砂漠と鋼とおっさんと

ゴエモン

文字の大きさ
上 下
36 / 262
砂漠の旅編

オウガバトル

しおりを挟む
 “錫乃介様、大変申し上げ難いのですが”

 なんだよ、慰めならもういらねーぞ。

 “いえ、お金もらい忘れてます”

 
 ……。


 100,000cだったな。

 “はい間違いなく”

 戻るか。

 ……。


 って、そんな美しくねー事出来るか!!

 元々落ちてた当たりクジ拾った様なもんだし!

 なにそれ、メッチャうれしぃじゃん!

 知るか!

 やっぱ戻ろうぜ。

 いーや、あいつら親子共の祝い金だ!

 流石にクリスのやつも独り占めしねーだろ!

 次だ次、金なんてまた稼ぎゃあいいんだ。

 チッキショーーーーーーー!!!


 
 “もう支離滅裂ですね”
 
 
 半ば壊れかけた錫乃介は、戻ろう、いや男の美学が、チキショウめ!、金がぁ!、とブツブツ、時には発狂しながら、ジャイロキャノピーを走らせたり、止まったり、方向転換しようとしたりとしつつも、何とか次の街、南東600キロにあるセメントイテンに向かって走っていった。

 そのワダチは酷く蛇行していた。


 “ちゃんと進まないからもう、夜じゃないですか”

 いいじゃんか、スッゲー寒いけどさ。BGM『月の砂漠』かけてくれよ。
 
 “はい、ではどうぞ”

 つーきのー、さばーくをー♪

 はーるーばーるーとー♪

 
 いいね、駱駝じゃなくて、ジャイロキャノピーだけど。

 “ついでに言うと、この歌の舞台、静岡か千葉の沙漠なんだそうです。砂漠ではなく沙漠。作者は砂漠はおろか日本を出た事も無いそうですよ”

 『異邦人の時』といっしょだな。国内かよ。

 “でも、イマジネーションだけで、こういう名曲作れるって、凄いですよね”

 逆に言うと本物見た事ないから、想像力が働くんじゃねーの?藤子・F・不二雄先生もそんな事エッセイで言ってたぞ。
 見た事無いもの、経験した事無いもの、それをイマジネーションだけで書くんです、って。
 言われてみれば創作物ってそんなもんだよな。経験して無いものをどれだけ知識で補い、想像しクリエイトするか。
 あれだ、童貞の妄想に近いな。歩めど深めど経験するまでは神秘そのもの。
 ああ、あの頃のイマジネーションは童貞だったからこそなのか…
 
 “なんで、月の砂漠からそこまで下品になるんですか?”

 かく言う私も童貞でね…

 “やっぱり…”

 違うからね、俺は童貞違うからね、攻殻機動隊の中でそういうセリフあるだけだからね。

 “ハイハイ”

 ほんとだからね。ナビさ、ほんとだから。

 “はい、もうここでキャンプしましょ”

 ほんとだからさ。信じてよ。もう童貞じゃないから俺。
 
 “いつまでやってんですか。早くテント張って下さい”

 はい、すいません。


 と、示された場所は、しけた名も無い観光地にある展望室のような休憩所の3階建ての廃墟だった。
 中に入ると喫茶室と土産物屋を作ったはいいが、観光客なんぞシーズンですらまばらで、いかにも第3セクターの置き土産(ゴミ)といった建物である。
 

 あー、あるあるだな。これ、絶対日本の建物だよ。この天井低くて、狭苦しくてインテリアのイの字も考えずに作ったセンスない感じ。廃墟になって漸く味がでてきたみたいだな。
 
 “ボロカス言ってますが、本来ならこんな場所すら通過するだけの場所なんですからね。いつまで経ってもフラフラ走るから、セメントイテンに辿り着かないんじゃないですか”


 まぁ、久しぶりに月でも眺めながら野営と行こうじゃ無いか。と、錫乃介は携帯コンロを取り出して、お湯を沸かす。
 食料を補給する事なく飛び出したため、ロクなもんが無いが、粉末出汁と乾燥豆は持っていたので豆スープを作る。
 
 乾燥豆は戻すのに時間がかかる。コトコト煮て、さぁ食べられるぞ、という頃合いだった。


 “錫乃介様、火を”


 応えるよりも早く火を消し、赤外線スコープを取り出して、ナビに視力聴力を強化してもらう。


 なんだ?

 “機獣の音が聞こえます。距離1200南東です”


 スコープを使い目標の方角を注視する。


 “野良機獣犬ですが、数が多いですね。10、13、18。18体です”

 あいつら夜行性だったか?

 “それは個体差がありますが、妙なのはこちらに向かっているというより、何かから逃げている様に感じます”

 更にやばい機獣の可能性か…

 “無難な推測です。下手にこちらから射撃して位置を悟らせるより、廃墟の上階に上がりましょう。野良犬だけでもやり過ごせるかもしれません”

 やばい奴の方は?

