211 / 262
おまけ
おまけ フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン編14
しおりを挟む“地球か……何もかもみな懐「 ハローハロー! こちら元月面基地部隊所属のサーラ! その声は月面基地メインコンピュータ無辺ね? 間違いない? そちらの住人はどう? まだ無事よね? それから……」
壁一面を埋めるモニターは英数記号とデータの羅列、月の状況が映し出されるであろう枠内は暗闇のままだが、室内のスピーカーからは渋く重々しい威厳のある音声が発せられたがサーラは興奮を抑えきれずに被せていた。
“あー、はいはい落ち着いて。もう……情緒がないなぁ。120年ぶりに地球と月の通信が開通したんだよ、歴史に残る一言を残したいのに最初っから被せてこないでよ”
「その記念すべき言葉をパクってくるんじゃねーよ」
静観を決めようとしていたのにも関わらず、思わず声が出てしまう。聞き覚えのあるセリフが出かかったせいで反応してしまったのは錫乃介の性だ。
“引用って言って欲しいね。こういう時は名作から引用するのがかっくいいんだよ。その訛のない口調にこの台詞を知ってるってことは、君は日本人の子孫だね? 偉大なるご先祖様の言葉を引用されたこと誇りに思いなよ”
「失敗したけどな」
“基地の日誌書き換えておくから”
「捏造すんなや」
「なんの話しをしてるのよ。あなた無辺ね? 月面基地メインコンピューの無辺よね!」
“落ち着いてマドモアゼル。ん、そうか元基地部隊のサーラ、ということは──マダムの方がいいね”
「マダムってお前結婚してたの?」
「してないわよ、でも……ちょっとこの話しは後ね」
「いや別に俺はいいんだけどさ、月に旦那がいようが彼氏がいようが最初っからそんなの察してたし。ただし現地妻の約束は反故にすんなよ」
「しないわよ、って月に向けて発信してるときにアンタ何言いはじめるのよ!」
“基地内に公開生放送中なんだけど僕なんか不味いこと言っちゃいました?”
「ちょっとなにしてくれてんのよ! カットしといて!」
“バラエティ番組じゃないんだから無理だよ。アポロ11号でさえ生放送してたのに、120年以上も地球への帰還を待ち焦がれた月の住人達にこの記念すべき出来事全てを見せなきゃ”
「これで地球と月の通信再開の偉大なる立役者サーラは俺の現地妻ってことが人類史に記録されたわけだな」
「あなたって最低ね……」
「答えはI knowだ。でもあれだな、ブレイクしたコンビ芸人の “じゃない方” みたいでちょっと微妙な立ち位置だな俺。まぁいいか、んで通信再開で住人の反応はどうなんだ?」
“再開の瞬間から大興奮で全住人が僕らの一挙手一投足に耳目を全力で傾けてるよ。あともう少しで映像も流せるよ”
「とりあえず放送切っといて」
“そうはいかないっての”
「別に旦那に聞かれたからって、120年もたってんだから他の男作っても修羅場にゃならんだろ。向こうだって他の女と宜しくやってるさ。そもそも生きてもいないだろ?」
「体裁の問題よ! 私の身分現地妻ってなんなのよ! そもそも向こうに男もいないし!」
「え? やっぱり本命バラッド?」
「なんの話よ! バラッドは私が親代わりだったのよ!」
「はぃぃぃぃ⁉ ちょっ、そこんところもうちょい詳しく!」
「いま! そういう! 話してる! 場合じゃ! ないでしょ!」
「いやいや、めちゃくちゃ気になるっしょ!」
「お前ら何やってんだよ……」
この記念的かつ貴重で歴史的な出来事が成し得て感動に打ち震える日であるのにも関わらず、主に錫乃介のせいとはいえわけのわからないやりとりをしている二人にバラッドは止める気もおきず、白縁眼鏡をかけ直した鉄面皮は呆れ果てた表情で崩れかかっていた。
“そうそう、この通信だっていつ切れるかわからないんだから痴話喧嘩は放っておいてさっさとやることやっとこ、そこの眼鏡君”
「バラッドだ。こちらからはスクラッチ後から地球の状況等をまとめたデータを送る、そちらからは地球の詳細な衛星地図や、基地の日誌、宇宙観測記録、研究記録、なんでもできうる限りのデータを頼む」
“スクラッチって地球じゃ命名されたんだ、あの現象。
「正確にはグラウンドスクラッチだ。そちらでは?」
“こっちではスーパーシャッフルって名付けたよ。シンプルでしょ。さ、膨大なデータだからね、ちょっと時間かかるよ。その間にマダムサーラ……ってまだその愛人と痴話喧嘩してるの?”
