説明する。姉ちゃんが魔法を使いたいけど魔力が足りない。
近代魔法なら使えると言うのでロランに教えてもらう事に。
そして一緒に暮らす事になり、ギルドに報告した。
ついでに近代魔法の指南書を見せてもらったら文字が分からず、困っていると。
話し終えるとフェルヴさんの後ろに知らない人が3人居た。
「ほう、近代魔法とは大きく出たな」
黒髪イケメンなおっさんがニヤリとする。そして俺と姉ちゃんの間に椅子を置き、そこにドカッと座った
「俺も習ったが、近代魔法はぶっ飛んだ内容だぜ。まあ役に立つ知識が多いがな」
「おじさんはきんだいまほう使えるの?」
「商会の魔法使い並みにはな」
すごいな。他に使える人、初めて見たよ
「しかしロランが人に魔法を教えるとはな」
ロランは目線を反らす。姉ちゃんも話に入る
「勉強したいんだけど文字が読めないの」
「なるほど。まず文字をなんとかしたいと?」
「うん」
おっさんは顎に手を当てて考える
「現代魔法では駄目なのか?」
「魔力が足りないらしいの」
おっさんはロランを見る
「そうなのか?」
「エディットぐらいね」
そっぽを向きながら頷き返事する
「ロランが言うならそうなんだろうな」
そう言えば普通に信じていたが、おっさんもロランを信用しているみたいだ
ロランを見る
「どうして分かるの?」
「見ただけで魔力の強さが分かるよ。どうしてか分からないけど」
おっさんが答えを出す
「昔の魔法使いはそうやって弟子を見つけていたらしいな。ロランは間違いなくその末裔だろう」
(なるほど)
「文字か・・指南書は悪用されない為に全て共用語を使ってるしな」
「おじさんはきょうよう語分かるの?」
「当然だな」
何このおっさん?めちゃ頭良いのか?
「きょうよう語は、としょかんで勉強できる?」
「その為の図書館だ。俺も役に立つ本を選んでるつもりだ」
この人が選ぶのか
「だが文字だけでも数年はかかるだろうな」
姉ちゃんが肩を落とす。このおっさんにイラっときた
「やってみないとわかんないよ」
「しかしまだ7歳ぐらいだろ?俺の子らも苦労してるぜ」
「おじさんのこども?」
「ああ、今9歳と5歳だ」
意外と若いのか?ロランを見る
「なんとかなる?」
「エディの言うとおり、やってみるしか無いね。近代魔法に関してなら共用語も教えれると思うよ」
おっさんはロランを見る
「意外と子供の面倒見は良いんだな」
ロランは明後日の方向を見ていた。このおっさんが嫌いなのかな?
そしておっさんがある提案をした
「そうだな・・・ロラン。俺の子らにも近代魔法を教えるなら、共用語の教師を付けるぜ」
姉ちゃんが立ち上がった。何か言いたそうにロランを見る
ロランは迷っている様だ
「きょうし?がくじゅくのせんせい?」
「いや、うちの使用人だ」
「おじさんお金持ちなの?」
何時の間にか来ていたパパが答える
「ジャン・シルヴェストセイジ・ロバルデューだよ。この地の領主だ」
「「え?」」
姉ちゃんと二人して驚く。どう見てもタチの悪い冒険者にしか見えない
「ぼうけんしゃじゃないの?」
「これでも銀板の冒険者だぜ」
トッドが口を挟む
「領主が銀板なんて、世界で探してもロバルデュー領ぐらいだ」
「家督を継いでから、冒険者らしい事は出来なくなったけどな」
残念そうにするおっさん
「まえのりょうしゅの人は?」
死んだのかと思い、眉を下げて聞いてみる
「魔王国に行ってから6年は帰ってないな」
(どこ行ってんだよ)
「なにしてるの?」
「その頃から魔王国でボードゲームが流行り出してな。毎日の様に大会が行われている。
親父が得意なもんで、母親も連れて殴りこみに行ったきりだよ」
(親父はともかく、魔王に働かせて何やってんだよ魔族・・)
「まあ時々手紙は来るからな。土地も気に行ったみたいで、あと10年は帰らんかも知れん」
親父と言い銀板の息子と言い、ロバルデュー家は自由奔放な様だ
※ボードゲーム。アオキが持ち込んだ物もあるが、それを参考にさまざまなゲームが作られて来た。
今はこの世界の人々にあった新しいゲームの方が人気が高い。
ーーーーー
姉ちゃんはロランに何か言いたそうにしている。ロランは諦めた
「はぁ~・・いいよ。共用語をエルに教えてもらえる?」
「お!ありがてえ。俺以外だと魔法士を金で雇うしかないからな!」
近代魔法の勉強に、領主の子供2人が入る事になった。
「おじさんのこどもはがくじゅくなの?」
「学塾は顔見せに行くぐらいで、うちでも教えてる。貴族向けの学塾はこの地に無いからな」
