砂漠と鋼とおっさんと

ゴエモン

文字の大きさ
上 下
165 / 262
サンドスチーム編

46サンチ三連装電磁加速砲

しおりを挟む
 少し風は強めだった。一匹の雑種の猫を頭に乗せ、錫乃介は名もなき街を発った。雑種の猫ーータマは家猫よりもひと周り小さく、子猫と一瞬見紛うくらいの大きさで、フルフェイスよりもよっぽど軽くて首も全く辛くない。ただ頭上でするグルーミングは煩わしい。降りろと言ったが退く気配もなく、そのまま惰眠をむさぼっている。錫乃介としては膝の上にのせてわしゃわしゃしたかったのだが、どうやら察しているせいか、手を伸ばすと猫パンチを食らう。その猫パンチさえも愛おしく、わざと手を伸ばしていたらしまいには爪を出されたので諦めた。
 まだ走り始めて一刻、風車地帯がそろそろ終わりかけようとしたくらいか、虫の知らせか胸騒ぎか、はたまた慣れない道連れがいるせいか、どうにも気分が落ち着かない。少し気分を変えようと早くも休憩するべく風車の陰でジャノピーを停める。岩場に腰をかけて最近吸ってなかった煙草でも、と思いシャオプーで烟のオババに貰った喧嘩煙管をとりだし、粗く刻まれた煙草葉を詰めて火をつける。が、どうにもこうにも火がつかない。ライターの火はつくので葉っぱが湿気にやられたかもしれないと思いつつ、えいやと気合を込めて数度目のチャレンジを試みていると、不思議と風が止んでおり、遠方に落ちた針の音すら聞こえてきそうな静寂が訪れている。その事に気付いたのは煙草に火がついた時だった。
 
 その刹那。

 錫乃介の目にとびこんで来たのはーー


 立ち登る巨大な爆炎

 まるでサイレント映画を見てるかのように

 そして爆音と轟音


 ーー
 

 えーー


 “錫乃介様、進か退か、ご判断を”


 街の方角に顔を向け煙管を咥えたまま固まっている事に気付いたのは、冷静なナビの声が脳内に響いてからだった。
 おもむろに煙管を逆さにして膝に叩きつけると、せっかく火をつけたばかりの煙草葉が大地に落ちる。ゆっくりと立ち上がり、その火を踏み消し深呼吸をすると、ようやく口を開くことができた。


「すまない、街に戻るぞ」

 
 頭からずり落ちて、意識を失っていたタマを拾い上げ、ジャノピーに乗り込む。総重量数百キロの改造ジャノピーが後転しそうな勢いでアクセルを回し、荒野の舗装ないも凹凸の激しい大地を跳ねながら走り抜ける。タマは錫乃介の膝の上で気絶したままだ。


「ナビ、あれは?」

 “通常弾頭弾道ミサイルクラスを超える威力。上空からではなくほぼ水平からの着弾、別方向よりくる轟音のドップラー効果を計算致しますと、100キロ以上離れたところからの大口径電磁加速砲と推測します”

「つまり」

 “サンドスチームからの艦砲射撃が濃厚です。第二射、来ます!”

 ナビが言い切る前に着弾。目の前からくる爆音。歯を食いしばりながらもアクセルは緩めない。フロントスクリーンにバチバチと当たる小石は衝撃波なのか風なのか、いつもより激しい礫なのは間違いない。

 
 “第三射!”

「おい! 800ミリのとんでもねぇ大砲のくせにどんだけ速射なんだよ!」

 “総発電量1,000万キロワットの電磁加速砲。計算上は口径800ミリのドーラ砲でも毎分数発は撃てます。そして今撃ってるのは46サンチ三連装砲、しかもそれが二基あるんです。速射も可能なわけです”


「戦艦大和主砲の電磁加速連射……俺、帰ろうかな?」

「なに言ってるニャ!!! このままお前の股間食いちぎられてもいいのニャか!!」

「あら、タマさん起きてらっしゃったの。じょーだんでーす!」

「時と! 場合を! わきまえろニャ! お前はトムか!!」

「こんな時でもディスられてるトムさん可哀想」

 “第四射!”

「くるぞ、股間でもなんでもいいから掴まってろよ!」

「どうせ掴まるとこなんかないくせによく言うニャ!」

「なんで知ってんだよ!」


 ……………………


 
 街近くなってからは巻き込まれないように廃ビルの陰にいたが、それでも衝撃波は凄まじいものだった。歯痒い思いをしながら待つこと四半刻の間に130回の着弾があった。正確には三連砲の斉射なのでかける3、つまり390発の艦砲射撃を名もなき街は受けその姿を一変させていた。
 弾道近くの風車は衝撃波で薙ぎ倒され、岩で囲んだだけの機獣達お手製の生簀や農場は原形もなく吹き飛び、わずかに残っていた古い街並みの廃墟も跡形もなく崩れ、石畳も舗装道路も全て破壊されていた。そして、安全と思われていた変電所さえも瓦礫の山となり、とてもじゃないが復旧は絶望的な状態だった。
 錫乃介は動物が好きだった。襲ってくる機獣は倒していたが、それはお互いの生死がかかっているからだ。遊ぶができるものなら遊んで可愛がりたいのが本音だ。
 僅かな間とはいえ、触れ合い、コミュニケーションをとり、子猫には引っ掻かれ、ダチョウには蹴りとばされ、カピバラにはランチャーを突きつけられ、熊たんには張り手で岩に叩きつけられ、オオトカゲには丸呑みにされそうになり、エミューには有線レーザーを食らった鮮明な記憶が脳裏をよぎる。楽しかったひと時が頭から離れないまま、無言で燻る街中を歩く錫乃介。タマはいつの間にか頭に戻って静かにグルーミングをしていた。意外にも冷静で街に入ってからは鳴き声ひとつ出さない。
 しばらくすると前に来たスクラッチの戦火を逃れたオークの大木がある涸れた噴水のところに来ていた。
 歩みを止め見上げるその視線の先には、力強く伸びる枝振りに青々とした葉を身に纏った大木が、まだその姿を変えることなく雄々しく聳え立っていた。
しおりを挟む
感想 52

あなたにおすすめの小説

絶世のディプロマット

一陣茜
SF
惑星連合平和維持局調停課に所属するスペース・ディプロマット(宇宙外交官)レイ・アウダークス。彼女の業務は、惑星同士の衝突を防ぐべく、双方の間に介入し、円満に和解させる。 レイの初仕事は、軍事アンドロイド産業の発展を望む惑星ストリゴイと、墓石が土地を圧迫し、財政難に陥っている惑星レムレスの星間戦争を未然に防ぐーーという任務。 レイは自身の護衛官に任じた凄腕の青年剣士、円城九太郎とともに惑星間の調停に赴く。 ※本作はフィクションであり、実際の人物、団体、事件、地名などとは一切関係ありません。

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

異世界災派 ~1514億4000万円を失った自衛隊、海外に災害派遣す~

ス々月帶爲
ファンタジー
元号が令和となり一年。自衛隊に数々の災難が、襲い掛かっていた。 対戦闘機訓練の為、東北沖を飛行していた航空自衛隊のF-35A戦闘機が何の前触れもなく消失。そのF-35Aを捜索していた海上自衛隊護衛艦のありあけも、同じく捜索活動を行っていた、いずも型護衛艦2番艦かがの目の前で消えた。約一週間後、厄災は東北沖だけにとどまらなかった事を知らされた。陸上自衛隊の車両を積載しアメリカ合衆国に向かっていたC-2が津軽海峡上空で消失したのだ。 これまでの損失を計ると、1514億4000万円。過去に類をみない、恐ろしい損害を負った防衛省・自衛隊。 防衛省は、対策本部を設置し陸上自衛隊の東部方面隊、陸上総隊より選抜された部隊で混成団を編成。 損失を取り返すため、何より一緒に消えてしまった自衛官を見つけ出す為、混成団を災害派遣する決定を下したのだった。 派遣を任されたのは、陸上自衛隊のプロフェッショナル集団、陸上総隊の隷下に入る中央即応連隊。彼等は、国際平和協力活動等に尽力する為、先遣部隊等として主力部隊到着迄活動基盤を準備する事等を主任務とし、日々訓練に励んでいる。 其の第一中隊長を任されているのは、暗い過去を持つ新渡戸愛桜。彼女は、この派遣に於て、指揮官としての特殊な苦悩を味い、高みを目指す。 海上自衛隊版、出しました →https://ncode.syosetu.com/n3744fn/ ※作中で、F-35A ライトニングⅡが墜落したことを示唆する表現がございます。ですが、実際に墜落した時より前に書かれた表現ということをご理解いただければ幸いです。捜索が打ち切りとなったことにつきまして、本心から残念に思います。搭乗員の方、戦闘機にご冥福をお祈り申し上げます。 「小説家になろう」に於ても投稿させて頂いております。 →https://ncode.syosetu.com/n3570fj/ 「カクヨム」に於ても投稿させて頂いております。 →https://kakuyomu.jp/works/1177354054889229369

日本VS異世界国家! ー政府が、自衛隊が、奮闘する。

スライム小説家
SF
令和5年3月6日、日本国は唐突に異世界へ転移してしまった。 地球の常識がなにもかも通用しない魔法と戦争だらけの異世界で日本国は生き延びていけるのか!? 異世界国家サバイバル、ここに爆誕!

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

蒼海の碧血録

三笠 陣
歴史・時代
 一九四二年六月、ミッドウェー海戦において日本海軍は赤城、加賀、蒼龍を失うという大敗を喫した。  そして、その二ヶ月後の八月、アメリカ軍海兵隊が南太平洋ガダルカナル島へと上陸し、日米の新たな死闘の幕が切って落とされた。  熾烈なるガダルカナル攻防戦に、ついに日本海軍はある決断を下す。  戦艦大和。  日本海軍最強の戦艦が今、ガダルカナルへと向けて出撃する。  だが、対するアメリカ海軍もまたガダルカナルの日本軍飛行場を破壊すべく、最新鋭戦艦を出撃させていた。  ここに、ついに日米最強戦艦同士による砲撃戦の火蓋が切られることとなる。 (本作は「小説家になろう」様にて連載中の「蒼海決戦」シリーズを加筆修正したものです。予め、ご承知おき下さい。) ※表紙画像は、筆者が呉市海事歴史科学館(大和ミュージアム)にて撮影したものです。

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

処理中です...