砂漠と鋼とおっさんと

ゴエモン

文字の大きさ
上 下
158 / 262
ドブさらいの錫乃介漫遊記

激安居酒屋で語らってたら世界の真理にたどり着いちゃって、そんな俺はもうハーレム作ってウハウハ無双状態になる

しおりを挟む
 次から次へとくる客の波。40~50代のママ、20代の飲み屋デビューの童貞君、ホストくずれのバーテンダー、若いだけが売りの商売女、店主は50がらみのだみ声親父。ここはハンニャンで最も大きい一杯1cの劇安酒場。錫乃介は1人店の隅で謎のタガメの燻製をかじりながら合成ビールのハッピーを飲みナビと語らっていた。


 気体生命体ってなんだろうな?

 “そもそも生命体の三定義ってわかります?”

 あ~、なんだけっけ。外と内で膜やらなんやらで仕切られているってことと、分裂でも生殖でもなんでもいいから子供なりコピーなり残せて増殖できることだろ。あとなんだ?

 “内部で化学反応やエネルギーの流れ、すなわち代謝を行う、ということです”

 成る程ね。でもこの定義ってやつも人間が作ったもんだよな。当たり前だけど。

 “そうですね。何をもって生命とするかは古代ギリシャのプシュケー(呼吸)に始まり、全ての物質に生命は宿るという物活論、それを反対する機械論、そこに宗教が入り込んで枝葉は広がり、スクラッチ前でもその議論は終わらなかった永遠のテーマでした”

 突き詰めちゃえば、量子とかクォークとかの単なる物理現象に終わりそうな気もするけどな。

 “実際現実はそんなところでしょう。となると全ての物質に生命が宿るというのもあながち的外れではないですよね”

 な、そうすると輪廻転生って思想なんかじゃなく真実ってことになるな。単なる物質循環を現し意思や自我は消えても新たな物質の組成になるってな。おいおいこんな飲み屋で世界の真理にたどりついちゃったじゃねえか。

 “となるとヴェーダを記した古代インド哲学者は3,000年以上も前から真理に辿り着いていたってわけですね”

 仏陀は理論物理学者だったのかもな。物質循環の輪廻からの解脱って物凄いことだぞ。宇宙にでも旅立つのかよ。

 “新説出ましたね”


 なにやら抗議がきそうな飲み屋トークをしつつ、タガメの燻製を食べ終わった後は、ヤモリの干物をしゃぶりハッピーを飲み干す。


 気体生命体ってやつも意思をもってるのかね?

 “その意思さえも、定義はなにか? と問われた場合そう簡単に答えが出せるものではありません”

 脳があるから意思や自我があるかと思ってたら、どうやら腸内細菌の集合体がその本体かもしれないって話もあったしな。

 “以前そんな話をしましたね。腸内細菌一粒一粒は一個の生命体として考えて良いでしょうし、更に20世紀末に流行ったミトコンドリアは外膜を持ち、内で化学反応を起こし、自ら分裂する事を見れば一個の生命体として言えます”

 そのミトコンドリアの暴走を描いたのがパラサイト・イ○だったな。

 “そうです。そのミトコンドリアや腸内細菌を一個の生命体とすると、人間を含め細胞を持つ生命体全てが、別の生命の群体で形成された存在であると言えます”

 群体をもって個となす、って新宿にいた時話したな。あの時は植物だのアリだのミツバチが対象だったけど。実は人間もかわらねぇんじゃないかと。

 “はい、生命体とは、他の生命の群体を一個にまとめ形成される別の生命体、という新しい定義もできるかもしれません”

 じゃあ人間が群体になってできる別の生命体もいるかもしれないと。

 “それを認識できるのは、人間より上位の存在になるでしょうけどね”

 成る程な。で、話を戻すけど気体生命体、仮にだけど生命体とした場合どんなもんと考える?
 
 “レーザーさえも取り込んでしまうことから、気体の様な吸光性物質で構成された機獣……といったところでしょうか。んっ”
 
 結局なんにもわかってないに等しいな。ま、俺たちが答えを出すことじゃないけどな。あのプロフェッサーアッパラパーがどうにかするだろっと⁉︎

 
 側から見れば一人で自問自答してるだけの男に突然後ろから抱きつくのはメタルロリボディをもった美少女であった。

 「私はアーパーだよ、錫乃介君」

 「なんでぃ、調査から戻ってきたんかい。どこをほっつき歩いてたんだ? あと後ろから抱きつくならせめてミコちゃんの声にして欲しかったな。ん? 俺さっき声出してたか?」

 「私がナビ君にアクセスして盗み聞きしちゃったあ☆」

 「ざっけんなよ。ナビ、セキュリティ甘いんじゃないの?」

 “侵入前に遮断したのに無理矢理突破されてました。その人プロフェッサーの名は伊達じゃなさそうです”

 「いや~んそんな褒めないでぇ☆」

 「くだらねぇことに高度なテクニック使うんじゃねぇよ。んで、なんかわかったのか?」

 「うむ。その答えの前に、我々が身に付けている電脳。これは超小型だな」

 「そうだな」

 「君のチョーカーに付いてる電脳も、アクセサリーの様に見えるが、それは周りを硬質樹脂で覆われているからだ。外目は大豆ほどの大きさだが、電脳本体は胡麻一粒よりも小さい」

 「そんなに小さいのか。それで量子コンピュータよりも性能いいのか、っパねぇな宇宙人」

 「そうなのぉ! 超っパねぇの! そんでね、凄いことわかったの! 何だと思う?」

 「なんだよ、もったいぶるなよ」

 「あの量子コンピュータが気体型機獣、もう面倒だから、気獣って呼ぶね☆」

 「口語じゃ判別つかねぇだろが」

 「んーと、じゃあエアビーストで略してエアビーね!」

 「エアビーか、悪くねぇな。んで、どうしたよ」

 「そうそう、そんであの量子コンピュータはデータ保管庫であると同時に、エアビーとは共生関係にあるかもしれないの!」

 「ほっ? そりゃあ、予想外だぜ。どう見たってあの量子コンピュータの方が親玉だよなぁ。だけど、それと電脳が小さいこととなんの関係があんだよ」

 「電脳は極小で微粒子のように小さい物もある、医療に使うナノマシンのようにな。そして今回調査でわかったのはあのエアビーはナノサイズの電脳をもっていたのだ」

 「……ナノサイズの電脳だと、それじゃあウィルスみたい……まてよ、まさか機獣化したウィルス?」

 「えーーー、先に当てられちゃったぁ、錫ポンつまんなーい。まぁまぁ、ミコちゃん、ゴホン。そもそもウィルスというやつはナノサイズでDNAかRNAかどちらかの情報を持つが自ら増殖せず代謝もしない、生命と物質の間の存在と言われているのは知ってるな」

 「まぁな。パンデミック全盛期の頃にいたからな。さんざんマスコミで流れてたぜ」

 「ならば話が早い。エアビーは機獣化することで自己増殖、そして量子コンピュータと共生することで代謝を手に入れたウィルス、つまり生命体になったウィルスだと言うのが私の見立てだ」

 「ほぉー。しっかしよく突き止めたな」

 「あのバニラの曲をレーザー通信で流しまくり、近づいたところを虫取り網ですくい、映像に撮り、シャーレに取り、分析しまくった結果ナノ電脳を搭載したウィルスが発見できたのだ」

 「エアビーも不憫だな。よりにもよってあんなしょーもない求人音楽に……あ、俺もか。にしても、もし今の世の中に学会があったら天地をひっくり返すくらいの大発見だろうなコレ」

 「ふっふーん!よーくわかってるじゃなーい! ノーベル生理学賞は間違い無いわね。まぁそんなもの私には必要ないけど☆ ミコちゃん私は欲しかったよ……プロフェッサーはそんなの無くても、ミコちゃん賞をあげるからね♡ ミ、ミコちゃん!!」

 「勝手にやってろバーカ! んじゃあな、俺は先に帰るぜ」

 「あ、錫乃介君、寝る前にちゃんと治療薬を飲み、除染をしときなさい」

 「は? 何でだよ」

 「だってぇ、私たち湖行ってからまだ除染してないもーん! あ、安心して距離的に危ないの錫ポンだけで他のお客さんには迷惑かけてないから☆」

 「なんなのコイツ。もう、不謹慎過ぎてツッコミもできねぇよ」


 その夜、またも腐海に全身を覆われる錫乃介がいた。しかも今回は防護服の上からではなかったので、叫び声も上げられないほどのムズムズ感だった。


 ってか俺が座ってた酒場のテーブルも除染しなきゃ駄目じゃね?

 “後で行きますか……”

 「それはミコちゃんが除染しといたよ☆」

 「だから電脳ハッキングすんじゃねーよ!」


 俺もうこの街出よう……

 “ですね……”
しおりを挟む
感想 52

あなたにおすすめの小説

絶世のディプロマット

一陣茜
SF
惑星連合平和維持局調停課に所属するスペース・ディプロマット(宇宙外交官)レイ・アウダークス。彼女の業務は、惑星同士の衝突を防ぐべく、双方の間に介入し、円満に和解させる。 レイの初仕事は、軍事アンドロイド産業の発展を望む惑星ストリゴイと、墓石が土地を圧迫し、財政難に陥っている惑星レムレスの星間戦争を未然に防ぐーーという任務。 レイは自身の護衛官に任じた凄腕の青年剣士、円城九太郎とともに惑星間の調停に赴く。 ※本作はフィクションであり、実際の人物、団体、事件、地名などとは一切関係ありません。

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

異世界災派 ~1514億4000万円を失った自衛隊、海外に災害派遣す~

ス々月帶爲
ファンタジー
元号が令和となり一年。自衛隊に数々の災難が、襲い掛かっていた。 対戦闘機訓練の為、東北沖を飛行していた航空自衛隊のF-35A戦闘機が何の前触れもなく消失。そのF-35Aを捜索していた海上自衛隊護衛艦のありあけも、同じく捜索活動を行っていた、いずも型護衛艦2番艦かがの目の前で消えた。約一週間後、厄災は東北沖だけにとどまらなかった事を知らされた。陸上自衛隊の車両を積載しアメリカ合衆国に向かっていたC-2が津軽海峡上空で消失したのだ。 これまでの損失を計ると、1514億4000万円。過去に類をみない、恐ろしい損害を負った防衛省・自衛隊。 防衛省は、対策本部を設置し陸上自衛隊の東部方面隊、陸上総隊より選抜された部隊で混成団を編成。 損失を取り返すため、何より一緒に消えてしまった自衛官を見つけ出す為、混成団を災害派遣する決定を下したのだった。 派遣を任されたのは、陸上自衛隊のプロフェッショナル集団、陸上総隊の隷下に入る中央即応連隊。彼等は、国際平和協力活動等に尽力する為、先遣部隊等として主力部隊到着迄活動基盤を準備する事等を主任務とし、日々訓練に励んでいる。 其の第一中隊長を任されているのは、暗い過去を持つ新渡戸愛桜。彼女は、この派遣に於て、指揮官としての特殊な苦悩を味い、高みを目指す。 海上自衛隊版、出しました →https://ncode.syosetu.com/n3744fn/ ※作中で、F-35A ライトニングⅡが墜落したことを示唆する表現がございます。ですが、実際に墜落した時より前に書かれた表現ということをご理解いただければ幸いです。捜索が打ち切りとなったことにつきまして、本心から残念に思います。搭乗員の方、戦闘機にご冥福をお祈り申し上げます。 「小説家になろう」に於ても投稿させて頂いております。 →https://ncode.syosetu.com/n3570fj/ 「カクヨム」に於ても投稿させて頂いております。 →https://kakuyomu.jp/works/1177354054889229369

日本VS異世界国家! ー政府が、自衛隊が、奮闘する。

スライム小説家
SF
令和5年3月6日、日本国は唐突に異世界へ転移してしまった。 地球の常識がなにもかも通用しない魔法と戦争だらけの異世界で日本国は生き延びていけるのか!? 異世界国家サバイバル、ここに爆誕!

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

蒼海の碧血録

三笠 陣
歴史・時代
 一九四二年六月、ミッドウェー海戦において日本海軍は赤城、加賀、蒼龍を失うという大敗を喫した。  そして、その二ヶ月後の八月、アメリカ軍海兵隊が南太平洋ガダルカナル島へと上陸し、日米の新たな死闘の幕が切って落とされた。  熾烈なるガダルカナル攻防戦に、ついに日本海軍はある決断を下す。  戦艦大和。  日本海軍最強の戦艦が今、ガダルカナルへと向けて出撃する。  だが、対するアメリカ海軍もまたガダルカナルの日本軍飛行場を破壊すべく、最新鋭戦艦を出撃させていた。  ここに、ついに日米最強戦艦同士による砲撃戦の火蓋が切られることとなる。 (本作は「小説家になろう」様にて連載中の「蒼海決戦」シリーズを加筆修正したものです。予め、ご承知おき下さい。) ※表紙画像は、筆者が呉市海事歴史科学館(大和ミュージアム)にて撮影したものです。

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

処理中です...