226 / 262
砂漠と餓鬼と塵芥編
砂漠と餓鬼と塵芥13
しおりを挟む
「ダーがおかしい?」
「そう、キャラクターモードがチェンジできて変なキャラばっかりでてきてわけがわからなくて、もう普通のでいいっていうのに、次から次へと変わってて面倒くさかった───という夢を見たんだ」
「なんだ夢か。ナビゲーションアプリのキャラチェンジは確かにできたな。俺も最初だけ色々聞いてみたけど面倒くせぇからデフォルトにしてるけど」
「僕もデフォルトで充分だよ。もう夢だけで疲れちゃった」
「あれだぞ、オフにしといても良いんだからな」
「うん、起きてからそうしてる」
オルドゥールに向かう三人は、元はモーテルと思われる建物の中で休憩していた。窓枠や壁紙すらも略奪され柱と壁と屋根だけの伽藍堂になった廃墟はある種の静謐さすら感じられ、休息するにはちょうど良かった。アクタは寝不足気味らしく横になっていた、オジサンは水分を補給し長煙管で一服を始め、タコ坊主はコリコリとスルメのようなものを齧っていた。
「オド、一つ聞きたいんだがオルドゥールってのが都会とは言ってたが、治安はどうなんだ。その、マフィアとかギャングとかいないか?」
「治安は良いぞ。衛士隊と呼ばれる警察機構もあってそれとは別に対械獣、対外敵の軍備もしっかりとある」
「この時代になかなか珍しいな」
「そのかわり住人は高額な税を納めないとならんがな。特に都市内部は七公三民でな。食うや食わずの者も多い」
「大変なこったがそれは一概には否定できんな。いままで俺もいろんな街を見てきたが、税は安いがマフィアがのさばってたり、軍備もないから常に械獣の脅威にさらされている街もあった」
「それはわかる。だがなあそこの富裕層はなかなかいい性格してるぞ。地上げするときも車で人ハネても安いチェップを詰めた手袋でビンタして黙らせてくるからな」
「もうそれ鈍器でシバいてるのと一緒だろ」
(作者注:通貨 “チェップ” の硬貨はパチンコ玉よりちょっと小さめの金属の粒です。1チェップは20~30円くらい)
「物価も高いぞ。店でバーボンワンショット飲んだら200チェップはする」
「うっへぇ、向こうで酒飲むのはやめとくわ。村出る前にもっと買っときゃよかったな」
「あるのか?」
「飲むか?」
「いや、着いてからでいい。今飲んだら茹でダコみたいになっちまう」
「もうすでにタコ坊主だろうが」
「火星人と言ってくれ」
「そっちだったかぁ。でもなんで身体火星人にしたんだ?」
「人間の手足だと手は手の役割、足は足の役割しかできない。足が手または手が足の役割をすることは不可能だろう?」
「確かに」
「だがこのタコスタイルなら、手も足もなく全ての役割をこなすことができる。二~三本なくなっても困ることはない。これほど合理的なスタイルはないと思うのだ」
「自分でタコって言ってるじゃん」
「そう、あれはまだ自分の店を立ち上げたばかりの頃一人で修理やメンテナンスなど、タコの手も借りたいくらい忙しくてな……」
「そろそろ出発しようぜ」
「今、俺の半生話し始めたところなんだが」
「だからだよ。アクタ起きろ、行くぞ」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
砂塵の荒野を走り抜ける一台の武装車輌。アクタはオジサンの膝の上に戻り、流れ行く光景を楽しんでいた。そしていくつかの廃墟街を通り、崩れかかったビル群に差し掛かったところで異変は起きた。
「ん? なんか匂うな」
“勘が磨かれてきましたね。小型機獣が集合してきてます。身軽で素早い動き、白い体毛、長い尾、体長80センチ前後……直鼻亜目に特徴酷似、つまり猿型機獣ですね”
「アクタ、ナビのアプリONにしとけ」
「わかった」
(ダー!きて!)
“フハハハハハハハ! 勇者アクタよ、この魔王ダーを呼び出したからにはそれなりの覚悟はできているのであろうな!”
