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砂漠と餓鬼と塵芥編
砂漠と餓鬼と塵芥5
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デブのラージがボロクズ布の穴に足をとられうつ伏せの状態でその上に重量鉄骨が倒れたのか両足共に挟まって抜けなくなり、それを引っ張りだそうとのっぽのサンパーが必死に引っ張るが、激痛にガスマスクの中でくぐもった叫び声をあげている。
今まさにその場に襲いかかるのは一台の多脚重機。背丈ほども大きさがある三角履帯が先に付いた四脚に副腕ならぬ副足二脚の計六脚が本体を支え、二本歯と三本歯で噛み合わせるような爪ともハサミともいえるグラップル(アタッチメント)が付いた二腕が正面で振るわれる。ハサミは中型トラック程度であれば容易に握り潰し粉砕する程に巨大で、その姿は三階建の家屋ほどの巨体を誇るザリガニ械獣が迫っていた。
助ける時間を稼ごうと散弾銃で牽制しながら動き回るスルレギだが、ボロ布の砂漠は足場が悪く思うように走れず頼みの散弾銃も、節分のときに流れ弾ならぬ流れ豆をくらった近所のお父さんぐらいにしか効いていなかった。
「あれが、スクラッパーですか?」
「ううん、あれはただの械獣。たぶんリアカーに荷物載せすぎて鈍くなったところで気付かないうちに縄張りに入っちゃったんだと思う」
アクタの読みどおり少し離れたところでスルレギ達が引いていたリアカーが横転していた。
(こっからじゃ射線にあいつらがはいるな……)
「機銃で威嚇してあいつらから注意をこちらに回します。先生はその間にこのロープを倒れてる鉄骨に縛って下さい。それから鉄骨の下に何か丈夫な物を噛ませて。出来ますね」
アクタの返答を待つことなく特殊繊維のロープを渡す。
「出来る!」
「いい返事だ!」
よし───行け! と軽くポンと肩が叩かれる。
転がり落ちるように幼い身体が飛び出た直後、スルレギの目の前まで迫る械獣に向けてバイクの屋根から重機関銃が間断なく咆哮をあげる。弾丸は巨大ザリガニの頭上を掠め、こちらに注意を向けるのに充分な衝撃を与えると重厚感のあるボディをこちらに向け、支える四脚の履帯が地面のボロ布をまき散らすほどの急空回を始める。極彩色の砂丘に履帯の履板が咬むと鈍重なフォルムからは想像もつかない急発進でオジサンとの距離を一気に詰めていった。
「ちょっ待てよ! はっや! 聞いてないよ!」
叫ぶよりも早く内燃機関に喝を与えて急発進からの急旋回に空をえぐる超重力級のグラップル(ハサミ)。
アクタは自分に害をなした者達の元へと走る。決して速くはないが自重で沈むことのない走りは誰よりも軽やかにボロキレの大地を駆けて行く。
大気が震える甲高い轟音がする。先程の重機関銃よりも更に大きな音がきこえる。オジサンが放った機関砲の音だ。そして間を空けずにアームを繋ぐ油圧シリンダーが軋む金属音をがなり立て、極厚の特殊合金製のグラップル(ハサミ)の大盾で砲弾をはじくけたたましい衝突音が途切れることなく響いてくる。
モンスターのヘイトから逃れたスルレギはラージを助けるべく、サンパーと共に鉄骨に張り付くがやはりビクともしない。轟く爆発音に顔を向けたスルレギはこちらに駆けてくる少年の姿が視界に入った。
「ア、クタ…… アクタァ!!」
恥も外聞もなく叫ぶ。おのが鬱憤の発散対象としか見ていなかった小さな子供に、助けを乞う叫びを。
「謝る! 今までしたことは謝る! だから助けて! 助けて! 助けてくれぇ!」