(なるほど。ん?9歳って事は・・)
「もしかしてレミとおなじ歳?」
「おお、ブランの娘か。確か同じ3学生だったな」
ブランさんは衛兵をしている赤毛の犬獣人だ。パパに聞いたがとても強いらしい。
「エディット!お前の息子はなかなか頭が良さそうじゃないか?」
「家でもよく質問攻めにされるよ」
パパは苦笑いしながら答える。質問攻めにしていた自覚は無いのだが・・
そうしてるとギルドの職員が書類の束を持って来た。目がキツそうな女性だ。
三角メガネを付けたら女教師とか、教育ママになりそうな感じである。
「男爵、報告書が纏まりました」
「サブマス、すまねえな」
この人がサブマスターなのか。そう言えば領主は男爵だったな
「まじゅうの?」
「そうだ、人為的に連れて来られたみたいでな。まったく面倒な事しやがる」
(人為的?この地が狙われたって事?)
「それって言っていいの?」
「問題は無い。ここを何処だと思ってる?」
そう言ってニヤリとする
そう。この街は冒険者の街。有事になればほぼ全員が兵士の役割も果たす。数だけで言えば、世界最大かも知れない。
と言うか、聞きたい事はそうじゃない
「かくさなくていいの?」
「この手の案件は隠した方が後手に回るからな。今日中には触れに出す事になる」
(なるほど。けど心配だな)
パパを見る
「大丈夫だ。不審な奴には冒険者も対応する事になるからね」
そう言って頭を撫でてくれる。姉ちゃんも心配する
「図書館まで大丈夫かな?」
「心配ないよ。エディもエルも私が守るから」
とロラン。まあロランなら軍隊も瞬殺だ
そうして話を詰める。始めるのは3月1日から。時間は午後に共用語と近代魔法だが、学塾の教科の時間をどうするか相談する。
そしておっさんが要らん事を言った。
「それならエルも学塾に通えばどうだ?エディにはロランが居るから心配要らんだろ?」
気づいていたけど黙ってたのに・・
「ろらんおしごとは?」
「今はお金の心配が無いから一緒に居られるよ」
(・・・)
パパが姉に訊ねる
「エル、どうする?友達も通ってるみたいだし」
「・・・うん、行こうかな」
「まだ新学期は始まったばかりだ。問題は無かろう」
おっさんが締めくくった
姉ちゃんは3月から学塾に通う事になり、午後は図書館で共用語の勉強だ。
そして近代魔法は基礎から学ぶ。基礎の部分はロランなら指南書無しで出来るらしい。
ーーーーー
ギルドの宿舎でロランの引越しの荷物を纏める。荷物は着替えが少しと古い馬車だけだった。
パパは学塾の手続きに。おっさんは他の冒険者達と何処かへ行った。
学塾は複数あるとの事で、レミ達が通ってる所にしてもらった。
そうそう。フェルヴさんだが、家に来る予定が伸びるらしい。
魔獣の襲来が人為的だと分かったのは精霊に聞いたからみたいだ。
当分の間はフェルヴさんが必要なので来れなくなってしまい、姉は残念そうだった。
「退去手続き終わったよ」
ロランは書類を持って出て来た。これを馬屋に持ってくらしい
「まや?」
「ポルを預けてたとこよ。引越しの証明とお礼をね」
(なるほど)
馬を飼う人は馬の所在地の届け出が必須である。犬と違い国の許可は要らない。
そして馬屋に向かう。住宅地からは離れた場所で、商業区域と呼ばれる所らしい。
「すごい」
姉ちゃんが感動している。うん、前世で見た町工場みたいなのが沢山建っている。
そしてすごく長い作りの建物に着いた。そこにロランが入っていく
建物自体は広くは無いが、入ったらすぐに運動場みたいなとこが見えた。
「「ひろーい」」
姉ちゃんと二人で大はしゃぎだ。前世でもこんな広い運動場は見た事が無い。
建物はL字型になっており、奥に向かってずっと繋がっている。
奥の方では馬達が自由にしていた
「見て行く?」
ロランが姉に向かって聞く
「うん」
即答だった
退去の手続きと届け出をした後、馬を見に行く。色んな色や体格の馬が居ておもしろい。
人懐っこい馬はやってきて、撫でろと頭を下げてくる。
姉ちゃんはかろうじて首に届くが、俺は無理だった
「やっぱりお馬欲しいな」
「パパにたのんでみる?」
「うーん。でもお世話を覚えてからにする」
うん。姉ちゃんは衝動買いをしないタイプの様だな
ロランはポルが使っていた寝床の藁を紐で束ねて持って来た。
姉ちゃんも束を一つ持って馬屋を出る。馬車は座席が2つで後ろに荷物が置ける。車みたいだ
そして途中で買い物をしながら帰る。パイプ?何に使うんだろう?
