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ブラッククィーン編
くらーし安心くらーしあん
しおりを挟む「おじちゃんコレみんなで焼いたの」
「は?」
ユニオンでまたもや、用水路整備のリクエストを受注し、いざ害虫獣と戯れに行こうと繰り出した錫乃介は、工場地区前で薬莢拾いの例の孤児たちに呼び止められ、近寄ってきた女の子ーーメロディにソフトボールくらいの大きさで不恰好に包紙でラッピングされた物を渡された。
後ろではアルと薪ざっぽ三人衆がこちらに目を合わせない様に立っている。ピートはアルの横でニッコリ笑っている。
「この前助けて貰ったお礼なの」
「お、俺に?」
「うん」
「皆んなで焼いたクッキーです。初めてつくったんで、美味しいかわらかないけど、食べてください」
丁寧に頭を下げるピート
「ありがとなおっさん」
「仲間の恩人だからな」
「手伝いしたんだぜ」
「借りは返したで候」
微笑ましい悪ガキども。
「いや、その、ありがと。一生大切にするよ」
「大切にするんじゃなくて食べてね、おじちゃん」
「そ、そうだよな。クッキーだもんな。食べるよ。絶対に、全部」
“なんで、そんな辿々しいんですか”
だってよ、こいつら孤児で金ねーくせによ…もうなんかさ。込み上げちまってよ。
“意外に人間らしい感情もってるんですね”
そのディスり方初めてだな。
「あんまり、暗くなるまでやってんなよ。おじさんはこれからドブさらいしてくるから、なんかあっても助けられねーからな」
「うん、気をつける」
「それじゃおじさんまたね」
「「「じゃあな!」」」
子供達は薬莢拾いを続行すべく、工場地区にかけて行った。
ナビよ、こんなストレートに感謝されると嬉しいもんだな。
“いい歳こいて何潤んでるんですか”
涙腺弱くなってるかな。
“涙腺弱くなったのは脳の老化らしいですよ”
うるせぇ、俺は昔から涙脆いんだよ。
“はいはい”
そんな、掛け合いをしながら、地下用水路に入って行く。
もう慣れたもので、新しい入る通路でも、ウージーを乱射し、スライムは用水路に蹴り落とし、ドブさらいをして歩みを進める。もちろん薬莢は残さず拾って行く。
折り返しに入ったところで、休憩と食事代わりに子供達のクッキーを頂く。
バリボリ、ガリボリ
なんだかな、焼きすぎやら生っぽいのやら練りすぎて小麦粉からグルテン出過ぎてガリッガリの硬いのやら、バリエーションに富んでるな。
世界一うめーけど。
あいつら、ホントに自分達だけで作ったんだな。
“なんで、泣いてるんですか”
おめーわかってて聞くんじゃねーよ!
休憩中もネズミやらゴキやらがワラワラ来るが、片っ端から仕留めていく。
ぜってークッキーは渡さん。
と、小一時間で全て平げ、再び用水路整備に戻り、仕事を終えてユニオンに戻り報酬をいただき、屋台でベトナムフォーの様な物を食べて、メイドインヘブンへ帰る。
ここの宿は期日までいるとして、その後どうすっかな?これから節約しなきゃいけないから、テントにするか?安宿にするか?テントはキツいか。2~3日ならいいが、身体も気持ちも休まらねぇ。でも、ずっとゲル生活してたしな。いけるか?限界まで頑張って、その後宿にするか。どうせ、バイクは無いから街の外行く事もないだろうし。よし、まずはテントだな。
1人会議をし、コレからの方針を決めると、シャワーを浴びてさっさと寝た。
残金8,900
次の日もまた次の日も用水路整備をしていた。宿の期日がたったので、街の郊外にテントを設置してそこを体力精神力の限界がくるまでの拠点とした。
その間ロボオはアスファルトから帰還令が来たらしく、ユニオンの身内でやったお別れ会っぽいのに参加したが、キルケゴールも含め酒乱ばかりの飲み助、アル中ばかりのとんでもない飲み会だったので、途中で逃げ帰った。次の日は当然まともにユニオンは機能しておらず、酷い有様だった。
そんなこんで、用水路整備をしてユニオンとテントの往復を続けて10日程経った時に、仕事終わりバイクの様子を見に『鋼と私』に出向いた。
「資材が届かない?」
「あぁ、悪いが遅れちまう。機獣の増加で物流が滞って居るらしく、運搬船がいつ着くか未定だそうだ」
「なるへそ。しょうがないな、ドブさらいを続けるか、と、その前に…」
ふと、あの黒衣の貴婦人に連れ去られてから、『万魔殿』に顔を出してないことを思い出し、節約中ではあるが、背伸びして行ってみることにした。
「どーもー」
「これは錫乃介様、ようこそ万魔殿へ」
「まずはブラックベルベットでももらおうかな」
「かしこまりました。もう、いらっしゃらないかと思っていましたが……」
「飯が不味かったらもう来てないだろうな」
「ありがとうございます」
「あれから、クラリス、いやポラリスか?は来てるのか?」
「いえ、もういらして居ません。何をしているのやら。どうぞブラックベルベットです」
「あんがと、なんか宇宙に行くとか言ってたなー」
「もう、そこまでお話を聞いて居るのですね」
「ああ、ジョドーさんが元機獣だってことも」
「そうでしたか。では、もう隠す必要もありませんね。私はあの方にこの肉体と生命を与えられた存在です。その前はネズミの様な小さく儚い存在の機獣でしたよ」
「ネズミも悪い人生じゃ無いと思うけどな。人間になってどうよ?」
「楽しいことばかりですよ。出会い、別れ、怒り、悲しみ、喜び、快楽、全てネズミの頃に柱の陰から見て憧れた人間の人生というものを体験できたのですから」
「辛いことも楽しいってわけね」
「その時は嫌ですけどね。振り返ればそれもまた味わいのある記憶です」
「かーーーっ!女がここにいたら、惚れてるね!」
「ポラリス様とはその後お会いには?」
「いや。あの後気付いたら痺れて動けない俺の横に半裸で居たよ。なんだかんだ話しして、散々期待させやがった癖に、そのまま眠らされて、またこの街の宿にいた。それ以来会ってない」
「それはまた、錫乃介様の事を随分お気に召されたのですな。珍しい」
「そうなん?指一本触れさせなかったぜ。なんかベルモットをくれ、ドライでライム沢山絞って」
「かしこまりました。私の勝手な憶測ですが、あの方は自分の身体を気に入っておられません。そんな身体を錫乃介様には触れて欲しくなかったのでしょう」
「あのパーフェクトな身体をか。だからこそなのか。なんだ、って事はアイツ俺に惚れてんのか。恥ずかしがるような歳でもないだろうに」
「そこまでは、申しておりません」
「あっれー?おかしいなぁ」
「どうぞ、ベルモット。ノイリープラットです」
「はい~。んじゃなんか食べれる?」
「はい、今日は羊肉があります。トマト煮込みにクスクスを添えてお出しできます」
「最高だね。それと赤ワインで。今日は安いのでいいよ!いっちゃん安いやつね」
「かしこまりました。ではこちらの合成ブレンド赤ワインで良いですか?」
「それでいいのそれで。もう知ってるだろうから、俺も言っちゃうけどさ、前の時代の時にソムリエと飲んでてさ、普段ワイン何飲んでんの?って聞いたら、コレって画像見してくれたの。そしたらイオンって安量販店で売ってる、二リットルで1,000円くらいの、クッソ安いワインだったの」
「はは、それはあるあるかもしれませんね」
「そう、でもね俺も飲んだけど、思ってたよりスンゲェうめぇの。よくわからない、品種もごちゃごちゃの葡萄使って、味を調整して出してるらしくてさ、その辺のヴィンテージより美味しかった覚えがある」
「これも、案外バカに出来ませんよ」
「どれどれ。うん、この無駄に尖らない味にアルコール隠しに入れた香料。いいね、美味しく飲める」
その後煮込みとクスクスは言うまでもなく美味しかった。ホロホロと柔らかい羊肉にトリッパも入っていた。スタミナが尽きそうだ。
残ったワインをジョドーと自分のグラスに注ぐ。いつの間にジョドーも一緒に飲んでいた。
「あの方を恨まないで下さい」
「恨むかよ、今度あったら押し倒してやるだけだ」
「それは、いいお灸になるかもしれませんね」
「ああ、そんなわけだ。じゃあ、またきまーす」
「ありがとうございました」
そしてそれから更に2週間が経過した。
錫乃介はその間毎日毎日、地下用水路に潜って害虫獣退治をし、ドブさらいをしていくうちに、なんと街の用水路全てを網羅してしまったのだ。
危険汚いキツいキモい安いという、誰もが嫌がり、遅々として進まなかった用水路整備を完遂するという、偉業をなした錫乃介は、いつしかポルトランドの住民やユニオンの間では『ドブさらいの錫乃介』と名を馳せる様になったのだった。
“凄いですよ!とうとう二つ名持ちですよ!”
ぜんっぜん、うれしくねーよ!
しかも、明日から仕事どーすんだよ!
バイク出来てねーんだぞ!
俺の唯一の食い扶持だったのに!
“薬莢拾ってたじゃないですか”
全部ガキンチョにやっちまっただろーが!
“ああ、そうでしたね”
残金18,500c
ローン支払い初回15,000c
残金3,500c
錫乃介の財布の運命や以下に⁉︎
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