砂漠と鋼とおっさんと

ゴエモン

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鋼と海とおっさんと

おにぎりおにぎりちょいとつめて

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「エクスカベーたんが……子持ち? ……まぁそれはいいわ、機獣にだっていろいろいるわけだし。つまりエクスカベーたん親子に手をだすなってわけね」

「そうだ、実際賞金かけても討伐にでる酔狂な奴はいない。だからこのサンドスチームさえ動かなければいいんだ。頼む」

「いいわよ別に。今まであの機獣に被害を受けた報告もないし、こちらから手を出したこともないし」

「ずいぶんすんなり通ったな。素直な女は好きだぜ、愛してやるよ」

「やっぱやめるわ」

「冗談です! 冗談です! 冗談です!」

「あら、私のこと好きで愛してくれるのは冗談なわけ?」

「もちろん、冗談です! いえ! 嘘です! 嘘です! 嘘です! 大好きです。愛してます、愛します、愛してよろしいでしょうか? 愛するご許可をお願い致します!」

「不許可よ。愛だなんだを連呼する男って信用出来ないし嫌いなの。特に変態はね。さっさと出ていって頂ける?」

「ふっ、嫌いは好きの表裏一体の感情だぜ」

「ころころころころと……あなたハンターやめてピエロになったほうがよくって?」

「美しい女の前では男は誰しもピエロ……」

「さっさと出てけ! 出禁にするわよ!」

「すんませーーーん!」

  

 ……まだ出禁じゃないんだな俺。いっがいー!

“いつか撃ち殺されますよ……”


 サンドスチームに戻ってからはすぐにルーラーの元へ赴き、ポチ達やエクスカベーたんの件で先制攻撃をしない確約を得意の交渉術で勝ち取った錫乃介は、ズタボロになったジャノピーをオーバーホールに出しにいく。サンドスチームでは車両や兵器の整備には事欠かない施設が複数あり仕事のクオリティは高かった。が、その分価格も高かった。
 

 い、10,000cだと……

 
 あれだけ命がけで倒したゴリゴリラーテルの賞金は全て持ってかれてしまった。これに燃料や物資の補充1,200cを差っ引くと手持ちは2,478cと、今回のハンター活動の儲けは550cと僅かな金額であった。


 リボルバを出発したサンドスチームは、トレーダーやハンターを引き連れ、ハンニャンを目指して、その無限軌道で大地に轍を残す。立ち昇る砂煙、それを更に噴煙のごとく舞い上げるお供の軍勢。まるで火山が荒野を駆けていると見る人もいるだろう。


 錫乃介にとってはハンニャンに戻る形となる。街に滞在している間、ミコちゃんやハーパーに会いに行くのかナビに聴かれるが即答で否定する。また何かに巻き込まれたらたまらないし、何より旅費が心許ないのだから、少しでもハンター活動して金を稼がなくてはならない。
 
 サンドスチーム内では稼ぐあてもないため、もっぱら消費しかしていない。宿はどれも似たり寄ったりでカプセルホテルに毛がはえたような部屋で100cと高額に取られる。癪に触るので、船員が自分に割り当てられた相部屋を勝手に貸して金をとる最も安いタイプの宿50cで寝る。なので部屋は必然的に他の船員もいるのでガヤガヤと賑やかだ。飯の融通や情報交換、ギャンブル、くだらない下ネタ、どこ店の女はしまりがいい、どこの店はいい男の娘がいるとか、男が集まればするお決まりのコミュニケーションを楽しめる。とはいえ宿、飯、風呂で無駄遣いしなくても一日70~80cは消耗する。途中街で滞在中は安宿に泊まったとしても、ポルトランドまであと150日とするとどう考えても足りないのだ。
 

 いや~金さえあれば世界一安全な旅がゆっくりできるが、この金の消費は豪華客船並だな。

 “錫乃介様も他のトレーダーやハンター同様、外にでますか?”

