砂漠と鋼とおっさんと

ゴエモン

文字の大きさ
上 下
142 / 262
ドブさらいの錫乃介漫遊記

薄めのカルピス

しおりを挟む

 (作者補足:1c=50円~100円くらいで)

 話は錫乃介がアッシュを抱えて海に飛び込んだところに戻る。

 
 夜の海に吹き飛ばされ意識を失いそうになるも、ナビの脳への直接刺激により、なんとか目覚める。とはいえ魚型機獣に食らいつかれる前に陸に上がらなくてはならないが、泳ごうにも装備がバラストになって上手く泳げない。やむを得ず身につけている、マチェット、シグザウエル、ウージー、弾薬、財布デバイス等を海中に廃棄し、気を失って沈みかけているアッシュを拾う。チンプルと呼ばれる水中での気道確保から逆あおり泳法という救助用泳ぎをナビのアシストによって行い、なんとか引き上げ船台まで辿り着く。

 腕や足に噛み付いている機獣を振り落とし、アッシュの顔面を引っ叩く。
 うっ、と声を出して気を取り戻すと、すかさず錫乃介を一足跳びに距離をとってふらつく足で構える。

 「もうよせ、エクラノプランで負った怪我は嘘じゃないんだろ」


 胡座をかいたままアッシュの方を向くことなく言葉で牽制する。錫乃介に戦闘の意思はなく、それよりビチビチ跳ねる機獣を手に観察している。

 「これはイサキか?こいつはイトヨリか?なんなんだコイツらは。昔あったダライア○ってゲームみてぇだな」

 「何の話よ」

 「別に、こっちの事よ。一つ命助けてやった礼代わりに聞きてぇんだがよ、俺の賞金いくらかかってんだ?」

 手にしていた魚型機獣を海に放り投げ、先程から気になっていた事を尋ねる。


 「2,000」

 「あ?」

 「だから2,000」

 「2,000万じゃないよな?」

 「当たり前でしょ」


 そこまで冷静に聞いていた錫乃介は耳を疑った。身に付けていた装備は財布も含めて海の中。それから食料、テント、着替え、弾薬などなど30キロ分の物資とドラムマガジンショットガンAA12もスナイパーライフルM110 SASSも全て入っていた背嚢は木造船と共に爆発炎上してこれまた海の中。
 それが脳裏によぎりワナワナと手足が震え、ユラっと立ち上がるとアッシュの方へ向き一歩二歩とゆっくり近づいていく。


 「おい、アッシュ」

 その声はひどく低音で殺気に満ちていた。


 「な、なによ、もう終わりにするんじゃなかったの……」


 構えを解いていたアッシュは、再び無手の戦いに備えて構え始めた。


 「賞金2,000cだと?」

 「だからそうだって言ってるでしょ」


 更に張り詰める緊張感。錫乃介から確かに感じられる強烈な殺気。戦闘が再び始まるのかと息を飲むアッシュに、仁王立ちで錫乃介は息を大きく吸い込む。

 そして、

 解き放った。




 「このクソアマが!ドアホ!ボケ!ラッパ!スカタン!低脳!無知!無教養!低学歴!無能型文系!割れ眼鏡!とうへんぼく!援交女!パパ活女!経済オンチ!立てば迷惑、座れば公害、歩く姿は自爆テロ!大食い!ダイエットいつも失敗する!口内炎だらけ!乾燥マ○コ!メタボボテ腹妊婦!ダッチワイフ以下!取り柄は若いだけ!おバカはキャラじゃなくてホントにおバカ!頭がマーーーン!二重人格!ブリブリぶりっ子!クラスで女子に嫌われる女子!彼氏はバンドマンにホストにバーテンダー!全員DV二股三股当たり前!給食費盗んだ犯人!ファッション天然!パチンカス!ギャンブル狂!大貧民はすぐに革命!タバコ吸って無いのにヤニ臭え!クララの馬鹿!メンチ!コンラッド!キンケード!グリーンウェル!阪神のダメ助っ人外人以下!春麗のできそない!いつも八百屋で野菜クズ拾ってる!豆腐屋でオカラばかりもらってる!魚屋でアラばかりもらってる!そのくせ知能がおっぱいに回ってる!どうせ家で飲んでるカルピスもその脳みそ並みに薄いんだろ!」

 「な、なに「口開くんじゃねぇ!いいか、一から説明してやる。お前助けるために失った財布だけで26,000c以上だ!それから各種装備に弾薬、背嚢の物資!」

 「背嚢は「口開くんじゃねえってんだろ!てめぇが大人しく俺に一晩抱かれてニャンニャンしてお願いダーリンしてりゃあ余裕で5,000cくらい払ったわ!あげるわ!なんなら財布ごと渡すわ!」

 “勢いで言ってますがホント最低ですね”
 黙りねぃ!
 