 “地雷でも置いときましょう。気休めになるかもしれません。後は運を天に”

 なんとも頼もしい立案だ。

 “戦場では大事な事ですよ”

 違いない。

 
 と、せっかく作ったスープはそのままに、廃墟の3階へ向かう。
 3階へ着くとまずは索敵だ。剥き出しのコンクリートだけでスケルトン状態だが、わずかに野営の跡がある。暗くて判別しづらいが、だいぶ昔の物だろう。


 “何かいます”


 と、バサバサと大型の鳥の羽ばたく音が聞こえ、黒っぽい物体が、こちらをすり抜け、窓が無くなった窓枠から飛び去っていった。


 “ご安心を、カラスでした”

 びっくりしたなぁ、もう。

 
 と、高鳴る鼓動を抑え外の気配を伺う。矢張り野良犬どもは此方に向かって全力で走っているようだ。確かに獲物を狙っている走りではない。まもなくこの建物に着く。

 息を最大限に殺して、過ぎ去るのを待つと、ギャンギャンと吠える声と共に、この建物には何の関心も持たず野良犬は走り去って行った。地雷は作動していない。

 まずは一安心するが、正体不明の何かがいる可能性がある為、しばらく姿勢を崩さず待機するが何もない。

 杞憂だったかと、下の階に戻りスープを手に取るがすっかり冷めている。まだ火を付けようかと、携帯コンロを手に取る。

 “まだ何が来ます”


 と、窓枠から遠方をスコープで覗くと、キングコングを小さくした様な毛むくじゃらな奴がこちらに向かって、二足歩行で凄まじい速度で走って来ている。
 4~5メートル程の体長、頭には2本の角、巨大な目、に人間なんかひと呑みにできそうな口、手にはH鋼?いや、線路のレールか、棍棒代わりか?あんなんで殴られたら、こんな廃墟奴にとってバルサ材の模型みたいなモンだぞ。


 “距離1200、オウガですね”

 ファンタジーで定番のやつね。古代人種のギガントピテクスっていたらあんな感じかもな。
 倒せる?

 “運良く地雷でも踏んでくれれば、追い返せるかと”

 追い返せるだけかよ。

 “賭け事はお好きですか?”

 好きな方だな。パチンコはやらんが、競馬にカジノ、ロトはハマった事ある。

 “では、蟻地雷を廃墟前にありったけ設置して、ブローニングで狙撃して敢えておびきよせましょう”

 地雷が利かなかったら終わりか。

 “もしかしたら、ブローニングで0距離であの大きな目を狙えば、多少効果あるかもしれません”

 0距離射撃って言わせたいのか?

 ちょっと笑いながら応える

 “それは間違った用法ですが、まぁそう言うことです。足止めくらいにはなるでしょう。そしたら”

 バイクでトンズラすると。

 “はい、今全力で逃げてもジャイロキャノピーじゃ追いつかれますね”

 んじゃ、ちょいと頑張りますか。

 
 虎の子の蟻地雷をありったけ、と言っても10個しか無いが、オウガが通るであろう位置に設置する。というか置いてるだけだ。隠す時間もない。
 

 “距離300”

 もう撃っとく?

 “そうですね、そろそろ撃ちますか”

 よっしゃ、とジャイロキャノピーに乗り込み、オウガの足に向けて新型ブローニングを狙い澄ます。
 
 
 バドドド、と轟音を響かせながらブローニングは唸りを上げる。
 見事足には着弾しているようだが、全く意にも介さない。


 ありゃ、あいつ豆鉄砲くらいにしか感じて無いよ。


 目玉も狙ったが、腕でガードされる。当たり前か。


 “豆というか、輪ゴム鉄砲ですね。距離100メートル”

 何言ってんの、豆より輪ゴムの方が痛いじゃん。

 “豆をちゃんとした軍用スリングショットでヘッドショットすれば人間殺せますよ。距離50メートル”

 マッジかよ!おっそろしいな豆!


 アホな話を2人?がしてると、オウガもう目の前だ。しかも地雷原を一足跳びにしようとした瞬間だった。
 

 
 悪りぃな、さっきありったけ地雷を置いたって言ったけど、


 あれな




 嘘だ



 と、持っていた最後の蟻地雷をオウガに向けてフリスビーの様に投げつける。以前デミブルに使った戦法だ。


 ナビがブローニングで地雷を撃ち抜く

 至近距離で起きる爆発

 地雷の爆風をジャイロキャノピーの風防で防ぐ

 オウガは地雷原に落下する

 爆発


 見届けることなくアクセルを全開にする


 ブローニングで他の地雷を掃射して撃ち抜く


 さ、ずらかるぜ!


 

 残っている地雷全てが爆発した





 少し距離を取ってからナビに聞く。

 どうだ、やったか?

 “安全圏に逃げてからそのセリフは卑怯じゃないですか?”
 
 1度は言ってみたいセリフだからな。フラグは立てたく無いけど。

 “仕留めたかどうかはわかりませんが、動きはありません、確認に参りますか?”

 冗談、俺そこまでギャンブラーじゃないんだ。
 とっとと街に行こう。物資の補充しなきゃ。あと何か火力欲しいな。地雷も無くなったし。


 “金もありませんし”


 それを言わないでくれ、また、鬱になる。


 残金620c
 
しおりを挟む
感想 52

あなたにおすすめの小説

絶世のディプロマット

一陣茜
SF
惑星連合平和維持局調停課に所属するスペース・ディプロマット(宇宙外交官)レイ・アウダークス。彼女の業務は、惑星同士の衝突を防ぐべく、双方の間に介入し、円満に和解させる。 レイの初仕事は、軍事アンドロイド産業の発展を望む惑星ストリゴイと、墓石が土地を圧迫し、財政難に陥っている惑星レムレスの星間戦争を未然に防ぐーーという任務。 レイは自身の護衛官に任じた凄腕の青年剣士、円城九太郎とともに惑星間の調停に赴く。 ※本作はフィクションであり、実際の人物、団体、事件、地名などとは一切関係ありません。

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

異世界災派 ~1514億4000万円を失った自衛隊、海外に災害派遣す~

ス々月帶爲
ファンタジー
元号が令和となり一年。自衛隊に数々の災難が、襲い掛かっていた。 対戦闘機訓練の為、東北沖を飛行していた航空自衛隊のF-35A戦闘機が何の前触れもなく消失。そのF-35Aを捜索していた海上自衛隊護衛艦のありあけも、同じく捜索活動を行っていた、いずも型護衛艦2番艦かがの目の前で消えた。約一週間後、厄災は東北沖だけにとどまらなかった事を知らされた。陸上自衛隊の車両を積載しアメリカ合衆国に向かっていたC-2が津軽海峡上空で消失したのだ。 これまでの損失を計ると、1514億4000万円。過去に類をみない、恐ろしい損害を負った防衛省・自衛隊。 防衛省は、対策本部を設置し陸上自衛隊の東部方面隊、陸上総隊より選抜された部隊で混成団を編成。 損失を取り返すため、何より一緒に消えてしまった自衛官を見つけ出す為、混成団を災害派遣する決定を下したのだった。 派遣を任されたのは、陸上自衛隊のプロフェッショナル集団、陸上総隊の隷下に入る中央即応連隊。彼等は、国際平和協力活動等に尽力する為、先遣部隊等として主力部隊到着迄活動基盤を準備する事等を主任務とし、日々訓練に励んでいる。 其の第一中隊長を任されているのは、暗い過去を持つ新渡戸愛桜。彼女は、この派遣に於て、指揮官としての特殊な苦悩を味い、高みを目指す。 海上自衛隊版、出しました →https://ncode.syosetu.com/n3744fn/ ※作中で、F-35A ライトニングⅡが墜落したことを示唆する表現がございます。ですが、実際に墜落した時より前に書かれた表現ということをご理解いただければ幸いです。捜索が打ち切りとなったことにつきまして、本心から残念に思います。搭乗員の方、戦闘機にご冥福をお祈り申し上げます。 「小説家になろう」に於ても投稿させて頂いております。 →https://ncode.syosetu.com/n3570fj/ 「カクヨム」に於ても投稿させて頂いております。 →https://kakuyomu.jp/works/1177354054889229369

日本VS異世界国家! ー政府が、自衛隊が、奮闘する。

スライム小説家
SF
令和5年3月6日、日本国は唐突に異世界へ転移してしまった。 地球の常識がなにもかも通用しない魔法と戦争だらけの異世界で日本国は生き延びていけるのか!? 異世界国家サバイバル、ここに爆誕!

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

蒼海の碧血録

三笠 陣
歴史・時代
 一九四二年六月、ミッドウェー海戦において日本海軍は赤城、加賀、蒼龍を失うという大敗を喫した。  そして、その二ヶ月後の八月、アメリカ軍海兵隊が南太平洋ガダルカナル島へと上陸し、日米の新たな死闘の幕が切って落とされた。  熾烈なるガダルカナル攻防戦に、ついに日本海軍はある決断を下す。  戦艦大和。  日本海軍最強の戦艦が今、ガダルカナルへと向けて出撃する。  だが、対するアメリカ海軍もまたガダルカナルの日本軍飛行場を破壊すべく、最新鋭戦艦を出撃させていた。  ここに、ついに日米最強戦艦同士による砲撃戦の火蓋が切られることとなる。 (本作は「小説家になろう」様にて連載中の「蒼海決戦」シリーズを加筆修正したものです。予め、ご承知おき下さい。) ※表紙画像は、筆者が呉市海事歴史科学館(大和ミュージアム)にて撮影したものです。

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

処理中です...