砂漠と鋼とおっさんと

ゴエモン

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砂漠と餓鬼と塵芥編

砂漠と餓鬼と塵芥30

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 USSは日本にあるウニバーサルスタジオよりも狭く凡そ半分くらいの面積である。その半分はマダガスカルのジャングルをイメージした作りで、もう半分に未来都市やジュラシックアース、ファンタジーを想像させる世界がひろがっている。園内中心には湖、エントランスへ抜ける大通りにはオールドアメリカンスタイルの街並みがあり、この場所で衛士隊と械獣達は激突していた。

 戦闘開始当初は衛士隊が押していたが、その後械獣陣営が戦力を増強してきて押し返す、しかし、固定砲台の復活と倒した械獣はボーナス代わりという伝令のおかげで衛士隊は奮起を見せ現在は膠着していた。

 空から急襲してきた軍用ヘリ型械獣には面食らった衛士隊であったが、後から出現した巨大ロボスタイルにトランスフォームしたエイブラムスの主砲は見せかけで、蹴るか踏み潰すかであった。さすがに衛士隊の小銃SAR21の5.56ミリ弾は跳ね返す装甲をもっていたが、パワードスーツ隊の三砲身20ミリ弾のガトリング砲によって全身に無数の弾痕を空けて稼働を停止した。


 ヤーテがいる後列部隊の目の前には『ハムハムトラ』のアトラクションから抜け出てきたゾンビやミイラが立ち塞がっていた。

 部隊長の号令によって斉射が始まる。よくある不死者の特徴である、死してもなお立ち上がり人間を襲うという特性を再現しているのか、数発弾が当たった程度では歩みを止めず、手足をふっ飛ばしてようやく無力化できる械獣だったためやっかいな相手であった。ヤーテも戦果を上げるべく奮起し銃を構えるが……


 あ……弾……切れ……


 そうだ、さっき、ヘリに向かって……撃ち尽く……し……た……


 ボーナス……



 俺のボーナスが!!



 あぁ……!



 あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!




 ◇    ◇    ◇    ◇    ◇



 セキュリティ械獣の背後にひっそりと陣取るタコ坊主とオジサン。タコ坊主の武装ゴーカートは大型対戦車ライフル、ゾロターン社製 s-18/1100が一門搭載されている。

 オジサンの乗る車の武装は、運転席屋根に新型の軽量化されたブローニングM2032重機関銃。後部風防屋根と一体型した大型リアボックス上にはADENリボルヴァーカノン改は30×113mm弾を毎分1,500発バラ撒く凶悪な機関砲。そして牽引する無限軌道車両には106ミリ連装無反動砲がその出番を待っていた。

 

 エントランスの大通りには大型トラックやレーシングカー、バイク、軍用車などのいわゆるヴィークル系(乗り物)械獣だけでなく、ゾウやジャガー、サイ、蜘蛛、サメ、といった生物からトランスフォームするものまで集まっている。


「──武装は大したことないが、アニマルタイプのやつは動きが機敏でパワーもなかなかあるみたいだな」


 タコ坊主が指差す先には、時代を感じさせる風合いのビルによじ登って、ビルから剥ぎ取ったブロック瓦礫を衛士隊に向けてぶんぶん投げつけるゴリラがいた。体高5~6メートルはある身から投擲される瓦礫に生身で当たったら即死は確実であろう。


「あっちからはちっこい恐竜まで湧いてるな」


 “コンピーことコンプソグナトゥスを模した械獣ですね。体長は最大でも1.5メートルほどですが、群れで狩りをするのでご注意を” 


 湖を中心に西側から来たオジサン達とは逆、東側からは前傾姿勢で二足歩行の小さい恐竜が集団でこちらに駆けてくる。小さいといっても大型犬サイズはあり、鋭い爪や牙を持ち俊敏な動きで駆けてくる群れはざっと二十体。

 

「おっさんは衛士隊の方へ行け。俺は火力が弱いから恐竜側へ行こう」


「ティラノもトリケラも出ないことを祈るぜ」


「フラグを立てるな」



 東側へタコ坊主が向かうのを見送ると、オジサンはカノン砲を大通り側の古びた風防のビル壁を引っ掴んで雄叫びをあげるゴリラに向ける。


「あばよキングコング。お前を仕留めるはずの美貌はあの世で見てくれ」


 ブロック瓦礫を衛士隊へ投擲しているところへ狙いを付け、30ミリ弾の連続した発射音を轟かせる。

 一瞬動きを止めオジサンへ振り向き凶悪な視線をおくるが、ゴリラは地に落ち稼働を止める。その後頭部は数発くらった弾丸によってすっきりとふき飛んでいた。

 オジサンの存在に気付いた械獣達は、生物系がメインとなって迫りくる。


「はっはー! ここはいつから動物園になったんだ?」


 馬に羊に狼に、バッファローやゼブラ、ラクダやダチョウ型械獣が機敏な動きで向かってくるが、新型ブローニングの斉射で薙ぎ払う。幸い動物型のままではなく人型ロボにトランスフォームしてから襲ってきたため、動物好きなオジサンの心はあまり傷つかずにすんだ。

 ナビが推測した通り確かに装甲は薄く、12.7ミリでも充分稼働停止にまで追い込むことができた。本来の動物が素体だったなら、いままでオジサンが相手にしてきた機獣達の傾向からみて遥かに難易度があがったかもしれない。



 外の機獣達と比べてずいぶんあっけないな。


 “紛争地帯で生きているゲリラ兵と、争いも少ない平和な社会で生きている日本人くらいの差はあるんじゃないでしょうか?” 


 やめろやその生々しい表現。俺が祖国の人間虐殺してるみたいじゃねえか。普通に野生動物とペットでいいだろうが。


 “ではペットを虐殺してるということで” 


 だからやめろって──ってそんなブルーになること言ってる場合じゃねえぞ。



 生物系が片付いた次は衛士隊との境界に陣取るヴィークル系が相手だった。オジサンに向かって数体の車両が走り出す。


 “黒と黄色いの車は1977年型シボレーカマロ、赤いバイクはドゥカティ916、銀の車は964型ポルシェ911、大きいトレーラーはピータービルト359、そうそうたる名車ぞろいですね。ま、全部元はモックアップでしょうが” 


 へっ! お次はコンパニオンの姉ちゃんがいねぇモーターショーかよ。衣がついてねえ天丼みたいだな。



 間断なく重機関銃とリヴォルヴァーカノン砲が炸裂する。こちらも素体がハリボテだったおかげか、ロボ械獣の肩に付いている奇妙なデザインのバルカン砲らしきものや、手に持っていた戦車砲にみえるものもただのモックアップであり、武装らしい武装は打撃武器だけであった。

 衛士側からもパワードスーツ隊のガトリング斉射が行われ、挟撃された械獣達はみるみる数を減らしていく。

 ゾンビ、ミイラ械獣を相手にしていた後列部隊も、なかなか稼働停止しない敵に多少手こずったものの、勝利を収めていた。

 こうしてエントランスから園内中心の湖までの大通りを制圧することに成功した、衛士隊とオジサン達であった。



 “やはり所詮は園内を彩るモニュメントです。他愛もなかったですね” 


 あのさ、万が一こいつらが本物素体だったらどうなってたんだよ。


 “こっちが全滅でしょうね、まず間違いなく” 


 だろうな……


 “ここのUSSは械獣が生き延びるのに武装が必要な環境じゃなかったのが幸いしました。最初の動物園と表現したのが正解ですね” 


 だから俺が動物園で虐殺してるみたいな表現やめーや!
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