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マリーゴールドから“悲しみ“と“絶望”の花言葉が無くなった日
新章が もたらす味は 少し辛くて 涙を誘う
しおりを挟む「受け取りやがれ!」
セメントイテンハンターユニオン支部長チャック・ドン・ボラスの顔面にタブレットを叩きつけた後、錫乃介はユニオンを出て物資の買い出しと補給を終わらせると手持ちの残金は3,500c。
ジャイロキャノピーが悲鳴を上げているので、修理に出すとフルリペアは8,000cと金が足りないので、駆動部分と銃器だけ見てもらう。ボディは穴だらけのままだが致し方ない。これで残金300c
錫乃介は以前この街に訪れた際に二日続けて入ったお店『小料理屋ダンシングオールナイトニッポン』で、手持ちに残った僅かな金で一杯引っ掛けながら、ドンチャックとのやり取りを思い出す。
「ドンちゃんとは貴方ですか?」
「ええ、一部の親しい間の方からはドンチャックと呼ばれています」
「そうですか。ではこれ頭筋肉チ○コ馬並み鬼畜ゴリラことラオウ山下さんから、貴方にお渡しする様に言付かっております」
「わざわざお持ちになって下さるとは、お手数お掛けしました」
「いえいえ。ときにお伺いしたいのですが、融資の最終決定はドンちゃんが行っているのですか?」
「ええ、そうですよ。公正かつ明瞭な契約の元にご本人様の信用を調査し、このセメントイテンでは最終決定を私が行っております」
「サロットルさんへ融資が決定された経緯は?」
「はい、サロットル様はハンターユニオンに登録すらもされていない為に、信用の面がどうしても足らず融資が受けられません。そこで友人である錫乃介様を連帯保証人に立てることで契約が成立致しました」
「連帯保証人である私が不在のまま契約が締結されたようですが、そこは問題無かったのですか?」
「在否よりも指紋登録された契約書があるか無いかの方が大事ですね」
「もしこのタブレットが無くなったらどうなるんですか?」
「その場合は契約書の紛失は契約の締結とみなされます。こちらに契約書のコピーがあります。どうぞご覧下さい」
「拝見致します。ふむふむ、《第三条五項 なお、この契約書が故意過失の内容如何によらず、遺失又は破棄された場合は契約の締結とみなされる》 確かにありますね。確認しましたお返しします。」
「はい。ありがとうございます。それではそちらの登録されたタブレットの方も」
「ほらよっと」
指紋認証をしたタブレットをドンチャックの顔面に投げつけると、何事も無くサッとタブレットを受け取る。デスクにタブレットを置きながらも顔は錫乃介を見たままニヤニヤ笑っている。馬鹿にしてるというよりは、何か親しい友人を見る目の様だ。
睨み返そうかと思ったが、ドンチャックの意外な表情に気が逸れる。
「そんなに可笑しいか?」
「ええ、稀代の英雄がご登場されたのですから笑みも溢れますよ」
「なにが英雄だ。まったく」
「アスファルト侵攻、賞金首オウガ、ポルトランド機獣津波、小さい所では、孤児の人攫い、モーテルへの野盗、そしてドブさらい。錫乃介さんがこの一年未満でされたご活躍を調べました。ハッキリ言って異常な功績ですな」
「だから、なんだってえの。10,000,000の連帯保証人ったぁ、首吊るレベルだわ」
自分の首を手で絞めるジェスチャーをして舌を出して戯ける錫乃介。英雄と呼ばれた事に少し照れているのかもしれない。
「お伺いしますが、先の新宿の件。これ以外に方法があったら教えて頂きたいですな」
「ねーよ。そういう聞き方、性格悪いなアンタ。
事態は急を要していたからな。拙速に動かにゃ更に悪い状況になっていたのは間違いねえ。その中で資金繰りをどうするかは、ある意味兵器を集めるよりも、戦争に勝つことよりも難しいことだからな」
「よくおわかりで。錫乃介さんもある程度予想されてたのでしょう? ご自分が貧乏クジ引く事を。聞けば新宿にいた時も進んで損な役回りをしてたと、筋肉ゴリラは申してましたよ」
「……」
「一応申し上げますが、今回の融資はユニオンの幹部である私が関わった不正行為です。その連帯保証人、異議申し立て出来ますよ。融資は凍結されますが」
「……食えねえビーバーだなあんた」
「これで飯食ってますので」
サロットルの返済が始まるのは二年後から。それまでに何とか産業化を促し交易を他の街としなければならない。
返済が終わるまでは錫乃介への新たな融資はまず通らない。しかし、返済が始まり何割か進んだところで、再び融資は受けられるらしい。
別に新しくジャノピーを魔改造する予定も今のところないがな……
