砂漠と鋼とおっさんと

ゴエモン

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ブラッククィーン編

ゆきゆきて神軍

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 睥睨していた
 
 総数100万を超える機獣の軍隊を

 これだけの戦力があれば

 どの様な都市といえども

 ひとたまりもない

 この世界最高火力を持つデザートスチームさえ

 この戦力の前には儚げなカゲロウと言ったところだ

 男は睥睨していた。この最大最強の軍隊を

 
 時は満ちた
 我輩が再び地上に舞い戻り、暴力の限りを尽くす、その時代の到来が
 
 時は、満ちたのだ

 何者も我輩の敵とはならず、雲霞の如く散って行くのだ

 
 ジャムカは進軍の命令を出すべく、地下神殿の壇上で、地下放水路に満ちた機獣達を睥睨していた。


 さて、この壇上の男ジャムカは戦闘はめっぽう強いしカリスマもあり、一軍の長としては全くもって申し分なかったのだが、アスファルトの戦いで生死が不明となった、副官のゴトウという男があまりにも優秀すぎた。
 ジャムカはゴトウと組むようになってから、元々さして得意では無かった諜報戦や搦手がますます不得意となり、そして最悪な事に、自身が強かったためそれを自覚せず、重視していなかった。早い話が極度の脳筋であった。ゴトウが参謀として居るまではそれでも良かったのだが…


 さあ……戦いの……始まりだ。
 行動開始
 全軍出撃

 その号令は決して大きな声では無かったが、重低音で響くその声は地下の空気を、大地を、震わし100万の軍勢全てに行き届いた。
 見渡す限り埋め尽くした機獣より雄叫びが上がり、時には銃声がそこかしこで響くこの世ならざる光景は、正に万魔殿と言えた。そして、その時こそが、この万魔殿、最後の瞬間であった。
 

 鳴り響く爆発音、そして、鳴動を始める大地。いや、大地ではない、天井だ。

 
 襲撃か…愚かな。どれだけ戦力を集めた所でこの『ラスト・ジェネラルアーミー』には…って、ええええええっ!


 
 計算され設置された爆薬の威力は凄まじく、調圧水槽室、第一立孔から第五立孔までの天井が全てが一同に崩れ落ちていく。落ちる天井は、神殿の柱を薙ぎ倒し、目下の機獣達を押し潰して行く。奈落に落ちる舞台の様に、地盤は沈下していった。

 生産ラインを持つ工場もまた、正面搬入口と側面の壁側が吹き飛び。その自重によって天井は崩れ瓦礫の山を築いたのだった。
 爆破によって落ちた地面、立孔の天井は見事にトンネルを塞ぎ、調圧水槽にあった出入り口も、山の麓の形状が変わるほどに吹き飛んでいた。




 やったか?

 “またそう言うフラグを…”

 錫乃介は外郭放水路からわずか数百メートルほどの地点でジョドーと工兵小隊と共に、山の中腹から立ち登る瓦礫の噴煙を見ていた。


 「元帥殿、作戦成功見事でございます!」

 隣で双眼鏡で確認をしていた男が、満面の笑みを浮かべ元帥に賛辞の言葉を贈る。

 「いえ、皆さんのおかげですよ」

 「いえ、100万を越えるであろう機獣を前に、この作戦立案は見事としか言いようがありません。我々だけでこの様な破壊工作の立案が瞬時にでき、そして実行できたかとなると、おそらく不可能だったのではないかと。伝説の元帥殿に戻ってきて頂き、あまつさえ、斥候や退避路の確保まで、なんと申し上げてよいのやら!」


 工兵隊長ワカヌイはジョドーを心より称賛していた。
 最初はポッと出のハンターに指示を仰がなければならない事に些か不満ではあったが、
いかんせん爆破工作となると、素人でありノウハウが無かったため、渋々ブリーフィングに応じた。
 そしていざ作戦実行となると、危険な斥候から退避路の確保まで、軍属のトップである元帥のジョドーが最前線に立って行ってくれた異例中の異例とも言える事態に驚愕した。


 あたり前である。何処の世界に総司令官が、現場最前線に立つ軍があるだろうか?しかもその事実を知ったのは、生産ラインの工場前で、錫乃介と合流した時だ。
 
 ワカヌイは錫乃介が闖入した会議に参加していたため、その時初めて、噂には聞いていたが、元帥の事を初めて視認した。
 まさかその元帥が錫乃介と共に、合流地点に居るとは誰が予測するだろうか。