 「そんくらいの価値があるんだよお前には!にも関わらずそんなはした金で文字通り俺の財産水の泡にしやがって!賞金1万2万ならまだわかるが、2,000cだと……」


 そこまで言って項垂れ焦燥しきると、言いたい事を言ってスッキリしたのか脱力して胡座をかいて座り込む。そこから先は、途端に無言になった。
 

 「わ、悪かったわよ。でもそうは言ったっていつまでもここに居たらまた小銭稼ぎの奴が来るわよ」

 「どこに行けってんだよ」

 「仕方ないわね、私の部屋に来なさいよ」
 
 「手籠にしてやる」

 「その飾り玉二つとも潰されても良いならご自由に」



 襲う気マンマンで着いて行った錫乃介が到着したアッシュの部屋は、昭和の木造住宅を直して直して無理矢理現代まで存続させているようなボロアパートの二階の一室だった。錆びて穴の空いた踊り場がある鉄筋の階段に、フローリングとは名ばかりの浮いた床。壁紙が剥がれた壁面は石膏ボードが剥き出しに、折り畳み式のスプリングベッドと、ツギハギだらけの二人掛けソファにオッドマン。僅かな服は扉の無いクローゼットに吊り下がっている。カーテンは青いビニールシートを二重にかけ、火もつかないコンロと水も出ない水道のキッチンは錆だらけであった。


 バ、バラック小屋と大差ねぇな。ハンターやってるくせに。なんか、本当にコイツ貧乏だったんだな。


 「なによ」

 「いや、悪かった。少し言い過ぎた」

 「変な同情はやめてよ。半分以上何のことかわからなかったし。だいたいクララって誰よ? その後の奴も」

 「気にするな。ただのヤツ当たりだ。すまなかった。でもさ、ハンターやってたらもう少し蓄えあってもよくね?」

 「ま、まぁ、それはちょっと色々あってね……」

 「へっ、女の秘密は多いぜ」


 その後、二人はサウナに行って身体を温め、濡れた服を洗い、神田川よろしく出てくるアッシュを待ち、無言で二人で部屋に戻って服を干し、錫乃介はソファで横になって夜を過ごすのであった。



 翌朝

 オンボロベッドの継ぎ接ぎシーツの上で女の子座りをするアッシュは、ダボっとした白いシャツ着ていたが、どうにもそれが目に眩しく、錫乃介はソファに腰掛けオッドマンに足を乗せベレッタナノをガチャガチャ弄りながら、部屋にあった小型ポットでお湯を沸かしおいた白湯を啜る。カルピスは無かった。
 

 「腹の虫が収まらねぇからマフィア潰す」

 「え?」


 干して置いた服は幸いにももう乾いている。この辺りは砂漠と違って熱帯に近いためか、夜は冷え込まずにそこそこ暖かいためすぐ乾くのだ。
 錫乃介が着るロング丈のデニムシャツはアッシュの部屋から頂いた。ボトムは7分丈のワークパンツ。これもアッシュの部屋からパクった。ダボっとしたファッションが好きなのか、それしかなかったのかわからないが、サイズは丁度良かった。


 「賞金はおめぇにくれてやる。俺をマフィアに突き出せ」

 「なに言ってるの、丸腰でどうやって潰すのよ」

 「ユニオンに預けてあるジャイロキャノピーに、手榴弾各種と補給用に少しばかり金を残してある。それでありったけ爆薬を買い込む。アッシュは俺を突き出し賞金持って先にトンズラしろ。その後はケ・セラ・セラという計画だ」

 「それ、計画って言わないんじゃ……」

 「黙りねぃ!」

 
 アッシュを一喝して黙らせ、ベレッタナノを渡す。


 「これだけ残ってた、返しとく。いま分解洗浄したから大丈夫だろ」

 「あ、ありがと。いいの?」

 「その代わり付き合え。俺を突き出して賞金もらって帰るだけの簡単なお仕事だ」

 「わかった」



……………………



 錫乃介はドアの前で腕を組み、昨晩からいままでの事を思い出していた。自分を担いでいた黒革ベストの男の首をチョークスリーパーで落とし、頭陀袋に入っていた手榴弾と爆薬、拳銃のグロック19ロングマガジンを取り出す。ジャノピーにいざという時のため残して置いた3,000c全て使ったのだ。


 いきなりの予定変更だったな。

 “まさかボスがアッシュ様に反応するとは予想外でしたね”


 と、ドアの奥より助けを求めるアッシュの叫び声が聞こえた。


 “助け、求めてますよ”

 助ける義理もうなくね?

 “まぁ確カニ”

 
 錫乃介ぇ!!!
 