 だって休みなく走らなきゃならないんだろ? まぁ金欠になる前に降りるよ。


 余談ではあるが、艦内に住む人間は大別して四種類。
 まず船員。船員は軍やマフィアから斡旋された優秀な人間をルーラーが選別している。たまにユニオンのスタッフからもいる。船内の移動制限は無いが、機密保持のため下船にはルーラーの許可が必要。
 二番目に船に住み着いた住人。元々トレーダーやハンターとして移動のために乗り込んでいたが、いつしか船から降りずにそのまま住むようになった人間やその子供や孫だったりする。正式な許可を得てないものが多いため移動は居住区のみだ。一旦船から外にでるとユニオンや軍から許可を得ない限り再乗船できないため安易には降りられない。
 三番目は現トレーダーやハンター達。街から街に移動して商売をしている者達だ。その多くは外で移動しているが、金に余裕のある者はこうして艦内に滞在する。一般人としての許可のため移動範囲は居住区のみ。
 そして四番目の軍やユニオン、マフィアが特別な乗船許可を与えた者。錫乃介はこれにあたる。移動制限はなく、サンドスチームの艦長である制御AIルーラーとも面会が許された人間だ。

 船の制御や運航、居住区以外の管理は全てルーラーが行っている。サンドスチーム内で人間内の権力構造を極力作らないようにしているための措置だ。居住区内でのトラブルは船員達が対応することになっているが、どうしても解決できない内容であれば最終的なジャッジ、判断は全てルーラーが行う。大忙しに思えるが超マルチタスキングで処理していくため人間を介すより圧倒的に早く、最も強い強制力を持つ。といってもあまりにも不条理な命令は拒否することができる。この前の錫乃介に対する指示なんかは良い例ではあるが、あのような身勝手なのは稀というか長く務めるモディでさえ始めての出来事であった。
 

 閑話休題


 ハンニャンに着くまで2~3日の間はサンドスチーム内を散策したり、ルーラーに駄弁りに行ったりしていた。


「……あなた、なんで握り飯とお茶入れた水筒持ってここに来てるわけ? 暇なの?」

「暇だよ。それにほら、始めてここに来たとき、用件は二つと聞きたいことが山程あるって言ったじゃん? その聞きたい事ってやつだよ」

「一つ言っておくけど、ここはサンドスチームの中枢部、強いて言うならこの世界の最重要ポイントよ。茶飲み話に来るところじゃ……いいわもう、あなたに言ったところで、馬の耳に念仏、犬に論語、兎に祭文ね。さっさと話しなさい」

「ルーラーのそういうところ好……」

「いつでもメーサー砲が撃てるの、忘れないでね」

「ふっ、照れや……」

 言い始めた瞬間一筋の不可視な光があぐらをかく錫乃介の股ぐらスレスレの床に命中し音をたてる。

「オアッ!!! ホントに撃つ奴があるか!」

「次は容赦なくその粗末な付け根に当てるわ。男として最後の台詞にならないよう気をつけるのね」

「落ち着け。まず俺が聞きたいのは、マフィアとの関係だ。元締めってことだが、どういう事だ? 軍もハンターユニオンも本部はここなんだろ?」

「そのままよ。あなたがいた時代だって、どこの国でも対立するはずの組織がどこかで繋がっていたはず。完全に間を隔てて両岸に存在していたわけじゃないわ。むしろ呉越同舟、いえそれならまだいいけど、政府がそのまま元反社な所すらあった。ならそれらを一手に監視して管理するほうが大きな混乱は招かないわ。現代の人間にはこのマネージメントはできないと思うけど」

 
 ルーラーの話を聞きつつ握り飯に食らいつき、詰まりそうになる喉をお茶で流し込む。中の具は切り干し大根を唐辛子で炒めた物だ。お茶は粉茶を天然水で溶いた冷茶だ。


「マフィアを潰すことは考えなかったのか?」

「各街にいるであろうマフィアの大半はその街の成立からいたもの。私達ができるより先にあって街を管理していた組織をいきなり潰して街を制圧したらどうなるかしら? ただの侵略者じゃない。それに社会のレールに乗れない人間の受皿は必要よ、何事もバランス。こんなことわからないあなたじゃないでしょ?」

「随分と買ってくれるじゃねえか」 

「仮にもこの部屋に入れる人間ですからね、あなたは」

 言葉が途切れたところで、二つ目の握り飯を食べ始め、モグモグしながらお茶を啜る。


「この船の中で起きることって全部把握してるの?」

「そうね、内外共に死角はないわ」

「じゃあ俺が○ンコしてるところも見てるわけだ」

「ええそうよ、あなたの便の状態で内臓系の具合もわかるわ。塩分とお酒控えなさい。あと、その程度で私が動揺するとでも?」

「べつに……」

「ちょっとやめてよ! なに床にご飯粒なすりつけてるのよ!」

「え、マーキング?」

「股ぐらぶち抜くわよ!」


 両者の駄弁りは錫乃介が飽きて寝落ちするまで続いていたという。
 そして、サンドスチームはハンニャンへ到着するのであった。
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