 
 「この、作戦立案者は彼ですよ。私は連れてこられただけに過ぎません」

 錫乃介の肩をポンと叩くが、ワカヌイはそんなご謙遜なさらず、いやいや、こんなときにも部下を立てるとは、元帥殿もなんと人ができた方であろうか、という具合であった。


 ジョドーの力による所も確かに大きいが、実際の計画立案者である錫乃介は別段その事には不満はなかった。なんせローンがチャラになったのだ。もうそれだけで小躍りしたくなる。イカつい暑苦しいおっさんの称賛の言葉なんぞ、鬱陶しいだけで一文の得にもならないと思っていた。美少女なら代わりたかったが。

 
 「まぁ、元帥の御旗がなけりゃ俺の作戦なんざ鼻にもかけられなかっただろうし、あんたの手柄でいいんじゃねーの?」

 コソッとジョドーに話しかけると。

 「困りますね。私は『万魔殿』のバーテンダーで満足しておりますし、これからもそうしていきたいのですが」

 「んな事言ったって、ポラリス居ないのに、他に客いんの?」

 「失礼ですね。自分が食べていく分くらいにはおりますよ。暇な店なのは事実ですが」

 

 それから、程なくして煙が収まってきたので、工兵小隊と共に現場確認に向かった。
 慎重に調圧水槽へ至るトンネル、や第一立孔から第五立孔を確認するが、見事に埋まっている。
 巨大な火力をもつ機獣ならば、瓦礫を破壊して脱出することもわからなかったが、小型機獣しか生産されていなかったのは確認済みだ。
 
 オントスから降り、瓦礫の周りをつぶさに確認して行く。工兵達も装甲車を降りて、警戒しながら、状況の確認をしている。


 結局、黒幕は居たのか?この爆発に巻き込まれたのか?それだけは気になるな。

 “かといって、瓦礫をどけて捜索するわけにもいきませんしね”

 むしろ瓦礫はこのまんまコンクリート流し込んで固めたいくらいだしな。

 “錫乃介様、9時の方角。距離20メートル何者か瓦礫の下から出てきます”

 なに!

 
 巨大なコンクリートのブロックが動く。

 まさかまだ生きている機獣がいるとは。

 誰しもそう思った矢先、ベッドよりも大きなコンクリートのブロックが爆発音と共に弾け飛んだ。

 伏せる錫乃介、近くにはジョドーもいた。

 工兵達は遠目から銃器を構える。

 

 煙が晴れ、瓦礫の上には1人の男が立っていた。
 ボロボロのその姿は、口から血を流しているものの、白髪の剛毛は焼け、顔面の半分は青黒く光る金属が露出。手足も完全に金属骨組みが剥きでており、ほぼ全身が機械化されているのがわかる。
 折り畳まれた肘からは硝煙が上がっている。そこには仕込まれたグレネードランチャーがあった。


 ジョドーが立ち上がり男の前に立つ。
 
 「やはりジャムカ、お前だったんだな」

 貴様は……
 そうか……
 貴様はジューダス!
 ジューダス貴様か!
 貴様の仕業だったのか!
 この我輩を
 この我輩の
 最高傑作を
 貴様の仕業だったのか!
 許さんぞ!
 殺してやる!


 怒りに震える、ジャムカの顔は地獄の獄卒も尻尾巻いて逃げる程に、恐ろしい憤怒の表情をしていた。そして肘に仕込まれたグレネードランチャーをジョドーに向ける。

 ジャムカの言葉にジョドーは錫乃介を指差す。

 「ジャムカ違うぞ。私ではない。彼だ」

 「ちょっ!ええええ!俺ぇ?」

 「貴方ではないか、この作戦立案者は」

 「そーだけどさ!このタイミングで⁉︎」


 すかさずジャムカのグレネードは錫乃介に狙いを代える。

 「貴様か!消し飛ぶがいい!」

 その瞬間ジャムカの肘から先で爆破が起き、ジャムカは吹き飛ばされる。
 
 銃を先に構えていたのこちらだったのだ。
 錫乃介は肘のグレネードランチャーの銃口に向かって、発射されると同時に、M110スナイパーライフルでピンホールショットをかましていた。もちろんナビの補正マシマシだ。

 
 お、おのれ……ここまで来て

 そ、そうかこの下にはまだ機獣共が……

 な、ならば我命を贄に
 
 ゆきゆきて神軍
 世界を滅ぼせ……


 片腕が吹き飛んだジャムカは仰向けに倒れたまま、何事か呟いている。
 錫乃介はトドメを刺すべく、ライフルを構えるが、ジョドーが呟きに反応する。


 「ジャムカ……お前!いかん!工兵隊、早くこの場を離れろ!」


 ジョドーの叫びに、言葉を返すよりも早く行動に移す工兵隊。


 「全速力でこの場から離脱!」

 再び叫ぶジョドー。


 もちろん俺たちもオントスに乗り込み、トップギアでこの場を離脱する。



 その数分後、背後で巨大な爆発が起きた。



 トンネルを埋めた瓦礫を吹き飛ばす程の巨大な爆発が。
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