「あ、あれ!? 魔王モード⁉ なんで⁉」
「どうした? 廃ビルのあちこちから小型の械獣がこちらの様子を窺っている。アクタも警戒しておけよ」
「え、え、う、うん。わ、わかった!」
ちょっとダー! なんで魔王モードなの⁉
“なに寝言を言っておるのだ。平和ボケしたか勇者アクタ。昨晩貴様は我と一時停戦、呉越同舟、共同戦線の約定を結んだであろうが!”
うそっ! もしかして寝ぼけて設定しちゃったの⁉ と、とりあえず今敵襲みたいだから警戒して!
“フハハハハハハハ! 造作もない、貴様の視界に敵勢を映し出してやろう……ほれ!”
うわっ! 視界のあちこちにマークが…… は、早い! ビルからビルへぴょんぴょん跳び回ってる。
“どうだ、我の力をもってすれば物陰に潜んだ賊を捕捉するなどネズミを炙り出すよりもたやすいことよ”
ダ、ダー凄い!
“フハハハハハハハ! 何を今さら”
でも、どんどん増えてるよ!
“フム、すでに4、50体は集まっているな。あれは……猿か。奴らは群れで行動するからな。機獣になってもその性質は変わらぬとみえる”
どうすればいいの?
“なに、そこの男の指示に従えばよい。今アクタの粗末な得物を出したところでどうにもならん。この車の武装で充分対処できるレベルであろう”
わ、わかった。
ナビ、どうしよっか? 一発かましとく?
“相手はこちらの出方を窺っています。先に手出しすると余計な被害を生みそうですからやめましょう”
縄張り主張してるんかな。建物から建物へ我が物顔で。昔テレビで見たインドの街中に出てくる猿みたいだな。
“ハヌマンラングールですね。特徴がよく似てますからそれの機獣化といったところでしょうか”
おー、それそれ。ハヌマーンのモデルになったっていう…… あのさ、嫌なこと思い出したんだけど。
“奇遇ですね。私もです”
オジサンの脳裏には以前白兵戦で巨大スーパーマーケット、ウォルマートの廃墟に侵入したさい、天井にぶら下がりながら糞爆弾を投げつけてくる “クソナゲテナガザル” に痛い目に遭っていた。今現在周囲からこちらを警戒している猿型械獣も毛色こそ違うもののその大きさや身のこなしはよく似ていた。
“テナガザルは分類学上直鼻亜目、真猿型下目、狭鼻小目、ヒト上科。ハヌマンラングールは直鼻亜目、真猿型下目、狭鼻小目、オナガザル上科。大変よく似ていますね”
生態、違うよな……?
“大変よく似ています。が、機獣化した今となってはどうでしょうね”
もしあいつらも糞爆弾投げに進化してて、あのビル群から一斉に爆撃くらったらヤバくない?
“非常にヤバですね、特にこの紙装甲車輌では。あ、右斜め上二時方向の一体が振りかぶりました”
やべぇ!
