砂漠と鋼とおっさんと

ゴエモン

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マリーゴールドから“悲しみ“と“絶望”の花言葉が無くなった日

気象観測は天体観測と共に人類の文明史そのもの

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「雨季はもう来てるという事ですね?」

 「そうですね。例年なら既にスコールが降っていてもおかしくないですね。ただ、スクラッチ前と違いまして、目視とデータの蓄積で予測するしかこちらは出来ませんので、あくまでもご参考程度に」

 「わかりました」

 
 『鋼と私』にジャノピーの修理とパンツァーイーター討伐用のアレコレを依頼した後、再びユニオンに戻る。本来ならキルケゴールやアイアコッカに戻った事を挨拶するのが筋なのだろうが、錫乃介にはどうしても優先したかった事があった。それは気象に関する話だ。
 この世界では電力供給以外の無線の類いは全て使用不能なため、衛星による気象観測は出来ない。とはいえ、気象観測を全くしていないとは考えづらかった。
 事実、気象観測は天体観測と共に人類の文明史そのものと言って過言ではない。世界各地、いかなる場所においても文明が発生した土地において必ず気象と天体の観測はセットで行われており、科学史と言い換えても間違いではないだろう。有史では紀元前2,000年前のエジプトやメソポタミアで暦が既に作られていたことから、先史時代においても資料がないだけで、観測の記録はされていたに違いないとされている。つまりある程度発達した文明を持つ人間には必須の概念なのだ。

 ハンターユニオンは役所や軍、受電設備であることから当たりを付けて受付で聞いてみたら、案の定受電設備技術者が気象観測士を兼ねていることがわかった。技術者は街において超重要人物であるため、簡単にアポとか取って会えるわけではないそうだ。そこで、嫌々ながらも支部長タヌ山タヌキックに技術者へ取り次いで貰うため廃ビル13号棟探索完了の報告をする。既にセメントイテンから話は来てるだろうが、これは一応終わったという礼儀的なものだった。
 報告もそこそこに、タヌ山から返って来た言葉は、次のノルマが……と言ってきたので、思いっきりメンチ切る錫乃介。流石に、冗談だよ……と言って来たので許すことにする。その代わりに気象観測してる技術者に、話をさせろ、と要求して今に至たるが、最後に支部長が見せた表情は何かを隠している様にも見え、煮え切らない思いをしていた。が、ここにきてそれを察っしたのだった。


 「先日ここに向かう途中“ワジ”を見つけたのですが、あれを見る限りかなりの規模なスコールだと思いますが、何日間くらい降り続くものですか?」

 
 錫乃介が案内されたのはユニオンの屋上にあった電柱のように太く束ねられたケーブルがいく本も繋がる施設の、その更に上の階に天体観測望遠鏡や気象観測用のカメラがあるドームであった。
 
 
 「過去の観測記録では日中降り始めて数時間で止みますが、降水量は3ヶ月で2,000ミリくらいです」

 2,000ミリというとどれくらいだろう?

 “旧日本の年間平均降水量が1,700ミリです”

 うぇっ、それが3ヶ月の間に一気に降るんだ。まぁ、重要なのはそこじゃないけど。


 そして錫乃介は今まで不明であったこと等質問をいくつかして、面会終了の時間となった。

 「ありがとうございます。とても参考になりました。最後に一つだけお聞きしたいのですが、宜しいですか?」

 「ええ、構いませんよ」


 技術者はとても人の良さそうな笑みを浮かべる。アクアマリンのふわりとした短めのくせっ毛にコバルトブルーの瞳が神秘的ですらある。歳はいくつくらいであろうか? 少年とも青年とも思える中性的なビスクドールを思わせる顔とスラリとした肉体は、男女問わず惹かれることだろう。 


 「なんで全裸なんですか?」


 だが彼は、そう彼は、一目で男性だとわかる特徴を露わにしていた。


 「貴方もおかしな事を。 皆さんそうおっしゃるんですが、研究に服は必要ですか?」

 「いえ、必要ありません。私の方が間違えていたようですね」

 「貴方は危険な外で戦うのですから、身を守るための服は必要ですよ?」

 「ええ、全くもって仰る通りです。また一つ勉強になりました。ただ、私の方から一つだけ愚見を申し上げるとすれば、パンツだけは履いた方が宜しいかと存じます」

 「何故ですか?」

 「その、大変ご立派で有らせられるポコ○ン様が歩く度にブラブラとモモに当たりお邪魔では無いかと、先程から気になっていましたもので」

 「おお、なるほど!パンツを履けばそれが解消されると!
 私も実は邪魔だと前々から思ってまして、もいでしまおうかと。生殖機能など研究には入りませんからね」

 「そうでもありませんよ。そこから生み出される男性ホルモンはテストステロンと呼ばれて前向きな思考や高い集中力を働かせる作用があるものですから、研究にはとても大切なものでありますよ」

