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ドブさらいの錫乃介漫遊記
ボールターレットもロマンの塊
しおりを挟む翼が極端に短いジャンボ機のような見た目のエクラノプランは、空中に上がることなく水面に浮かびそのまま波をかき分け時速30キロほどで海を進んでいた。
まぁそうじゃないかな、って思ったよ。エクラノプランなの見た目だけだねこりゃ。
“元々カスピ海とか塩湖の極端に波がない水面か、起伏がない平坦な大地でしか運用ができない飛行機ですからね”
これで外海飛ぶのは流石に無理か。
【作者注:エクラノプランとは旧ソ連で開発された、水面(地面)を超低空で飛んで高速大量輸送を目的に作られた飛行機だ。
見た目は尾翼がデカくてゴツくて主翼が短いジャンボジェット機。表面効果(地面効果)を最大限に利用し、時速500キロ以上でかっ飛ぶことができるロマン飛行機なのだが、いかんせん起伏のある大地では使えない。つまり水面でも波があると飛べないという困ったさんだ!でもロマンがあればいいよね!
表面効果で飛ぶのはこの飛行機だけじゃなく、トビウオや渡鳥や海鳥なんかもこの現象を利用して飛んでるんだぞ。
表面効果って何かって?そりゃあれだよ、地面からブワッと上昇気流みたいなやつが生まれるんだよ……後は自分で調べるんだ!】
錫乃介の今回の仕事は物資運搬の手伝いとワッチと呼ばれる見張り、そして戦闘要員だった。だから戦わないわけにはいかない。
機獣でたらやだなぁ。対艦ミサイルはじめとした武装はそろってるけど、護衛船いないしなぁ。
“あのミサイル生きてるのでしょうか?メンテしてるとはとても思えない程ボロいですが”
それはそれ、あるだけで心の安心感が違うだろ。
“不安になるだけです”
波に揺られながら進むエクラノプラン。持ち場で海の見張りをしていると、水平線からなにやら波が反射する太陽光とは違った金属質のキラキラと光りながらはためく群れが出現した。更に上空にはアホバカカスも群れを成してやってきている。
あ~あさっそくおいでなすった、と通信機を手にする。
「3番銃塔より通達。南南西くらいから機獣がいっぱい来るよ~皆んな持ち場に着いて警戒しましょう」
“なんか気が抜けますね”
それくらいがいいんだよ。
“アホバカカスの群体はAIの対空砲が片付けてくれるでしょう。錫乃介様は超低空でかっ飛んでくる、ソードフィッシュとかトビウオミサイルの群を対処しますよ”
エクラノプランもどきの胴体上部にはAIを用いた自動照準の対空砲や対艦砲、尾部と腹部にはボールターレットと呼ばれる機銃を撃つための丸い銃塔部が複数あった。その一つが錫乃介の持ち場だ。
このボールターレットさ、あちこち穴空いてて隙間風入ってきてエアコン効かないわ陽射しが直射で入るわで暑いんだけど。
“換気出来ていいじゃないですか。それにじきに暑さなんて感じなくなりますよ。ほら、来ます”
ナビの声がかかると同時に、操縦桿に手をかける。ボールターレットの操作は左手にあるトラックボールで操る事ができ上下左右自在に方向を変えらる。右手の操作桿で照準を調整して発射スイッチを押す構造だ。
これ乗り物酔いする奴には最悪な持ち場だな。それっ、
2枚のガラス板が嵌められて作られた、やたらとレトロでアナログな照準器で、大雑把に照準を合わせて、発射スイッチを押し込む。
バドドッ、と銃座から至近距離に設置されている連装重機銃から耳をつん裂く轟音と共に弾丸が放たれると、水面上で何やら破裂する。その勢いのまま一掃射撃を続ける。隣の1番2番銃塔、尾部銃塔からと曳光弾の軌跡から弾丸が止むことなく放たれているのがわかる。
キラキラはためく光が小爆発に飲み込まれ、一見終わったかに見えるが、1番2番尾部共に射撃を止める様子が見られないので、そんなものかと錫乃介も撃ち方を続けると、爆発の中からも何やら飛び出てきては、爆発を繰り返している。
ええ……まだいるの……
“大群ですね、アホバカカスはもう旋回して消えて行きましたが、魚群はまだまだきますね”
魚群って何匹いるものなの?
“機獣の場合はわかりせんが、サーディンランと呼ばれる世界最大のイワシの群れは10億匹と言われています”
そんなの無理ゲーーーー!
と、軽い絶望感に苛まれていると、隣の2番銃塔がジャムったのかリロードなのか、撃ち方が止まると、1番、尾部も撃ち方を止めたので、釣られるように錫乃介も止めた。
お、終わったのかな?
“頭を下げて!”
ガバりと、ナビの一声が終わる前に反射的に頭を下げる。もちろんナビのアシストも付いてだ。
こ、これは……
“撃ち漏らした機獣ですね。ミサイル型じゃなくて助かりました”
ボールターレットの防弾ガラスを貫き、銃座後部で突き刺さって尾びれをバタバタさせているのは、ダツによく似た金属製の魚であった。
おっかねーーーーー!!
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