「アクタ! 目ぇ閉じて掴まってろ!」
叫ぶと同時に武装バイクはギアチェンジからの急加速。オジサンは背もたれに押し付けられながらも携行してある缶コーヒーサイズの物体を二個三個と右へ左へ投げ捨てバァンとドアを閉める。
廃ビル上の猿型械獣は美しいワインドアップからの投球モーションで、手にしたナニかをこちら目掛けて投げ捨てる。こちらに飛んできたナニかをハンドル操作で回避。ナニかは地面に落下、そしてワンテンポズレて小爆裂。
それが合図となった
すでに集まった猿型械獣の総数は150体が一斉に手にしたナニかを投げつけようとしたその瞬間、投げ捨てたられた缶コーヒーから180デシベルの爆音に100万カンデラを超える閃光が放たれた。
閃光手榴弾、その有効範囲は15メートルと標的が潜むビル上には届かないが、それでも経験したことのない衝撃に彼らは怯んだ。投げられたナニかは狙いをズラし、またはその場に落ち、あちこちで小範囲の爆裂が無数に無秩序におきる。
混乱する械獣達に向けて武装バイク中程に搭載されている機関砲が唸りをあげる。ビル壁面ごと削り取り、ターゲットとなった猿達は瓦礫とともに落下していく。
閃光が収まったのを見計らって再び閃光手榴弾を右へ左へと投げ捨てる。
仲間をやられていきり立ち、あちこちから甲高い召集の遠吠えがはじまる。そして始まる絨毯爆撃。もはや狙いはつけずにめったやたらに投げ込まれる糞爆弾。
破裂する閃光手榴弾。
絶え間ない爆裂音は花火大会のフィナーレを飾る速射連発、別名スターマインさながらであった。
「な、なに、何が起きてるの⁉」
“集まった猿どもが自らの爆弾化した糞を投げつけてきているのだ。爆発自体の有効範囲は3メートルほどと大したことないが数が多い。雑魚どもがもう300体は集まっているな”
「そ、そんなに!? 大丈夫なの⁉」
“ふむ、この男なかなか良い反応をしている。電脳が優秀なのか本人の資質なのかはわからんが、これなら問題なく切り抜けるであろう。おっとまたスタングレネードが爆発するぞ”
「うわわっ! な、なんで、僕目をつぶっているのに、ダーはそんなことわかるの⁉」
“我は魔王だぞ。このバイクに搭載されているマルチアングルカメラにリンクするような初歩中の初歩ができなくてどうする”
その時アクタは激しい振動のはずみで目が少し開いた。視界に入ったのは進行方向に複数転がる糞爆弾だった。
あ、あれって!
“ん? どれ、少し手伝ってやるか”
このまま行くと転がる糞爆弾の爆発に巻き込まれかねないし回避が難しい。ブレーキをかけようものなら集中砲火を喰らうだろう。そんなタイミングだった。
車内無線で運転席屋根に搭載されている重機関銃に魔王ダーはリンクするとすぐさま糞爆弾に狙いを向ける。車内に響く連続した重低音そして爆発。数コンマ後にその場を駆け抜ける車輌。もし車体下部で爆発がおきていたら横転はまぬがれなかっただろう。
「うぉっと! サンキューアクタ!」
「ぼ、僕なにも……」
「こまけぇこたぁいいんだよ! そら、そろそろビル群抜けるぞ!」
猛烈な数の小爆裂を引き連れるように廃ビル群をついに抜け、速度を緩めることなく離脱するのだった。そのまま数キロほどしばらく走り安全を確認すると、やっと肩の力を抜くことができたオジサンは深く息を吐いた。
「よーし、もう大丈夫だぞ。アクタ怪我はないか?」
「フフッ」
「どした?」
「アハハハ!」
「おいおい、まさか子供にはショック過ぎたか⁉」
「アハハ! うんうん、違うの。怖かったけど、無事だってわかったら楽しくなってきちゃった!」
「お前もたいがい神経太いな。こっちは肝を冷やしたってのによ」
アクタはタカタカ砂漠で危険な経験は数多くしていたが、この糞爆弾の絨毯爆撃花火大会ほどの派手な事件はなかった。死の危険を感じながらも頼れるオジサンに、常に落ち着いていた魔王ダーのおかげでパニックにならずにすんだ。そのためあたかもお化け屋敷を抜けた後、爽やかな顔で出てくる観客達のように、アクタはまるでアトラクションの一つでも体験したかのような笑顔を浮かべているのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「あぁぁぁ!!!」
「どした⁉」
「オドさんは大丈夫⁉」
「あ、忘れてた……」
慌てて車を止め牽引するリアカーに駆け寄る二人。
オドパッキは……
