砂漠と鋼とおっさんと

ゴエモン

文字の大きさ
上 下
260 / 262
少年マンガのテコ入れといえば編

フィールドオブドリームスのさトウモロコシ畑の球場っていいよな

しおりを挟む
 地の果てまで続くかのような広大なトウモロコシ畑。畑を切り裂くように引かれた一筋の街道ともいえぬ荒れた車道。ひた走る一台の武装ジャイロキャノピー。ジャイロキャノピーといっても面影は運転席くらいなもの。屋根にはブローニング重機関銃М2の改良型M2032が鎮座している。強化樹脂で軽量化され持ち運びの負担が軽減され、屈強なものなら銃架無しで手持ちで撃てるように改良されたが、その際は高コストな専用の銃弾が必要で結局少数しか生産されなかった機関銃だ。
 後部のリアボックスは巨大化しADENリヴォルバーカノンが搭載。ポルトランドの整備士サカキによって改良され口径30㎜の弾丸を毎分1,500発以上でばら撒くことができる兵器に、無限軌道の被牽引車を取り付け、荷台の上は106ミリ連装無反動砲が黒々とした光沢を放っている。見た目はジャイロキャノピーというより、オート三輪やトゥクトゥクが大砲を牽引しているような姿だ。
 そういえばさ、と無精髭をこすりながら運転を任せる電脳ナビに声をかける。声をかけるといっても脳内で語りかけているので、実際に声を出しているわけではない。

 大谷ってどうなったの?

 “彼はハンセン病で苦しみながらも関ヶ原で奮闘しますが、小早川の裏切りによって攻められ最期は自害したと言われています 。享年36もしくは42と言われています。辞世の句は 「契りとも 六の巷に まてしばし おくれ先立つ 事はありとも」 いやはや壮絶な人生だったようですよ” 

 大谷吉継じゃねーよ! 

 “ピカチュウですか?” 

 大谷育江じゃねーよ! 大谷って言ったら翔平だろ! 大谷翔平だよ! 俺大谷ずっと応援してたんだけどさ、二刀流でメジャー挑戦っておいおいマジかよ無茶言ってんじゃねーよ、いくら日本で二刀流無双したからって、どうせパッとしない成績で終わってすぐ帰って来んだろ? って思ってたら新人王とってすげぇじゃん! やっぱ俺が応援してただけあるわ! ってなったら、翌年トミージョンで打者専念でボチボチな成績に終わって、まあ手術明けならこんなもんか、ようやったって思って、次の年は故障で全然出場できないまま終わってさやっぱ駄目じゃんコイツ! 無理なんだよ俺の言った通りじゃん! ってとこまでしか知らねーんだよ。(作者注 錫乃介は2020年の大晦日に未来に飛ばされています)。

 “どうなったと思います?” 

 故障が止まらずパッとしない成績、そうだな…… 率2割半ば、ホームラン12~3本、投手の方が3勝8敗、防御率5点代くらいの酷くはないけど、なんともいえない成績を4~5年くらいやって、日本球界復帰。それから7~8勝ホームラン20本くらいの成績を続けたってとこかな。まあそれでも凄いことなんだけどな。行く前はメジャーでサイ・ヤングにホームラン王とるとか言われてたのにさ。期待値が高すぎたかな。こりゃちょっと可哀想だな。いや、よくやったよ翔平は。うん。

 “そのタイトルならとってますよ” 

 は? 馬鹿言うなよ、サイ・ヤングならなんかまだ日本人でも可能性ありそうだけど、ホームラン王なんて無理に決まってんだろ。松井の31本が限界だったじゃん。松井で31だぜ。あの松井で。

 “ホームラン王6回、首位打者3回、盗塁王2回、打点王2回、最多安打1回、五冠王1回、三冠王2回、最多勝4回、最優秀防御率3回、最多奪三振4回、シーズンMVP5回、ワールドシリーズMVP3回、ベーブ・ルース賞3回、サイ・ヤング賞2回、シルバースラッガー賞5回、エドガー・マルティネス5回、ハンク・アーロン賞6回、まだまだありますよ。更に言うと国際大会WBCのMVPも3回受賞してます” 

 は? 

 は?

 は?

 は?

 “もう一回言いましょうか? ホームラン王6回、首位打者3回、盗塁王2回、打点王2回、最多安打1回、打者主要五冠1回、三冠王2回、最多勝4回、最優秀防御率3回、最多奪三振4回、シーズンMVP7回、ワールドシリーズMVP2回、ベーブ・ルース賞3回、サイ・ヤング賞2回……” 

 待て待て待て待て待て待て待て! メジャーの打者投手主要タイトル全部とってるじゃねぇか!

 “はい、総なめしてます” 

 うっわ! マジすげぇ! やっぱ俺が見込んだだけあるわ!

 “手の平にドリルでも付いてるんですか?” 

 チートじゃん! 完全にチートじゃん! 世界中の化け物身体能力を持つ者共が集まるメジャーでトップとってるじゃん! もうイレギュラーじゃん!

 “はい、他の選手からは野球やってるのが馬鹿馬鹿しくなるとか、同じゲームをしてる気がしないなどと言われています” 

 そりゃそうだろうなぁ! あー生で見たかったなぁ。リアルタイムで感じたかったわ。

 “アーカイブ映像なら無数にありますから御覧になりますか?” 

 頼むわ。こりゃしばらく退屈しそうにないぜ。この辺トウモロコシ畑がずっと続いてっから景色に飽き飽きしてたんだよ。

 “あーそれで野球思いだしたんですね” 

 そういうこと。


 ◇    ◇    ◇    ◇    ◇


 ナビが脳内に流す大谷翔平のアーカイブ映像に興奮し絶叫と叫び声をジャノピーから垂れ流しつつトウモロコシ畑を走っていくと目的地が見えてくる。


 “錫乃介様、マダックスに到着します” 

 おー、すげぇなやっぱ大谷は。俺の期待値を遥かに超えてたとはなぁ。まったくとんでもねぇ奴だったんだな。ん? マダックスってことはもしかしたら野球が盛んな街なのか?

 “プロフェッサー、精密機械の異名を持つグレッグ・マダックスからきているのでしたらそうかもしれませんが、前の街では特にそんな情報はありませんでしたね。

 でも、なんかあの外壁ってアメリカの球場っぽくない?

 “確かにあのアーチ状の外壁はニューヨークメッツのベースボールパーク『シティ・フィールド』に似てますが” 

 あ、なんかボール拾いしてるガキがいるじゃん。こりゃもう確定だね。野球の街だよ。

 “こんなところにボールが転がってるなんて、場外ホームランですかね。だとすると街入ってすぐフィールドが広がってるってことになりますけどね” 

 いや、さすがにキャッチボールとかのとりそこないとかだろ……

 
 入国ならぬ入街審査を終えて分厚い鋼鉄製のゲートが開かれるとそこには──


「いきなりフィールドじゃねーか!」 


 外壁側に客席を思わせる階段状の四階席まであはあろうかという高さまでテラス席がある。席といっても実際に客席があるわけではなく、そこにバラック小屋をメインとした建築物が所狭しと建ち並んでいた。錫乃介が入場したのは球場スコアボードの下。


 この街はマダックスは、通常のスタジアムより遥かに広大で街全体がスタジアムだった。
しおりを挟む
感想 52

あなたにおすすめの小説

絶世のディプロマット

一陣茜
SF
惑星連合平和維持局調停課に所属するスペース・ディプロマット(宇宙外交官)レイ・アウダークス。彼女の業務は、惑星同士の衝突を防ぐべく、双方の間に介入し、円満に和解させる。 レイの初仕事は、軍事アンドロイド産業の発展を望む惑星ストリゴイと、墓石が土地を圧迫し、財政難に陥っている惑星レムレスの星間戦争を未然に防ぐーーという任務。 レイは自身の護衛官に任じた凄腕の青年剣士、円城九太郎とともに惑星間の調停に赴く。 ※本作はフィクションであり、実際の人物、団体、事件、地名などとは一切関係ありません。

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

異世界災派 ~1514億4000万円を失った自衛隊、海外に災害派遣す~

ス々月帶爲
ファンタジー
元号が令和となり一年。自衛隊に数々の災難が、襲い掛かっていた。 対戦闘機訓練の為、東北沖を飛行していた航空自衛隊のF-35A戦闘機が何の前触れもなく消失。そのF-35Aを捜索していた海上自衛隊護衛艦のありあけも、同じく捜索活動を行っていた、いずも型護衛艦2番艦かがの目の前で消えた。約一週間後、厄災は東北沖だけにとどまらなかった事を知らされた。陸上自衛隊の車両を積載しアメリカ合衆国に向かっていたC-2が津軽海峡上空で消失したのだ。 これまでの損失を計ると、1514億4000万円。過去に類をみない、恐ろしい損害を負った防衛省・自衛隊。 防衛省は、対策本部を設置し陸上自衛隊の東部方面隊、陸上総隊より選抜された部隊で混成団を編成。 損失を取り返すため、何より一緒に消えてしまった自衛官を見つけ出す為、混成団を災害派遣する決定を下したのだった。 派遣を任されたのは、陸上自衛隊のプロフェッショナル集団、陸上総隊の隷下に入る中央即応連隊。彼等は、国際平和協力活動等に尽力する為、先遣部隊等として主力部隊到着迄活動基盤を準備する事等を主任務とし、日々訓練に励んでいる。 其の第一中隊長を任されているのは、暗い過去を持つ新渡戸愛桜。彼女は、この派遣に於て、指揮官としての特殊な苦悩を味い、高みを目指す。 海上自衛隊版、出しました →https://ncode.syosetu.com/n3744fn/ ※作中で、F-35A ライトニングⅡが墜落したことを示唆する表現がございます。ですが、実際に墜落した時より前に書かれた表現ということをご理解いただければ幸いです。捜索が打ち切りとなったことにつきまして、本心から残念に思います。搭乗員の方、戦闘機にご冥福をお祈り申し上げます。 「小説家になろう」に於ても投稿させて頂いております。 →https://ncode.syosetu.com/n3570fj/ 「カクヨム」に於ても投稿させて頂いております。 →https://kakuyomu.jp/works/1177354054889229369

日本VS異世界国家! ー政府が、自衛隊が、奮闘する。

スライム小説家
SF
令和5年3月6日、日本国は唐突に異世界へ転移してしまった。 地球の常識がなにもかも通用しない魔法と戦争だらけの異世界で日本国は生き延びていけるのか!? 異世界国家サバイバル、ここに爆誕!

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

蒼海の碧血録

三笠 陣
歴史・時代
 一九四二年六月、ミッドウェー海戦において日本海軍は赤城、加賀、蒼龍を失うという大敗を喫した。  そして、その二ヶ月後の八月、アメリカ軍海兵隊が南太平洋ガダルカナル島へと上陸し、日米の新たな死闘の幕が切って落とされた。  熾烈なるガダルカナル攻防戦に、ついに日本海軍はある決断を下す。  戦艦大和。  日本海軍最強の戦艦が今、ガダルカナルへと向けて出撃する。  だが、対するアメリカ海軍もまたガダルカナルの日本軍飛行場を破壊すべく、最新鋭戦艦を出撃させていた。  ここに、ついに日米最強戦艦同士による砲撃戦の火蓋が切られることとなる。 (本作は「小説家になろう」様にて連載中の「蒼海決戦」シリーズを加筆修正したものです。予め、ご承知おき下さい。) ※表紙画像は、筆者が呉市海事歴史科学館(大和ミュージアム)にて撮影したものです。

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

処理中です...