 ドアの奥から聞こえるのは再び助けを名指さしで求める声だった。


 でも、まぁ、ここで助けなきゃ俺の美学に反するよな。

 “まぁ確カニ”
 

 スッと音もなくドアを空けて、女ハンターを襲う蟹男に躍りかかるのであった。
しおりを挟む
感想 52

あなたにおすすめの小説

絶世のディプロマット

一陣茜
SF
惑星連合平和維持局調停課に所属するスペース・ディプロマット(宇宙外交官)レイ・アウダークス。彼女の業務は、惑星同士の衝突を防ぐべく、双方の間に介入し、円満に和解させる。 レイの初仕事は、軍事アンドロイド産業の発展を望む惑星ストリゴイと、墓石が土地を圧迫し、財政難に陥っている惑星レムレスの星間戦争を未然に防ぐーーという任務。 レイは自身の護衛官に任じた凄腕の青年剣士、円城九太郎とともに惑星間の調停に赴く。 ※本作はフィクションであり、実際の人物、団体、事件、地名などとは一切関係ありません。

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

異世界災派 ~1514億4000万円を失った自衛隊、海外に災害派遣す~

ス々月帶爲
ファンタジー
元号が令和となり一年。自衛隊に数々の災難が、襲い掛かっていた。 対戦闘機訓練の為、東北沖を飛行していた航空自衛隊のF-35A戦闘機が何の前触れもなく消失。そのF-35Aを捜索していた海上自衛隊護衛艦のありあけも、同じく捜索活動を行っていた、いずも型護衛艦2番艦かがの目の前で消えた。約一週間後、厄災は東北沖だけにとどまらなかった事を知らされた。陸上自衛隊の車両を積載しアメリカ合衆国に向かっていたC-2が津軽海峡上空で消失したのだ。 これまでの損失を計ると、1514億4000万円。過去に類をみない、恐ろしい損害を負った防衛省・自衛隊。 防衛省は、対策本部を設置し陸上自衛隊の東部方面隊、陸上総隊より選抜された部隊で混成団を編成。 損失を取り返すため、何より一緒に消えてしまった自衛官を見つけ出す為、混成団を災害派遣する決定を下したのだった。 派遣を任されたのは、陸上自衛隊のプロフェッショナル集団、陸上総隊の隷下に入る中央即応連隊。彼等は、国際平和協力活動等に尽力する為、先遣部隊等として主力部隊到着迄活動基盤を準備する事等を主任務とし、日々訓練に励んでいる。 其の第一中隊長を任されているのは、暗い過去を持つ新渡戸愛桜。彼女は、この派遣に於て、指揮官としての特殊な苦悩を味い、高みを目指す。 海上自衛隊版、出しました →https://ncode.syosetu.com/n3744fn/ ※作中で、F-35A ライトニングⅡが墜落したことを示唆する表現がございます。ですが、実際に墜落した時より前に書かれた表現ということをご理解いただければ幸いです。捜索が打ち切りとなったことにつきまして、本心から残念に思います。搭乗員の方、戦闘機にご冥福をお祈り申し上げます。 「小説家になろう」に於ても投稿させて頂いております。 →https://ncode.syosetu.com/n3570fj/ 「カクヨム」に於ても投稿させて頂いております。 →https://kakuyomu.jp/works/1177354054889229369

日本VS異世界国家! ー政府が、自衛隊が、奮闘する。

スライム小説家
SF
令和5年3月6日、日本国は唐突に異世界へ転移してしまった。 地球の常識がなにもかも通用しない魔法と戦争だらけの異世界で日本国は生き延びていけるのか!? 異世界国家サバイバル、ここに爆誕!

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

蒼海の碧血録

三笠 陣
歴史・時代
 一九四二年六月、ミッドウェー海戦において日本海軍は赤城、加賀、蒼龍を失うという大敗を喫した。  そして、その二ヶ月後の八月、アメリカ軍海兵隊が南太平洋ガダルカナル島へと上陸し、日米の新たな死闘の幕が切って落とされた。  熾烈なるガダルカナル攻防戦に、ついに日本海軍はある決断を下す。  戦艦大和。  日本海軍最強の戦艦が今、ガダルカナルへと向けて出撃する。  だが、対するアメリカ海軍もまたガダルカナルの日本軍飛行場を破壊すべく、最新鋭戦艦を出撃させていた。  ここに、ついに日米最強戦艦同士による砲撃戦の火蓋が切られることとなる。 (本作は「小説家になろう」様にて連載中の「蒼海決戦」シリーズを加筆修正したものです。予め、ご承知おき下さい。) ※表紙画像は、筆者が呉市海事歴史科学館(大和ミュージアム)にて撮影したものです。

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

処理中です...