「わーん! オドさーん! 死なないでー!」
“問題ない。 泡吹いて気絶してるだけだ”
人型のタコが一体リアカーの中でしなびた生ゴミのように倒れているのだった。
「そう、キャラクターモードがチェンジできて変なキャラばっかりでてきてわけがわからなくて、もう普通のでいいっていうのに、次から次へと変わってて面倒くさかった───という夢を見たんだ」
「なんだ夢か。ナビゲーションアプリのキャラチェンジは確かにできたな。俺も最初だけ色々聞いてみたけど面倒くせぇからデフォルトにしてるけど」
「僕もデフォルトで充分だよ。もう夢だけで疲れちゃった」
「あれだぞ、オフにしといても良いんだからな」
「うん、起きてからそうしてる」
オルドゥールに向かう三人は、元はモーテルと思われる建物の中で休憩していた。窓枠や壁紙すらも略奪され柱と壁と屋根だけの伽藍堂になった廃墟はある種の静謐さすら感じられ、休息するにはちょうど良かった。アクタは寝不足気味らしく横になっていた、オジサンは水分を補給し長煙管で一服を始め、タコ坊主はコリコリとスルメのようなものを齧っていた。
「オド、一つ聞きたいんだがオルドゥールってのが都会とは言ってたが、治安はどうなんだ。その、マフィアとかギャングとかいないか?」
「治安は良いぞ。衛士隊と呼ばれる警察機構もあってそれとは別に対械獣、対外敵の軍備もしっかりとある」
「この時代になかなか珍しいな」
「そのかわり住人は高額な税を納めないとならんがな。特に都市内部は七公三民でな。食うや食わずの者も多い」
「大変なこったがそれは一概には否定できんな。いままで俺もいろんな街を見てきたが、税は安いがマフィアがのさばってたり、軍備もないから常に械獣の脅威にさらされている街もあった」
「それはわかる。だがなあそこの富裕層はなかなかいい性格してるぞ。地上げするときも車で人ハネても安いチェップを詰めた手袋でビンタして黙らせてくるからな」
「もうそれ鈍器でシバいてるのと一緒だろ」
(作者注:通貨 “チェップ” の硬貨はパチンコ玉よりちょっと小さめの金属の粒です。1チェップは20~30円くらい)
「物価も高いぞ。店でバーボンワンショット飲んだら200チェップはする」
「うっへぇ、向こうで酒飲むのはやめとくわ。村出る前にもっと買っときゃよかったな」
「あるのか?」
「飲むか?」
「いや、着いてからでいい。今飲んだら茹でダコみたいになっちまう」
「もうすでにタコ坊主だろうが」
「火星人と言ってくれ」
「そっちだったかぁ。でもなんで身体火星人にしたんだ?」
「人間の手足だと手は手の役割、足は足の役割しかできない。足が手または手が足の役割をすることは不可能だろう?」
「確かに」
「だがこのタコスタイルなら、手も足もなく全ての役割をこなすことができる。二~三本なくなっても困ることはない。これほど合理的なスタイルはないと思うのだ」
「自分でタコって言ってるじゃん」
「そう、あれはまだ自分の店を立ち上げたばかりの頃一人で修理やメンテナンスなど、タコの手も借りたいくらい忙しくてな……」
「そろそろ出発しようぜ」
「今、俺の半生話し始めたところなんだが」
「だからだよ。アクタ起きろ、行くぞ」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
砂塵の荒野を走り抜ける一台の武装車輌。アクタはオジサンの膝の上に戻り、流れ行く光景を楽しんでいた。そしていくつかの廃墟街を通り、崩れかかったビル群に差し掛かったところで異変は起きた。
「ん? なんか匂うな」
“勘が磨かれてきましたね。小型機獣が集合してきてます。身軽で素早い動き、白い体毛、長い尾、体長80センチ前後……直鼻亜目に特徴酷似、つまり猿型機獣ですね”
「アクタ、ナビのアプリONにしとけ」
「わかった」
(ダー!きて!)
“フハハハハハハハ! 勇者アクタよ、この魔王ダーを呼び出したからにはそれなりの覚悟はできているのであろうな!”
「あ、あれ!? 魔王モード⁉ なんで⁉」
「どうした? 廃ビルのあちこちから小型の械獣がこちらの様子を窺っている。アクタも警戒しておけよ」
「え、え、う、うん。わ、わかった!」
ちょっとダー! なんで魔王モードなの⁉
“なに寝言を言っておるのだ。平和ボケしたか勇者アクタ。昨晩貴様は我と一時停戦、呉越同舟、共同戦線の約定を結んだであろうが!”
うそっ! もしかして寝ぼけて設定しちゃったの⁉ と、とりあえず今敵襲みたいだから警戒して!
“フハハハハハハハ! 造作もない、貴様の視界に敵勢を映し出してやろう……ほれ!”
うわっ! 視界のあちこちにマークが…… は、早い! ビルからビルへぴょんぴょん跳び回ってる。
“どうだ、我の力をもってすれば物陰に潜んだ賊を捕捉するなどネズミを炙り出すよりもたやすいことよ”
ダ、ダー凄い!
“フハハハハハハハ! 何を今さら”
でも、どんどん増えてるよ!
“フム、すでに4、50体は集まっているな。あれは……猿か。奴らは群れで行動するからな。機獣になってもその性質は変わらぬとみえる”
どうすればいいの?
“なに、そこの男の指示に従えばよい。今アクタの粗末な得物を出したところでどうにもならん。この車の武装で充分対処できるレベルであろう”
わ、わかった。
ナビ、どうしよっか? 一発かましとく?
“相手はこちらの出方を窺っています。先に手出しすると余計な被害を生みそうですからやめましょう”
縄張り主張してるんかな。建物から建物へ我が物顔で。昔テレビで見たインドの街中に出てくる猿みたいだな。
“ハヌマンラングールですね。特徴がよく似てますからそれの機獣化といったところでしょうか”
おー、それそれ。ハヌマーンのモデルになったっていう…… あのさ、嫌なこと思い出したんだけど。
“奇遇ですね。私もです”
オジサンの脳裏には以前白兵戦で巨大スーパーマーケット、ウォルマートの廃墟に侵入したさい、天井にぶら下がりながら糞爆弾を投げつけてくる “クソナゲテナガザル” に痛い目に遭っていた。今現在周囲からこちらを警戒している猿型械獣も毛色こそ違うもののその大きさや身のこなしはよく似ていた。
“テナガザルは分類学上直鼻亜目、真猿型下目、狭鼻小目、ヒト上科。ハヌマンラングールは直鼻亜目、真猿型下目、狭鼻小目、オナガザル上科。大変よく似ていますね”
生態、違うよな……?
“大変よく似ています。が、機獣化した今となってはどうでしょうね”
もしあいつらも糞爆弾投げに進化してて、あのビル群から一斉に爆撃くらったらヤバくない?
“非常にヤバですね、特にこの紙装甲車輌では。あ、右斜め上二時方向の一体が振りかぶりました”
やべぇ!
「アクタ! 目ぇ閉じて掴まってろ!」
叫ぶと同時に武装バイクはギアチェンジからの急加速。オジサンは背もたれに押し付けられながらも携行してある缶コーヒーサイズの物体を二個三個と右へ左へ投げ捨てバァンとドアを閉める。
廃ビル上の猿型械獣は美しいワインドアップからの投球モーションで、手にしたナニかをこちら目掛けて投げ捨てる。こちらに飛んできたナニかをハンドル操作で回避。ナニかは地面に落下、そしてワンテンポズレて小爆裂。
それが合図となった
すでに集まった猿型械獣の総数は150体が一斉に手にしたナニかを投げつけようとしたその瞬間、投げ捨てたられた缶コーヒーから180デシベルの爆音に100万カンデラを超える閃光が放たれた。
閃光手榴弾、その有効範囲は15メートルと標的が潜むビル上には届かないが、それでも経験したことのない衝撃に彼らは怯んだ。投げられたナニかは狙いをズラし、またはその場に落ち、あちこちで小範囲の爆裂が無数に無秩序におきる。
混乱する械獣達に向けて武装バイク中程に搭載されている機関砲が唸りをあげる。ビル壁面ごと削り取り、ターゲットとなった猿達は瓦礫とともに落下していく。
閃光が収まったのを見計らって再び閃光手榴弾を右へ左へと投げ捨てる。
仲間をやられていきり立ち、あちこちから甲高い召集の遠吠えがはじまる。そして始まる絨毯爆撃。もはや狙いはつけずにめったやたらに投げ込まれる糞爆弾。
破裂する閃光手榴弾。
絶え間ない爆裂音は花火大会のフィナーレを飾る速射連発、別名スターマインさながらであった。
「な、なに、何が起きてるの⁉」
“集まった猿どもが自らの爆弾化した糞を投げつけてきているのだ。爆発自体の有効範囲は3メートルほどと大したことないが数が多い。雑魚どもがもう300体は集まっているな”
「そ、そんなに!? 大丈夫なの⁉」
