砂漠と鋼とおっさんと

ゴエモン

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サンドスチーム編

熱き心

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 いや~ここまでなんやかんや、すったもんだ、あれやこれや、紆余曲折あったけど、遂に来ちゃいましたねぇ。ナビさんや。俺はもう感無量、万感の思いってやつですかね。長い旅だった、これなら“母を訪ねて大江千里”のマルコ程度になら勝てたんじゃない?

“ほんっと面白くないですし、三千里は12,000キロですので錫乃介様の8,000キロでは到底及びません”


 んっだよ! 今回こそ勝てると思ったのによ!

“しかもその後の研究では、当時と同じ条件で旅行した場合、15,000キロかかったそうです”

 はい、もう降参しました。

“もう一つおまけに、マルコの年齢は10歳です”

 ガキが、イキりやがって……


 ヘラヘラとくだらない脳内会話をしつつも錫乃介の半眼は捉えたターゲットを離さなかった。
 眼前に聳える巨大かつ巨体の巨城は武骨で荒々しく、轟音は大地を鳴動させていた。黒々しく鈍く輝く胴体はあらゆる外敵を弾き返し、足となる無限軌道は戦車でさえも空き缶のように圧し潰す。城壁に並ぶ無数の機関銃や対空砲は近付く者を威嚇し、八基の88ミリ砲と二基の156ミリ砲に抗える者はいない。そして、機獣達の街を滅ぼした二基の46サンチ三連砲と、船の主の如く威厳をもって座す一門の80サンチ砲。
 稀代の天才学者ポラリスが設計し、地球においては数世紀先のオーバーテクノロジーを詰め込んだ、船と言うにはあまりにもその存在からかけ離れた陸上戦艦サンドスチームへとたどり着いた錫乃介の表情は、軽く口角を上げているだけだった。


 お、早速調査用のドローンを放っているな。結構落とされてたのに、まだまだ在庫はあるようだな。

“おそらく生産ラインもあるでしょうね”


 サンドスチームはその甲板から飛行型ドローンを、船首下のタラップからは陸上型ドローンを解き放っていた。そして、なんのタイミングなのか、突如として大気を突き破る甲高い爆音が錫乃介の耳を貫く。


 んごっ!! なんだよ! 突然汽笛なんて上げやがって。出発か!?

“いえ、そうではないようです……ドローンの動きが一斉に変わりましたね。おそらくドローン用の合図でしょう。AIの自律行動だけでなく汽笛の爆音で誘導しているのではないでしょうか。あるいは超音波”

 空気中じゃ超音波なんて大した距離でないだろと思ったけど、あのチート女が創った船だし、そこで作られたドローンなら納得だな。

“超音波なら高性能なセンサーと発信機があればこの世界でも遠距離通信が可能かもしれませんね”

 だとすると、あの性悪女始めからその技術広めてりゃこんな苦労しねぇのにアデッ!!

“通信が入りました。「こっちにもいろいろ事情があったのよ!」だそうです”

 俺へのドツキだけは次元を超えてやるのやめてくれないかな。


 ジンジン響く耳と頭を抑えながら陸上ドローンを放っていたタラップへジャノピーを走らせる。
 巨大生物が大口を開けているかのようなタラップ付近では船員らしき影が数十名見られる。タラップを閉められる前に接近し、中に入れるのであればお願いしたいところだが、すんなり行くか不安ではあった。
 ままよ、といつもの当たって砕けろ精神で突入し、ジャノピーをおりて既にこちらに気付いていた船員に接客業で培った営業スマイルで声をかける。


「すいません、私サンドスチームに用件がございまして今まで旅をしてきた赤銅錫乃介という者です。それでたまたまここで遭遇できたものですから、船内に入れたら良いなと思いまして声をかけた次第です。手続き等どちらでしたら良いでしょうか? あ、ちゃんと乗船許可のマイクロバーコードも手にあります」
 
 見た目インドやパキスタンっぽいアーリア人の血が濃いと思われるその男は、やたらと白目が大きい眼でこちらを見つめる。三白眼なんてもんじゃない。やたらと見つめる。やたらと顔を近付けてくる。ニ歩三歩と後退すると向こうも詰めてくる。あまりにも見てくるので、先程まで作り上げていた営業スマイルも強張ってくる。

「あの、すいません。無理でしたら、出直しますんで」

 とうとう、根負けして諦めようとすると、気付いた時には他の船員に背後をとられていた。手には何やら携帯している。

 ちっ、これも作戦か!?

 先手を打とうと腰の銃に手を伸ばしたその時だった。


「あ、どぉもすいまぁせん。そぉいつ、人間に見えぇてヒューマノイドなーんで喋れなぁいんででしすよ」

 バッと振り返ると先程まで自分を睨みつけていたアーリア人のコピーがそこに居た。まるで、振り返ったつもりが実は振り返っていなかったかのようだった。そんなことがあるのか?


「えーとー、貴方はぁ旅の方? ハンたぁーですかぁ? トレーダーですかぉ?」


 警戒していたのに、妙なイントネーションで気さくに話しかけてくれるアーリア人は、後ろのヒューマノイドと違って表情豊かだ。年の頃は40代くらいか。少なくとも錫乃介より下ということはなさそうだ。


「あ、えっとですね」


 さっきの自己紹介を立て続けに同じ人間にしているようで頭が混乱するが、なんとか再び営業スマイルを作り乗り切った。


「赤銅錫乃介ぇ。そうですかぁ、これはこれはぁ長い旅を、してきますたのでしょう、お疲れさまでしたです」

「え、と、そ、そうですね。アスファルトってところから旅が始まりまして……」

「アスファルト! そぉれはまぁた、随分と遠くぅから来ますぃたねぇ。いやぁいやぁ、てぇ変~だったですでしょう」

「そうですね、マフィアに襲われたり、機獣に襲われたり、マフィアに襲われたり、クジラに襲われたり、マフィアに襲われたり、もう散々でしたよ」

「旅のぉ半分はマフィアに襲われてぇるね」

「いや、半分どころか3分の2はマフィアでした。あっちいってもマフィア、こっちいってもマフィア、どの街いってもマフィアマフィアで、もう、マフィアに逃れてここまで来たようなもんですからマフィア」

 そうですかぁ、と男はおもむろに錫乃介の両手をとり、話しかける。

「いやぁいやぁ、マフィアばかりぃでてぇ変でしたでしょ~う。で~も貴方はぁ運が良いでしでぇすよぉ」

 男はやたらと愛想が良くなり、両手をブンブン振って話を続ける。

「そうですかマフィア?」

「も~う、マフィアにそれ以上ぉ、襲わぁれることぉ、はありましぇんから安心してぇ下さ~い」

「それは良かったマフィア。でもなんでマフィア?」

 なんでって? それは、と錫乃介の両手を離して一歩男が後退すると、自らの両手を広げて満面の笑みを浮かべる。


 「ここサンドスチームはマフィアの本部ですからねぇ」


 話し終えて男が手を話すと、錫乃介の両手は縛られ、背後のアーリアヒューマノイドに銃を突きつけられていた。
 


 あっちゃ~、ポチ達のことで熱くなり過ぎてその事忘れてたマフィア。

“おかしいですね? この程度のマフィアいつもなら私が気付かないはずないのに”

 しっかりしてくれよぉマフィア。
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