今まで自分達が仕出かしたことが脳裏によぎりながらも、助けを求めずにはいられなかった。アクタのような子供がなんの力にもならないのは明白なことなのに、その声は悲痛な叫びとなってガスマスクを突き抜けアクタに届いた。スルレギもラージもサンパーも全員叫んでいた。その叫びに返答することなく息を切らせてたどり着くとすぐさま鉄骨へロープをかける。慣れない手付きで結ぶのはさっきオジサンに教わったばかりの “もやい結び” だ。
「サンパー、僕じゃきつく締められないからこっちの端を引っ張って締めて!」
「わ、わかった!」
「スルレギは鉄骨の下に何か挟んで噛ませられる大きくて丈夫なゴミ持ってきて!」
「ま、まかせてくれ!」
二つの指示を出し終えてロープの束を掴んで立ち上がると、ザリガニを引き連れたオジサンがこちらに向かって必死の形相で武装車輌を走らせて来るところだった。連装無反動砲の砲塔が後方に向かい射角が調整される。
「クッソこの特定外来危険生物が!」
“大破させたらスクラッパーがでるかもしれませんから足元狙いましょう”
「おう、害獣の癖に調子にのりやがって。グッピーでも食ってろ!」
放たれた轟音に大地が響く。
二本の大筒から撃ち出された砲弾は、ザリガニ型械獣が自らの正面で防御のためと交差しているハサミに直撃し途方もない爆音と爆炎をあげてその両腕をもぎ取る。空いたところに間断なく機関砲で追い討ちをかけ前二脚の三角履帯を撃ち抜くと、重圧に耐えられなくなった履板がパーツをバラまきながら弾け飛ぶ。重量を分散してた履帯がなくなり、履板を回していた起動輪や転輪が剥き出しになると、ボロ布の砂丘を咬んで掘り進み、ザリガニ械獣の足が沈み込んでいく。
「ざまぁみろ、これでもう動けねぇ……」
後方をチラリと確認すると、副足でもがいて体勢を整えようとしている姿が映る。
でもねぇのかよ───チッと舌打ち一つすると迷わず加速しアクタの元へ。
「オジサン結べたよ!」
「よ~し、頭ナデナデは後だ。リアバンパーにロープを結べ」
「うん!」
「そこのガキども、二人は転がってるリアカー持って来いデブを乗っけるぞ。早くしないとやっこさんまた来やがるぞ」
「は、はい!」
ザリガニ械獣は残る後二脚で立ち上がるようなスタイルで副足を支えに───進む速さはガタ落ちしているものの───こちらに確実に向かってきていた。
「後ろも結んだよ!」
「よし、どかすぞ」
元は排気量49ccしかない宅配用バイクから始まったこの武装車輌は、ことあるごとに改造に改造を重ね現在搭載されているエンジン出力は重量鉄骨程度であればなんの障害もなく牽引できる程跳ね上がっている。ラージの足のこともあるので慎重にエンジンの回転数を上げていけば、咬ましてあった大型車の古タイヤにズレる鉄骨が食い込んでいく。
「動いた! ラージ足抜ける?」
アクタの呼びかけに、痛ぇよぅと喚きながらもズリズリと腕だけで身体をもんどり打つような匍匐前進でするりと鉄骨から足が抜ける。
「ラージこれに乗れ!」
そこをすかさずスルレギとサンパーに抱えられ、二人が持ってきたリアカーにドサっと放り込まれると、ブギョっと豚が鼻を蹴り上げられた時のような悲鳴を放つ。
その間ザリガニ械獣にジリジリと距離を詰められ、ハサミを失ったとはいえ腕を伸ばされればもうリアカーに届く近さまで来ていた。
「残りの二人もリアカーに乗って、耳塞いで口開けてふせてろ!」
車から降りていたオジサンはワルガキ達に一喝すると、鉄骨のロープを解き瞬く間にリアカーに結び付けるとアクタを抱え運転席に戻る。
「アクタも口開けろ!」
少年に一言放ち両手で耳を塞ぐ。と同時にオジサンの電脳ナビゲーションアプリ通称 “ナビ” が車内無線を通じて連装無反動砲を発射。
至近距離から放たれた砲弾は空間を轟かせ、いともたやすくザリガニの顔でもあり心臓部ともいえる運転席のコアを撃ち抜き、貫通した光の玉は後方の廃棄物の塔を撃ち崩してその役目を終える。
ザリガニ械獣もまたハサミを失った腕を振り上げたまま機能を停止し身体が経年劣化で朽ちるまで続くと思われた自らの仕事を終えた。
その姿に魅入る間もなくワルガキ三人を乗せたリアカーを牽引するオジサンの車は、今出しうる最高のスピードで一目散に離脱するのだった。
今まさにその場に襲いかかるのは一台の多脚重機。背丈ほども大きさがある三角履帯が先に付いた四脚に副腕ならぬ副足二脚の計六脚が本体を支え、二本歯と三本歯で噛み合わせるような爪ともハサミともいえるグラップル(アタッチメント)が付いた二腕が正面で振るわれる。ハサミは中型トラック程度であれば容易に握り潰し粉砕する程に巨大で、その姿は三階建の家屋ほどの巨体を誇るザリガニ械獣が迫っていた。
助ける時間を稼ごうと散弾銃で牽制しながら動き回るスルレギだが、ボロ布の砂漠は足場が悪く思うように走れず頼みの散弾銃も、節分のときに流れ弾ならぬ流れ豆をくらった近所のお父さんぐらいにしか効いていなかった。
「あれが、スクラッパーですか?」
「ううん、あれはただの械獣。たぶんリアカーに荷物載せすぎて鈍くなったところで気付かないうちに縄張りに入っちゃったんだと思う」
アクタの読みどおり少し離れたところでスルレギ達が引いていたリアカーが横転していた。
(こっからじゃ射線にあいつらがはいるな……)
「機銃で威嚇してあいつらから注意をこちらに回します。先生はその間にこのロープを倒れてる鉄骨に縛って下さい。それから鉄骨の下に何か丈夫な物を噛ませて。出来ますね」
アクタの返答を待つことなく特殊繊維のロープを渡す。
「出来る!」
「いい返事だ!」
よし───行け! と軽くポンと肩が叩かれる。
転がり落ちるように幼い身体が飛び出た直後、スルレギの目の前まで迫る械獣に向けてバイクの屋根から重機関銃が間断なく咆哮をあげる。弾丸は巨大ザリガニの頭上を掠め、こちらに注意を向けるのに充分な衝撃を与えると重厚感のあるボディをこちらに向け、支える四脚の履帯が地面のボロ布をまき散らすほどの急空回を始める。極彩色の砂丘に履帯の履板が咬むと鈍重なフォルムからは想像もつかない急発進でオジサンとの距離を一気に詰めていった。
「ちょっ待てよ! はっや! 聞いてないよ!」
叫ぶよりも早く内燃機関に喝を与えて急発進からの急旋回に空をえぐる超重力級のグラップル(ハサミ)。
アクタは自分に害をなした者達の元へと走る。決して速くはないが自重で沈むことのない走りは誰よりも軽やかにボロキレの大地を駆けて行く。
大気が震える甲高い轟音がする。先程の重機関銃よりも更に大きな音がきこえる。オジサンが放った機関砲の音だ。そして間を空けずにアームを繋ぐ油圧シリンダーが軋む金属音をがなり立て、極厚の特殊合金製のグラップル(ハサミ)の大盾で砲弾をはじくけたたましい衝突音が途切れることなく響いてくる。
モンスターのヘイトから逃れたスルレギはラージを助けるべく、サンパーと共に鉄骨に張り付くがやはりビクともしない。轟く爆発音に顔を向けたスルレギはこちらに駆けてくる少年の姿が視界に入った。
「ア、クタ…… アクタァ!!」
恥も外聞もなく叫ぶ。おのが鬱憤の発散対象としか見ていなかった小さな子供に、助けを乞う叫びを。
「謝る! 今までしたことは謝る! だから助けて! 助けて! 助けてくれぇ!」
今まで自分達が仕出かしたことが脳裏によぎりながらも、助けを求めずにはいられなかった。アクタのような子供がなんの力にもならないのは明白なことなのに、その声は悲痛な叫びとなってガスマスクを突き抜けアクタに届いた。スルレギもラージもサンパーも全員叫んでいた。その叫びに返答することなく息を切らせてたどり着くとすぐさま鉄骨へロープをかける。慣れない手付きで結ぶのはさっきオジサンに教わったばかりの “もやい結び” だ。
「サンパー、僕じゃきつく締められないからこっちの端を引っ張って締めて!」