 「な、なんと博学な! 外の方でこれほど博学な御仁会ったことがない。すぐにパンツを調達させましょう」

 「いえいえ、無学ながら経験則だけで申し上げております故、そこまでの評価は身に余るものと存じます。それではこれでゼン・ラーマルハ・ダカー様。

 「いえいえ、いつでもいらして下さい。貴方の様に博学で向学心溢れる方はいつでも歓迎ですよ」

 中性的に魅力ある惹き込まれる顔で、無邪気にそして愛くるしく笑う。もし彼が女子だったら、押し倒したくなっていたことだろう。



 ナビ? なんだありゃ?

 “知りませんよ、ただの変態かと思ったら素の様ですし”

 でも真の変態って、“素”だよな。

 “言われてみれば”

 あぶねー奴だ。あのでかポコ切り落とすなんて、無邪気にいう言葉じゃねーぞ。すんでのところで尊厳守ってやったが。

 “切ったら切ったで色々需要ありそうなナリしてましたけどね”

 俺っちそう言う方面はご遠慮願いたい。


 ユニオンを出る前にアイアコッカとキルケゴールに軽く挨拶をしてから、次なる行き先へ向かった。

 その前に、サウナで旅の疲れと汗をようやく流す。腹の底から大きく息を吐き出して、吸い込む熱気は久しぶりに家へ帰って来たような心地良さだ。このままもう寝たいところだが、あと一軒行くところがあった。
 それにしても何故こんなに自分はアクセク動いているのだろう? と疑問が浮かぶが、全ては借金から始まる一連の鎖であり、元を正せばジャイロキャノピーの魔改造が事の発端と言えた。マリーの回収に付き合ったのだって、手っ取り早く修理費用を捻出したかったからだ。今回の化け物退治は自分の美学の為だが、1,000万の報酬が魅力的に見えたのも半分はあるのが正直なところだ。



 『万魔殿~パンデモニウム~』


 「と、まあそんなわけですよ」

 「またもやただの調査では終わらなかった訳ですね。お疲れ様です」

 木目調の不思議な石のカウンターに腕を伸ばし、ひんやりした感触を楽しむ。目の前には、半分に減った1パイントの黒ビール。既に2杯目だ。


 「そんで、次はマリーってやつが……」

 「はい……成る程……それはまた……」


 ここまでの経緯を店主ジョドーに話す。ジョドーは錫乃介に赤ワインを奢られている。

 錫乃介の目の前には黒ビールと共に、パイ包み焼きを食べていた。中身はブーダンノワールと焼きリンゴという不思議な組み合わせだ。ブーダンノワールは早い話が豚の血を熱して固めた物だ。ソーセージが有名だが、パテにしたりソースベースにしたり、フレンチやイタリアンでは伝統的な素材だ。
 この意外な組み合わせが事の他黒ビールによく合う。クローブやシナモンなどのスパイスが血の臭さを見事に消しており、コクとまろやかな味わいを引き立てている。これは黒ビールだけではなくて赤ワインもよく合うだろう。

 「次は赤グラスで」

 「かしこまりました」

 
 グラスに注がれる液体からは芳醇な葡萄の香りがする。こちらもシナモンやハチミツのようなアロマが立ち、力強いボディを感じるワインだ。
 
 「これ、結構いいやつ?」

 「まぁそこそこです」

 「やっぱりね。でですね、ここからが本題何ですけど、パンツァーイーターって、何アレ? 化け物過ぎません?」

 「あの機獣に出会いましたか。最近噂を聞かないので、何処ぞへ行ったのかと思いましたが……アレは元山椒魚の機獣でした。それが、酷く悪食な奴で何でも食らいつく。そして体内に取り込み終いにはビルよりも大きな身体を手にしてしまったのです」

 「山椒魚かよ……確かに言われて見ればそんな面影があるか。そんで、俺が考えた討伐方なんですけど……」

 「ほう? それはまた……確かにそれなら行けそうですね」

 「だしょ! よーし、ジョドーさんのお墨付きが付いたところで、今夜はお暇します」

 「ありがとうございます。どうぞお気をつけて」

 「ま、行くのは1週間後よ。バイクも直ってからね。それじゃまたー!」

 「はい、また」


 そして、1週間が経過した。

 残金2,580c
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