長いパイプを10本ほど馬車の屋根に積み、端をロープで縛る。
「おもくないの?」
「これは繊維で編み込んだパイプだから柔らかくて軽いのよ」
「なにに使うの?」
「馬舎の排水用よ。エディットが溜め池に繋げば良いって」
我が家には上下水道が無い。なので生活排水を浄化する為の溜め池がある。
街から向かって我が家の手前低い位置に作られていた。
水草が覆い茂っていて水面が少ししか見えない程。
その少し上の段に、薪や炭の置き場がある。小さな家一軒の大きさで30軒程、道側の一つを馬舎に使う。
床が石畳みなので水やおしっこが溜まりやすいのだ。
「いちりん車は?」
「堆肥用よ。ポルのうんちを堆肥にする場所へ運ぶの。エルザが利用するって」
(ママの家庭菜園か)
知らない間にパパとママも話を詰めていた様だ
※人が使うトイレの場合は、汲み取りに来る業者がいる。それを一か所に集めて処理している。
一部は土壌改善の素材。昔は魔獣対策に毒が頻繁に使われていた。今回の魔獣も毒霧が原因。
一部は道路の材料。残りは焼却処分して埋め立てに使っていた。
必要な物を買い込み、馬車に乗って帰宅する。
姉ちゃんは馬車を曳くポルと御者台のロランを見ていた。
ポルの為に馬車に軽量化の魔法陣をさらっと付与したロランが格好良いのだ。
俺は馬車の中を見る。古くて小さいが割と乗り心地が良い。
座席は2つしか無いが、背もたれを後ろに倒すと荷物置き場と面一になりそう。
(これなら二人ぐらいは寝れるか。荷物があると一人だな)
まるでデート用の馬車だなと思いながら瞼が重くなってくる。
眠くなったのだ。当然この年齢では抗えず、姉にもたれ掛って眠った。
ーーーーー
目が覚めた。誰も居ない
外に出てみると姉とロランがポルの世話をしていた。体を洗った様で艶々している。
ロランはブラッシングを。姉ちゃんは蹄の土を取っていた。
蹄の土ってすぐに溜まるよね?
「土とらないとダメなの?」
「古い土が残ってると病気になるの」
(取らないと駄目だな)
そしてポルを眺める。優しそうな目だ。体も馬屋で見た馬より一回り小さい。
「ぽにーみたい」
「エディはポニーも知ってるの?」
この世界でも居た様だ。もし神様が作った世界なら、前世の世界を参考にしたんだろうな
「ずかんで見たよ」
嘘だが図鑑の責任にしておいた
「ポニーって?」
姉が聞く
「小型の馬よ。特徴は長い耳ね。それに皆優しい目をしてるわ」
「へえ~、ポニー良いかも?」
「ポニーは安いよ。どちらかと言えば馬の入門用だね」
「そうなんだ?」
「馬ほどの仕事量は無理だからね。お世話も馬と同じだからあまり人気が無いの」
子供の頃に乗った事を思い出す
(ポニー結構良いけどなあ。ペットみたいで・・)
「私でも買える?」
「冒険者の仕事をしたらすぐに買えるよ?」
姉ちゃんは嬉しそうにしている。姉ちゃんは目標が沢山出来てイキイキしていた。
そりゃそうだ。冒険者登録に近代魔法の勉強。そして学塾と大忙しである。
さて、俺はどうしよう。午前はロランと二人っきりになりそうなのだが・・・
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そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。
江戸川ばた散歩
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「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。
だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。
十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。
ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。
元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。
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冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
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12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
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貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう
どんどん更新していきます。
ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。
乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う
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