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マリーゴールドから“悲しみ“と“絶望”の花言葉が無くなった日
トランスフォーマーはビーストウォーズシリーズは超面白かったけど、それ以外も大好き
しおりを挟むくすんだ焦げ茶色の車体
突き出たボンネット
10トントラックよりも巨大な架台
肩まであるほどのタイヤ
一本の垂直に突き出た煙突マフラー
マリーに言われるがままにサッサと準備をして街の外に出ると、錫乃介を待ち構えていたのは、アメリカントラックの雄、ピータービルド モデル281という現代日本ではお目にかかることはあまり無い馬鹿でかいトラックであった。コンボイと言った方がイメージしやすい人も多いだろう。
映画『激突』でもその存在感を遺憾なく発揮したトラックは、時代を経てなお、マリーの愛車として己を誇示していた。
でっか……
“ピータービルト モデル281シリーズに、パルフィンガー社の林業用中折れ式クレーンが付いてますね”
トレーラーヘッドと架台の間には、長さ20メートル程の中折れ式のクレーンが付いており、先端には五本爪で物を鷲掴みにできるアタッチメントが付いていた。このクレーンで回収した物を架台にいれるのだろう。
“武装も充実してます。トレーラーヘッド上には重機関銃M2。架台には57㎜2連装機関砲。架台下にはミサイルランチャーまであります”
へぇ~マンモスでも狩るつもりですか~
“恐竜かもしれませんね”
大気を震わす爆発音でエンジンがかかると、重低音が鳴り響き大地をも振るわす。煙突マフラーからは蒸気機関車のように、黒い煙をモウモウと上げ始めていた。
戦車かよ……
“元のスペックで350馬力の排気量13,000ccありますからね。更にカスタムして倍くらいはあるとすると、まぁお察しの通り軽戦車くらいはある計算になりますね”
モンスタートレーラーだな。
着いてきな、と窓から顔を出してこちらを見下ろした後、顔を引っ込めて腕を伸ばし、親指を立てたサムズアップでこちらに合図を送ると、モンスターは唸りを上げて走り始める。
いちいちカッケェおばはんだな……
ポルトランドに向けて街道を進む魔改造されたトレーラーとジャイロキャノピー。まず目指すのはエーライトだ。
砂塵を巻き上げるのは荒野を吹き抜ける風なのか?
マリーが走らせるトレーラーなのか?
そんな事より何故俺はその砂塵に巻かれながら後に着いて行ってるのか?
そんな疑問が頭を駆け巡りながらもジャノピーのアクセルを回す。
エアコンが故障中でバイクの中は灼熱。ダクトテープで塞ぐドアガラスの大きな穴を見て、テープを剥げば風通しも良くなるかと思い手を伸ばすが、熱砂で余計に酷い事になるのは目に見えていたのでやめておいた。
フロントスクリーンにもダクトテープがペタペタ貼ってあって見にくい事この上ない。何故かとても情けない気持ちが襲うが、この弱肉強食の未来世界ではアクセルを止めた者から死が訪れる。走り続けるしか生きる道はないのだ。
元より錫乃介はアクセルを緩めるつもりは微塵もないが。
エーライトまでは特に機獣の出現も無くーーというより、巨大なトレーラーが唸りを上げて走る中、小型~中型の機獣は引っ込んでしまっているだけなのだろう。まだポラリスが機獣津波を片付けた影響があるのかもしれない。
ガソリンスタンドで燃料の補充をする。ここのスタッフなのかそもそも家族経営だろうから店主なのかわからないが、青のツナギを着た坊主の(ハゲでは無い短いだけ)黒人の兄ちゃんとはここ最近会う機会が増えたため、顔見知りになっている。前にあった直近は数日前に新宿から戻ってきた時だ。
あの時はファンの女の子が云々に騙された事が発覚した直後からだったため、怒りと焦燥感と疲れがない混ぜになっていたため、兄ちゃんとは何を会話したか覚えていない。
「この前セメントイテンへいったばっかなのに、もうポルトランドかい? それとも廃ビル13号の方かい?」
新宿の事は話していなかったのか、気さくに聞いてくる。
「廃ビル13号棟の話は聞いたか?」
確認の意味も兼ねて聞いてみる
「いや? ただ今回はアンタも含めてちゃんと戻って来てるなって思ってな。調査が終わったのか?」
「まぁ、調査は終わったな。だけどな兄ちゃん、本番はこれからだ、死ぬ程忙しくなるぞ。今のうちにガソリン大量に仕入れとけよ」
「え? なんでまた……」
「いいから俺の言う通りにしとけ。このエーライトは要所になるからな」
「なあに言ってんだよ、こんなただの通り道」
「ここはシルクロードの敦煌になり得るぞ。なんせ、新しい街が見つかったんだからな。それも、人が住む文明のある街だ」
「え……、まさかこの前の廃ビルが……か?」
「そう言うことだ。覚えておけよ」
「わかったありがてぇ。それじゃガソリン満タンだ、お会計……」
「半額な」
「え?」
「情報料だ」
「ムリ」
「駄目か……」
残金5,770c
その夜『ダイナー 星の王子様』でマリーと飯を食う。
錫乃介はまたもや昭和の味がするラーメンライスを注文する。おそらく鶏がらだと思われるスープに醤油のパンチが効いている。ナルトにメンマに輪切りのネギ、おっと今回は海苔がある。どこかで手に入ったのか。
手打ちの縮れた中太麺に醤油スープが良く絡む。しょっぱいくらいのスープは米にかけてもよく馴染む。それにしてもこの米は何処から運ばれてくるのか?間違いなく、日本の品種の米だが……
マリーは大量のバッファローウィングに大量のフライドポテトとこれまた大量のブルーチーズのシチューだ。このシチューをディップにしてポテトとウィングを食べる。少し貰ったがこれは止まらない美味さだ。バッファローウィングと言っても、本当のバッファローではない。手羽先のことだ。このディップたっぷり付けたウィングやポテトをワイルドターキーのソーダ割で流し込んでいる。それにしてもマリーは細身の身体なのによく食べている。
「アンタずっとソロなのかい?」
「そうですね、この世界来てからずっとです」
「この世界来てから?」
「ハイ、私135年前からこの世界に飛ばされて来ました」
「アンタが敬語なのと、話がぶっ飛びすぎてるせいで、理解が追いつかいよ」
「ぶっ飛びすぎなのは正論ですが、私が敬語なのはあまり関係ないかと」
「わかったわかった。いつも通りにしろよ」
「だからさ、俺っち2020年から来たの」
「急に戻すな。んでこっちの世界来て、どうだった」
「あーまぁ、色々っすよ……最初は砂漠で目覚めてわけもわかるず……」
「運が良いね……」
「んで、アスファルトで……」
「ヘッドも相変わらずだね……」
「カフェボムで……」
「ミーチの旦那が生きてたか……」
「オウガの奴が……」
「やるじゃないか……」
…………
身の上話もそこそこに、この世界来てからのアレやコレやを話しながら、酒は進み夜は更けてマリーと共にワイルドターキーを一瓶空けていた。
ワイルドターキーは奢ってくれた。
良い人かもしんない。
“単純過ぎです”
お酒奢ってくれる人は皆んな良い人。
その夜はベロベロに酔っ払ってモーテルに泊まる錫乃介とマリーであった。
残金5,620c
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