“ふむ、この男なかなか良い反応をしている。電脳が優秀なのか本人の資質なのかはわからんが、これなら問題なく切り抜けるであろう。おっとまたスタングレネードが爆発するぞ”
「うわわっ! な、なんで、僕目をつぶっているのに、ダーはそんなことわかるの⁉」
“我は魔王だぞ。このバイクに搭載されているマルチアングルカメラにリンクするような初歩中の初歩ができなくてどうする”
その時アクタは激しい振動のはずみで目が少し開いた。視界に入ったのは進行方向に複数転がる糞爆弾だった。
あ、あれって!
“ん? どれ、少し手伝ってやるか”
このまま行くと転がる糞爆弾の爆発に巻き込まれかねないし回避が難しい。ブレーキをかけようものなら集中砲火を喰らうだろう。そんなタイミングだった。
車内無線で運転席屋根に搭載されている重機関銃に魔王ダーはリンクするとすぐさま糞爆弾に狙いを向ける。車内に響く連続した重低音そして爆発。数コンマ後にその場を駆け抜ける車輌。もし車体下部で爆発がおきていたら横転はまぬがれなかっただろう。
「うぉっと! サンキューアクタ!」
「ぼ、僕なにも……」
「こまけぇこたぁいいんだよ! そら、そろそろビル群抜けるぞ!」
猛烈な数の小爆裂を引き連れるように廃ビル群をついに抜け、速度を緩めることなく離脱するのだった。そのまま数キロほどしばらく走り安全を確認すると、やっと肩の力を抜くことができたオジサンは深く息を吐いた。
「よーし、もう大丈夫だぞ。アクタ怪我はないか?」
「フフッ」
「どした?」
「アハハハ!」
「おいおい、まさか子供にはショック過ぎたか⁉」
「アハハ! うんうん、違うの。怖かったけど、無事だってわかったら楽しくなってきちゃった!」
「お前もたいがい神経太いな。こっちは肝を冷やしたってのによ」
アクタはタカタカ砂漠で危険な経験は数多くしていたが、この糞爆弾の絨毯爆撃花火大会ほどの派手な事件はなかった。死の危険を感じながらも頼れるオジサンに、常に落ち着いていた魔王ダーのおかげでパニックにならずにすんだ。そのためあたかもお化け屋敷を抜けた後、爽やかな顔で出てくる観客達のように、アクタはまるでアトラクションの一つでも体験したかのような笑顔を浮かべているのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「あぁぁぁ!!!」
「どした⁉」
「オドさんは大丈夫⁉」
「あ、忘れてた……」
慌てて車を止め牽引するリアカーに駆け寄る二人。
オドパッキは……
「わーん! オドさーん! 死なないでー!」
“問題ない。 泡吹いて気絶してるだけだ”
人型のタコが一体リアカーの中でしなびた生ゴミのように倒れているのだった。
1
お気に入りに追加
45
あなたにおすすめの小説
絶世のディプロマット
一陣茜
SF
惑星連合平和維持局調停課に所属するスペース・ディプロマット(宇宙外交官)レイ・アウダークス。彼女の業務は、惑星同士の衝突を防ぐべく、双方の間に介入し、円満に和解させる。
レイの初仕事は、軍事アンドロイド産業の発展を望む惑星ストリゴイと、墓石が土地を圧迫し、財政難に陥っている惑星レムレスの星間戦争を未然に防ぐーーという任務。
レイは自身の護衛官に任じた凄腕の青年剣士、円城九太郎とともに惑星間の調停に赴く。
※本作はフィクションであり、実際の人物、団体、事件、地名などとは一切関係ありません。
異世界災派 ~1514億4000万円を失った自衛隊、海外に災害派遣す~
ス々月帶爲
ファンタジー
元号が令和となり一年。自衛隊に数々の災難が、襲い掛かっていた。
対戦闘機訓練の為、東北沖を飛行していた航空自衛隊のF-35A戦闘機が何の前触れもなく消失。そのF-35Aを捜索していた海上自衛隊護衛艦のありあけも、同じく捜索活動を行っていた、いずも型護衛艦2番艦かがの目の前で消えた。約一週間後、厄災は東北沖だけにとどまらなかった事を知らされた。陸上自衛隊の車両を積載しアメリカ合衆国に向かっていたC-2が津軽海峡上空で消失したのだ。