「わ、わかった!」
「スルレギは鉄骨の下に何か挟んで噛ませられる大きくて丈夫なゴミ持ってきて!」
「ま、まかせてくれ!」
二つの指示を出し終えてロープの束を掴んで立ち上がると、ザリガニを引き連れたオジサンがこちらに向かって必死の形相で武装車輌を走らせて来るところだった。連装無反動砲の砲塔が後方に向かい射角が調整される。
「クッソこの特定外来危険生物が!」
“大破させたらスクラッパーがでるかもしれませんから足元狙いましょう”
「おう、害獣の癖に調子にのりやがって。グッピーでも食ってろ!」
放たれた轟音に大地が響く。
二本の大筒から撃ち出された砲弾は、ザリガニ型械獣が自らの正面で防御のためと交差しているハサミに直撃し途方もない爆音と爆炎をあげてその両腕をもぎ取る。空いたところに間断なく機関砲で追い討ちをかけ前二脚の三角履帯を撃ち抜くと、重圧に耐えられなくなった履板がパーツをバラまきながら弾け飛ぶ。重量を分散してた履帯がなくなり、履板を回していた起動輪や転輪が剥き出しになると、ボロ布の砂丘を咬んで掘り進み、ザリガニ械獣の足が沈み込んでいく。
「ざまぁみろ、これでもう動けねぇ……」
後方をチラリと確認すると、副足でもがいて体勢を整えようとしている姿が映る。
でもねぇのかよ───チッと舌打ち一つすると迷わず加速しアクタの元へ。
「オジサン結べたよ!」
「よ~し、頭ナデナデは後だ。リアバンパーにロープを結べ」
「うん!」
「そこのガキども、二人は転がってるリアカー持って来いデブを乗っけるぞ。早くしないとやっこさんまた来やがるぞ」
「は、はい!」
ザリガニ械獣は残る後二脚で立ち上がるようなスタイルで副足を支えに───進む速さはガタ落ちしているものの───こちらに確実に向かってきていた。
「後ろも結んだよ!」
「よし、どかすぞ」
元は排気量49ccしかない宅配用バイクから始まったこの武装車輌は、ことあるごとに改造に改造を重ね現在搭載されているエンジン出力は重量鉄骨程度であればなんの障害もなく牽引できる程跳ね上がっている。ラージの足のこともあるので慎重にエンジンの回転数を上げていけば、咬ましてあった大型車の古タイヤにズレる鉄骨が食い込んでいく。
「動いた! ラージ足抜ける?」
アクタの呼びかけに、痛ぇよぅと喚きながらもズリズリと腕だけで身体をもんどり打つような匍匐前進でするりと鉄骨から足が抜ける。
「ラージこれに乗れ!」
そこをすかさずスルレギとサンパーに抱えられ、二人が持ってきたリアカーにドサっと放り込まれると、ブギョっと豚が鼻を蹴り上げられた時のような悲鳴を放つ。
その間ザリガニ械獣にジリジリと距離を詰められ、ハサミを失ったとはいえ腕を伸ばされればもうリアカーに届く近さまで来ていた。
「残りの二人もリアカーに乗って、耳塞いで口開けてふせてろ!」
車から降りていたオジサンはワルガキ達に一喝すると、鉄骨のロープを解き瞬く間にリアカーに結び付けるとアクタを抱え運転席に戻る。
「アクタも口開けろ!」
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至近距離から放たれた砲弾は空間を轟かせ、いともたやすくザリガニの顔でもあり心臓部ともいえる運転席のコアを撃ち抜き、貫通した光の玉は後方の廃棄物の塔を撃ち崩してその役目を終える。
ザリガニ械獣もまたハサミを失った腕を振り上げたまま機能を停止し身体が経年劣化で朽ちるまで続くと思われた自らの仕事を終えた。
その姿に魅入る間もなくワルガキ三人を乗せたリアカーを牽引するオジサンの車は、今出しうる最高のスピードで一目散に離脱するのだった。
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