砂漠と鋼とおっさんと

ゴエモン

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ドブさらいの錫乃介漫遊記

腐海って実際にある地名って知らなかった

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 中心部にそびえ立つ研究棟と思われる施設は、電力がまだ生きていた。セキュリティも堅く暗号認証、生体認証を抜けなければ入れない構造であったがそこは錫乃介、扉が堅いなら壁に穴を開ければいいじゃないの、と壁を爆破して難なく侵入に成功する。


 “相変わらず無茶しますねぇ”

 どうせ誰も居ないんだからいいじゃねえか。捕まるわけでも無し。

 “セキュリティロボとか飛んできたらどうするんですか?”

 そんときゃ尻尾巻いて逃げりゃいいだろ?身体張るほどのもんじゃないし。

 “ここに来てる時点で身体どころか命10個くらい張ってるんですけどね”


 廃研究所という字面では不気味な雰囲気ではある。しかし老朽化は目立つものの、電力が生きているせいもあり照明は明るく、人がいないということ以外、錫乃介の歩みを遮るのはセキュリティの扉だけである。
 内部では武装したセキュリティロボ等が待ち構えているかと思われたが、特に妨害システムはない。とはいえ監視カメラや警報用のレーザーは張り巡らされていたため、そこら中でサイレンが鳴り響く。いちいちうるさいのでスピーカーをアサルトライフルAK308でぶち壊しながら進み、通路を塞ぐ重厚感ある合金製の扉も躊躇なく爆破して行く。


 “なまじ施設が生きてるぶんやってることがテロリストみたいですね”

 自分で言うのもなんだけど、プロテロリストだったらもう少しスマートに行動するだろ。プロのテロリストってなんだよって話しだけど。

 “言えてますね”


 研究棟は地上4階建ての施設であり、流し見て行くが、やはりというか予想通りというかそこには別段特筆すべき物はなかった。たまたま生きていた端末から研究データの一部を吸い出してみたりもしたが、錫乃介には理解できない研究内容ばかりであった。


 何が何やらわからん研究ばっかだな。任意的な動植物の品種改良とか量子テレポーテーションとかはまだ俺がいた時代でもあったからいいよ。
 末那識や阿頼耶識における人の行動原理の統計的確立的な解明とか、ナメクジとカタツムリの戦略兵器化に関する研究とか、ミジンコとナノマシン医療に関する雌雄同体の可能性への研究とか、仮想空間における新しい生命体の定義とその集合意識の共有とか、この辺はわからんけどまだ研究する意味はわかる。
 足し算と掛け算の解体とその再構成におけるくさび緊結式足場の方法とか、マイクロブラックホールに関わる余剰次元理論の応用によるアイリスオーヤマの掃除機の進化とか、幾何学的トポロジーによるオカモトコンドームとドーナッツの関係とか、宇宙人がリゲルでおならをしたら地球の火山が爆発するか?とか、もう意味不明じゃん。

 “日本の研究員もいたような内容ですが、国立の施設でなにを研究してたんですかね。それでも悲しいかなこれら全て粘菌宇宙人の登場によって過去の物になってしまった研究ばかりなんだと思いますよ。スーパーコンピュータ以上の性能を持つマイクロチップの電脳があっと言う間に世界を席巻してしまったんですから”

 一足どころか百足くらい科学力を飛び越えたわけだからな。ってことはこの研究所自体も当時は時代遅れになっていたのかな。

 “考えられますね”


 地上階を一通り見て周った後はエレベーターで地下に降りて行こうとしたが、こちらも職員のカード認証と生体認証で使用できなかったので、非常扉を破壊して点検用の梯子で降りて最深部の地下5階まで行く。もう各階は見なかった。


 ここってさ、前に断崖絶壁ホテルにいた武装セキュリティロボみたいなやつは出て来ないな。かなーり重要そうな物がありそうなんだが。

 “研究所ですからね、あんなドンパチやるわけにはいかないほどのデリケートな物があるってことですよ”

 デリケートか。どんな箱入りお嬢様かいなっと。


 地下5階は不思議とセキュリティが無く、白く無機質な通路の中央に扉が位置している。開閉ボタンを押すと両サイドにスゥとスライドして開き、空調がきいた涼しげな風が錫乃介の頬を撫でた。

 
 こ、こりゃあ……


 広大な部屋に薄赤暗い照明の中、天井からぶら下り並ぶのは、横24列、縦18列の煌びやかなシャンデリア群であった。世界遺産に登録されているどこかの王宮かと錯覚するが、天井の高さはそこまでではない。せいぜい3メートル程か。落ち着いて見るとシャンデリアに見えるのは真鍮色の多層の円盤とそれに規則正しく配列された輝くチューブであった。
 床下は透明な硬質材に覆われた無数の脈動する太いケーブルが走る。数台の自動掃除機ルンバのような小型ロボが走り回っているのは点検修復のためか。自動掃除機は器用に錫乃介の足を避けて走り、自らの主人に異常がないか診断を絶え間なくしている。
 コツコツと足音を立てそのシャンデリア群を眺めて歩く。壁沿いには青白色と赤色のダイオードの光をイルミネーションのようにチラつかせているのは制御用のスーパーコンピュータであろう、室内に聴き慣れないうめき声のような機械音が響く。
 