「愛人じゃないわ! ……まだだけど。くっ! なんでこんな男と……」
「そうだよ、そういう悔しそうな反応が欲しかったんだよ俺は! 燃えてきたぜ!」
「もう燃えなくていいわ、鎮火なさい」
“はいはい、そこまで。サーラ、君がこうして地球と月の通信を復活させたこと、これは本当に偉大な功績だ。月面基地を代表しあらためて最大級の称賛を送りたい”
「え、なんか突然あらたまってそう言われると照れるわね。でも私は──」
“サクラと子供のサラ、だね”
遮って話す無辺の言葉にサーラの顔は締まる。
「……ええそうよ、そのためにやっと──やっとここまで辿り着いた。でも、こんなに時間がかかってしまった。生きてるうちに会いたかった。サクラとサラ、二人は基地でどうだったの? 幸福だったの? サラの子はいるの? 知りたいの。教えて」
吐き出すように紡がれたサーラの言葉に、子供か…… と錫乃介は呟く。サーラはその呟きに応えようと口元を動かそうとするが、想定内だよ、と先に返される。
「結果的に月の住人も助かるなら嘘じゃない」
片眉を上げてそう言うと無辺の言葉を待った。
“そうしんみりしないでよ。なんか死んだ扱いしてるけど、元気だよ二人共”
は? とサーラと錫乃介は同時に声をだした。バラッドは珍しく眼鏡が鼻から落ちそうになるのだった。
1
お気に入りに追加
45
あなたにおすすめの小説
絶世のディプロマット
一陣茜
SF
惑星連合平和維持局調停課に所属するスペース・ディプロマット(宇宙外交官)レイ・アウダークス。彼女の業務は、惑星同士の衝突を防ぐべく、双方の間に介入し、円満に和解させる。
レイの初仕事は、軍事アンドロイド産業の発展を望む惑星ストリゴイと、墓石が土地を圧迫し、財政難に陥っている惑星レムレスの星間戦争を未然に防ぐーーという任務。
レイは自身の護衛官に任じた凄腕の青年剣士、円城九太郎とともに惑星間の調停に赴く。
※本作はフィクションであり、実際の人物、団体、事件、地名などとは一切関係ありません。
異世界災派 ~1514億4000万円を失った自衛隊、海外に災害派遣す~
ス々月帶爲
ファンタジー
元号が令和となり一年。自衛隊に数々の災難が、襲い掛かっていた。
対戦闘機訓練の為、東北沖を飛行していた航空自衛隊のF-35A戦闘機が何の前触れもなく消失。そのF-35Aを捜索していた海上自衛隊護衛艦のありあけも、同じく捜索活動を行っていた、いずも型護衛艦2番艦かがの目の前で消えた。約一週間後、厄災は東北沖だけにとどまらなかった事を知らされた。陸上自衛隊の車両を積載しアメリカ合衆国に向かっていたC-2が津軽海峡上空で消失したのだ。
これまでの損失を計ると、1514億4000万円。過去に類をみない、恐ろしい損害を負った防衛省・自衛隊。
防衛省は、対策本部を設置し陸上自衛隊の東部方面隊、陸上総隊より選抜された部隊で混成団を編成。
損失を取り返すため、何より一緒に消えてしまった自衛官を見つけ出す為、混成団を災害派遣する決定を下したのだった。
派遣を任されたのは、陸上自衛隊のプロフェッショナル集団、陸上総隊の隷下に入る中央即応連隊。彼等は、国際平和協力活動等に尽力する為、先遣部隊等として主力部隊到着迄活動基盤を準備する事等を主任務とし、日々訓練に励んでいる。
其の第一中隊長を任されているのは、暗い過去を持つ新渡戸愛桜。彼女は、この派遣に於て、指揮官としての特殊な苦悩を味い、高みを目指す。
海上自衛隊版、出しました
→https://ncode.syosetu.com/n3744fn/
※作中で、F-35A ライトニングⅡが墜落したことを示唆する表現がございます。ですが、実際に墜落した時より前に書かれた表現ということをご理解いただければ幸いです。捜索が打ち切りとなったことにつきまして、本心から残念に思います。搭乗員の方、戦闘機にご冥福をお祈り申し上げます。
「小説家になろう」に於ても投稿させて頂いております。
→https://ncode.syosetu.com/n3570fj/
「カクヨム」に於ても投稿させて頂いております。
→https://kakuyomu.jp/works/1177354054889229369

日本VS異世界国家! ー政府が、自衛隊が、奮闘する。
スライム小説家
SF
令和5年3月6日、日本国は唐突に異世界へ転移してしまった。
地球の常識がなにもかも通用しない魔法と戦争だらけの異世界で日本国は生き延びていけるのか!?
異世界国家サバイバル、ここに爆誕!
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
蒼海の碧血録
三笠 陣
歴史・時代
一九四二年六月、ミッドウェー海戦において日本海軍は赤城、加賀、蒼龍を失うという大敗を喫した。
そして、その二ヶ月後の八月、アメリカ軍海兵隊が南太平洋ガダルカナル島へと上陸し、日米の新たな死闘の幕が切って落とされた。
熾烈なるガダルカナル攻防戦に、ついに日本海軍はある決断を下す。
戦艦大和。
日本海軍最強の戦艦が今、ガダルカナルへと向けて出撃する。
だが、対するアメリカ海軍もまたガダルカナルの日本軍飛行場を破壊すべく、最新鋭戦艦を出撃させていた。
ここに、ついに日米最強戦艦同士による砲撃戦の火蓋が切られることとなる。
(本作は「小説家になろう」様にて連載中の「蒼海決戦」シリーズを加筆修正したものです。予め、ご承知おき下さい。)
※表紙画像は、筆者が呉市海事歴史科学館(大和ミュージアム)にて撮影したものです。
天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜
八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。
第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。
大和型三隻は沈没した……、と思われた。
だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。
大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。
祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。
※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています!
面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※
※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる