砂漠と鋼とおっさんと

ゴエモン

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砂漠と餓鬼と塵芥編

砂漠と餓鬼と塵芥10

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 アクタは再びオジサンの懐にいた。

声を荒げることなくオジサンにしがみつき静かに涙を流していた。

泣き叫んだとしても建屋内の機械音でかき消されてしまうというのに、アクタは静かに泣いていた。


 どうにかならんか?

 “電脳のコア部分だけでも持って帰りましょう。運がよければデータなどサルベージできるかもしれません” 

 なるほど。

「おい、アクタ」

「ごめんなさい。また泣いちゃって」

「いいんだよ、それよりマムから電脳だけ取り出すぞ」

「え?」

「中身が生きてるかどうかわからんが、最悪お守りくらいにはなるだろ」

「う、うん」

 キューブ状にプレスされ一つの金属塊。その一部分に育児ロボットの残骸が露出していた。オジサンは背負っていた軍用の背嚢から工具を取り出すと、ナビの指示に従い分解を始めた。分解というより、プレスされひしゃげたボディをバラすのは解体に近かった。
 アクタが見守る中作業は小一時間で終わった。テニスボールサイズの電脳は外側を覆うの硬質樹脂にヒビが入り今にも割れてしまいそうだった。

 けっこう大きいな。

 “電脳初期のものですね。これが一年も経たずに豆粒よりも小さく小型化されるわけです” 

「ほいアクタ、マムの電脳だ。大事に持っておけよ」

「オジサン…… ありがとう。僕、オジサンに会えて本当に良かった……」

 手のひらに乗る電脳とオジサンを交互に見つめ涙を流すアクタは呟く。

「お互い様だ。街に戻ったら電脳なおせるエンジニア探そうぜ」

「うん、それならジャンクショップのオドさんに頼む!」

「そうか。なら、先の案内たのむぞ」

「うん、こっち!」


 ◇    ◇    ◇    ◇    ◇


 地下に繋がる階段は上階にあった。以前オジサンが来た時は運良くその場で目的の物が見つかったため、未侵入の部屋から降りる構造だった。
 階段を降り、停止している貨物用エレベーターに乗る。ゴウンゴウンという重低音を奏で、警報音のようなブザーがなり、ンオォォと開く重い扉。非常灯のみがともる薄暗い通路をカツカツと進む。地上階の地鳴りのような轟音はここまでは届かない。ただ、空調設備のファンの音だけが響いていた。いくつかの部屋を通ったが、中には食堂らしき設備や居住施設などが見受けられた。

「意外だな。しっかり設備が生きてるなんて。まぁ、そうでもなきゃアクタが育つわけないんだが」

「なんでもここは災害とか起きたときのシェルターだったみたい」

「ゴミ処理場をか? どこの国か知らんが珍しいことするな。まぁ、建物は丈夫だし電力もあるし逃げ場所としてはありっちゃありなのか? でも周りに住宅地もねぇのになんでだろな」

「うーん、マムもそのことはわからなかったみたいで教えてもらってない」

 “この施設元々はタカタカ砂漠にあったものじゃないく、おそらくスクラッチによってここにあるのだと推測します。それからゴミ処理施設は広大な敷地を要しますし、発電設備もありますから防災拠点として避難所に指定する例は少なくありませんでした” 

 なるほどね。

「電脳が言うにはスクラッチでここにあるらしいなこの施設は」

「スクラッチってこの世界がこうなった天変地異でしょ。マムに教わった」

「そうそう、地球の大地をジグソーパズルみたいにバラバラにして元の形を無視して無茶苦茶に無理矢理ピースをはめなおしたようなことが起きた。原因はまったく不明」

「なんでそんなこと起きたんだろ?」

「さあな。一つ言えるのは俺たちは蟻みたいなもんってことさ」

「蟻?」

「例えば蟻の巣が出来てる鉢植えとかあるだろ?」

「うん」

「それを通りかかった人間がいたずらで突然池に放り込んだりしたら、巣の中の蟻はなにが原因かも全くわからず溺れちまう。そういうことがこの地球におきたのさ」

「地球をどうにでも出来ちゃう凄いやつがいるってこと?」

「ああ、しかも俺たちにはそいつを見ることすらできないレベルの凄いやつがな」

「それこそ神様だね。そんなの本当にいるのかなあ?」

「少なくとも俺の知り合いにそういことをできそうなやつが一人いる」

「ええ! そんな神様みたいのと知り合いなの? もしかしてオジサンも実は神様なの!?」

「なわけないだろ、たまたまだよ。たまたま知り合って、気に入られて、惚れられた」

 そうは言い放った瞬間オジサンは飛び退き廊下を背に周囲を執拗に見回し、中腰で臨戦態勢の挙動をとった。

「なにしてんの?」

「いや、別に……」

「変なの。ホラ、この部屋だよ」

 キョトンとしながらセキュリティがガチガチにかかってたであろう頑丈な扉を開けるアクタ。また異空間から薪ざっぽが飛んでくるのでないかと警戒しながら入室するオジサン。
 室内には白いドラム缶のような外装にくるまれた物体が天井からぶら下がっていた。その数20台。そのうち数台は外装が割れ落ちて中の黄金のシャンデリアを外気に晒していた。

「ね!これでしょ!」

「ああ、間違いない。アクタ恩に着るぜ」

「こんな凄い大きいコンピュータがいっぱいあるのにこの電脳の方が性能いいの?」

「ああ確かにでっかいんだが量子コンピュータってな、ものすごく精密で繊細で温度が少し上がっただけでも正常に作動しなくなるんだ。建物からぶら下がっているのも振動を極力与えないためだし、あのシャンデリアにみえる部分なんかはごく低温を維持するための装置で、コンピュータの演算能力とは関係ないんだ」

 へぇ~、と感心しながら手にしたマムの電脳をしげしげと眺める。

「それでも発明された当時はそれまでのコンピュータに比べて桁違いの性能を誇ってたんだけど、電脳の登場はそれらを全て過去にしちまった。まぁ技術を持ち込んだのは宇宙人だから棚からぼた餅みたいなもんだけどな」

「宇宙人?」

「あ~、長くなるから帰り道で話してやるよ」

「うん。で、これどうやって破壊するの? 爆破?」

「いや、このケーブルぶった切って電力遮断するだけで充分だ。それにアクタの実家を爆破するのは気が引けるしな」

「オジサン……」

 言うや否や、腰のマチェットを引き抜き量子コンピュータから伸びるケーブルを全て切断していく。ピンッと室内の気配が変わり、電力が落ち量子コンピュータを冷却していた装置の駆動音が鳴り止む。

 “また危ないことを。感電死しますよ……” 

 だってブレーカー探すの面倒いじゃん。

「さ、これで終わりだ。帰ろうぜ」

「うん!」

「おっと、その前に金目になりそうなもん漁ってくか」

「それって僕の実家で空き巣するってことだね!」

「そういやそうだな! でも本人目の間だから合法だろ!」

 笑い合う二人は量子コンピュータを解体し、ケーブルを引き抜き持てるだけの資材をズタ袋に入れ背嚢にしまい部屋を後にしようとしたオジサンは、やっぱり何者かによって薪ざっぽで頭をドツかれるのだった。
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