 “前世紀のスーパー量子コンピュータが432機。この研究施設の頭脳であったモノでしょうね”

 量子コンピュータか、前の時代ではようやく実用化されたかどうかって頃だったけど、まさかこんなに……。

 “錫乃介様の時代ではスーパーコンピュータは沢山作られましたね。日本はそのなかでも最先端を走っていましたが。その後量子コンピュータの実用化により、先進国各国で開発競争が行われ、国だけではなく企業単位で保有するのが当たり前になりました”

 そんなに作ってどうすんだよ。

 “表向きには、自然界のシミュレーションや理論物理学の応用など様々ですが、なんといっても金になるからですよ”

 金融取引か。

 “そうです。量子コンピュータがあるだけで、金融取引に大きなアドバンテージを得られますからね。良い商品の開発や新た産業の構築などする必要がなくなり、無尽蔵に金を生み出せますから”

 そんなわけねえだろ。

 “って謳い文句で売りまくったわけです。Windows95が売られ始めた時だって、コレがなければこれからの時代生きていけませんよ、ぐらいの煽り文句に釣られてパソコンすら持ってない人が買ってたそうじゃないですか”

 あ~あったあった。IT革命や!とかいってFAXが関の山の中小企業が導入しまくって、使い方がわからーん!ってニュース見たわ。いうて、量子コンピュータは数万円で買えるもんじゃねえだろ。それに確か絶対零度とかで運用しないと駄目なんだろ?

 “常温でも稼働する物は2020年にはありましたよ。流石に数万円は無理ですが、2030年代にはヨドバシカメラで数百万円で販売してた記録はありますね。でも運用や制御が激ムズで素人に扱えるものではなかったのと、電脳の台頭によってすぐになくなりましたけど”

 数百万円ってマジかよ。まぁそれの生き残りがこれか。まさかこいつら全部が機獣?

 “ええ、間違いなく。この量子コンピュータはAIによって自ら情報収集及び解析するのが生前の役割だったと考えられるます”
 
 生前……機獣化前ってことか。

 “はい、そしてなんらかの原因により機獣化した後もその役割を捨てることなく、むしろ本能として、情報収集を進化させたかもしれません”

 情報収集の進化……つまりあのア美肉オヤジが言っていた気体型機獣の本体がコイツか?

 “おそらく”

 コイツを解析すれば今世界中で起きている通信障害の事がわかるかもしれねぇな。しっかし、こんなん持ち帰れないしなぁ。とりあえず爆破でもしてくか? 

 “何かと言うと爆破するの癖になってません? アーパー様が研究するでしょうから撮影だけにしておきましょう”

 しゃあねえ、余計なことしないで撮って戻るか。


 
……………………

 

 「おもしろーい! データを食べちゃう気体わぁ、機獣化した前世紀のスーパー量子コンピュータのAIが本体……か。それらAIが機獣化により意志を持ち、ビッグデータを餌の様に喰らう存在へと進化・変化したということだな。流石にここのAIだけで全世界をカバーしてるとは考えにくい。たぶん世界のあちこちにそんかやつらがいるのかもしれないね☆」

 「手下の気体型機獣を飛ばしてデータを集める蜜蜂の女王の様なAIってことだな」

 「蜜蜂とは面白い表現だが的確だな。どうやって手下の気体型機獣を生み出し操っているのかはまだわからぬが、これは研究が捗る発見であるぞ」

 「まぁ、そういう事だ。これでこの依頼は終わりだな」

 「うん!ありがと☆ 後で報酬渡すよ。除染もうすぐ終わるから我慢してね」


 可愛く赤いルビーの瞳の先には、白や青や黒の色とりどりのフワフワした物体が蠢いていた。


 「さっきからツッコミたかったんだよね。これなに? めちゃくちゃくすぐったいんだけど」


 フワフワした物体に包まれているのは、汚染地帯の調査から帰ってきた錫乃介だ。
 戻ってきても強烈な放射線によって放射化してる錫乃介はすぐに街には入れないので、谷の上にある受電設備の裏手に回るようあらかじめ言われていた。
 裏に回るとハンガーありそこに入るとジャノピーを降りた途端に霧を吹き付けられる。すると、ものの数秒でモコモコとカラフルなカビが湧いてきて、数分で雪だるまのようになってしまったのだ。ジャノピーもフワフワとカラフルなデコトラみたいに変貌している。
 

 「だから放射能を除染をしてるのではないか。君の身体を包むのは放射性物質を喰らい無害にしてしまうカビだよ。すごいもんだろ」

 「日本人がこの技術の原案って言ってたな。絶対ナウシ○の腐海からだろコレ。身体中くすぐったくて死にそうなんだけど」

 「腐海だけに不快ってね」

 「いやぜんっぜん、おもしろくねーわ」
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