「ユニオンとしては錫乃介様の事はすでに上級ハンターの重要人物扱いです。これからも無下には致しませんのでご安心を」
「俺まだハンターになって一年たってないんだけど」
「経験ではありませんから。それではこれからもユニオン共々宜しくお願い致します」
「あ、そう。んじゃ、行くわ」
「はい、ご利用ありがとうございました」
支部長室のドアを開けて出ようとするが、ふと思い出した様に立ち止まる錫乃介。
「わりぃ、さっき渡したタブレットな、それ契約書のじゃねえわ」
え?と不意を突かれて目を丸くしてデスクの上のタブレットに目を落とすドンチャック。
「受け取りやがれ!」
錫乃介の上げた声に慌てて顔を戻した時には、すでにタブレットは目の前まで飛んできていた。
「最初に渡したのは廃ビル13号棟の地図な。ノルマ完了手続き宜しく。バイビー!」
「あんざーす!」
追加で日本酒モドキをエメラルドグリーンのショートヘアの女の子に注文すると、間をおかずに酒が目の前に出る。料理が出るまでの間、最後にドンチャックが見せた顔を肴にお猪口でちびちびやる。
ま、これで気は晴れたかな。
“引き摺らないですねえ”
あのサロットルのことだし産業化くらいわけないだろ。色々考えていたみたいだし。保証人になったからって現時点では借金背負ったわけでも破産したわけでも無いし、重く考えるだけ無駄無駄のハムだサムニダよ。
“楽天家もここまで来ると偉人の域ですよ”
そう褒めるな。
“呆れ半分ですから。だいたい一、ニ年で利益出せますかねぇ”
まぁ、ぶっちゃけ難しいな。まだまだ沢山いるだろうプラントノイドの排除。使える植物資源の選別。労働者の教育と管理システム。貨幣経済社会の構築。ここまで早くて一年か。
“一年で済むわけ無いじゃないですか”
だよな~。あれ?実は俺崖っぷちじゃない?
“ユニオンからは重要人物として扱うって言ってますけど、体の良い奴隷扱いされるかもしれませんよ”
ま、死にゃしねえからいいか。前の世界の社畜時代とたいして変わんねえよ。
“お猪口震えてますよ”
おっと酒が足りないな。
「おまちどー!」
元気の良い声と共に女の子が料理を配膳してくれる。
相変わらず威勢が良くて快活で可愛い子だ……違う、相変わらずこの店は料理のレベルが抜きん出ているな。
青ビーツと黒大根の糠漬け
一瞬エグミと苦味が走るがほんの一瞬。それが刺激となって後からくるビーツと大根の味を引き立てる。
ギガントオオナマズのつみれ とろみを付けたお椀仕立て
極限まで柔らかくハンペンよりも豆腐よりもフワフワに仕上げたナマズのつみれを、とろみをつけた豆乳のような白い出汁でいただく。
腐海キノコと姫竹のヌタ
この世界のどこやらにある、菌類に支配された大地から採取された数十種のキノコを乾燥させ出汁をとり、そのキノコと小指よりも小さい筍で作ったヌタ
バオバブゴボウとバッファローのブレザオラ ミルフィーユ仕立て
直径が10センチもあるバオバブゴボウを桂むきにしたものと、ブラザオラ(塩漬け牛肉)を重ねてミルフィーユ状にし、それを蒸して甘めの黒いソースをかけた一皿
新生姜とアンチョビの土鍋ご飯 シェーブルチーズリゾット風
シェーブルチーズにアンチョビなんて臭くてクセのある物を新生姜で上手くまとめて、芳しい香りに引き立てている。そして新生姜の辛味が涙を誘う。
ヤバすぎる。ここは小料理屋の域を超えている。このアフロ天才過ぎる。前の時代でもこの世界に来てからも色々食ったが、どんなに美味しいと言っても脳内で予想できる範囲内だった。
ここの料理は違う。予想が出来ねえ、その上で外さねえ、荒んだ心が癒されるな。
にしても、こいつの腕もさることながらここまで多技に亘る食材を良く集めた物だ……
食材、か……
そうか、とんだ盲点だったな。
錫乃介はアフロの料理に舌鼓をうちながら、脳内に何かが走っていた。
と同時に暖簾を潜り入店する客がいた。
「なんかそんな気がしたんだよな」
「錫乃介様、お久しぶりですね」
「そうでもねえよ」
聞き覚えのある、メカメカしい声の持ち主。錫乃介はこの店三回目にして三回とも遭遇する程縁があり、なるべくならこの店では会いたくない、いやこの店に限らず酒の場所で会うのは御免被る酒乱ロボ。
「ロボオ、俺今日金ねえからな」
「いきなりタカリですか?お見苦しいですよ」
「タカラねえから、帰るから」
「仕方無いですね、10杯だけですよ」
「要らねえって言ってんだろ!何だよ10杯って!ちょっと嬉しいじゃねえか!」
結局また始まる野郎どもの宴。
男達の夜は更けていく……
残金100c
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