これまでの損失を計ると、1514億4000万円。過去に類をみない、恐ろしい損害を負った防衛省・自衛隊。
防衛省は、対策本部を設置し陸上自衛隊の東部方面隊、陸上総隊より選抜された部隊で混成団を編成。
損失を取り返すため、何より一緒に消えてしまった自衛官を見つけ出す為、混成団を災害派遣する決定を下したのだった。
派遣を任されたのは、陸上自衛隊のプロフェッショナル集団、陸上総隊の隷下に入る中央即応連隊。彼等は、国際平和協力活動等に尽力する為、先遣部隊等として主力部隊到着迄活動基盤を準備する事等を主任務とし、日々訓練に励んでいる。
其の第一中隊長を任されているのは、暗い過去を持つ新渡戸愛桜。彼女は、この派遣に於て、指揮官としての特殊な苦悩を味い、高みを目指す。
海上自衛隊版、出しました
→https://ncode.syosetu.com/n3744fn/
※作中で、F-35A ライトニングⅡが墜落したことを示唆する表現がございます。ですが、実際に墜落した時より前に書かれた表現ということをご理解いただければ幸いです。捜索が打ち切りとなったことにつきまして、本心から残念に思います。搭乗員の方、戦闘機にご冥福をお祈り申し上げます。
「小説家になろう」に於ても投稿させて頂いております。
→https://ncode.syosetu.com/n3570fj/
「カクヨム」に於ても投稿させて頂いております。
→https://kakuyomu.jp/works/1177354054889229369

日本VS異世界国家! ー政府が、自衛隊が、奮闘する。
スライム小説家
SF
令和5年3月6日、日本国は唐突に異世界へ転移してしまった。
地球の常識がなにもかも通用しない魔法と戦争だらけの異世界で日本国は生き延びていけるのか!?
異世界国家サバイバル、ここに爆誕!
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
蒼海の碧血録
三笠 陣
歴史・時代
一九四二年六月、ミッドウェー海戦において日本海軍は赤城、加賀、蒼龍を失うという大敗を喫した。
そして、その二ヶ月後の八月、アメリカ軍海兵隊が南太平洋ガダルカナル島へと上陸し、日米の新たな死闘の幕が切って落とされた。
熾烈なるガダルカナル攻防戦に、ついに日本海軍はある決断を下す。
戦艦大和。
日本海軍最強の戦艦が今、ガダルカナルへと向けて出撃する。
だが、対するアメリカ海軍もまたガダルカナルの日本軍飛行場を破壊すべく、最新鋭戦艦を出撃させていた。
ここに、ついに日米最強戦艦同士による砲撃戦の火蓋が切られることとなる。
(本作は「小説家になろう」様にて連載中の「蒼海決戦」シリーズを加筆修正したものです。予め、ご承知おき下さい。)
※表紙画像は、筆者が呉市海事歴史科学館(大和ミュージアム)にて撮影したものです。
天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜
八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。
第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。
大和型三隻は沈没した……、と思われた。
だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。
大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。
祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。
※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています!
面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※
※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる