砂漠と鋼とおっさんと

ゴエモン

文字の大きさ
上 下
250 / 262
砂漠と餓鬼と塵芥編

砂漠と餓鬼と塵芥37

しおりを挟む

 やっばいなぁ、ホントヤバい。どうするよ。最高火力もがれちゃったよ。ホント打つ手無しになってないかこれ。


 “とりあえずティラノが動きを止めている隙に瓦礫に埋もれてる人を助けに行きましょう。あの一撃は自身にとっても負担が相当なもののようですからしばらく動かないでしょう” 


 そら、あんなの連発されてたら、この世界とっくに終わってるわ。


 “受電設備と直結してたら可能でしょうけど” 


 だからそういうフラグになりそうなこと言うなって。ってかティラノ動き止めてる? ほんと? 全然様子わからないけど。


 “あれほどの膨大なエネルギーを一度に放ったのですから、すぐに動けるほうがありえません” 




 大通りも横道も路地も瓦礫に埋まる。そして今は深夜。例え夜間工事用の150ルクス以上の照明があったとしても、伸ばした先の手すら見えないほどの粉塵と埃煙に包まれた不可視な世界が広がっていた。

 ティラノ械獣は動きを止めている。まるでうたた寝でもするかのように。この隙に攻撃できればそれに越したことはないのだが、衛士隊はそれどころではない。ハリウッドを模した街の20メートルほどの建築物がちょうど半分くらいの高さで切断されずり落ちて来たのだからたまらない。パワードスーツ隊といえど巨大な瓦礫に埋もれたらただでは済まない。あるものはメイン通りに、あるものは建物内に、あるものは乗っていた車をスーツを捨てて逃げ出していた。



「なんだ、瓦礫に挟まれなかったか。残念だ」


「その変わり僕の武装トラックが犠牲になったけどね」


「一緒に潰されてろ」


「残念ながら瓦礫に塞がれて動けないだけで車体は無事だ」


 瓦礫が散らばる大通りで憎まれ口を叩き合う二人と、おーい誰か手伝ってくれ──と声をかける者がいた。どうやら助けを求める衛士がハンドライトを振っている。

 濁りきった濃霧の世界を生き残っている僅かな街灯の明かりを頼りに手探りで向かう途中、タコ坊主の足の触手に誰かが落としたであろうハンドライトが当たる。まだ生きていた。

 どうにか辿り着くと数人の衛士が瓦礫を持ち上げようとしている。どうやら挟まれて身動きがとれないパワードスーツの衛士を助けようとしているらしい。中は無事なようだ。

 問答一つ挟む間もなくタコ坊主は重さも形状も全く判明しないブロックに触手をかける。レシドゥオスもまた同様に。しかし掛け声と共に全力を出すがビクともしない。


「誰か他のスーツ隊の奴らを呼んできてくれ」


 何名かの衛士が動く。 


「僕も行ってくる、ハンドライトを貸せ」


 隣で踏ん張るタコ坊主はわずかに逡巡したが、ソラッとレシドゥオスにハンドライトを渡した。


「そのまま逃げても、誰も文句は言わねえぜ」


 煽る言葉に、ふん──と鼻を一息鳴らすとボンボンは粉塵の濃霧に消えて行くのだった。



 ◇    ◇    ◇    ◇    ◇



「なんなのよあの恐竜モドキは…… セキュリティだかアトラクションだか知らないけど武装が過剰すぎでしょ!」


「メイン通りのカメラが大半やられたみたいね。様子がほとんどわからなくなってる……」


 フェイウーが数あるモニターを見ながらチャンネルを変えていくがどれも黒い画面が映るだけだった。


「ねぇママ、あっちのモニターは?」


「見てみるわ」


 部屋の隅にあるモニターの様子を見ようとフェイウーがアクタから手を離す──


 二人に気づかれぬよう、ウサギやリスのような小動物を思わせる素早い走りで部屋を出て行ってしまった。

 それに気付いたのはほんの数十秒後、城内のモニターに走り去るアクタの姿が映った時だった。


 

「アクタちゃん!」


 映像を見た瞬間叫び顔に手をあて天井を仰ぐフェイウー。


「あっちゃー、あの子自分が行ってどうする気なの。まあ気持ちはわかるけどさ」


「そうね、心配で仕方なかったみたいだし──私と話してるときも必死で気にしないようにしてた。いい子だわ」


 そう言いながらしゃがみこむ女主人の足元にはタコ坊主が突入時に渡してきたカバンがあった。そしてすくっと立ち上がると、お仕事用のピンヒールから荒い紐で縛り上げるコンバットブーツへと履き替わっていた。


 追いかけるわ──白金ロングのワンレングスヘアーと白銀スパンコールドレスの胸元を無造作に掴むと、一気にそれを剥ぎ取り投げ捨てた。


「大丈夫?」


「まだ心配されるほど衰えてないわ。それにこのままじゃオド達危ないし」


 フェイウーの姿は白金ロングのウィッグの下に漆黒のベリーショート。スパンコールドレスの下にブラックレザーのフロントジッパーベアトップで締まったくびれを大きく露出し、ボトムもブラックレザーのホットパンツスタイルへと変身を遂げていた。


 「久しぶりに見るわ、ハンターバージョンのママ」


 カバンの中から自動拳銃クーナン357マグナムを出してチャンバーチェックしレッグホルスターに。コンバットナイフはサイド、いくつかの手榴弾を身に着けると──行くわ、と一言残し走り去る。

 その夜の蝶という名の殻を棄てた女の母性溢れる地母神のような目は、獲物を狩るジャッカルのような鋭い目付きへと変貌しているのだった。

しおりを挟む
感想 52

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

謎の隕石

廣瀬純一
SF
隕石が発した光で男女の体が入れ替わる話

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

大日本帝国、アラスカを購入して無双する

雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。 大日本帝国VS全世界、ここに開幕! ※架空の日本史・世界史です。 ※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。 ※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。

うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞 ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。 そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。

Another World〜自衛隊 まだ見ぬ世界へ〜

華厳 秋
ファンタジー
───2025年1月1日  この日、日本国は大きな歴史の転換点を迎えた。  札幌、渋谷、博多の3箇所に突如として『異界への門』──アナザーゲート──が出現した。  渋谷に現れた『門』から、異界の軍勢が押し寄せ、無抵抗の民間人を虐殺。緊急出動した自衛隊が到着した頃には、敵軍の姿はもうなく、スクランブル交差点は無惨に殺された民間人の亡骸と血で赤く染まっていた。  この緊急事態に、日本政府は『門』内部を調査するべく自衛隊を『異界』──アナザーワールド──へと派遣する事となった。  一方地球では、日本の急激な軍備拡大や『異界』内部の資源を巡って、極東での緊張感は日に日に増して行く。  そして、自衛隊は国や国民の安全のため『門』内外問わず奮闘するのであった。 この作品は、小説家になろう様カクヨム様にも投稿しています。 この作品はフィクションです。 実在する国、団体、人物とは関係ありません。ご注意ください。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

処理中です...