砂漠と鋼とおっさんと

ゴエモン

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砂漠と餓鬼と塵芥編

砂漠と餓鬼と塵芥41

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 車体に響く砲撃の振動、狭い室内に高熱のガスが砲尾より噴射され、全く同じタイミングで砲口より発射された75ミリ無反動砲の砲弾は入口を塞ぐ重厚な門を爆破する。飛び散る小粒の破片がフロントガラスにビシビシと突き刺さっていく。

 すっごい威力だね…… 初めて大砲なんて撃ったよ……

 “フハハハハハ! 今日はありとあらゆることが初めて尽くしだな!” 

 アクタが75ミリ砲をぶっ放して脱出への道を開いたその時、外で様子を窺っていたレシドゥオスが近づき口を開く。

「まずいことになった。Tレックスがもう目覚めている。アクタといったな、君にこの車を任せる。運転は大丈夫だな?」

「うん大丈夫だけどレシドゥオスさんは?」

「僕は衛士隊のところに行ってくる」

「衛士隊?」

「ああ、ちょっと減刑の嘆願にな。頑張れよアクタ」

「あ、レシドゥオスさん──行っちゃった……」

 “アクタよ、気にしている暇はなさそうだぞ。奴の言う通り戦闘がもう始まっているのだ。となると急がないとおっさん達がまずい──” 

 そうだった! 全力で向かって!

 ◇    ◇    ◇    ◇    ◇

 レシドゥオスは走っていた。
 こんなにも全力で走ったことなどあっただろうか?
 走る必要が全くない人生だった。
 そもそも、意味もなくなぜ走らねばならないのか。
 身体作りのため? 運動のため? そんなもの身体がヘタったら義体と換装すればいいだけのこと。
 まだ若い自分には必要ないし、むしろ義体の方が疲れなくて合理的だ。
 ただ疲れるだけの無意味な行為などしたくはない。

 だが今は──意味がある。


 あのままでは勝ち目がない、それは確かかウェイスト。

 “ええ、目覚めてしまったら迎撃レーザーによって防がれこちらの火力は頭打ちです。濃い煙幕でも張れればまだなんとかなりそうですが、現状無理でしょう。火器を集めるのが手っ取り早い。そしてそれは……” 

 衛士隊の残存兵ということだな。

 “そうです。ですが、その後必ずお坊ちゃまは拘束されるでしょうな” 

 それはもういい、確定事項だからな。この機を逃したらもう僕は駄目な気がする。

 “お坊ちゃま、貴方という人は──人生の最後にいい出会いをされましたな” 

 まだ死刑にするな!


 ◇    ◇    ◇    ◇    ◇


 なんと出来すぎたタイミングか。武装トヨタハイラックスが脱出に成功し、大通りに方向を変えたその時だった。暴竜王Tレックスがフェイウーのブービートラップに脚をとられ地に伏せているではないか。

 “絶好のチャンスだ。 狙いは腹部、この100メートルもない近距離からの75ミリ砲の砲撃、効かないはずはない。トリガーは任せるぞ”

 うん!

 “構えろ” 

 地面で足掻き立ち上がろうとしているところへ、魔王ダーが照準を正確に定める。
 アクタは75ミリ無反動砲のトリガーに指をかける。鼓動が高くなる。精神が張り詰める。喉が渇く。鼻先から汗が滴る。ターゲットがどんどん大きくなっていく。

 “撃て、そしてこの出来損ないの恐竜映画の幕を閉じてやれアクタ” 

「うん! えい!」

 側面からの砲撃──現状最大火力の初弾は体勢を崩したTレックスでは迎撃すること叶わず、腹部へと命中。

 立ち昇る爆炎に大気を震わせる咆哮。
 そして自動装填装置による次弾まで数秒の間。

 うごめく竜王

 轟砲
 
 頭部へ命中

 崩れ落ちる巨体

 次弾装填

 動きを止める目標


 やった!?

 “油断するなもう一発食らわせろ” 


 追撃の砲弾は──

 突如頭部から発せられる強い光の点滅の前で爆煙をあげる。


 ウソッ!

 “迎撃だと! バカな!” 


 燃え盛る炎の中から立ち上がる巨体は、恐竜の皮が焼け落ちその下からは赤黒い金属質のパーツが輝いていた。吹き飛ばしたかと思われた尻尾も先の先まで未だ健在。左右に振り回し崩壊した建造物を更に瓦礫に変えていく。


「メタルボディだと!?」

 オジサンは驚愕した。昔見たアニメ『ビース○ウォーズ』のティラノザウルス型敵司令官メガトロ○の姿を彷彿とさせる超鋼ボディ。いやゾイ○のデスザウ○ーかもしれない。

 “特殊合金鋼装甲とはおそれいりました。75ミリ砲じゃ倒しきれないわけです” 

 クソッ! あと一手たりねぇ──オジサンの叫びがアクタが放つ四発目の75ミリ砲弾を迎撃する爆音に掻き消される。

 そして再びゆっくりと凶悪なアギトを開くと、口内に淡い光が集まっていく。


「まずい! 二人とも逃……」

「そこの三人脇によけろ!」


 背後からの拡声器。主を確認するより早く横にそれぞれ乗ってる車やパワードスーツから飛び降り地面に伏せる三人。
 直後、後方から轟く砲撃音、銃声の嵐。嵐というより弾丸と砲弾の暴風雨。
 匍匐でその射線上から離脱しながら覗けば、再編された衛士隊。もはや口径の大小関係ない全兵力での一斉射。
 そして見慣れないユニフォームの部隊に戦車が四両。

「ボンボン……? それに──」

「軍隊のおでましだ」

 伏せながらタコ坊主が疲れ果てた顔で呟く。やっと終わったと深いため息と共に。

「おっせえよ、 やっとかよ……」

「いや、でも、あれって……」

「お? ヤーテ君、正気に戻ったのかい?」

「おかげさまでな! それより、軍隊のあれ雑魚械獣用の軽戦車なんだけど……」

「あーーー! 馬鹿なの!? 死ぬの⁉ あんなジェノサイドレーザーぶっ放してくるやつ、重戦車だって役不足だっつーの! 火力が、火力が、火力が足りねぇーーー!」

 “役不足の用法が間違ってます” 

「黙りねぃ!」

「なんだよ突然」

 びっくりした顔でヤーテがツッコむ。

「うるせぇ! 俺の売れ残り電脳に言ったんだよ! どいつもこいつも油断に油断を重ねやがって!」

「お前もな」

 静かにツッコむタコ坊主。

「やかましい! なんだよ、セキュリティロボだから装甲は薄いし火力も大したことないって言った奴でてこい!」

「それは、お前だろ」

 再びタコ坊主。

「シャラップ! 俺のポンコツ電脳が言ったんだよ! だいたいタコ坊主も似たようなこと言ってたろ!」

 “低レベルな争いはそこまで。見て下さい、これだけの集中砲火で塵芥のドームが出来ています” 


 見て下さい──と言いつつも悪態をつかれたナビはオジサンに電気ショックを与えるのであった。
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